'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , TOOTS THIELEMANS - - report : TOOTS T...
2011/10/09
公演初日リポート:TOOTS THIELEMANS @すみだトリフォニーホール
音楽界の人間国宝、トゥーツ・シールマンスが久しぶりに来日しています。
11日から13日にかけて「ブルーノート東京」、14日は「コットンクラブ」で演奏しますが、それに先立って8日には「すみだトリフォニーホール」で公演が行なわれました。あの広いホール内は3階まで超満員。登場するやいなや怒涛のような拍手と歓声が巻き起こり、あらためてトゥーツの人気を実感させられました。
ハーモニカという、誰にでも身近に感じられる楽器を吹きながら、ワン&オンリーの世界を創ってしまったのがトゥーツの素晴らしさ。チャーリー・パーカーやマイルス・デイヴィスと同じステージに立ち、若き日のジョン・レノンに影響を与え、ビリー・ジョエルやポール・サイモンのアルバムにスペシャル・ゲストとして呼ばれたことのある奏者は、絶対に彼のほかにはいません。
圧倒的なテクニックを持ちながらも、語り口は常に親しみやすく、演奏曲目もメロディアスなものばかり。そこもトゥーツが幅広い人々に支持されている秘訣といえましょう。この日も「THE DAYS OF WINE AND ROSES」、「SNO’PEAS」、「I DO IT FOR YOUR LOVE」(以上3曲はビル・エヴァンスとトゥーツの共演アルバム『AFFINITY』より)、「THE DOLPHIN」といった名曲を楽しませてくれました。「OVER THE RAINBOW」ではオーディエンスの歌声と共演し、トゥーツの名を不動のものとした映画挿入歌「MIDNIGHT COWBOY」も、サウンドトラックの演奏より一層ジャジーなアレンジでじっくりと聴くことができました。もちろんプログラム後半にはオリジナル曲「BLUESETTE」も登場。ギターと口笛によるヴァージョンがよく知られていますが、この日はハーモニカで、あの美しいメロディを軽やかに奏でました。
ニールス・ペデルセン、マーク・ジョンソン、ケニー・ワーナー等、数多くの逸材を自身のバンドに加えてきたトゥーツ。今回、連れてきてくれたカレル・ボエリー(ピアノ)、ハイン・ヴァン・デ・ハイン(ベース)、ハンス・ヴァン・オーステルホウト(ドラムス)も見事な呼吸で御大のハーモニカを盛りたてていました。トゥーツはとくにハンスのプレイがお気に入りのようで、ドラムスと向かい合って演奏する瞬間が何度もありました。
ラリー・アドラー、レス・トンプソンなどトゥーツ以前にもジャズ的なハーモニカ奏者はいましたし、マウリシオ・エインニョルン、ヘンドリック・マーケンス、グレゴワ・マレ、アントニオ・セラーノ等、現役ジャズ・ハーモニカ奏者の活動にも目を見張るものがあります。しかし、それでもトゥーツの王座はゆるがない。この公演を聴いて、ぼくは改めてそう思いました。
なんと終演後には、「オーディエンスに会いたい」というご本人の希望でサイン会が開催され、少なくとも200名以上の人が並びました。この開催を申し出たトゥーツの精神に感銘を受けたのは言うまでもありませんが、列に並んだ多くの方が“おひとり様1点のみでお願いします”という主催者からの呼びかけに協力する日本のオーディエンスの皆さんの素晴らしい姿に、アーティストのスタッフらも深く感動し、ルールを守ってもらえるのであれば、ブルーノート東京でもサイン会を開催しよう、とお話していたと聞きました。
人間国宝89歳の境地を、ぜひ御体験ください!
(原田 2011 10.8)
● TOOTS THIELEMANS
10.11tue.-10.13thu. @BLUE NOTE TOKYO
●10.14fri. @COTTON CLUB
photo:K. Miura