公演初日リポート:MANHATTAN JAZZ QUINTET
日曜日に行なわれた「ブルーノート東京ジャズ・セミナー」で、たっぷりトーク(しかも日本語)を楽しませてくれたデヴィッド・マシューズ。いよいよ昨日からマンハッタン・ジャズ・クインテットによるステージが始まりました。
同グループは今年で発足26年を迎えます。初代メンバーはマシューズ(ピアノ)、ルー・ソロフ(トランペット)、ジョージ・ヤング(テナー・サックス)、チャーネット・モフェット(ベース)、スティーヴ・ガッド(ドラムス)。「あの頃はルーちゃんの髪の毛もフサフサだったし、ぼくのヒゲも真っ黒だった」と、マシューズは語っていました。
ここしばらくマシューズ、ソロフ、モフェット、アンディ・スニッツァー(テナー・サックス)、ヴィクター・ルイス(ドラムス)というラインナップで活動を続けていたクインテットですが、今回の公演ではモフェットに替わる新メンバーとしてフランソワ・ムタンが紹介されました。パリ出身の彼は、これまでマルシアル・ソラル(ピアノ)、エリック・ル・ラン(トランペット)、ランディ・ブレッカー(トランペット)、リシャール・ガリアーノ(アコーディオン)等と共演、1997年からニューヨークを拠点にしています。ぼくは彼とルイス・ムタン(ドラムス)が組んだ兄弟バンド“ムタン・リユニオン・カルテット”のCDを聴いてから、すっかりファンです。今回、ようやく生でフランソワのプレイを味わうことができたわけですが、こんなに速弾きソロをするベーシストだったとは驚きました。ムタンのプレイは、マンハッタン・ジャズ・クインテットの新たな呼び物になることでしょう。
もちろんオリジナル・メンバーのひとりであるルー・ソロフも目いっぱい気を吐いていました。いまでは使われることが珍しくなったプランジャー・ミュート(かつてデューク・エリントン・オーケストラが多用した)を用いて演奏したり、通常のトランペットよりさらに高い音を出すピッコロ・トランペットで突き刺すようなハイノートを出してファンを沸かせたり、客席を練り歩いて豊かな生音を響かせたり、ショウマンシップにさらに磨きがかかったような気がします。
また、つい先日までジェーソン・マイルスのプロジェクトにて同じブルーノート東京のステージに出演し、グローヴァー・ワシントン Jr. の魂を継承したかのようなアツいパフォーマンスで魅了してくれていたアンディ・スニッツアーが、今度はアコースティック・ジャズ・コンボでの"ドジャズ魂" をもって、まったくの "別の顔"を見せてくれてます。
プログラムは「Moanin’」、「I Got Rhythm」、「My Funny Valentine」等の超有名曲ばかり。すべてに周到なアレンジが施されていたことはいうまでもありません。日曜日にマシューズが語った「アレンジャーは作曲家なんだ」という言葉を強く実感させてくれるステージでした。
● 6.21mon.-6.24thu.
MANHATTAN JAZZ QUINTET
- report : DAVID MATTHEWS ジャズ・セミナー
この20日、ブルーノート東京横のフレンチ・レストラン「adding:blue」で、デヴィッド・マシューズによる公開セミナー「ブルーノート東京 ジャズ・セミナー “What is Standard?”」が行なわれました。USTREAMによる同時中継も行なわれ、視聴者からの意見はTwitterで反映されました。
梅雨時ということで天気が心配されていましたが、フタをあければ見事な快晴。日曜の午後、気持ちのいいひとときを過ごすことができました。
デヴィッド・マシューズはおなじみのキャプテン・ハットをかぶって登場。進行役の平賀マリカが彼のプロフィールを説明します。フランク・シナトラ、ジェームズ・ブラウン、サイモン&ガーファンクル、ポール・マッカートニー等、マシューズが関わってきた超大物ミュージシャンの名前が出るごとに場内は沸きます。
「フランク・シナトラはセキュリティ(ボディガード)がすごかった」
「シナトラのレコーディングにはニューヨークの当時の超一流が集まっていた。若手ではブレッカー・ブラザーズ、長老ではライオネル・ハンプトン。リズム・セクションはロン・カーターとスティーヴ・ガッドで、指揮はクインシー・ジョーンズだった」
「ジェームズ・ブラウンは音楽の天才だったが、ビジネスマンでもあった。7つのラジオ局、3つのホテル、自家用飛行機を持っていた」
「ジェームズは新しいファンクのスタイルを作った。彼がいなければ、マイケル・ジャクソンのパフォーマンスも生まれなかったのではないか」
といったことを、マシューズは日本語で話してくれました。
そして中盤から、いよいよマンハッタン・ジャズ・クインテットの話やこの日のメイン・テーマである「“What is Standard?”」へと移ります。
「スタンダード・ナンバーとは、1930年代から50年代に生まれたグレイト・アメリカン・ソングブックのこと。それ以降のナンバーを私は、スタンダード・スタイルと呼んでいる」
「アレンジャーは、作曲家にならなければならない。イントロ、ハーモニー、カウンター・ラインを作曲するんだ」
「ジャズ・ミュージシャンも、みんな作曲家なんだ。アドリブのとき、即興的にメロディを生み出すんだからね」
「アレンジのインスピレーションは、突然おりてくる」
「マンハッタン・ジャズ・クインテットの新メンバーのフランソワ・ムタンは、イケメンだよ」
などなど、リラックスした雰囲気の中で会は進みました。
そしてラストは、場内におかれたキーボードで「ステラ・バイ・スターライト」を演奏。
親日家という言葉を使うのも失礼なほど、日本を愛し、日本になじんでいるデヴィッド・マシューズ。けっこう街中をぶらぶらしたり、飲み屋にいることも多いそうです。見かけたら、ぜひ声をかけてみてください。
大成功に終わった本ジャズ・セミナー、第2弾、第3弾が早くも楽しみです!
