BlueNote TOKYO
ARCHIVE 2011/09

2011/09/09

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , BOOKER T. - - report : BOOKER ...

ブッカー・T.ジョーンズ - BOOKER T. JONES
ブッカー・T.ジョーンズ - BOOKER T. JONES


公演初日リポート:BOOKER T. JONES @COTTON CLUB



『ポテト・ホール』、『ザ・ロード・フロム・メンフィス』等、生きのいい近作を出しているブッカー・T・ジョーンズが自身のバンドと共に来日してくれました。ブッカー・Tといえば1960年代のスタックス・レーベルにおける大活躍が著名ですが、このところのアルバムを聴くと現在の彼は間違いなく当時に匹敵するピークを築いているように感じられます。乗りに乗っているミュージシャンのパフォーマンスを生で楽しめる快感は、何にも替えることができません。ぼくは「コットンクラブ」で行なわれた初日のステージを見ました。

まずギターのヴァーノン・アイス・ブラック(カリフォルニア州オークランド出身)、ドラムスのダリアン・グレイ(同)、ベースのジェレミー・カーティス(マサチューセッツ州ボストン出身)が登場し、演奏を始めます。そしてグレイのMCに導かれ、御大ブッカー・Tが現れます。曲はそのまま最新作からの「HARLEM HOUSE」に。彼が最初の一音をオルガンから放つだけで、クラブ中にファンキーな空気がたちこめていくようです。続く「WALKIN’ PAPER」もニュー・アルバムからのナンバーです。

続く「BORN UNDER A BAD SIGN」からは、スタックス・レーベル時代の曲が続きます。「GREEN ONIONS」(17歳のときの楽曲だそうです)、「SOUL LIMBO」、「HIP-HUG-HER」などなど永遠の定番をブッカー・T自身のプレイで聴くのは幸福以外の何ものでもないですが、決して彼は往年のレコードの再現をしません。原曲の雰囲気を生かしながらもアレンジを変え、メンバーのアドリブをどんどん入れて、さらにエキサイティングなサウンドに仕立ててゆくのです。

時を忘れて4人のサウンドを楽しんでいると、「TIME IS TIGHT」が耳に入ってきました。前半をスローで演奏し、後半をアップ・テンポで攻めるこの曲に興奮しないファンはいないでしょうが、これが演奏されるということは、もうライヴが終わりに近づいているということも、ファンは知っています。案の定、本編はここで終了し、アンコールでは『ポテト・ホール』からの「HEY YA」、オーティス・レディングが歌った名曲「I'VE BEEN LOVING YOU TOO LONG」を聴かせてくれました。

なにしろ数え切れないほどのレパートリーを持つブッカー・Tです。本日から始まる「ブルーノート東京」公演でも、日がわりのプログラムで大いに楽しませてくれることでしょう。
(原田 2011 9.9)


● 9.10sat.-9.13tue.
BOOKER T. JONES @BLUE NOTE TOKYO



2011/09/07

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , COUNT BASIE ORCHESTRA - - report : THE LEG...

カウント・ベイシー・オーケストラ - COUNT BASIE ORCHESTRA
カウント・ベイシー・オーケストラ - COUNT BASIE ORCHESTRA


公演初日リポート:THE LEGENDARY COUNT BASIE ORCHESTRA
directed by DENNIS MACKREL


日本には「長寿の祝い」があります。61歳は「還暦」、70歳は「古希」、77歳は「喜寿」、80歳は「傘寿」、88歳は「米寿」と呼ばれます。アメリカでは、これほど細かく分かれてはいません。しかし25周年は「シルヴァー・ジュビリー」、50周年は「ゴールデン・ジュビリー」、75周年は「ダイアモンド・ジュビリー」として華々しく祝福されます。

そして、カウント・ベイシー・オーケストラは今年、みごと「ダイアモンド・ジュビリー」を迎えました。同オーケストラが、いくつかの前身バンドを経てカンザス・シティでスタートしたのは1936年のこと。第二次世界大戦後、経済的な事情で解散したこともありますが、'50年代初頭に再結成し、'84年にベイシーが他界した後も、スイングひと筋に活動を続けています。まさしく“THE WILL TO SWING”です。

