BlueNote TOKYO
ARCHIVE 2012/10

2012/10/30

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , CARLEEN ANDERSON - - report : CARLEEN...

カーリーン・アンダーソン - CARLEEN ANDERSON
カーリーン・アンダーソン - CARLEEN ANDERSON


公演初日リポート:
CARLEEN ANDERSON SOUL TRIO featuring Rad.



エイミー・ワインハウスをはじめ、数多くのシンガーから敬愛を受ける“ミュージシャンズ・ミュージシャン”、カーリーン・アンダーソン。

父親はボビー・バード、母親はヴィッキー・アンダーソンという、いずれもジェームズ・ブラウンと縁の深いシンガーたち。カーリーンにとってJBは叔父のような存在で、名付け親でもあるそうです。彼女は、音楽家になる使命を持って生まれてきたのかもしれません。

そんなカーリーンが7年ぶりに、ブルーノート東京に帰ってきました。リーダーとして出演するのは今回が初めてです。ステージにはピアノ、キーボード、ドラムスが並びます。ギターやベースは見当たりません。風変わりな編成、といっていいでしょう。しかしこれが、カーリーンの“ソウル・トリオ”なのです。彼女は曲によってピアノの弾き語りを聴かせ、ときにはステージ中央のスタンド・マイクで歌いました。力強く、音域の広い歌声は、バラードでも、ファンク調でも、ゴスペル調でも変わらず光り輝いています。

サポートを務めたRAD.は、リーダーとしても「コットンクラブ」に登場したことのある凄腕キーボード奏者。左手でベース・ラインを弾き、右手でソロをとります。見ていると「このひとの両手は、いったいどうなっているんだろう」と不思議になるほど、左右の手、10本の指が別々の動きをします。そして、うねるようなグルーヴを生み出すのです。

メンバー中、ただひとりの男性であるグイード・メイはヨーロッパを中心に活動するドラマー。長くピー・ウィー・エリス(彼もジェームズ・ブラウン・バンドでの活躍で著名です)のバンドで働き、ほかにもマーサ・ハイ(彼女もJB人脈)、トニー・アレン、マヌ・ディバンゴなどと共演を重ねてきました。タメの利いたバスドラの重低音は、とくにミディアム・テンポの曲で魅力的でした。

‘90年代初頭、ヤング・ディサイプルズで活動していた頃の印象があまりにも鮮烈だったので、カーリーン=アシッド・ジャズというイメージをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。しかし現在の彼女が取り組んでいるのは、カーリーン・アンダーソン・ミュージックそのものです。その“境地”に、ぜひ至近距離で触れていただければと思います。
(原田 2012 10.29)


● 10.29mon.-10.30tue.
CARLEEN ANDERSON SOUL TRIO featuring Rad.
☆ 参考:セットリストはこちら


カーリーン・アンダーソン - CARLEEN ANDERSON


2012/10/29

blog - Rest In Peace, our...

Rest In Peace, our Dearest Friend forever in our hearts, Mr. Terry Callier

Terry Callier


Terry Callier(1945-2012)

テリー・キャリアーさんが10月28日に逝去されました。
謹んで哀悼の意を表します。


Terry Callier
(2007.3.8 ブルーノート東京公演より)



2012/10/28

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 大西順子 - - report : JUNKO O...

大西順子 - JUNKO ONISHI
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公演初日リポート:JUNKO ONISHI TRIO



1993年にアルバム『WOW』で衝撃のソロ・デビューを果たした大西順子が、20周年アニバーサリーを前に選んだ道は「引退」でした。そう決意するに至るきっかけは、前号のタブロイド版フリーペーパーにおける菊地成孔との対談で触れられている通りです。

ぼくが見た初日セカンド・セットは、異様な熱気に包まれていました。それはたぶん、ほかのセットでも同様なのではと思います。「これが最後の演奏だ」という大西順子側の何か吹っ切れたようなプレイ、そして「この瞬間を一音たりとも聴きのがすわけにはいかない。もう最後なんだから」と前のめりになって音を浴びるオーディエンス側の気迫がぶつかり、スパークしていたといえばいいでしょうか。

演奏曲目は、ファンにはおなじみのものばかり。初期のレパートリーである「EUROGIA」も、ジャッキー・バイアードの楽想を発展させた(といっていいでしょう)近作「THE THREE PENNY OPERA」も登場しました。後者は目下の最新作『バロック』にも収められていますが、大西順子はMCでこのCDを“私の最後のアルバム”と紹介していました。

