BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , THE SYNDICATE - - report : THE SYN...

2012/07/08

ザ・シンジケート - THE SYNDICATE -80th birthday celebration of Joe Zawinul-
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公演初日リポート:THE SYNDICATE
-80th birthday celebration of Joe Zawinul-



7月7日といえば、もちろん「七夕」です。が、同時に、不世出のキーボード奏者、故ジョー・ザヴィヌルの80回目の誕生日でもあります。

ザヴィヌルはオーストリアのウィーンに生まれ、50年代後半にアメリカ・ニューヨークへやってきました。そしてダイナ・ワシントンやキャノンボール・アダレイのバンドで演奏し、マイルス・デイヴィスの傑作『イン・ア・サイレント・ウェイ』、『ビッチェズ・ブリュー』等にも協力しています。1971年にはサックス奏者ウェイン・ショーターらと“ウェザー・リポート”を結成、ジャコ・パストリアスやピーター・アースキンの才能も広く世に知らしめました。また’80年代後半からは新グループ“ザヴィヌル・シンジケート”を率いて世界をツアー。あのリチャード・ボナも、このバンドで注目を集めたひとりです。

本日までブルーノート東京に登場している“ザ・シンジケート”は、ザヴィヌル・シンジケートで大活躍した鬼才ドラマー、パコ・セリーを中心とするグループです。キーボードを担当したのはディー・ディー・ブリッジウォーターの伴奏や、リュック・ベッソン監督映画への音楽提供もこなすティエリー・エリス。ぼくは彼に“アコースティック・ピアノの名手”というイメージを持っていたのですが、この日はシンセサイザーをバリバリ弾きこなしました。彼がいかにザヴィヌルを愛し、強い影響を受けてきたかが伝わるようなプレイでした。

エミール・パリジャンは、ソプラノ・サックスに専念しました。しかし彼の吹奏はウェイン・ショーターとはまったく異なるものでした。マウスピースを口の横でくわえたり、あごを引いて先の部分だけくわえながら、音色に変化を加えていくのですが、それがなんというか、“いわゆるジャズのサックス”とは違う響きを生み出しているのです。うねりまくる彼のサックスも、ぼくにはこのバンドの大きな魅力でした。

そしてパコ・セリーのドラムスはあいかわらず“驚嘆”のひとことでした。彼が右利きか左利きか、ぼくはあいにく存じ上げておりませんが、左手の巧みなコントロールにはいつも舌を巻きます。「MADAGASCAR」の冒頭ではドラム・ソロを聴かせてくれました。左手親指と薬指でスティックをはさみ、人差し指と中指を軽く添えながらプレイするのですが、ちょっと見た感じ、スティックの動きが止まっているようなのです。しかしその間、ものすごく細かい、粒の揃った音符がスネア・ドラムから叩きだされます。つまり、あまりにも動きが速すぎて、肉眼ではその動きが目に入らないのです。彼のドラムスとジョルジュ・ベゼーラ(クレモンティーヌのバンドでも来日している、陽気なおじさんです)のパーカッションが生み出すポリリズムは、本当に痛快で気持ちいいものでした。

生前のザヴィヌルは大変、音楽に厳しい方だったとききます。しかし、“ザ・シンジケート”の熱演には両手の親指を立てて喜んでいることでしょう。
(原田 2012 7.7)


● 7.7sat.-7.8sun.
THE SYNDICATE
-80th birthday celebration of Joe Zawinul-
☆ 参考:セットリストはこちら


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'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , MATT BIANCO - - report : MATT BI...

