TERRI LYNE CARRINGTON - - 最強の女性ドラマ...
原田和典の 公演レビュー :TERRI LYNE CARRINGTON
テリ・リン・キャリントンの公演が近づいてきました。
ぼくが彼女の名前を知ったのは1980年代後半だったと記憶します。第一印象は、失礼ながら“不思議な名前のひとだなあ”、“こんな華奢な女性にドラムスが叩けるのかなあ”。
もちろん、それは杞憂でした。抜けの良い音色、ド迫力のビートに心を奪われました。
ぼくの実家にはドラムスがあります。子供の頃からそれをいじっていたので、あの楽器の気持ちよさ、大変さをある程度は知っているつもりです。粒立った響きを出すためにテリ・リンがどれほど苦心したか、それを思うだけで彼女の努力に最敬礼です。
きけば彼女、親子3代にわたる音楽一家だというではないですか。おじいさんのマット・キャリントンは、元祖シンガー・ソングライターといわれるファッツ・ウォーラーや、伝説のテナー・サックス奏者チュー・ベリーと共演したことがあるそうです。そしてお父さんのソニー・キャリントンは、マサチューセッツ州界隈ではよく知られたサックス奏者。最新作『モア・トゥ・セイ』にも参加していますね。そんなテリ・リンの躍進を血筋に関連づけることは簡単ですが、それだけでうまくいくほどアートの世界は甘くありません。前進、努力、鍛錬の連続、そして音楽することへの喜びこそが現在の彼女を作っているといえましょう。
● 最新譜EPK 『MORE TO SAY』
● ♪ LET IT BE
テリ・リンは11歳のときに奨学金を得てバークリー音楽大学に入学、アラン・ドーソンにジャズ・ドラムスの奏法を習いました。ドーソンはトニー・ウィリアムスやスティーヴ・スミス(ジャーニー)の師匠といわれるドラマーで、同業者なら誰もが“あんなふうに叩いてみたい”と思うに違いない、しなやかなリズム・センスの持ち主です。惜しくも‘96年に亡くなってしまいましたが、メロディが聴こえてくるようなスティック・ワーク、蝶の舞うがごときブラッシュ芸は、本当に見事でした。彼女はもうひとり、ジャック・ディジョネットも師と仰いでいます。ドラム一徹のドーソンに対し、ディジョネットはピアノ、作曲、編曲もよくするミュージシャン。ふたりの良いところをどんどん吸収しながら、テリ・リンは成長します。そして18歳でニューヨークに進出し、ジャズに軸足を置きながらも幅広い活動を展開。ファースト・アルバム『リアル・ライフ・ストーリー』はグラミー賞にノミネートされ、ピーボ・ブライソンとの合作「オールウェイズ・リーチ・フォー・ユア・ドリームス」はアトランタ・オリンピックで使われました。
● ♪ MESSAGE TRUE (w/ Patrice Rushen)
http://www.youtube.com/watch?v=T-Dnzez5FDM
そんなテリ・リンの来日公演。
昨年12月の登場は、まだ記憶に新しいですね。話題の女性ベース・プレイヤー・エスペランザとの共演は、予想を遥かに超えたディープなジャズの世界でした。
今回はうってかわってのコンテンポラリー・ジャズ〜スムース・ジャズの精鋭との登場、いったいどんなサウンドでノックアウトしてくれるのか。ドラム・ファンならずとも、わくわくせずにはいられない4日間となるでしょう。
(原田 2009/6/3)
- TERRI LYNE CARRINGTON GROUP featuring ESPERANZA SPALDING 公演/2008年12月 -