公演初日リポート:BOBBY HUTCHERSON QUARTET featuring RENEE ROSNES
ブルーノート東京のオフィシャル・ブログに、ボビー・ハッチャーソンからのメッセージが掲載されています。
「ちょうど、ジョン・コルトレーンに捧げるニューアルバムをレコーディングしたところで、今度のライブではそのアルバムからの曲も演奏しようと思っているんだ」。
これは大ニュースじゃありませんか。コルトレーンといえばジャズの歴史に光り輝く巨人。1967年にわずか40歳で亡くなってしまったサックス奏者ですが、今もその影響力は少しも衰えず、多くのミュージシャンやリスナーを魅了し続けています。
ハッチャーソンとコルトレーンの共演レコーディングは、ぼくの知る限り残っていません。しかし、マッコイ・タイナー、エルヴィン・ジョーンズなどのコルトレーン・バンド卒業生とハッチャーソンは何度も顔を合わせています。また‘65年3月28日、ニューヨークのジャズ・クラブ「ヴィレッジ・ゲイト」では、ハッチャーソンがコルトレーン・バンドの前座を務めています(チャールズ・トリヴァー・バンド、グレイシャン・モンカー・バンドの一員として)。「いつかコルトレーンの世界をヴィブラフォンで」、というのはハッチャーソンの念願だったのではないでしょうか。
ぼくが見た初日のファースト・セットでは、3曲目から“コルトレーン・タイム”がスタートしました。「NAIMA」、「MR.P.C.」、「MOMENTS NOTICE」など、コルトレーンはいくつもの名曲を残していて、多くのミュージシャンにカヴァーされています。そのあたりの定番をプレイするのかもしれないなと、ぼくは思っていました。しかしハッチャーソンは、快く期待を裏切ります。コルトレーンの楽曲中でも極めて通好みな「SPIRITUAL」で、いきなり度肝をぬいてくれました。コルトレーンとエリック・ドルフィーが共演した『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』の冒頭に入っている、ちょっと津軽民謡みたいな旋律です。そういえばハッチャーソンは20代始めの頃、ドルフィーのバンドに所属していたことがあります。この曲はコルトレーンと同時に、ドルフィーにも捧げているのかな、と思いながら、ぼくはパフォーマンスを味わいました。
「NANCY」は、もともとフランク・シナトラの持ち歌ですが、コルトレーンが『バラード』というアルバムでとりあげてから、しばしばジャズの楽器奏者も演奏するようになりました。つづく「WISE ONE」も、あまりカヴァーされないナンバーです。コルトレーン本人の演奏(アルバム『クレッセント』に収録)の完成度が高すぎるためでしょうか。しかしハッチャーソンは見事にこの曲を自分の色に染めあげていきます。コルトレーンに通じる奔流のような高速プレイから、余韻をタップリ生かした全音符まで、名匠ならではの技をしっかり聴かせてくれました。
けっきょく、この日はアンコールの「DEAR LORD」を含め、4つのコルトレーン関連ナンバーが披露されました。おなじみのナンバーが連発されるライヴも嬉しいものですが、新作発表に先駆けて、そこからの曲が楽しめるステージというのも、なんともいえず良いですね。実に得した気分を味わわせてくれます。
ハッチャーソンの涼やかなヴィブラフォン・ジャズは、10日まで続きます。
(原田 2009/8/6)
● BOBBY HUTCHERSON QUARTET featuring RENEE ROSNES
8/6 thu. - 8/10 mon.
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1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。
ブログ:
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