公演初日リポート:HOLLY COLE
この3月2日にコンピレーション・アルバム『私の時間 ザ・ベスト・オブ・ホリー・コール』をリリースしたばかりのホリー・コール。3月2日と3日の公演を「名古屋ブルーノート」で終えた彼女が、ブルーノート東京に戻ってきてくれました。当店公演は3月9日まで続き(7日はオフ)、その後11日にはコットンクラブに、13日にはモーション・ブルー・ヨコハマに登場します。10日間以上も日本にとどまって、ほぼ毎日2ステージのショウを繰り広げるわけです。彼女がどれほど、我が国の音楽ファンから愛されているかが伝わってきます。
ぼくは東京公演の初日を拝見しましたが、ホリーの来日公演には必ず足を運んでいるのであろうベテラン・ファンや、さいきん彼女を知ったと思われる若いリスナーがバランスよく客席を埋めていて、なんともいえない和やかな感じが生まれています。ホリーはスーツ姿にネクタイといういでたちで登場。オープニングの「INVITATION TO THE BLUES」(トム・ウェイツのヴァージョンで有名ですね)から、堂々たるパフォーマンスを繰り広げます。最初の1、2曲をバンド演奏(インストゥルメンタル)にして、その後に登場して歌い始めるというシンガーも少なくありませんが、ホリーはオープニングから熱唱し、観客をぐいぐいとひきつけていきます。アップ・テンポの「CHARADE」が終わるころには皆、ホリーの世界に浸っていたのではないでしょうか。
中盤では『私の時間』のボーナス・トラックであった「さくら(独唱)」も英語の歌詞で聴かせてくれました。中川ヨウさんが書いたCDライナーノーツには、“日本のリスナーとより強く結ばれたいので、J-POPからなにか歌いたいと思った。選曲を進めるうちに、森山直太朗さんの「さくら」に魅了された”というようなことが書かれています。ホリーはこの曲を見事な“ホリー節”で歌い上げました。単なるファン・サービスを超えた、シンセリティ(誠意)を感じさせるバラードを味わわせてくれました。
バンド・メンバーでは1986年以来のつきあいとなるアーロン・デイヴィスが今回も美しいピアノ・プレイでホリーの歌を引き立てていました。新加入の女流プレイヤー、コリーン・アレンはテナー・サックス、ソプラノ・サックス、クラリネットを持ち換えて大活躍。ホリーとの息もピッタリです。また「さくら」ではピンク色、ブルース調の曲では青色、スロー・バラードではシルエットを引き立たせるなど、見事な照明効果も印象に残りました。
(原田 2011 3.4)
● 3.4fri.-3.9wed.(3.7mon.OFF)
HOLLY COLE
●3.11fri.はコットンクラブにて公演
●3.13sun.はモーション・ブルー・ヨコハマにて公演
公演初日リポート:KIRK WHALUM -The Gospel According to Jazz- @COTTON CLUB
グラミー賞を受賞したばかりのエスペランサ・スポールディングが「ブルーノート東京」に出演したのも記憶に新しいところですが、昨日からはやはり今年のグラミー・ウィナーとなったカーク・ウェイラムが来日公演をおこなっています。本日まで「コットンクラブ」に出演し、2日からは「ブルーノート東京」に場所を移します。
カークはこれまで11回、グラミー賞にノミネートされてきました。しかし賞を獲得することは叶いませんでした。今回の受賞が彼にとって、どれほど念願のものであったかは、想像するまでもありません。すでにスムース・ジャズ〜フュージョンのトップ・サックス奏者として不動の人気を誇っているカークですが、今回のグラミー受賞でさらにファン層を広げることでしょう。
ぼくは「コットンクラブ」の初日公演を見たのですが、内容は大きく、「ゴスペル曲」、「尊敬する先輩プレイヤーゆかりの曲」、「ホイットニー・ヒューストンやベイビーフェイス等、友人のミュージシャンにちなんだレパートリー」、「ヴォーカル・ナンバー」の4つに分かれていた、といっていいでしょう。つまりカークは、お気に入りのメンバーを揃えたバンドと共に、彼の持つ多彩な魅力を一夜のステージに注ぎ込んでくれたのです。
“愛というのは、2者の間だけのものではない。クリエイター(創造主)と我々の間にも愛は成立するんだ”と語りながらゴスペル・ナンバーを歌い、サックスを吹く姿。ホイットニーの大ヒット「I WILL ALWAYS LOVE YOU」をエモーショナルにプレイする姿(ホイットニーが歌ったこの曲のCDで間奏を吹いているのはカークです)。グローヴァー・ワシントンJr.に捧げた自作曲で白熱のソロを聴かせる姿。キーボード奏者ジョン・ストッダートの弾き語りにハーモニーをつける姿。カークの一挙一動には、“音楽する喜び”が溢れていました。
(原田 2011 2.28)
● 3.2wed.-3.3thu. @BLUE NOTE TOKYO
KIRK WHALUM -The Gospel According to Jazz-
公演初日リポート:GIOVANNI MIRABASSI TRIO
イタリア・ペルージャが生んだ俊英ピアニスト、ジョヴァンニ・ミラバッシ。昨年末に発表された最新作『ライヴ・アット・ブルーノート東京』も大好評の彼が、ふたたび日本のホームグラウンドに戻ってきてくれました。
ベースのジャンルカ・レンツィは、もはやミラバッシにとって不可欠なパートナー。あっと驚くような素早いフレーズを、ピアノとのユニゾンで鮮やかに決めてくれます。ドラムスのルクミル・ペレスは新たにこのトリオに加わったキューバ出身の逸材。現在はパリに住み、ジャズ〜R&B〜ラテンをまたにかけて活動しています。
前任のリオン・パーカーは、どちらかというとピアノとベースに絡みつくようなドラミングを展開していましたが、ペレスはむしろ“煽るタイプ”のドラマーです。マッチド・グリップ(左手でドラム・スティックを握るように持つ)による強力なプレイは、このトリオにワイルドな魅力を付け加えていました。今回が初来日のペレス、これから日本で一気に知名度が高まることでしょう。
いろんなタイプの曲で1枚のアルバムや1回のステージに盛り込むのがミラバッシ・トリオの魅力だとぼくは思っているのですが、今回もワルツの「NY #1」から始まり、快調な4ビートの「IT'S US」、8ビートにのせたポップな「WORLD CHANGES」、3人が別々のビートを打ち出しながら盛りあげてゆく「SIX FOR SEX」など、現在の3人の技のショウケースというべき演奏をじっくりと楽しませてくれました。
ラストではスタンダード・ナンバーの「WHAT IS THIS THING CALLED LOVE」(キース・ジャレットやビル・エヴァンスも演奏しています)も聴かせてくれましたが、イントロ、アドリブ、エンディング、細かなアレンジにいたるまで、すべてにミラバッシ・トリオならではの独創性が発揮されていました。
公演は本日までです。お見逃しなく。
(原田 2011 2.28)
● 2.28mon.-3.1tue.
GIOVANNI MIRABASSI TRIO