2012/07/04

マット・ビアンコ - MATT BIANCO
マット・ビアンコ - MATT BIANCO


公演初日リポート:
MATT BIANCO


ヴォーカルのマーク・ライリー、キーボードのマーク・フィッシャー。“ふたりのマーク”を中心とするユニット、マット・ビアンコが約4年半ぶりにブルーノート東京で会心のステージを繰り広げています。

初日が行なわれた昨日の夜は、あいにくの雨。しかも湿気が高く、外を歩いているだけでからだが溶けそうになってきます。でもライヴが始まると同時に、その気持ちは吹っ飛びました。マット・ビアンコのカラッとした、色とりどりの、スタイリッシュでダンサブルなサウンドがジメジメ感を追いやってくれたのです。そして彼らの音楽は、オシャレであるにもかかわらずお高くとまったところがなくて、とてもとても親しみやすい。本当にいいユニットだなあと、改めて思いました。

10月にはニュー・アルバムのリリースも予定されているとのことですが、今回のプログラムはよく知られた楽曲が中心。彼らの名を決定的なものにした「WHOSE SIDE ARE YOU ON」、近作の表題曲である「HI FI BOSSANOVA」、93年のアルバム・タイトル曲「ANOTHER TIME-ANOTHER PLACE」、テレビ・コマーシャルに使われて人気を呼んだ「SUNSHINE DAY」(オシビサのカヴァー)などが次々と登場し、客席を沸かせます。

個人的にはジョージー・フェイムの歌で有名な「YEH YEH」を聴けたのも嬉しかったですし、女性シンガーのエリザベス・トロイをフィーチャーした「HALF A MINUTE」もクライマックスのひとつだったと思います。ファースト・アルバムではバリバリの打ち込みサウンドで展開されていた「MORE THAN I CAN BEAR」も、生楽器の質感を生かしたアレンジで聴くと、メロディの美しさがさらに際立つように感じられました。

“いい音楽”に触れて、いい気分になりたければ、マット・ビアンコのライヴを見逃すわけにはいきません。公演は6日まで続きます。
(原田 2012 7.3)


● 7.3tue.-7.6fri.
MATT BIANCO
☆ 参考:セットリストはこちら


マット・ビアンコ - MATT BIANCO


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , SADAO WATANABE - - report : SADAO W...

2012/06/29

渡辺貞夫 - SADAO WATANABE
渡辺貞夫 - SADAO WATANABE


公演初日リポート:
SADAO WATANABE presents
SADAO WATANABE N.Y. QUARTET
featuring DANNY GRISSETT, VICENTE ARCHER & OBED CALVAIRE



説明不要の重鎮・渡辺貞夫が、ニューヨークで出会った新しい友人たちと共に会心のステージを繰り広げています。

ピアノのダニー・グリセットはカリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。バリー・ハリスやハービー・ハンコックの指導を受け、2003年からニューヨークで活動を続けています。先日はトランペット奏者トム・ハレルのバンドで「コットンクラブ」に出演していました。ベースのヴィセンテ・アーチャーはニューヨーク州ウッドストック出身。16歳までギターを弾いた後、ベースに転向しました。ウィントン・マルサリスやロイ・ヘインズのバンドでも活躍経験のある逸材です。ドラムスのオベド・カルヴェールは4ビートやファンクからロック系まで、すべて万能の名手。「ブルーノート東京」にはリチャード・ボナや渡辺香津美のバックで登場したことがあります。

そんな3人を従えて演奏する渡辺貞夫は、ひょっとしたら昨年のステージよりもさらにペースをあげているのでは?と思えるほど絶好調。艶やかなアルト・サックスの音が、梅雨のしめっぽい空気を突き破るように爽快に響きます。オープニング「ONE FOR YOU」では、アドリブの途中でチャーリー・パーカーの名演「EMBRACEABLE YOU」のフレーズまで飛び出したではありませんか。パーカーといえば渡辺貞夫に最大の影響を与えた人物のひとりで、今なお永遠の憧れです。ぼくはこの1曲で、すっかりいい気分になってしまいました。

その後も、盟友チャーリー・マリアーノが書いた16ビートの「BYE BYE BABE」、アップ・テンポの4ビートで演奏された「GEMMATION」など必聴のナンバーが並びます。そしてプログラム後半では、ブラジル・サルバドールの海岸にインスピレーションを受けて書いたという「ITAPUA」、カリプソ〜サンバ調の「SONG OF MAY」、アントニオ・カルロス・ジョビンの「CHEGA DE SAUDADE」を立て続けに披露。クラブにいち早く夏の空気を運びました。

