BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , VICENTE AMIGO - - report : VICENTE...

2012/03/22

ビセンテ・アミーゴ - VICENTE AMIGO
ビセンテ・アミーゴ - VICENTE AMIGO


公演初日リポート:
VICENTE AMIGO @すみだトリフォニーホール & ブルーノート東京



世界の一流アーティストを、コンサート・ホールとクラブの両方で聴く。これはなかなか体験できることではありません。通常、ミュージシャンがツアーを組む場合、ホールばかりか、もしくはクラブばかりで公演することが多いからです。先日のテイク6に続き、今度はヴィセンテ・アミーゴがホールとクラブ両方に登場しました。天井が高く、生の楽器の音が空気ととけあって響き渡るコンサート。ホール。楽器のアタック音、奏者の呼吸までがダイレクトに感じられるクラブ。フラメンコの伝統を重んじながら、常にコンテンポラリーなサウンドを取り入れ続けるヴィセンテの音楽は、そのどちらにもふさわしく、そのどちらで聴いても満足を与えてくれるものです。

ぼくがヴィセンテの存在を初めて知ったのは、ジャンルを超えてさまざまなギタリストを集めた書籍で、でした。彼を紹介するライターが、異様に熱のこもった文章を書いていたので、面白そうだなと思って『魂の窓』というアルバムを買ったのです。聴いてすぐに気に入りました。ものすごいテクニックの持ち主だということは、ただちにわかりましたが、それをうわまわるポップ・センス、歌心に惹きつけられました。その中にパット・メセニーに捧げた「ケリド・メセニー〜親愛なる友へ」という曲があったのも、ヴィセンテと自分の距離を近づけました。

すみだトリフォニーホールでのコンサートは、最初からダブル・アンコールの最終音まで“静かな熱狂”に包まれていました。右手の動きは神技と呼ぶにふさわしく、信じられないようなソフトな音から、エッジの立った鋭い音まで自由自在です。半数近くがソロ演奏でしたが、エレクトリック・ベース、パルマ(手拍子)、カホン(打楽器の一種)等を加えたバンド・サウンドがまた見事でした。ニュアンスに富んだポリリズムに触れていると、なぜか“スペインから見渡すアフリカ”というフレーズが浮かんできました。最後、千数百人の聴衆によるスタンディング・オベーション、拍手大喝采のシーンは感動的でした。

いっぽう「ブルーノート東京」でのライヴは、聴衆の数こそすみだトリフォニーホールには及びませんが、ステージの一挙一動を至近距離で見守る聴衆と、その親密感を楽しんでいるかのようなヴィセンテを始めとしたミュージシャンたちの情熱的なパフォーマンスが印象的でした。

聞くところによると、普段はクラブにて演奏をしないヴィセンテが、今回なぜブルーノート東京出演の決断に至ったか、それはパット・メセニーとチック・コリアに “ブルーノート東京は特別な場所だ。是非出演した方がよいのでは” という進言があったとのことです。それらアーティストのいちファンとして、とても嬉しいお話ですね!今後もこのような“縁”が実を結んだことによるミラクルを期待しつつ、いちアーティストの魅力をホールとクラブ両方の環境で味わえる公演の開催も、再び楽しみに待つとしましょう。
(原田 2012 3.16)


● 3.16fri.
VICENTE AMIGO @すみだトリフォニーホール


● 4.26thu.
JIN OKI with special guest MIYAVI @BLUE NOTE TOKYO





'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , BEN L'ONCLE SOUL - - report : BEN L'O...

2012/03/18

ベン・ロンクル・ソウル - BEN L'ONCLE SOUL
ベン・ロンクル・ソウル - BEN L'ONCLE SOUL


公演初日リポート:
BEN L'ONCLE SOUL
DJ JIN(3.17sat.), MURO(3.19mon.)