(原田 2010/6/20)
● 6.21mon.-6.24thu.
MANHATTAN JAZZ QUINTET
公演初日リポート:THE NEW YORK FUNKY SOUL COLLECTIVE
with special guest RYAN SHAW
先週、行なわれて大好評だった「トゥ・グローヴァー・ウィズ・ラヴ」からのメンバー5人と、気鋭のR&Bシンガーであるライアン・ショウの豪華共演。本国アメリカでもなかなか聴くことのできない組み合わせです。
「トゥ・グローヴァー〜」については前々回の当コーナーで触れましたので、今回はライアンに的を絞って書きましょう。ぼくが彼のライヴに接したのは、これが3度目です。最初は渋谷オーチャードホールで行なわれた「JVCジャズ・フェスティバル・イン・ジャパン」、次はブルックリンの野外フェスティバル(ベテラン・シンガー、オーティス・クレイとのダブルビルでした)、そして今回の「ブルーノート東京」公演、というわけです。
ホール、野外フェス、クラブと、それぞれ別のシチュエーションで聴いてきたのですが、絵になる男といえばいいのでしょうか、本当にどのセッティングでもサマになります。JVCのときは、いかにも新進という言葉がふさわしい初々しさがありました。しかし、いまでは勢いはそのままに、貫禄すら感じさせる存在になりました。ライアンは“伸びている”シンガーなのだなあ、と今回のステージに接して強く思いました。
昨日、彼が歌ったのはカーティス・メイフィールドの「PEOPLE GET READY」、マーヴィン・ゲイの「INNER CITY BLUES」等。「INNER〜」はインストゥルメンタル・ヴァージョンが「トゥ・グローヴァー〜」のステージで演奏されましたが(この曲は、グローヴァー・ワシントンJr.の得意曲でもあるのです)、ライアンのスムースなヴォーカルで味わう喜びは格別です。
まさかの「JUST THE TWO OF US」も聴くことができました。実はこの曲、「トゥ・グローヴァー〜」では取り上げられていなかったのです。音楽監督&キーボード奏者のジェイソン・マイルスがMCで言っていました。“「トゥ・グローヴァー〜」のライヴで、どうして「JUST 〜」をやらないの?ってたくさん訊かれたよ。だけどこの曲はヴォーカリストがいないとね・・・。今日はライアンがいるから、彼に歌ってもらおう!”。
オリジナル・ヴァージョンを歌ったビル・ウィザーズとはまた別の、高く艶やかな歌声、軽快なフィーリング(ライト感覚と言い換えてもいいでしょう)でライアンはこの曲をよみがえらせました。そしてアンコールでは代表曲「DO THE 45」を熱唱。ジュニア・ウォーカーの「SHOTGUN」を髣髴とさせるダンス・ナンバーで、クラブを総立ちにさせたのでした。
(原田 2010/6/17)
● 6.17thu.-6.18fri.
THE NEW YORK FUNKY SOUL COLLECTIVE
with special guest RYAN SHAW
- report : TRAINCHA @ COTTON CLUB
オランダの歌姫、トレインチャが昨日「コットンクラブ」に出演しました。そして本日から「ブルーノート東京」での公演が始まります。
アイスランドの火山噴火により延期されていた来日公演が遂に実現したわけです。プログラムは、彼女が幼い頃から憧れていた(同じステージに立った経験もあります)マイケル・ジャクソンのソングブックで埋め尽くされました。
マイケルが突如、旅立ったのは2009年6月25日のことです。結果的にこのライヴは、もうすぐ1周忌を迎える“キング・オブ・ポップ”への最上級のオマージュになりました。トレインチャの卓越した歌唱力に浸りながら、マイケルの巨大な存在感に思いを馳せ、時には手拍子をとったり、バンドと一緒にメロディを口ずさんだり。すべてのお客さんが、「マイケルが亡くなってもう1年になるのか・・・」という感慨を抱いたのではないでしょうか。当初、このライヴは4月に開催される予定でしたが、ぼくはこうも思っています。どこか遠いところからマイケルが魔術を使って、この公演を1周忌直前に行なわれるように“延期させた”のではないか、と。
マイケルに捧げたステージときくと、どうしても絢爛豪華なステージを想像してしまいます。しかし、トレインチャは驚くほどシンプルなバッキングを得て、名曲の数々を歌いあげました。楽器をプレイするのは、アコースティック・ギターのレオナルド・アムエドただひとり。ほかには3人の女性コーラスがいるだけです。トレインチャはMCでこう言っていました。「レオナルドはギター、ベース、ドラムスをすべて表現できるんです」。
ヴォーカル陣の見事なハーモニーもさることながら、レオナルドの魔術のようなプレイも、ライヴの大きな見どころといえましょう。
「で、トレインチャはどんなマイケルの曲を歌ったの?」という質問がきそうなところですが、これはあえてシークレットにしたほうが、クラブに足を運ぶ喜びも倍増するというものです。みんなが知っている曲、いつか聴いたことがある曲、白熱のダンス・ナンバーから必殺のバラードまでが次々と、トレインチャのタッチに彩られて登場します。レオナルドを含む5人全員で歌うアカペラ・ナンバーもありますよ。お楽しみに!
(原田 2010/6/14)
● BLUE NOTE TOKYO 公演
6.15tue.-6.16wed.
TRAINCHA
〜・〜プロフィール・原田和典 〜・〜
1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。
オフィシャル・ブログ :
http://haradakazunori.blog.ocn.ne.jp/