'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , RAMSEY LEWIS - - report : THE RAM...
2009/08/25
公演初日リポート:THE RAMSEY LEWIS TRIO
アコースティック・ピアノのマエストロ、ラムゼイ・ルイスが今年も溜息もののプレイを聴かせてくれました。
オープニングは、軽妙なR&Bナンバー「OOH CHILD」。ラムゼイと同郷(シカゴ)のコーラス・グループ、ファイヴ・ステアステップスの代表曲ですね。ラリー・グレイのベースとリオン・ジョイスのドラムスがつくりあげる極上のクッションに乗ったラムゼイは、まさしく絶好調。ほほえみをうかべながら、シングル・トーン(単音)と分厚いコード(和音)を織り交ぜ、有名曲のメロディをいくつも引用しながら客席を盛り上げます。メリハリに富んだ編曲も‘50〜’60年代の、いわゆるオリジナル・トリオの頃と少しも変わっていません。
なのですが、演奏後にラムゼイがMCで語ったところによると、この曲はベースのラリー・グレイがアレンジしたとのこと。なんとラムゼイ好みの編曲なのか、とぼくは思いました。ラリーがどれほどマエストロのことを尊敬し、テイストを把握し、共演を楽しんでいるかが、このアレンジひとつでわかろうというものです。
ラムゼイがジャズ・ファンクの代表人物であるのはもちろんですが、もうひとつ、忘れてはならないのがクラシカルな側面です。実際、クラシック界に入ることを熱心に志していた時期もあるようです。あの明晰なタッチ、美しいハーモニーの何割かは確実にクラシック・ピアノで培われたものでしょう。新曲の「LOVE」、演奏が進むにつれてデューク・エリントンの「COME SUNDAY」などいくつものメロディが飛び出した「CONVERSATION」は、彼のリリカルな一面を前面に押し出したナンバー。ラリーは弓を用いてベースを弾き(彼はシカゴ交響楽団出身です)、リオンはブラッシュやマレットで演奏に彩りを加えます。ぼくは、まるでピアノ・リサイタルにいるような雰囲気を味わいました。ラムゼイに影響を受けたピアニストはジャズ・ファンク界に数多くいますが、こうした二面性を持っている存在は他にいません。それがラムゼイと、あまたあるファンク系ピアニストとの最大の違いといえましょう。
もちろんファンキー・ナンバーも存分に聴くことができました。’60年代からのオハコである「WADE IN THE WATER」、「THE "IN" CROWD」は、イントロが飛び出すと同時に、「待ってました!」とばかりに客席から手拍子が起こります。おそらくラムゼイは世界各地でステージに立つたびにこの2曲を演奏してきたことでしょう。しかし今のラムゼイ・ルイス・トリオが演奏する定番の数々は、決して往年の再現ではありません。楽想はさらに広がり、もはや“変奏曲”といっていいほど。「THE "IN" CROWD」ではラムゼイがラテン風のフレーズを弾くやいなや、すかさずリオンがホイッスルを吹いて盛りあげる、というシーンもありました。
ジャズ界、いやピアノ界を代表する紳士であるラムゼイ・ルイス。ラリーやリオンとのトリオが、伝説のオリジナル・トリオ(エルディ・ヤング、レッド・ホルト)や第2期トリオ(クリーヴランド・イートン、モーリス・ホワイト)と同じように素晴らしい活動を続けてくれることを願ってやみません。
(原田 2009/8/24)
● THE RAMSEY LEWIS TRIO
8/24 mon. - 8/29 sat.
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1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。
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