「CHEGA DE SAUDADE」はディジー・ガレスピー、スタン・ゲッツなど多くのジャズ・ミュージシャンから愛されている曲ですが、大抵の場合、アドリブ部分は一発モノ(ワン・コード)か、“逆循”で行なわれます。しかし渡辺貞夫は原曲の持っている、美しいけれども難しいコード進行を尊重し、鮮やかなソロを聴かせてくれました。

もちろんダニー、ヴィセンテ、オベドも各ナンバーでキラリと光るプレイを披露。1950年代から第一線で活動し、チコ・ハミルトンやゲイリー・マクファーランドと共演、ニューポートやモントルーのジャズ・フェスティバルでも絶賛を博してきた“レジェンド” 渡辺貞夫との共演は、彼らにとっても良い刺激になっているようです。

公演は7月1日まで行なわれます。「同じ曲を一日に2度演奏するのは、どうも楽しくない」ということで、ファースト・セットとセカンド・セットのレパートリーが大きく異なるのも特徴です。ぜひお越しください!
(原田 2012 6.28)


● 6.28thu.-7.1sun.
SADAO WATANABE presents
SADAO WATANABE N.Y. QUARTET
featuring DANNY GRISSETT, VICENTE ARCHER & OBED CALVAIRE
☆ 参考:セットリストはこちら


渡辺貞夫 - SADAO WATANABE


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , HILARY KOLE - - report : HILARY ...

2012/06/27

ヒラリー・コール - HILARY KOLE
ヒラリー・コール - HILARY KOLE


公演初日リポート:
HILARY KOLE


「日本に6,7回は来ていると思うけど、ブルーノート東京で歌うのは初めて。ついにこの舞台に立てて嬉しいわ」。そう言いながら、ヒラリー・コールは満面の笑顔で歌い始めました。

子供の頃から歌が大好きで、やがてマンハッタン・スクール・オブ・ミュージックに入学。数々のミュージカルにも出演し、ヘミングウェイもよく宿泊したというニューヨーク「アルゴンキン・ホテル」内にあるクラブ「オーク・ルーム」での公演はソールド・アウトを記録しています。デビュー作『魅せられし心』は日本のAMAZON.COM年間ジャズ・チャートで3位にランクされました。実力と美貌を兼ね備えた歌姫として、人気はうなぎのぼりです。

この日の1曲目は「‘DEED I DO」でした。インストゥルメンタルではそれほどとりあげられることがありませんが、ペギー・リー、レイ・チャールズ、エラ・フィッツジェラルド、ダイアナ・クラールなど数多くの歌手に愛されているナンバーです。ヒラリーは原曲のメロディを自由に変えて歌い、すぐさまスキャットに突入します。続いて歌い始めたのは「ISN'T THIS A LOVELY DAY」という、これも歌い手に人気のある楽曲。冒頭のヴァース(前歌)部分をア・カペラでこなし、その後コーラス(主題)部分に移ります。ジョン・ハートの卓越したギターが、ヒラリーの歌声に彩りを添えていきます。

「私が大好きなものが3つあるの。FOOD、LOVE、そしてJAZZ」。こう前置きして始まったのは、これまた渋い「BETTER THAN ANYTHING」です。鬼才シンガー・ソングライター、ボブ・ドローの傑作ですね。3拍子に乗って、ヒラリーは軽やかに歌います。その後もドリ・カイミ作のボサノヴァ「LIKE A LOVER」、ラテン・リズムから4ビートになる「I ONLY HAVE EYES FOR YOU」、ビートルズ・ナンバー「AND I LOVE HER」を女性の視点からカヴァーした「AND I LOVE HIM」といった名曲の数々を、つぎつぎと楽しませてくれました。また、「DON'T EVER LEAVE ME / ONCE UPON A SUMMERTIME」のメドレーでは、ピアノの弾き語りも聴かせてくれました。

ジャズ・ヴォーカルの新歌姫、ヒラリー・コールのステージは本日も開催されます。
(原田 2012 6.26)


● 6.26tue.-6.27wed.
HILARY KOLE

☆ 参考:セットリストはこちら


ヒラリー・コール - HILARY KOLE


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , BOB MINTZER BIG BAND - - report :BOB MINT...