フランス生まれのソウル・マン、ベン・ロンクル・ソウルが待望の初来日を果たしました。フランス・モータウンに所属。国内盤はこれから登場するとのことですが、場内は超満員で補助席が出るほど。客席の反応も圧倒的なまでに良く、誰もが彼の海外盤をみっちり聴いて予習万端でライヴに備えてきたかのようでした。

皆、彼のステージを心から待ちわびていたのです(ベンと同じようなメガネ、蝶ネクタイ、帽子、サスペンダーをしているオーディエンスも見受けられました)。
ベン・ロンクル・ソウル(ソウルおじさんベン)というのは、もちろん芸名です。目の前で見る彼は“おじさん”というよりも青年です。母親が大のソウル・ミュージク・ファンだったので、幼い頃からオーティス・レディング、ジェームズ・ブラウン、ウィルソン・ピケット、サム&デイヴ等を聴いていました。初めて見たライヴはプリンスの公演だったそうです。

身も心もソウル・ミュージックに奪われてしまったベンですが、彼はレコードを集めたりライヴに足しげく通う、いち“音楽リスナー”にとどまることがありませんでした。情熱がこうじて、往年のソウル・ミュージックを意識したナンバーを自作自演するようになり、バンドを組んでステージに立ってしまったのです。そしてソウルの名門、モータウンと契約し、ソウルの伝道師として世界を飛び回って現在に至るのです。

彼のシャウト、ダンス、パフォーマンスにはいろんな先輩ソウル・マンへのリスペクトが感じられます。ジェームズ・ブラウンやオーティス・レディングの映像を繰り返し見て、ひょっとしたら鏡の前に立って彼らの動きをコピーしていたのかもしれませんし、「CRAZY」が、曲想・ダンスともどもアイク&ティナ・ターナー版「プラウド・メアリー」にインスパイアされていることは間違いのないところでしょう。一瞬も休むことなくステージを動きまわり(客席にも乱入し)、オーディエンスを煽り、ユーモラスなMCを繰り広げ、シャウトするベン。「全身全霊」という言葉にふさわしいライヴでした。

バック・メンバーでは左利きのドラマー、ロイック・ジェラルドの的確なビートが印象に残りました。またキーボードのガビン・レシエルは、ワーリッツァー・ピアノ、フェンダー・ローズ、ハモンドB3、ホーナー・クラヴィネット等の音色を再現し、その時代時代のソウル・ミュージックの匂いをふりまくことに大きく貢献していました。

ホーン・セクションではジュリアン・デュシェに、思いっきり驚かされました。なんとトランペットとバリトン・サックスを兼任するのです。トランペットとサックスを両方プレイする奏者はごく稀にいますが、あの大きくて重くて肺活量のいるバリサクをあれほどブリブリ吹きまくるとは(しかも床に寝そべってブロウしていました)。いろんな意味でこの公演は、ぼくにとって衝撃的でした。月曜日(19日)の公演もお見逃しなく!
(原田 2012 2.27)


● 3.17sat. & 3.19mon.
BEN L'ONCLE SOUL
DJ JIN(3.17sat.), MURO(3.19mon.)
☆ 参考:セットリストはこちら


ベン・ロンクル・ソウル - BEN L'ONCLE SOUL


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 - - report : BILLY C...

2012/03/15

ビリー・チャイルズ - BILLY CHILDS
ビリー・チャイルズ - BILLY CHILDS


公演初日リポート:
BILLY CHILDS QUARTET
featuring STEVE WILSON, SCOTT COLLEY & BRIAN BLADE



アコースティック・ピアノもエレクトリック・キーボードも自由自在。作曲やアレンジにも才能を発揮し、ヴォーカリストのサポートも得意。ジャズ、フュージョン、ポップス等を幅広くこなし、クラシック音楽の素養もたっぷり。
それが今夜の主人公、ビリー・チャイルズです。これまで共演してきたミュージシャンにはクリス・ボッティ、ダイアン・リーヴス、フレディ・ハバードなど錚々たる名前が並びます。何度も来日し、グラミー賞も3度受賞していますが、リーダーとしての日本公演は今回が初めてとのことです。

他のメンバーにも凄腕が並びます。サックスのスティーヴ・ウィルソンは80年代後半、アウト・オブ・ザ・ブルーというバンドにケニー・ギャレットの後任として抜擢され、一躍注目を浴びました。その後もチック・コリアのオリジン、ミンガス・ビッグ・バンド等で活躍したり、クリスチャン・マクブライドやマルグリュー・ミラーと演奏しています。

