公演初日リポート:MATTHEW GARRISON TRIO
いやー、すごいライヴです。まだ興奮から醒めません。SPECTACULAR!と、慣れない英単語を使いたい気分です。
現ホイットニー・ヒューストン・バンドのレギュラーであり、ハービー・ハンコックやジョン・マクラフリンのバンドにも在籍経験があり、そして何よりもジョー・ザヴィヌル率いる“ザヴィヌル・シンジケート”のメンバーであったマシュー・ギャリソン。
少年時代にディジー・ガレスピーを驚かせ、その後もミシェル・カミロ、パキート・デリヴェラ等、数多くのミュージシャンと共演。ロビー・アミーンとの2ドラムス・ユニット“エル・ネグロ&ロビー・バンド”でも素晴らしいプレイを聴かせたオラシオ・エル・ネグロ・エルナンデス。
晩年のジョー・ザヴィヌルの友人であり、あのシンセサイザーの音色の殆どをプログラミングしていたキーボード奏者のスコット・キンゼイ。
この3人が集まったザヴィヌル・トリビュートなど、海外でもなかなか聴く機会はないでしょう。
それが今、日本にいながらにして聴けるのです!
正直言って開演前のぼくには、ちょっと不安もありました。「こっちはガキの頃からザヴィヌルの音楽を聴いてるんだ、ぬるいトリビュートなんかやったら承知しないぜ」という気分で、いささか興奮しながらクラブに足を運んだのが正直なところです。
が・・・そこはさすがマシュー、オラシオ、スコットです。むちゃくちゃかっこよくてクールです。ザヴィヌルの当たり曲を並べたり、ザヴィヌルのレコードやCDみたいな演奏をすることはゼロでした。ぬるいなんてとんでもない、火花の散るようなパフォーマンスです。ザヴィヌルへの愛を根底に持ちながら、彼らは未来に向かって音を出します。
チョーキング、ハーモニクスも思いのまま、まるでベースとギターと管楽器を兼ねているようなサウンドで雄弁かつ図太く迫るマシューの5弦ベース。本当に2本の手足で演奏しているのか目を疑わずにはいられないオラシオのドラムス(バスドラ、カウベル、ハイハットを瞬時に踏み分ける左足がとくに凄い!)、そしてなまめかしい音色で鍵盤をかけめぐるスコットのキーボード。いいです、すごいです。
そしてぼくは思いました。この公演を、ひとりでも多くのひとに聴いてもらえたら、と。近くの席で見れば、メンバーの指使いもじっくり見ることができます。後ろの席で3人の音色のブレンドに酔いしれるのも趣があります。でも、まず聴かなければ彼らの真髄は体感できません。
マシュー、オラシオ、スコットの名前になじみのない方もいらっしゃるでしょう。ですが、ぜひとも時間をやりくりして聴きに行っていただければと思います(ライヴは土曜日まで続きます)。「ああ、行ってよかった」、「聴いてよかった」という気分になるはずですから。
(原田 2009 / 11/12)
● 11/12thu.-11/14sat.
MATTHEW GARRISON TRIO
公演レビュー:MATTHEW GARRISON TRIO featuring SCOTT KINSEY & HORACIO "EL NEGRO" HERNANDEZ
Tribute to JOE ZAWINUL
マシュー・ギャリソンがブルーノート東京にリーダーとして登場するのは、これが初めてです。開演が待ち遠しい、とわくわくしているベース・フリークも多いのではないでしょうか。
来年はホイットニー・ヒューストンのバンドメンバーとして来日もするようです。
ポップのフィールドでの活躍もあり、そして本来の姿を見せつける今回の公演もあり、またカレッジの講師もしているそうで多忙をきわめているようです。
父親は、’60年代に一世を風靡したジョン・コルトレーン・バンドのベース奏者であるジミー・ギャリソン。’66年にはコルトレーン唯一の来日公演にも同行しました(そこには、今春ブルーノート東京に出演したファラオ・サンダースもいました)。残念ながらジミー・ギャリソンはマシューが6歳のときに亡くなってしまいますが、“ベーシストの血”は確かに受け継がれたようです。
一時期は家族と一緒にイタリアのローマに移住していたマシューですが、88年に帰米し、父親と親しかったジャック・ディジョネットの家に住みます。そこでジャックやデイヴ・ホランドのトレーニングをみっちりと受け、89年にボストンのバークリー音楽大学に入学します。94年には故郷ニューヨークに戻り、ジョー・ザヴィヌル、ジョン・マクラフリン、ミシェル・ンデゲオチェロ、ハービー・ハンコック、ジョニ・ミッチェルらと共演(今はホイットニー・ヒューストンのバンドにも所属しています)。ソロ・アルバムも3枚あります。日本のファンに最も早く“マシュー、恐るべし”というインパクトを与えたのはザヴィヌルの『マイ・ピープル』、マクラフリンの『ザ・ハート・オブ・シングス』あたりでしょうか。ぼくは、スティーヴ・コールマン&ファイブ・エレメンツの一員として吹き込んだ『デフ・トランス・ビート』もマシューの名演が聴ける逸品だと思っています。
