- ☆ パフォーマンス...
公演初日リポート:DIANE SCHUUR @COTTON CLUB
日本で最も親しまれている現役ジャズ系シンガーのひとりがダイアン・シューアでしょう。彼女は1985年の斑尾ジャズ・フェスティバルで初来日しています。その前年の秋にデビュー作『ディードルズ』が国内発売され、“驚異の新人”としてクローズアップされた矢先のことでした。以来、彼女は日本公演を欠かしたことがありません。「日本で歌うことが、毎回とても楽しみだ」とMCで語っていましたが、ファンの皆さんの中には、「毎回、ダイアンの来日公演をチェックしている」という人もかなりいらっしゃるのではないかと思います。
31日に「ブルーノート東京」に出演するダイアンですが、30日までは「コットンクラブ」に出演しています。意外なことに、彼女がここに出演するのは今回が初めてとのこと。MCでしきりに「いいクラブね」と言っていましたので、ダイアンにとってまたひとつ、日本でのお気に入りのライヴ・スペースが増えたということになりますね。
とにかくレパートリーの多いシンガーなので、何が聴けるかわからないのもダイアンのステージの面白いところです。今回は最新作『THE GATHERING』からの曲がプログラムの半分ぐらいを占めておりました。この作品はダイアンのルーツのひとつであるカントリー・ミュージックにアプローチしたもので、彼女にとっては、まさしく念願の1枚といったところでしょう。バンドは彼女の歌とヴォーカルを最大限に引き立てながら、控えめにサポートします。
いっぽう、ジャズ〜フュージョン系のナンバーではバンド・メンバーのソロも大きくフィーチャーされ、ダイアンと丁々発止を繰り広げます。フュージョン系のフリューゲルホーン奏者、チャック・マンジョーネの書いた「LAND OF MAKE BELIEVE」を、オリジナル・ヴァージョンの組曲的展開をそのままに、ヴォーカル・ナンバーとして鮮やかにリメイク。ダイアンの得意技である、ピアノとスキャットのユニゾンも炸裂しました。そしてラストでは、「DEEDLE’S BLUES」を、先日亡くなったフランク・フォスターに捧げて歌いました。ダイアンがカウント・ベイシー・オーケストラと共演アルバム(グラミー賞獲得)をレコーディングしたとき、そこでアレンジや指揮を担当したのがフォスターだったのです。
(原田 2011.7.28)
● 7.31sun. @BLUE NOTE TOKYO
DIANE SCHUUR
公演初日リポート:ELDAR @COTTON CLUB
キルギス共和国が生んだ超絶技巧ピアニスト、エルダーの公演が本日から「ブルーノート東京」で始まります。ぼくはそれに先がけて「コットンクラブ」で行なわれた初日を見てまいりました。
これまでの公演では全曲トリオでパフォーマンスを繰り広げてきたエルダーですが、今回は前半がソロ・ピアノ、後半がトリオで構成されました。オープニングはスタンダード・ナンバーの「I SHOULD CARE」。セロニアス・モンク、バド・パウエル、アンドリュー・ヒルらも演奏してきたバラードですね。しかし、エルダーはこの曲を、テンポこそスローながら、奔流のような速弾きナンバーとして料理しました。1小節の中に、いったいどのくらいの音符が入っているんだろうか、と不思議になってしまうほど、彼の技巧は冴え渡っておりました。目をつぶると、何人ものピアニストが一緒に弾いているかのようです。
ソロ・コーナーのラストはブラームスの曲で締めくくられました。クラシックの猛レッスンで技術を磨きあげたエルダーにとって、こうしたナンバーを演奏することはお手のものなのでしょう。力強いピアノ・タッチ、華麗な高音、踊るような足元(サステイン・ペダルを、細かく踏み込んでおりました)・・・クラシックに的を絞ったリサイタルが行なわれるのも、そう遠い未来のことではないような気がします。
その後、アルマンド・ゴラ(ベース)、ルドウィッグ・アフォンソ(ドラムス)が加わったトリオの演奏が始まります。ルドウィッグはスパイロ・ジャイラの一員として来日したこともありますね。右利き用のドラムスを使いながら、左手でトップ・シンバルを打ち、右手でスネア・ドラムを叩くという異色のスタイルの持ち主でもあります。変拍子やキメの多いエルダーの曲には、彼のようなアンサンブルをカッチリとまとめることのできるドラマーは最適なのではないでしょうか。どの曲も技と技のぶつかりあいでしたが、客席が最も沸いたのは「MOANIN’」でした。もともと1950年代、ボビー・ティモンズというピアニストがゴスペルに着想を得て書いたナンバーですが、エルダーはオスカー・ピーターソンのヴァージョンを参考にして、それをさらにテクニカルに昇華していました。こういう「MOANIN’」が演奏できるミュージシャンは、エルダーしかいないでしょう。
ラストはしっとりと、「BESAME MUCHO」を披露。「そういえばこの曲、超絶技巧派の先輩格にあたるゴンサロ・ルバルカバも弾いていたなあ」と思い出しながら、日本デビュー当時のゴンサロ(9月にブルーノート東京でも公演あり)と現在のエルダーの指使いを重ねてしまいました。
(原田 2011.7.27)
● 7.28thu.-7.30sat. @BLUE NOTE TOKYO
ELDAR
SAM MOORE @COTTON CLUB
ソウル・レジェンド、サム&デイヴのサム・ムーア登場!
