'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , FRANK SINATRA Jr. - - report : FRANK S...
2010/02/03
公演初日リポート:FRANK SINATRA Jr. "Sinatra sings Sinatra"
シナトラ・シングス・シナトラ。フランク・シナトラJr.のブルーノート東京初登場に、これ以上ふさわしいプログラムはないでしょう。
開催の情報を知ってからというもの、ぼくはこの日が来るのを待ち望んでいました。生前のシナトラのライヴに間に合わなかった者として、彼のDNAを受け継ぐ息子のショウを見るのはシナトラ・ファンの責務であると感じたからです。ぼくはシナトラのCDを3〜40枚は持っていますが、そこに収められているのは、まさしく名唱の大群です。それをどうシナトラ・ジュニアが表現するのか。
「MY WAY」、「THEME FROM NEW YORK,NEW YORK」、「STRANGERS IN THE NIGHT」は、必ず歌うだろう。
だけど「ONE FOR MY BABY」、「I'VE GOT YOU UNDER MY SKIN」、「WITCHCRAFT」、「ALL THE WAY」あたりもぜひ歌ってほしい。できれば「I'VE GOT YOU UNDER MY SKIN」は、父親が残した決定版(ネルソン・リドルのアレンジ。アルバム『SONGS FOR SWINGIN’ LOVERS!』収録)を踏襲してほしい。
彼が登場するまで、ぼくは「あれも聴きたい、この曲も歌ってほしい」と思いながらステージを見つめていました。
バンド演奏が終わると、シナトラ・ジュニアが静かに現れました。貫禄があります。声の質感もフレーズもヴィブラートのかけかたも、決して父親と同じではありません。あくまでも自分自身の歌い方を元に、父親ゆかりの曲に取り組んでいる。そこに好感が持てました。父親同様の丁寧なディクション(単語の語尾のsやedの発音が美しい)は、とくにバラードで効果をあげていました。
おまちかねの「I'VE GOT YOU UNDER MY SKIN」は、ステージの中盤で登場しました。嬉しいことにというか、こちらが勝手に望んだとおりというか、ネルソン・リドルの編曲を生かしながらも、見事シナトラ・ジュニアの解釈で歌いあげてくれました。父親のヴァージョンではミルト・バーンハートが一世一代のトロンボーン・ソロを聴かせてくれましたが、この日はコンラッド・ハーウィグが名手ぶりを発揮。シナトラもリドルも天国で喜んでいるに違いありません。
もうひとつ、‘ああ、さすがだなあ!’と思ったのは、バラードの「GUESS I'LL HANG MY TEARS OUT TO DRY」です。シナトラは『SINGS FOR ONLY THE LONELY』で絶唱を残しています。大変な難曲ですが、シナトラ・ジュニアは彼自身の解釈で見事、歌いこなします。ものすごいエモーションです。英語の意味など大してわからないのに、単語のひとつひとつが心に迫り、涙にぬれる孤独な男の姿が浮かんできます。ストーリーテラーだけが持つ世界を、ぼくは確かに味わいました。
父親が偉大すぎると、いろいろ大変なこともあるでしょう。が、フランク・シナトラ・ジュニアはひとりの、とても優れた歌い手である。そう誰もが断言できるはずです。
(原田 2/2/2010)
● 2.2tue.-2.6sat.
FRANK SINATRA Jr. "Sinatra sings Sinatra"