2012/06/21

ボブ・ミンツァー - BOB MINTZER
ボブ・ミンツァー - BOB MINTZER


公演初日リポート:
BOB MINTZER BIG BAND
with special guest KURT ELLING


バーデン・パウエル、パット・メセニー、ジョン・コルトレーンの曲が一同に会するライヴなど、いまだかつてあったでしょうか。あっと驚く名曲の数々を、最高にかっこいいアレンジとタイトなアンサンブルで聴かせてくれる凄腕集団、それがボブ・ミンツァー・ビッグ・バンドです。

イエロージャケッツのサックス奏者としても人気を集めるミンツァーですが、彼のもうひとつの活動の主軸には常にビッグ・バンドがあります。バディ・リッチやジャコ・パストリアスのビッグ・バンドにプレイや作編曲で貢献し、’83年頃に自身のビッグ・バンドを結成(確か最初はホーン・マン・バンドと名乗っていたはずです)。『カモフラージュ』、『インクレディブル・ジャーニー』あたりを、全フレーズを覚えこんでしまうぐらい聴き込んだというビッグ・バンド好きは世界中にいるはずです。『オマージュ・トゥ・カウント・ベイシー』では遂にグラミー賞を受賞し、“ミンツァー・ビッグ・バンドここにあり”を更に幅広いファン層へと印象づけました。

「ニューヨークとロサンゼルスから友人たちをたくさん連れてきたよ」と、MCでミンツァーは語りました。メンバーの大半は、ざっと見たところ彼と同世代でしょうか。あの激動の’70年代に、一緒に腕を磨いたであろう百選練磨のツワモノが揃っています。ドラムスはジャコ・ビッグ・バンドの同僚であり、スタン・ケントン、メイナード・ファーガソンのフルバンでも腕を振るった名手ピーター・アースキン。ピアノはイエロージャケッツの盟友、ラッセル・フェランテが担当します。サックス・セクションにはアルト・サックスのボブ・シェパードやテナー・サックスのボブ・マラックの顔も見えます。トランペットのボブ・ミリカンも含めて、“ボブ率”が高いのもミンツァー・バンドの特徴です。

プログラム中盤には、スペシャル・ゲストとしてヴォーカリストのカート・エリングが登場しました。アルバム『ライヴ・アット・MCG』でも共演していた両者ですが、いざ目前で味わうジョイントは格別です。カートは相変らずオシャレで、黒いシャツと紫色のポケットチーフがよく似合います。共演1曲目はパット・メセニーの「MINUANO」。これに歌詞をつけ、歌おうというのですから大胆不敵です。実に聴きやすく美しいメロディですが、いざ口ずさもうとなると半音のとり方が異様に難しいこのナンバーを、カートは易々と歌いこなします。しかも途中で音階を1オクターヴあげます。普通の男性ならキーが高すぎて声が出ず、ひっくり返ってしまうところでしょう。しかしカートはノリノリで、全身でリズムをとりながら歌いこなします。世界一流のプロの真骨頂を見せられたような気分です。彼はまた、ジョン・コルトレーン作「至上の愛」のパート2、「RESOLUTION」にも歌詞をつけて歌いました。

「ビッグ・バンドの公演ということは、ひょっとしてミンツァーのソロが少ないのかな?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、その心配は無用です。太い音でテナー・サックスをバリバリと、たっぷり聴かせてくれます。アンサンブル・ファン、アドリブ・ファンの両方を満足させてくれるのが、ボブ・ミンツァー・ビッグ・バンドなのです。
(原田 2012 6.20)


● 6.20wed.-6.23sat.
BOB MINTZER BIG BAND
with special guest KURT ELLING



ボブ・ミンツァー - BOB MINTZER


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