昨日のコットンクラブ公演は、もちろん盛り上がりました。
7/29friはフジロックフェスティバル '11に出演予定。
今晩のクラブ公演=至近距離はもちろん魅力満載ですが、
サザン・ソウルの歴史を切り開いた1人が率いる、
分厚いホーンセクションとバックヴォーカルをフィーチャーした "ピュア・ソウルバンド"を野外で、
これも格別ではないでしょうか。
- 藤本美貴さんのブログ『COTTON CLUB』 http://amba.to/pjxNYT
● 7.27wed. @BLUE NOTE TOKYO
SAM MOORE
公演初日リポート:日野 皓正
-AFTERSHOCK-
この公演、本当に本当に楽しみにしておりました。日野皓正のAFTERSHOCK公演です。
もちろんぼくは、ライヴに備え、最新作『AFTERSHOCK』を何度か聴いて“予習”しました。しかし、実際のライヴに接すると、“予習”が吹っ飛んでしまいます。CDに収められた楽曲が燃え上がり、昇華して、どんどんどんどん発展していくのです。音楽はナマモノ、生き物であるとは、よくいったものです。おそらく日野皓正以外、ステージ上のミュージシャンすら、演奏がどうなっていくのか、どこでエンディングにたどりつくのか、わかっていないところもあったのではないでしょうか。しかし、これが面白いのです。予定調和や安定といった言葉に真っ向から刃向かうような、アグレッシヴでエキサイティングな演奏に、ぼくは興奮しっぱなしでした。
日野皓正といえば、御存知、超大物です。紫綬褒章など、いろんな賞にも輝いています。昔のヒット曲を昔のようにやっても、お客さんを喜ばせることはできるでしょう。しかし彼は、それをしません。親子ほど歳の離れたミュージシャンたちと組んで、断崖絶壁のようなところに身をおきながら、まさしくその場その場で新しいフレーズを放ってゆきます。ぼくは、その「いちかばちか」、「見る前に跳べ」的なプレイに強くジャズの醍醐味を感じます。
いわゆるテーマ→各メンバーのアドリブ回し→テーマという構成は、ひとつもありません。全員が同時にソロをとり、メロディとリズムを一緒に奏でているようなパフォーマンスが続きます。2台のベースが、dj hondaのターンテーブルが、強烈なポリリズムを刻みます。日野はたまにパーカッションを操る以外、ほとんどトランペットを吹きっぱなしです。指示はその場で各ミュージシャンに与えられます。日野のキューがいつ、どこで飛んでくるのか、それは神のみぞ知るところ。演奏には常に緊張の糸が張り詰められています。しかし、一方で、そのサウンドにはとんでもない自由が含まれているのです。
「あまりにも自由で、ギターを弾いているという意識すら飛んでしまう」と、小沼ようすけはMCで語っていましたが、オーディエンスの皆様も、かなりの方が別世界を旅されたのではないでしょうか。ぼくも、最後の音がやんでからしばらくして、ようやく現実に戻ったような気がしました。
公演は明日までですが、ひとつとして同じ展開のステージはないはずです。キャリア50年にしてなお、「まだ誰もやっていないことをやりたい。今はまだその途中なんだ」と語るミュージシャンが、この世にいったいどのくらいいるでしょう!
(原田 2011.7.25)
● 7.25mon.-7.26tue.
