'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , TOM SCOTT & PAULETTE McWILLIAMS - - report : TOM SCO...
2009/03/13
- report : TOM SCOTT & PAULETTE McWILLIAMS
〜 ホワイト・デー・ウィーク・スペシャルだ、これは!〜
トム・スコットとポーレット・マクウィリアムスの共演。しかもピアノがナット・アダレイ・ジュニア。考えれば考えるほど嬉しくなる組み合わせです。
まず、トム・スコットについて、ぼくの思うところを以下に箇条書きします。
●もともとはゴリゴリのジャズ志向であった。サックスを始めた頃、ジョン・コルトレーンとキャノンボール・アダレイを敬愛していた(今も敬愛している)。
●ジャズ界に燦然と光り輝くポリリズム集団“ドン・エリス・オーケストラ”のメイン・ソリストだった。3本のベース、3台のドラムスにパーカッションという異様な編成の中で、19拍子の曲や、16分の27拍子の曲などをガンガン吹きまくるトムのかっこよさときたら。
●まだフュージョンという音楽が影も形もなかった頃に、ロックやソウル・ミュージックにもアクセスしたバンド“L.A.エキスプレス”を立ち上げ、結果的に時代を大きく先取りしたサウンドを生み出した。
●しかもそのバンドでジョニ・ミッチェルやジョージ・ハリスンのサポートもこなした。
●EWI(簡単にいえば管楽器型シンセサイザー)の原型といえるアナログ・シンセ“リリコン”の開祖である。この楽器をフュージョン・シーンに広めた功績は大。
●それでいて初心忘れるべからずとばかりに、定期的にアコースティック・ジャズ・アルバムをリリース。その意欲はますます盛ん。
●映画やテレビの音楽担当も多数。メロディ・メイカーとしても不滅の評価を得る。
などでしょうか。
いっぽう、ポーレット・マクウィリアムスの経歴で最も知られるのはルーサー・ヴァンドロスのバック・コーラスを20年近くにわたって務めていたということでしょう。彼女はまた、マーヴィン・ゲイのラスト・ツアーにも参加しています。が、生のステージに接して、ぼくは改めて強く思いました。「ポーレットは、もっとリード・シンガーとしてフロントに立つべき人だ。実力と華を兼ね備えた存在なのだ」と。
1960年代後半、“アメリカン・ブリード”というグループがありました。彼らはやがて“スモーク”と改名し、女性ヴォーカルを前面に出した路線へと変更します。そこでリード・シンガーを務めたのがポーレットでした。しかし彼女は70年代初頭に退団、その座を友人のチャカ・カーンに譲ります。“ルーファス&チャカ・カーン”と名乗って以降のサクセス・ストーリーについては説明不要でしょうが、だからといってポーレットが過小評価されるいわれはありません。
この日、クラブに響いたポーレットとトムのコンビネーションは、トムの尊敬するキャノンボール・アダレイがナンシー・ウィルソンと吹き込んだアルバム『Nancy Wilson/Cannonball Adderley』を思い出させてくれました。
ナット・アダレイ・ジュニアについても、ちょっと触れさせてください。
ぼくが彼のパフォーマンスを初めて聴いたのは、キャノンボールの『The Price You Got To Pay To Be Free』という2枚組LPで、でした。その中で“自由になるために、いったいどれだけの代償を払わなければならないのだろう”と、初期のスティーヴィー・ワンダーばりの声でシャウトしていたのが少年時代のナット・アダレイ・ジュニアで、しかもこの曲は彼のオリジナルでした。父ナット・アダレイと、叔父キャノンボールの愛情を受けて音楽的な成長を続けたナット・ジュニアは、いまや第一級のジャズ・ピアニストです。70年代にはジャズ・ファンク・グループ“ナチュラル・エッセンス”の一員としてもいい仕事をしていますし、ルーサー・ヴァンドロス・バンドの音楽監督を長く務めていたことも大いなる勲章でしょう。ですが、ぼくは彼のアコースティック・ジャズを、今後もっともっと聴いてみたいと、この夜のプレイを聴いて強く思いました。
トム、ポーレット、そしてナット・ジュニア。ベテランの域に達して久しい彼らですが、その音楽はまだまだ発展し続けることでしょう。彼らの現在を、ぜひ生でご体験ください。
(原田 2009/3/12)
◆ ホワイト・デー・スペシャル!◆
3/11 wed - 3/15 sun
TOM SCOTT & PAULETTE McWILLIAMS
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1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。