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- report : PAT METHENY ORCHESTRION @ すみだトリフォニーホール
2008年から2009年にかけて行なわれた"グループ"でのブルーノート東京公演も記憶に新しいパット・メセニーが、この6月11日と12日に「すみだトリフォニーホール」でコンサートを開催しました。最新作『オーケストリオン』からのナンバーを中心としたステージです。
オーケストリオンとは何か。それを説明するには19世紀のヨーロッパまでさかのぼらなければならず、さらに膨大な文字数を必要とするのですが、この場合は“無人オーケストラ”と考えてよいのではないでしょうか。自動演奏装置のついたドラムス、木琴、ピアノ等と一緒にメセニーが演奏し、アンサンブルをつくりあげていくのです。
前半は無伴奏のソロ・パフォーマンスで構成されていました。いわゆる通常(というのも変ですが)のエレクトリック、アコースティック・ギターのほか、バリトン・ギター(より低い音が出る)、ピカソ・ギター(42弦)などを曲ごとに持ち換えながらの熱演です。メセニーの後方には、なにか巨大な山のようなものがあるようなのですが、布がかかっていて中身は見えません。
舞台が暗転し、布が取り払われると、いよいよオーケストリオンとの共演がスタートします。とたんにあがった「ウワー!」という歓声は、「ついに新作のナンバーが始まった」という喜びと、「なんだ、この装置は?」という驚きがミックスしたものでしょう。“架空の共演者”たちの楽器は、商品棚のような設備の中に整列されています。ドラム・セットは解体されて横並びになり、ステージ左右に配置された鉄琴や木琴の鍵盤の間では、色とりどりのマレットが上下します。ステージ上は、楽器店というより、金物店のようです。両翼には理科室の試験管のようなものにオイルを入れて鳴らす "笛" のようなサウンドのものなど、興味は尽きません。
メセニーはエレクトリック・ギターを弾いて弾いて弾きまくります。ぼくは十数回、彼のライヴを見ていますが、ここまで熱く弾きまくった姿を見るのは初めてです。しかし、その一方で、彼は自動演奏装置を巧みに(クールに)扱わなければならない役割も自身に課しているのですから、まったく驚くべき多重人格ぶりではあります。ぼくが見た12日は、『オーケストリオン』収録曲のほかに、メセニーがこよなく敬愛するオーネット・コールマンの曲(「ターンアラウンド」、「ブロードウェイ・ブルース」)なども“架空の共演者”たちと聴かせてくれました。鳴り止まないスタンディング・オベーション応え、アンコール、再アンコール、そして再々アンコールとなった最後の曲は、完全にその場のインプロビゼーションによる楽曲だったと後で聞いたときは驚嘆でした。
オーケストリオン・プロジェクトを考えてからというもの、メセニーは何度も「アー・ユー・クレイジー?」と訊ねられたそうです。また、メセニーは、「このオーケストリオンまだまだ未開拓で、さらにさらに色々なことができるんだ」と周囲に語っていたそうで、 40年近くのキャリアを持ち、数々の栄誉に輝くビッグ・スターである彼が、今もますます“クレイジー”に磨きをかけているということは、本当に素敵です。これからも世界中のクレイジーなファンに、クレイジーな音を届け続けてほしいなあ、と心から思いました。
(原田 2010/6/14)