日野 皓正 -AFTERSHOCK-
公演初日リポート:GARY BURTON QUARTET
featuring ANTONIO SANCHEZ, JULIAN LAGE & JORGE ROEDER
蒸し暑い毎日が続きますね。こんなときは、涼やかな音楽をライヴで味わうに限ります。
それにふさわしいプログラムが、昨日から始まりました。ヴィブラフォンの巨星、ゲイリー・バートンのステージです。“クリスタル”、“クリア”、“クール”と呼ばれたプレイは相変らず冴え渡り、4本のマレットを使った神業的プレイも健在。聴いているだけで、体感温度が下がっていく気がします。しかも今回は、出たばかりの最新作『コモン・グラウンド』(キング・インターナショナル)を携えての来日ということもあってか、初日のファースト・セットから、気合が入りまくっていました。
共演者は、バートンの秘蔵っ子であるジュリアン・ラージ(日本では「レイジ」と表記されていますが)のギター、ホルヘ・ローダーのベース、いまや新時代のリズム・メイカーといえるアントニオ・サンチェスのドラムス。若手の育成に定評のあるバートンだけあって、ハイレベルなミュージシャンが揃っています。ジュリアンはもうバートンと10年間も一緒に演奏しているそうです。「そうすると20代後半か、30代ぐらいかな?」と思ってしまうのはぼくだけではないと思いますが、実のところジュリアンはまだ23歳になったばかり。つまり彼は13歳の頃からバートンに鍛えられているわけですね。
確かにジュリアンのプレイはテクニック、フレーズ共に文句のないものでした。パット・メセニーの影響が強いかな、というところはありますが、誰だって若い頃は憧れの先輩ミュージシャンの痕跡を残すものではないでしょうか。興味深かったのは、エレクトリック・ギターを使っているにもかかわらず、ギター本体の前にもマイクを立てていたことです。「NEVER THE SAME WAY」ではアンプの音を絞り、マイクの前で弦をかきならしながら、バンジョー風の音色を出していました。
バートンは「IN YOUR QUIET PLACE」の前半で、ため息の出るような無伴奏ソロを披露。ライヴの1曲目ではカル・ジェイダーがヒットさせた「AFRO BLUE」を演奏し、アンコールではミルト・ジャクソンの「BAGS GROOVE」も取りあげました。いずれも旧作『For Hamp,Red,Bags,and Cal』で演奏していた曲ですが、まさか生で聴けるとは思いませんでした。ジェイダーもジャクソンもバートンの大先輩にあたるヴィブラフォン奏者(ふたりとも故人です)。とはいえ、バートンとは音色もアプローチも楽器にかかるヴァイブレーションも異なります。しかしバートンは、まさしく自分以外のなにものでもないスタイルで、これら古典的ナンバーに新たな光を当てました。
キャリア50年を迎え、ゲイリー・バートンの音楽世界は、ますます深く、豊かになっています。
この日のセカンド・ショウは、かつてのバートン門下生、近年はバートンとデュオでパフォーマンス・ツアーをまわる、小曽根真さんが飛び入りで参加されたようです。
(原田 2011.7.20)
● 7.20wed.-7.23sat.
GARY BURTON QUARTET
featuring ANTONIO SANCHEZ, JULIAN LAGE & JORGE ROEDER
公演初日リポート:TITO JACKSON @COTTON CLUB
マイケル・ジャクソンに捧げるステージから約1年。“ジャクソン・ファミリーのお兄ちゃん”、ティト・ジャクソンが真夏の東京に戻ってきてくれました。
前回のステージは彼のお気に入りのブルース、そしてジャクソン5〜ジャクソンズのレパートリーで占められていましたが、今回は新曲も含む、さらに多彩な内容です。昨年、ティトを取材したとき、マネージャー氏が「ティトは前進するアーティストなんだ。次の公演では、新しいティトの姿をアピールすることになるだろう」と語ってくれたのですが、まさにその通りのライヴを味わうことができました。とはいっても、往年の名曲はバッチリやってくれます。なにしろ少年の頃からエンターテイメント界のトップを走ってきたティトです。お客さんの期待を裏切ることは絶対にないのです。
「ブルーノート東京」では明日17日から公演が開催されますが、ぼくは15日に「コットンクラブ」でおこなわれた初日を見てきました。おなじみの帽子を頭に乗せ、おなじみの“光るギター”を持ってステージにあがろうとしたティトですが、すでにこの時点で握手ぜめ、スタンディング・オヴェイションです。よく見ると、ギター・ストラップや、紫の上着の襟のところにも光る素材が使われているのがわかります。オープニングから笑顔全開、さすが「ジャクソン・ファミリーのムードメイカー的存在」といわれただけはあります。若き日のマイケルやジャーメインも、何度となくティト兄さんの笑顔やアドバイスに励まされたのだろうなあ、と思わずにはいられません。
エレクトリック・ギターをガンガン弾いた後、アコースティック・ギターに持ち換えたあたりからニュー・アルバム用の曲が続きます。昨年、話をきいたときには「もうすぐ完成するよ」とのことでしたが、こうしてライヴで楽曲がプレイされるようになったということは、いよいよリリース間近ですね。カントリー・タッチの曲あり、レゲエ風のビートを生かした曲ありと、バラエティに富んだ構成で楽しませてくれました。ティトのニュー・アルバム、思いっきり期待してよいのではないでしょうか。
そして後半はお待ちかね、ジャクソン5〜ジャクソンズ時代の楽曲が並びます。ティトはアフロ・ヘアーのカツラをかぶり、「さあ、1969年に戻ろう。みんな、曲を知っていたら歌って、踊って、スクリームしてくれ。パーティの時間だよ!」と観客を煽ります。が、それはジャクソン5の楽曲において。その後、カツラをとり、「1975年、ぼくらは自分で曲を作り始めた」と前置きしてジャクソンズのナンバーに続きます。
いったいどんながジャクソン5〜ジャクソンズのヒット曲が演奏されたか? マイケルのパートは誰が担当したのか? 明日から始まる「ブルーノート東京」公演で、ぜひ御確認いただければと思います。
(原田 2011.7.15)
● 7.17sun.-7.19tue. @BLUE NOTE TOKYO
TITO JACKSON