ぼくが見た初日のファースト・セットでは、先ごろ亡くなったフランク・フォスターのアレンジした曲が多くとりあげられていました。フォスターは再結成後のベイシー・オーケストラ(日本では“ニュー・ベイシー”と呼ばれることが多いようですが、海外では“NEW TESTAMENT BAND”=新約聖書バンドとして親しまれています)で大活躍した才人で、ベイシー亡き後のオーケストラの2代目コンダクターでもありました。フォスターは数々の名曲をベイシーに提供しましたが、自身がサックス奏者であるだけに、サックス・アンサンブルに重点をおいたアレンジが絶品です。大ベテランのダグ・ミラー(テナー)、40年間オーケストラに所属しているというジョン・ウィリアムス(バリトン)を含む現ベイシー・オーケストラのサックス・セクションも抜群のノリでフォスターの譜面をこなしていました。現コンダクターのデニス・マクレルが「100万ドルのサックス・セクション」と豪語する見事なハーモニーを、クラブで聴く快感は、ちょっと言葉では表現できません。

プログラム後半はサド・ジョーンズ(ベイシー死後、最初のコンダクターを務めた)、アーニー・ウィルキンス、ニール・ヘフティ等の書いたアレンジが並びます。いずれも御大存命時のオーケストラに多大な貢献をした面々です。残念ながら彼らもフォスター同様、もうこの世の人ではありません。しかしその譜面を現ベイシー・オーケストラが演奏しても、あのくつろぎ、コクのあるブルース・フィーリングが沸き起こるのですから嬉しいものです。

過日、デニスはこう語ってくれました。「私はこのオーケストラのリーダーだとは思っていない。単なる指揮者で、リーダーはあくまでもカウント・ベイシー。彼の魂がバンドをまとめている。良くない演奏をしてしまったら、ミスター・ベイシーに顔向けできない。だから皆、常に最高のプレイを心がけているんだ」。
こんなに素晴らしい息子たち、孫たちを持って、天上のベイシー翁もさぞゴキゲンな気分なのではないでしょうか。
(原田 2011 9.6)


● 9.6tue.-9.9fri.
THE LEGENDARY COUNT BASIE ORCHESTRA
directed by DENNIS MACKREL


カウント・ベイシー・オーケストラ - COUNT BASIE ORCHESTRA


2011/09/05

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , MICHEL LEGRAND - - report : MICHEL ...

ミシェル・ルグラン - MICHEL LEGRAND
ミシェル・ルグラン - MICHEL LEGRAND


公演初日リポート:MICHEL LEGRAND TRIO

「シェルブールの雨傘」、「ロシュフォールの恋人たち」、「華麗なる賭け」、「おもいでの夏」等、数え切れないほどの名作映画の音楽を担当してきたミシェル・ルグラン。彼はまた、熱狂的なジャズ好きとしても知られています。1950年代初頭にはディジー・ガレスピーに編曲を提供、その後マイルス・デイヴィスやビル・エヴァンス(ピアニスト)と親交を結び、『ルグラン・ジャズ』、『アット・シェリーズ・マン・ホール』を始めとする、いくつものジャズ・アルバムも発表しています。

今回の「ブルーノート東京」はいうなれば、ルグランの書き下ろした名曲がジャズ・フォーマットで披露されるというもの。“ルグラン・プレイズ・ルグラン”と呼ぶにふさわしい珠玉のプログラムが、クラブならではの親密な雰囲気の中、思いっきり楽しめるのです。世界中で愛されている定番を作者本人の演奏で聴くという、こんなに贅沢な機会が今後、いつ訪れるかは誰にも予想できません。会場はもちろん超満員、カップルでお越しの方もかなりいらっしゃいました。

オープニングは映画「シェルブールの雨傘」でおなじみの「ウォッチ・ホワット・ハプンズ」。ルグランはこの有名なメロディに次々とヴァリエーションを加えてゆきます。「インプロヴィゼーションは本当に楽しいね。一晩中でも続けたいぐらいだよ」とMCで語っていましたが、彼の即興はジャズのアドリブというよりもクラシックでいうところの変奏に近いもので、キーやテンポを変えながら、1コーラスごとに違った「ウォッチ・ホワット・ハプンズ」を聴かせてくれました。

