report : ADRIAN BELEW POWER TRIO
中学生のとき、ぼくはエイドリアン・ブリューに初めてノックアウトされました。キング・クリムゾンの来日公演の模様をFMで聴いて、「なんてすごいんだ! どういう指使いで弾いているんだ!」と驚いて以来、この印象的な名前はずっとぼくのなかに強く刻まれています。
その後、彼のソロ・アルバムや、クリムゾン以外の参加アルバムを聴くようになり、エイドリアンが単なる超絶ギタリストにとどまらない、愛すべきメロディ・メイカーであることも知り(大のビートルズ・フリークなのだろうと思います)、ますます彼が身近に思えるようになりました。
そのエイドリアンが、今、「ブルーノート東京」で最新の境地を披露しています。以前に登場したときよりもさらにスピード感アップ、いったいどこまで行ってしまうのだろうと手に汗握らずにいられないスリリングにして過激なライヴを、入れ替えなしの1ステージ制で楽しませてくれます。
とにかくオープニングから、“パワー・トリオ”の名にふさわしい力感みなぎるプレイが続きます。複雑なユニゾンを見事にこなし、普通ならトリッキーに聴こえてしまうであろう急激なテンポの変化も、笑顔をうかべながらこなしてしまうメンバーの余裕に惚れ惚れします。ジュリー・スリックは、おそらくジェフ・ベックのバンドにいたタル・ウィルケンフェルドと余裕で肩を並べる“女子ベース界のエース”でしょう。ドラムスのマルコ・ミンネマンはドイツ出身。エイドリアンと共演し始めてまだ間もないそうですが、御大自身が「8本の腕を持つ男」と紹介するほど猛烈なオクトパス・ドラミングで興奮させてくれます。おそらくワン・ストロークで16分音符8つぐらい叩いているのではないでしょうか。尋常ではない手数なのです。通常のドラム・セットの横に、わざわざ叩くためのバスドラを別個に置き、重低音を轟かせる姿も、たまらなくかっこいいものでした。なんでも彼はマイク・ケネリー(エイドリアン同様、フランク・ザッパとの交流があった)、クリムゾンの歴代メンバーでもあるジョン・ウェットンやトレイ・ガンとの親交も深いとか。あなたがチャド・ワッカーマンやテリー・ボジオのファンなら、必ずマルコのドラムスに釘づけになるはずです。
エイドリアンのプレイは“ギターという巨峰を征服した”というしかないものでした。エフェクターやループ等も使っていましたが、1台のギターであんな多彩な音が出せるとは! アンコールではクリムゾンの人気レパートリーである「THELA HUN GINGEET」も聴かせてくれましたが、新曲、オリジナル曲だけでぼくは満腹感を味わうことができました。
ロック・ファンだけではなく、「今、起こっている面白い音楽」をお求めの方、すべてにお勧めいたします!
(原田 2010/7/24)
● 7.24sat..-7.27tue.
ADRIAN BELEW POWER TRIO