多くのエレクトリック・ベーシストは右手人差し指と中指を使って演奏します。しかしマシューはすべての指を使ってプレイします。あっと驚くような超絶フレーズが楽々と飛び出すのはこのためかもしれませんが、ぼくがマシューのプレイで何より好きなのは、“間の使い方のうまさ”、“ソリストを背後からじわじわと盛り上げていくベース・ライン”です。今回の公演はスコット・キンゼイ、オラシオ・エル・ネグロ・エルナンデスという申しぶんないメンバーとの共演だけに、マシューのあらゆる魅力が味わえることでしょう。
本当に今回の公演は、できるだけミュージシャンに近い場所で聴いてほしい。表情や指使いだけではなく、爪の動きが見えるぐらいの距離で、3人のバトルロイヤルを体験していただきたいと思うのです。
そして、マシューからのメッセージにもある通り、ザヴィヌルへの想い、これが今回のトリオのテーマです。
(原田 11/10/2009)
● ハービー・ハンコック "Future 2 Future" 参加時の映像
● ♪ Giant Step
公演初日リポート:PAQUITO D'RIVERA QUINTET
パキート・デリヴェラを、ようやく近距離で体験することができました。生で聴きたくてたまらなかったステージです。
ぼくは以前に一度、スペインの大きな野外劇場でパキートを見ています。フェルナンド・トゥルエバ監督のラテン・ジャズ映画『カジェ54』の公開記念コンサートで、パキートのバンドに加え、ピアニストのベボ・ヴァルデス(先ごろ「ブルーノート東京」に出演したチューチョ・ヴァルデスの父)やベース奏者のカチャオ(昨年、惜しくも亡くなりました)も出演していましたが、なにしろ向こうのお客さんは熱狂的に盛り上がるのはいいとしても、演奏中にしゃべっていることも多いのです。しかもぼくの席は後方だったので、静か目な曲だと音楽よりも話し声のほうが大きめに聞こえてきたりして、残念ながら「パキートの音楽に浸る」というシチュエーションではありませんでした。
いつか近距離で彼の音楽をガッチリ味わってみたいものだと思ってから7〜8年が経ったでしょうか。今、その機会がやっと訪れました。『Funk Tango』が2008年のグラミー賞に輝き、ますますノっている状態での来日です。1991年以来の相棒である俊英ディエゴ・ウルコラ(トランペット&ヴァルヴ・トロンボーン。アルゼンチン出身)とのコンビネーションにもさらに磨きがかかり、アルト・サックスとクラリネットで“パキート節”を存分に響かせてくれます。
オープニングは「FIDDLE DREAMS」。バイアォン風のリズムに乗せて演奏がスタートし、やがて速いサンバに。その後スロー・テンポのパートになり、再びサンバ→バイアォン風になるというドラマティックなナンバーです。冒険的なテーマ・メロディは、ちょっと気を抜くとすぐに出だしを間違えてしまいそうです。そんな難易度Aの楽曲を、パキートのバンドはいとも易々とこなします。と思ったら次の曲「LA YUMBA-CARAVAN」では、プエルト・リコ出身のヴァルヴ・トロンボーン奏者ファン・ティソールが書いた「CARAVAN」を、アルゼンチン・タンゴ風な味付けで料理します。音楽はすべてひとつで、輪のようにつながっているんだとやさしく諭されたような気分です。
「ANDALUCIA」は、キューバの作曲家エルネスト・レクオーナの同名組曲をジャズの素材としてアレンジしたものといっていいでしょう。オープニングとエンディングには、やはりレクオーナの書いた「SIBONEY」がクラリネットで演奏されました。そして「THE BREEZE AND I(そよ風と私)」という別タイトルで知られる「ANDALUZA」(「ANDALUCIA」の第二楽章)のパートでは、ディエゴのトランペット・プレイが爆発! このブロウを聴いたひとは皆、なぜ彼がニューヨークのジャズ・シーンで引く手あまたの存在なのか、瞬時に理解できたのではないでしょうか。今回の公演ではパキートのプレイはもちろんのこと、ディエゴの吹きっぷりにもぜひ注目していただきたいものです。
(原田 2009/11/7)
● 11/6fri.-11/9mon.
PAQUITO D'RIVERA