ベースのスコット・コリーはジム・ホールのバンドで頭角を現し、近年はCAM JAZZというレーベルから面白いリーダー・アルバムを次々と発表しています。ドラムスのブライアン・ブレイドについて、もう説明は不要でしょう。チャイルズのバンドでは、ブライアン自身のプロジェクト(アメリカーナ的なフェロウシップ、シンガー・ソングライターとしての一面にスポットを当てたママ・ローザ)ではなかなか聴くことのできない、4ビートのジャズ・ドラミングをたっぷりと味わうことができます。

チャイルズはすべてアコースティック・ピアノで演奏しました。
ぼくが見た初日のセカンド・セットは、ほとんどがチャイルズの自作で占められていました。「けっこう難しい曲なんだよ」と本人もMCで語っていましたが、たしかにどれも、超絶的なハイ・テクニックを要するナンバーです。チャイルズの頭の中には、こんなに複雑なリズムやメロディが渦巻いているのだろうか、と、ぼくは演奏を聴きながら驚きました。しかし各プレイヤーは余裕綽々でそれをこなし、ブレイドは掛け声をあげながらドラムスを叩きます。気持ちいいではないですか。

チャイルズはまた、スタンダード・ナンバーの「IT NEVER ENTERED MY MIND」をトリオで、アンコールでは「MY FUNNY VALANTINE」をソロで聴かせてくれましたが、これも凝りに凝ったものでした。弾いていくうちに楽想がどんどん飛躍していくのでしょう、まるで壮大なピアノ・ソナタを思わせるプレイになっていくのです。

公演は16日まで行なわれます。チャイルズの演奏は、ジャズ・ファンだけではなく、クラシック・ファンにも楽しんでいただけるのではないでしょうか。
(原田 2012 3.14)


● 3.14wed.-3.16fri.
BILLY CHILDS QUARTET
featuring STEVE WILSON, SCOTT COLLEY & BRIAN BLADE

☆ 参考:セットリストはこちら


ビリー・チャイルズ - BILLY CHILDS


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , STACEY KENT - - report : STACEY ...

2012/03/13

ステイシー・ケント - STACEY KENT
ステイシー・ケント - STACEY KENT


公演初日リポート:
STACEY KENT



アメリカに生まれ、英国を拠点に活躍。フランス語に堪能で、ブラジリアン・ミュージックにも造詣が深い。才色兼備の“ジャズ・ソングバード”、ステイシー・ケントが遂にブルーノート東京に登場しました。

冒頭はスタンダード・ナンバーの「IT MIGHT AS WELL BE SPRING」。冒頭の1コーラスを、ステイシーはピアノだけを伴奏に、スロー・テンポでじっくりと歌います。ここだけで観客は彼女の世界に引き込まれたことでしょう。ぼくもそうです。このままスローで続いていくのかなと思ったら、やがてボサ・ノヴァのリズムになり、ジム・トムリンソンがテナー・サックスでソロを吹き始めました。暖かな音色、流れるようなフレーズ作りは、故スタン・ゲッツが蘇ったかのようです。「まるで春のよう」というには、まだ肌寒さの残る毎日ですが、この曲ひとつでステイシーたちはクラブに春を運んでくれました。

いっぽう、やはりスタンダード・ナンバーである「THEY CAN'T TAKE THAT AWAY FROM ME」では全編をスロー・テンポで聴かせました。ぼくがステイシーのライヴを見るのはこれが初めてなのですが、よく伸びる歌声、巧みなマイクの使い方、伴奏との呼吸の合わせ方のうまさ等に間近に接すると、「なるほど、これは人気が出て当然だ」と思います。

その後、ステイシーと親交の深いベストセラー作家、カズオ・イシグロが作詞した「THE ICE HOTEL」、「POSTCARD LOVERS」を続けて披露。ここでもトムリンソンがまろやかなプレイを聴かせます。彼とステイシーは公私共にパートナーシップを築いていますが、ステージ上でも本当に仲むつまじいです。「おしどり夫婦」という、最近はあまり使われない言葉を思い出しました。