共演メンバーは、大西いわく“大阪が生んだ天才ベーシスト”こと井上陽介、そしてドラムスはクインシー・デイヴィス(米国ミシガン州生まれ、カナダ在住)が担当しました。両者とも繊細なときは思いっきり繊細に、はじけるところでは思いっきりはじけることができるプレイヤーです。彼らの陰影に富んだリズムは、間違いなく大西に大きなインスピレーションを与えていたと思います。

この日のステージにはまた、ジャズの歴史を彩ったピアニストへのオマージュ的な要素も感じられました。アーマッド・ジャマルのアレンジを用いた「DARN THAT DREAM」は確かにジャマルの『ライヴ・アット・ブラックホーク』に入っていたヴァージョンに通じるものがありましたし、まさかのダブル・アンコールで演奏された「JUST ONE OF THOSE THINGS」は偉大なるアート・テイタムの吹き込み(56年)に則ったものでしょう。

いっぽう、ホレス・パーランの「USTHREE」では、パーラン版ではドラマーがブラッシュで演奏していたところを、大西版ではクインシー・デイヴィスがリム・ショット(スネアの端をスティックで叩いてアクセントをつける)を用いて、1960年のオリジナル・ヴァージョンとはまた違った興奮をかもし出していました。

大西順子がいかに多くのレコードやCDを聴いて学び、練習を積み重ね、現在の位置に到達したかが伝わってくるステージでした。ブルーノート東京への出演は本日が最後ですが、ラスト・ツアーはまだまだ続きます。ジャズ・ピアニスト=大西順子の総決算を、ぜひどうぞ。
(原田 2012 10.27)


● 10.27sat.-10.28sun.
JUNKO ONISHI TRIO
☆ 参考:セットリストはこちら


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2012/10/25

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , THE MANHATTAN TRANSFER - - report : THE MAN...

マンハッタン・トランスファー - THE MANHATTAN TRANSFER
マンハッタン・トランスファー - THE MANHATTAN TRANSFER


公演初日リポート:
THE MANHATTAN TRANSFER



「マンハッタン・トランスファーは、今年で結成40周年なんだ。今日はおなじみの曲から、最近しばらく歌っていなかった曲までたっぷりお届けするよ。最後まで楽しんでいってくれ!」
リーダー格のティム・ハウザーがそう言うと、場内、割れんばかりの拍手と声援が巻き起こります。

マンハッタン・トランスファーの結成時期については諸説ありますが、ティムが“正式な結成”と考えているのは、あくまでもアラン・ポール、ジャニス・シーゲルが加入した1972年であるようです(シェリル・ベンティーンは78年参加)。

彼らが華やかなデビューを飾って以来、いくつもの男女混声グループが「マントラに追いつけ追い越せ」とばかりに登場しました。しかし、誰も追いつけず追い越してもいません。完璧なハーモニー、選曲の面白さに加え、マントラには抜群のエンタテインメント性があります。そしてお客さんに、「ああ、ライヴに来て本当によかった」と言わせずにはいられないホスピタリティがあります。彼らのステージは、ぼくにとってアメリカの華やかさな部分、陽気な部分そのものです。

ぼくが見た初日のセカンド・セットは、クインシー・ジョーンズ・オーケストラのレパートリーだった「MEET BENNY BAILEY」、カウント・ベイシー・オーケストラの定番「CORNER POCKET」、ライオネル・ハンプトン・オーケストラで有名な「AIRMAIL SPECIAL」等、ビッグ・バンドゆかりのナンバーが目立ちました。

あの大編成ならではの分厚いサウンドを、マントラは巧みに四声で醸しだします。たとえば「MEET BENNY BAILEY」では、原曲にあるミュート・トランペットとフルートのユニゾンをジャニスとシェリルが再現し、サックス・セクションとトロンボーン・セクションのパートをティムとアランが歌います。「CORNER POCKET」は、かつてサラ ・ヴォーンが「UNTIL I MET YOU」というタイトルでも歌っていましたが、マントラはそれとは別の歌詞を用いて、ベイシー・オーケストラの名演(1955年)に沿った歌唱を繰り広げました。

いっぽう、ポップス〜ドゥーワップ系レパートリーに持ち味を発揮するのもマントラの魅力です。この日はザ・カプリスの「MORSE CODE OF LOVE」、ジャッキー・ウィルソンの「TO BE LOVED」(ア ランのソロ)等を聴かせてくれました。ほかにも、「BIRDLAND」、「ROUTE 66」、「SPAIN」と、これでもかといわんばかりに名曲が押し寄せてきます。ハーモニーのフルコースをたっぷり味わった満足感に浸りながら、ぼくはクラブをあとにしました。
(原田 2012 10.24)


● 10.24wed.-10.26fri.
THE MANHATTAN TRANSFER
☆ 参考:セットリストはこちら


マンハッタン・トランスファー - THE MANHATTAN TRANSFER


2012/10/21

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , MARIO BIONDI - - report : MARIO B...