ギル・エヴァンスやカーラ・ブレイ等を例に出すまでもなく、作編曲家のピアノ・スタイルは、どちらかというと淡々としている場合が多いように感じられます。しかしルグランは違います。次から次へとフレーズが溢れ出しては止まらない、という感じで、とにかくピアノを弾きまくるのです。大ベテラン、大巨匠の位置に君臨して久しいはずなのに、指は往時と変わらずスピーディに動き、速いパッセージにも乱れはありません。70年代のインタビューでルグランは、最も尊敬するピアニストのひとりにオスカー・ピーターソンをあげ、「彼の腕を移植してほしいぐらいだよ」と言っていますが、ルグランのピアノの芸風は確かにピーターソン流のヴァーチュオーソ・スタイルといえましょう。

また「これからの人生」では英語、「風のささやき」と「シェルブールの雨傘」ではフランス語によるヴォーカルを聴かせてくれました。マエストロの弾き語りを至近距離で聴ける・・・こんな貴重なチャンスは、なかなか体験できるものではありません。まさしく、感動のステージ。行って本当によかった、と誰もが思うはずです。
(原田 2011 9.4)



● 9.4sun.-9.5mon.
MICHEL LEGRAND TRIO


ミシェル・ルグラン - MICHEL LEGRAND


2011/09/01

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , GONZALO RUBALCABA TRIO - - report : GONZALO...

ゴンサロ・ルバルカバ - GONZALO RUBALCABA
ゴンサロ・ルバルカバ - GONZALO RUBALCABA


公演初日リポート:GONZALO RUBALCABA TRIO @COTTON CLUB



昨日から「コットンクラブ」でゴンサロ・ルバルカバの来日公演が行なわれています。「コットンクラブ」へは今日まで出演し、明日、あさっては「ブルーノート東京」への登場です。ぼくは初日のセカンド・セットを見てきました。

今回のステージは、「日本に愛を込めて」を意味するスペイン語のサブタイトルが意味するとおり、ゴンサロにとって特別の公演です。現在はアメリカに住み、同地の音楽界からも高く評価されている彼ですが、日本のファンはそれ以前から彼に注目し、支持してきました。このライヴは、ゴンサロの日本に対するエールなのです。もっとも無口な彼は、相変らずメンバー紹介以外はしゃべらず、ただ演奏するのみですが。

場内が暗くなると同時に、ゴンサロ、マット・ブルーワ(ベース)、マーカス・ギルモア(ドラムス)があらわれました。全員がスーツにネクタイをしています。音楽の内容も、どちらかといえば静謐な、室内楽的なものでした。そのなかに、ときおりゴンサロの超絶テクニックや、パーカッションをドラム・セットに仕込んだギルモアの鮮やかなプレイが光ります。それにしてもゴンサロは本当に成熟しました。かつての何分の一かに音数を抑えながら、余韻を味わうようにピアノを奏でています。

しかし、いくらでも速弾きしようとすればできるのがゴンサロです。プログラム前半ではじっくりとメロディを奏でていましたが、ラストの曲(ぼくにはレニー・トリスターノ作「LENNIE’S PENNIES」に聴こえました)では、彼が今も「ピアノ界のスピード王」であることを証明しました。余計なフレーズを入れず、ただシンバルを叩くだけで恐ろしいほどのスイング感を生み出すマーカス・ギルモアに煽られながら、しかしあくまでもクールに、ゴンサロは鍵盤に指を走らせてゆきます。

「今回のライヴでは、さまざまな作曲家のナンバーを演奏するつもりだ」と、ブルーノート東京のホームページにもメッセージを寄せているゴンサロ。おそらく毎セット、違うプログラムになることでしょう。超絶テクニシャンからマエストロの域に進化したゴンサロの現在を、どうぞお楽しみください。
(原田 2011.8.31)



● 9.2fri.-9.3sat. @BLUE NOTE TOKYO
GONZALO RUBALCABA TRIO "Amor Para Japón"




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