この後はしばらくボサ・ノヴァ・ナンバーが続きました。ステイシーは14歳の頃にスタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトの共演盤『ゲッツ/ジルベルト』を聴いて以来、すっかりボサ・ノヴァに魅せられてしまったとのことです。アントニオ・カルロス・ジョビン作「DREAMER」(VIVO SONHANDO)ではギターの弾き語りも聴かせてくれました。マルコス・ヴァーリの「SO NICE」(SAMBA DE VERAO)も歌いましたが、先日ステイシーはマルコスと一緒にこの曲を歌って大感激したそうです(ステイシーは英語、マルコスはポルトガル語で)。

公演は本日まで行なわれます。人気と評価がうなぎのぼりのシンガー、ステイシーのライヴをぜひ、お楽しみください。
(原田 2012 3.12)


● 3.12mon.-3.13tue.
STACEY KENT
☆ 参考:セットリストはこちら


ステイシー・ケント - STACEY KENT


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , LOU DONALDSON - - report : LOU DON...

2012/03/08

ルー・ドナルドソン - LOU DONALDSON
ルー・ドナルドソン - LOU DONALDSON


公演初日リポート:
LOU DONALDSON


2009年、「東京JAZZ」に出演。あの大きな東京国際フォーラム・ホールAを熱狂の渦に巻き込んだルー・ドナルドソンが、今度は「ブルーノート東京」に来てくれました。生音の聴こえるクラブで、円熟の名人芸を味わう気分は格別です。

他のメンバーは敦賀明子(オルガン)、ランディ・ジョンストン(ギター)、田井中福司(ドラムス)という、前回と同じ顔ぶれ。今のルー・ドナルドソンを満喫するにはパーフェクトなセッティングが揃っています。

ドナルドソンのプレイは、とにかく歌心にあふれています。そして明快です。「ああ彼は、今この曲の、この箇所でアドリブしているな」ということが、きちんとわかるのです。これは2012年に演奏されるジャズでは、なかなかないことです。そして豊かなユーモアがあります。トンチが利いているといえばいいのでしょうか、演奏している曲の中にどんどん他の曲の旋律を引用して、とにかくメロディアスにアルト・サックスを奏でていくのです。ぼくが見た初日のセカンド・セットでは、「L-O-V-E」に「コットンテイル」、「BODY AND SOUL」に「プリズナー・オブ・ラヴ」、「WHISKEY DRINKING WOMAN」に「ダーダネラ」、「ラヴァー・マン」、「チャタヌーガ・チュー・チュー」などのメロディを挿入して楽しませてくれました。

この手法をクォーテーションと呼びますが、かつてはデクスター・ゴードンやジョニー・グリフィン等、これを得意とする奏者が山ほどいました。しかし現役のミュージシャンで、この演奏スタイルをこなせるのはもう、ドナルドソンぐらいかもしれません。

「BYE BYE BLACKBIRD」では、ラスト・テーマの後、逆循(ぎゃくじゅん)に則ったプレイも聴かせてくれました。かつては故ソニー・スティットが逆循の名人として知られていましたが、50年代のレコードならともかく、この演奏スタイルをライヴで聴くのは非常に貴重な機会だといわざるを得ないでしょう。また「CHEROKEE」では、リズム・セクションを全員休ませて、1コーラスにわたる無伴奏のアドリブも聴かせてくれました。「CHEROKEE」は、コード進行の目まぐるしい曲として知られ、かつてニューヨークのミュージシャンの間では「チェロキーをすべてのキーで演奏できてこそ本物のジャズメン」といわれたともききます。クリフォード・ブラウンもチャーリー・パーカーもバド・パウエルも「CHEROKEE」に取り組んでいました。その時代に叩き上げたジャズ・スピリットが、今もドナルドソンの体内で燃え続けているのです。

ルー・ドナルドソンは、昨年11月に85歳を迎えました。彼の大先輩にあたるアルト・サックス奏者、ベニー・カーターは90歳を過ぎても現役活動を続けたというではないですか。御大の、ますますの活躍と健康を願ってやみません。
(原田 2012 3.7)


● 3.7wed.-3.10sat.
LOU DONALDSON
☆ 参考:セットリストはこちら


ルー・ドナルドソン - LOU DONALDSON


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