'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , RON CARTER - -report : RON CART...
公演初日リポート : RON CARTER QUARTET
礼に始まり、礼に終わる。それがロン・カーターのライヴです。
メンバー全員が正装し、ステージに立つ。そして深々とお辞儀をした後、それぞれが位置につき、実に穏やかに演奏を始めます。すべてのプレイを終えた後、もう一度深々とお辞儀をして、拍手に包まれながらステージを後にします。
ロンのバンドは、即興と同じぐらいアレンジ(編曲)を重視しています。あのカッチリしたサウンドは、固定したメンバーが数知れないリハーサルやライヴをこなしながら創りあげたものなのです。
しかし、本公演のピアニストはレギュラー・メンバーではありません。80年代後半からのメンバーであるスティーヴン・スコットのかわりに、急遽エルダーがピアノの椅子に座りました。
ロンとエルダーの共演を、ぼくは過去に一度見ています。2007年にジャカルタでおこなわれたジャワ・ジャズ・フェスティバルで、ロン、エルダー、ハーヴィー・メイソンが、1時間あまりのジャム・セッションを披露したのです。そのときはスタンダード・ナンバー中心、エルダーは超特急のプレイで客席を圧倒していましたが、今回は‘ロン・カーターの音楽’を展開するステージです。技巧の披瀝よりも、ロンのコンセプトを理解し、それに適応することが求められるのはいうまでもありません。
ぼくは初日のファースト・セットを聴いたのですが、短時間のリハーサルが行なわれただけというのが信じられないほど、エルダーはすっかり‘ロン・カーター・カルテットのピアニスト’になっていました。近年のロン・カルテットのライヴは、‘60年代後半のマイルス・デイヴィス・クインテット(ロンも在籍していました)と同じように、曲間をあけず、メドレー形式で演奏を進めます。テンポもキーも違う曲を、組曲のようにつなげていくので、1曲1曲を単独で演奏するとき以上にメンバー間の‘あうんの呼吸’が求められます。が、エルダーはそれを難なく体得して、ロン・カーター・カルテットに豊かな音の色彩を付け加えていました。
巨匠の域に達して久しいロンですが、そのプレイは今も成長を続けています。レーシック手術をしてメガネがいらなくなったせいかルックス的にも若返ったように見えますし、ベースの前にマイクを置いたことで指が弦に触れる音もリアルに伝わってきます。人差し指で1弦、小指で4弦を押さえながら、他の弦を押さえている中指と薬指を動かして内声を変化させる技や、左手で1〜3弦をはじきつつ右手親指の側面を4弦の各所に押し付けてハーモニーを出す技などは、トレーニングの鬼であるロンだからこそ思いつくことのできたアイデアなのではないでしょうか。
ベスト・ドレッサーとしても有名なロンですが、ぼくにいわせれば、彼の最大の凄さはベース・プレイにおける創意工夫にあります。ライヴを見れば、ロンが半世紀の間、なぜジャズ界のトップに君臨しづけているのかがハッキリわかるはずです。
(原田 2009/10/4)
● 2009 10/4sun.-10/9fri.
RON CARTER QUARTET