公演初日リポート:CHICK COREA TRIO
featuring CHRISTIAN McBRIDE & BRIAN BLADE
「ニュー・トリオ、ニュー・ミュージック!」
すっかりスリムになったチック・コリアが発するこの一声から、“新・黄金トリオ”によるステージが始まりました。ベースはクリスチャン・マクブライド、ドラムスはブライアン・ブレイドです。あらゆるタイプの音楽をこなす3人ですが、今回のステージはオール・アコースティック。そして猛烈にスイングするモダン・ジャズに彩られていました。
オープニングは、トランペット奏者ケニー・ドーハムの書いた「LOTUS BLOSSOM」。ぼくの記憶に間違いがなければ、ケニーは60年代後半にジョー・ヘンダーソンと双頭ビッグ・バンドを組んでいました(レコーディングは残っていません)。そこでピアノを弾いていたのがまだ20代半ばだったチックです。この曲も当時、よく演奏されていたのではないでしょうか。チックの指は鍵盤上を軽快に走り、マクブライドのベース・ラインがそれにぴったりとついてゆきます。ブレイドは先の細いスティックを使い、シンバルをあらゆる方面から叩いてサウンドにバラエティを加えます。
3人の醸し出す響きは限りなく生音に近いものでしたが、それが会場内にくまなく拡がったときの快感には言葉が見つかりません。マクブライドは“これぞウッド・ベース”というべき胴や弦の鳴りをふんだんに聴かせ、ブレイドの一打一打は空気と溶け合います。生音のしっかりしたプレイヤーが集まっているところにも、このニュー・トリオの大きな魅力があるのです。
名匠アーマッド・ジャマルに捧げた「YOU’RE MY EVERYTHING」、チックがこよなく尊敬するセロニアス・モンクの「I MEAN YOU」等、気合の入った演奏が最後まで続きます。そして本編ラストでは、チックの名を高めた初期の代表作『NOW HE SINGS、NOW HE SOBS』からタイトル曲が披露されました。この曲が作られたのは今から40年以上も前のことですが、メロディ、ハーモニー共に少しも歳月を感じさせません。マクブライドやブレイドがチックのピアノに絡みつくようなプレイを演じ、この古典に新鮮味を加えてゆきます。なるほどこれは、確かに“ニュー・ミュージック”です。
アンコールに飛び出したのは、ジョー・ヘンダーソンの書いた「ISOTOPE」。先日おこなわれたスタンリー・クラーク・トリオの公演ではオープニングで演奏されていたナンバーですが、チック・コリア・トリオが取りあげるとより渋く、ブルージーな感じになります。そこがぼくにはとても粋に感じられました。
今回のライヴもいつものチック公演と同じように、開演前後のBGMがありません。ステージ上のライトも一定です。あたかもニューヨークのライヴ・スポットにいるような気分で、ニュー・トリオのパフォーマンスを味わわせていただきました。
(原田 2010/12/4)
● 12.3fri.-12.4sat., 12.9thu.-12.12sun.
CHICK COREA TRIO
featuring CHRISTIAN McBRIDE & BRIAN BLADE
公演初日リポート:VINCENT GALLO
俳優、映画監督、画家、ミュージシャンなどさまざまな顔を持つ男がヴィンセント・ギャロです。「天は二物を与えた」どころか、ギャロの場合、天から三物も四物も与えられ、しかも、いずれも高く評価されているのですから、心憎い限りです。『Essential Killing』という作品で本年度のヴェネチア国際映画祭で最優秀主演男優賞に輝いたのも記憶に新しいですね。
今回はミュージシャンとしてのギャロが120%満喫できるクラブ公演です。俳優として知られるようになる前から音楽活動をしていたというだけあって、ギターもヴォーカルもキャリアの深みを感じさせ、いわゆる“役者さんの音楽”だと思って接すると吹っ飛ばされるほどのインパクトを受けることでしょう。曲によってはベースやドラムスも演奏し、さらにメロトロンまで弾いておりました。メロトロンというのは1960年代後半から70年代前半にかけて、主にプログレッシヴ・ロックの世界で使われた楽器で(といっても、ジャズ畑でもハービー・ハンコック等が演奏しておりましたが)、元祖サンプリング・マシーン的な楽器です。鍵盤を押すと中に入っているテープがまわり、ストリングスのような音やフルートのような音を出します。理屈の上ではデジタル・シンセでも似たような響きは出せるはずなのですが、あえてメロトロンを持ってくるあたり、ギャロの“ヴィンテージ志向”と音楽オタクぶりを感じ、なんだか彼が一層身近に感じられました。
オープニング・ナンバーでギャロはオーディエンスに背中を向け、アンプにギターを近づけながら演奏します。2曲目からは正面を向いてくれるかなと思ったのですが、それはかなわず、ドラムスを叩いているとき以外は基本的に背中、もしくは横顔しか客席からは見えなかったはずです。ヴォーカルはつぶやくように、ささやくように披露されました。その歌声には晩年のチェット・ベイカーの歌唱を思わせる退廃的な美しさがありました。映画「ティファニーで朝食を」からの「MOON RIVER」、キング・クリムゾンの「MOONCHILD」等のカバーも絶品で、ぼくはなんだか霧深き月夜をさまよっているような気分になりながら、ギャロの一音一音に耳を傾けてしまいました。他にも、2001年にリリースしたアルバム『When』からのナンバーも数曲演奏がありました。
曲間のMCもおじぎもなく、最後に「サンキュー、グッドナイト」と言っただけ。しかし、このそっけなさがいいのです。曲目やメンバーを丁寧に紹介し、深々とおじぎをし、有名曲で観客を乗せ、何度もアンコールに応えるだけがライヴ・パフォーマンスではありません。ぼくはギャロの“つっぱり”が、すごく気持ちよいものに感じられました。“俺はちっともつっぱってないよ”と返されそうですが・・・。
彼にはいつまでも、ヴィンセント・ギャロという美学を貫き通してほしいものです。
(原田 2010 11.30)
● 11.30 tue. - 12.2 thu.
VINCENT GALLO
*** 本公演はアーティストの意向により、ライブの写真及びセットリストの掲載がございません。