マリオ・ビオンディ - MARIO BIONDI
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公演初日リポート:MARIO BIONDI



イタリアから世界に飛び出した人気シンガー、マリオ・ビオンディのステージが昨日から始まりました。5年ぶり、2度目の来日です。前回はハイ・ファイヴ・クインテットとの共演でしたが、今回もダニエレ・スカナピエコ(サックス、フルート)、ロレンツォ・トゥッチ(ドラムス)といったハイ・ファイヴの仲間が加わっています。

マリオを初めてごらんになった方は、その低音の魅力と共に、2メートルはあるという身長、とても広い肩幅にも驚かれることでしょう。前回の日本公演から5年を経て、彼は更にスケールの大きなシンガーへと成長していました。すべてがフルスケール。それが“ヴォーカル界の若き巨人”、マリオなのです。

ぼくが見たセカンド・セットはなんと、2時間にも及びました。ファースト・セットも相当、長時間だったとききますから、この日、マリオは4時間近く歌ったことになります。しかし、歌えば歌うほどエネルギーが湧いてくるというか、一度乗り出したら止まらないというか、とにかく熱い男です。白いスーツ、白いシャツをバリッと着こなし、ときどきホーン・セクションの間に入り込んで歌い、ときにはジャンプしたり、ひざまづいたりしながら、低音を響かせます。アル・ジャロウやチャカ・カーンの物真似も場内を大いに沸かせました。

レパートリーは有名なカンツォーネ「E SE DOMANI」(ジャズではエンリコ・ラヴァ、アンドレア・マルチェッリ等も演奏しています)以外、すべて英語。MCも基本的に英語です。「ぼくの英語はスパゲッティ・イングリッシュだから」と笑いをとり、「日本に戻ってくることを心から楽しみにしていたんだ。だって日本のお客さんはアメイジング(驚くほど素晴らしい)だからね」と語りかけます。

演目は、日本に来なかった5年間の空白を埋めるにふさわしくバラエティに富んだものでした。アメリカン・スタンダードあり、オリジナルあり、R&Bあり、バラードあり、サンバあり、モーダルなものあり、と、1曲1曲を楽しませ、聴かせます。インコグニートのアルバムでチャカ・カーンと共演した「LOWDOWN」も、しっかり歌ってくれました(「だけどチャカには、まだ会ったことがないんだ。共演が実現したのは、レコーディング・テクノロジーのおかげだよ」とのこと)。

もちろん客席は超満員。スタンディング・オヴェイションまで巻き起こりましたが、今回の入魂の公演で、マリオの人気はさらにさらに上昇することでしょう。
(原田 2012 10.20)


● 10.20sat.
MARIO BIONDI
☆ 参考:セットリストはこちら

10.22mon.-10.23tue.
BROOKLYN PARLOR presents
"GOOD MUSIC PARLOR" LIVE at BLUE NOTE TOKYO
MARIO BIONDI
DJ :TATSUO SUNAGA(10.22mon.),
JEFF BROWN(10.23tue.)


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2012/10/17

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , MACY GRAY , THE DUKE ELLINGTON ORCHESTRA - - report : THE DUK...

デューク・エリントン・オーケストラ - THE DUKE ELLINGTON ORCHESTRA
デューク・エリントン・オーケストラ - THE DUKE ELLINGTON ORCHESTRA


公演初日リポート:
THE DUKE ELLINGTON ORCHESTRA featuring MACY GRAY



ひょっとしたらポピュラー音楽史上、最も長く続いているバンドかもしれません。1923年結成、来年で創立90周年を迎えるデューク・エリントン・オーケストラが昨日から圧巻のステージを繰り広げています。

創設者デューク・エリントンは残念ながら1974年に他界してしまいましたが、“虎は死んで皮を残し、マエストロは曲を残す”。デュークが書いた数多くの楽曲は、今なお多くのミュージシャンに愛され、演奏され歌い継がれています。この日のライヴでも、「TAKE THE A TRAIN」、「SATIN DOLL」、「SOPHISTICATED LADY」等、デュークやそ のバンド・メンバーが創作した定番が次々とプレイされました。ソリストはジェームズ・ゾラー(トランペット)、シェリー・キャロル(テナー・サックス)、モーガン・プライス(バリトン・サックス)、スタッフォード・ハンター(トロンボーン)等。「CARAVAN」ではデイヴ・ギブソン(ドラムス)、「JACK THE BEAR」ではハサン・シャカー(旧名J.J.ウィギンズ。名ピアニス ト、ジェラルド・ウィギンズの息子)のベースがフィーチャーされました。なお、アレンジはすべてこのオーケストラ用に用意されたもののようです(つまり、デューク存命中の編曲は使っていない)。

ピアニストとコンダクターは、トミー・ジェームスが務めます。彼は1987年、デュークの息子である故マーサー・エリントンに乞われて、エリントン・オーケストラに関わるようになりました。ほかにもライオネル・ハンプトン、ジョー・ウィリアムスらのサポートを務め、スタイリスティックスやテンプテーションズ、メルバ・ムーア等、ソウル・ミュージック系のシンガーとも共演しています。そのピアノ・スタイルは、垂直的と評されたデューク自身のそれとは、一味異なります。あくまでも滑らかに、レガート気味に流れていくのがトミーのプレイです。

後半にはスペシャル・ゲストのメイシー・グレイが登場しました。どこか苦みばしった、強烈な個性と魅力に彩られた彼女の歌声は、ジャズのビッグ・バンドと絶妙な相性を示します。赤いスパンコールのドレスを着て、「SOLITUDE」等、古典的なエリントン・ナンバーを熱唱するメイシーの姿は、いつもよりもさらに大きく、高くそびえたって見えました。
(原田 2012 10.16)


● 10.16tue.-10.19fri.
THE DUKE ELLINGTON ORCHESTRA featuring MACY GRAY
☆ 参考:セットリストはこちら



●10.23tue.-10.26fri. はコットンクラブにて公演
 ※メイシー・グレイは出演いたしません

デューク・エリントン・オーケストラ - THE DUKE ELLINGTON ORCHESTRA


2012/10/15

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 大江千里 - - report : SENRI O...

大江千里 - SENRI OE
大江千里 - SENRI OE


公演初日リポート:
SENRI OE QUINTET


音楽界広しといえども、シンガー・ソングライターからピアニストへの道を歩み出したミュージシャンは数少ないと思います。‘80〜’90年代にJポップ(当時はニュー・ミュージックと呼ばれていましたが)の世界で数々の大ヒットを放ち、映画やテレビ・ドラマにも出演。多くのビッグ・スターの楽曲提供やプロデュースも手がけた大江千里がジャズ・ピアニストを目指して単身ニューヨークに渡ったのは2008年のことです。

名門校ニュー・スクールで学び、様々なセッションを経験しながら、その成果をアルバム『Boys Mature Slow』に注ぎ込みました。今回 のステージは、そのショウケース・ライヴというべき内容でした。1曲ぐらい歌ってくれるかなと思ったのですが、すべてインストゥルメンタル。今回はあくまでもピアニストとしての自分を聴いてほしい、ということなのでしょう。

プログラムは彼の自作で構成されました。とはいえ、それはポップスを歌っていた頃の楽曲とは、趣が異なります。ぼくは「PONTE VECCHIO BRIDGE MELANCHOLIA」にビリー・ストレイホーン 「チェルシー・ブリッジ」のエコーを感じ、「SAND WISH」を聴いたときにはアントニオ・カルロス・ジョビン「ビボ・ソニャンド」を思い出しました。「HIGHLINE BASH」は、ウェイン・ショーター「ブラック・ ナイル」を大江千里のセンスで再解釈したかのようです(もちろん、これらは個人的な印象でしかないことをお断りしておきます)。

アメリカに渡った彼は、相当多くのジャズ・ナンバーを聴きこみ、分析し、研究したのでしょう。ピアノのハーモニーやアタックに関しては、ホレス・シルヴァーに相当、傾倒しているように感じられました。

ソリストではトランペットのジョナサン・パウエルが光っていました。これまでJTテイラー、Qティップ、サム・リヴァース、スヌープ・ドッグらと共演、稀代のサックス奏者ジョン・イラバゴンを含む自身のグループも率いている逸材です。音の艶、張り、歌心、すべていうことなし。大江千里は、本当に素敵な仲間を得たのだと思います。
(原田 2012 10.14)


● 10.14sun.-10.15mon.
SENRI OE QUINTET



大江千里 - SENRI OE


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