BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , HELEN MERRILL - - report : HELEN M...

2012/03/02

ヘレン・メリル - HELEN MERRILL
ヘレン・メリル - HELEN MERRILL


公演リポート:
HELEN MERRILL



日本で最も愛されているジャズ・シンガーのひとりであり、本人も大の親日家であるヘレン・メリル。彼女が今年も元気な姿を見せてくれています。

共演はヘレンお気に入りのテッド・ローゼンタール(ピアノ)に、スティーヴ・ラスピナ(ベース)、テリー・クラーク(ドラムス)。スティーヴとテリーは名ギタリスト、ジム・ホールのバンドでも活動しています。つまり、今回の公演には伴奏の達人が揃っているわけです。

オープニングは「OUT OF THIS WORLD」。ヘレン自身も吹き込んだことのあるスタンダード・ナンバーですが、今回はインストゥルメンタルによるパフォーマンスです。ちょっとラテン調のアレンジを加えながら、3人が軽快なプレイを繰り広げます。

続く「ALL OF ME」から、ヘレンが登場します。その姿は相変らずエレガントです。ところでヘレンの名盤といえば、誰もが『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』を思い出すことでしょう。ヘレン本人も、あのレコードは「一箇所を除いて」大好きだといいます。

その「気に入らない一箇所」とは何かというと、ジャケット写真なのだそうです。「あのジャケットを見て、がっくりしたの。私はあんなに苦しそうな顔で歌っているのかって」。しかし実物のヘレンは、あのジャケット写真が信じられないほど柔和な表情で、本当に楽しそうに歌います。そしてマイクの使い方(口との距離感)が本当に巧みです。「私にとってマイクは楽器のひとつ。これがなくては歌手ヘレン・メリルは成立しない」と語る彼女のパフォーマンスは、幅広い音楽リスナーを満足させると同時に、ジャズ・ヴォーカル志望者へのまたとないテキストとなることでしょう。

エラ・フィッツジェラルドもアニタ・オデイもカーメン・マクレイもヘレンの年齢まで現役生活を続けることはできませんでした。しかしヘレンは今も、あのワン&オンリーの歌声をライヴで届けてくれます。これは本当にかけがえのないことです。
(原田 2012 3.2)


● 3.1thu.-3.4sun.
HELEN MERRILL
☆ 参考:セットリストはこちら


ヘレン・メリル - HELEN MERRILL


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , ROBERT RANDOLPH - - report : ROBERT ...

2012/02/28

ロバート・ランドルフ - ROBERT RANDOLPH
ロバート・ランドルフ - ROBERT RANDOLPH


公演初日リポート:
ROBERT RANDOLPH AND THE FAMILY BAND



“ペダル・スティール・ギターの魔術師”、ロバート・ランドルフが遂にブルーノート東京のステージに登場しました。

ペダル・スティール・ギターは、どちらかというとハワイアン、カントリー等で多用されている楽器です。ブルース畑では、かつてホップ・ウィルソンという偉才がこの楽器に取り組んでいましたが、ロバートはこれでロック、ブルース、ファンクを融合した“ロバート・ランドルフ・ミュージック”をプレイします。彼の愛用しているモデルは、きくところによると、通常(6〜12弦)よりも1弦多い13弦使用だとか。その両手の動きは、まさしく神技です。とんでもなくかっこいいフレーズの数々が、次から次へと飛び出しては興奮させてくれます。あの指さばきを間近で見ることができるのも、クラブ公演ならではの醍醐味でしょう。

ロバートは左手中指にスライド・バーをはめて演奏します。そしてハーモニクス(倍音)を強調するときは、右手の側面で軽く弦を叩きます(空手チョップをするように)。非常に乗りの大きい、グルーヴ感あふれる曲に取り組んでいるときでも、細かな指の動きがやむことはありません。あるときはタイプライターを打つように、またあるときは毛糸の機械編みをするように、彼の指が弦の上を踊ります。ここまでペダル・スティールを自由自在に扱うミュージシャンは、どう考えてもロバートのほかにはいないでしょう。

ペダル・スティールは椅子に座って弾く楽器です。したがって視覚的にはどうしても地味に見えてしまう・・・と思いきや、そこはさすがロバート。インストゥルメンタルの曲でもしきりに掛け声をあげてバンド・メンバーや観客を煽り、楽器をゆらしながら弾いたり、クラブのすみずみにまで視線を配って、見るものを釘付けにします。そして人気曲「THE MARCH」では楽器を離れて立ち上がり、ステップを踏みながら歌います。そして女性オーディエンスをバンドスタンドに招き、楽器の前に戻ったロバートは、彼女たちのダンスをバックに目の覚めるような即興演奏を聴かせてくれました。

ロバートはアンコールでも、ぼくらファンを驚かせてくれました。ワン・コーラス弾き語るとベーシストのレイフィールド・ホロマンのところにかけより、彼のベースを手にとって演奏し始めたのです。そしてホロマンはペダル・スティールの椅子に座り、アドリブで演奏を始めました。続いてロバートはドラムスのマーカス・ランドルフに、ペダル・スティールを弾くように指示。今度はホロマンがドラムスを担当したのですが、皆、むちゃくちゃ巧くてグルーヴしているのです。「自分のレギュラーの楽器じゃないのに、どうしてこんなにかっこいい音が出せるんだ」と、ぼくは驚くばかりでした。3人が楽器を替えている間、曲のリズムを崩さぬよう、ひたすらカッティングしつづけていたギタリスト、べレット・ハースの職人ぶりも見事です。

ロバート・ランドルフ&ザ・ファミリー・バンド。本当にすごい4人組だと改めて思いました。公演は29日まで、ぜひどうぞ!
(原田 2012 2.27)


● 2.27mon.-2.29wed.
ROBERT RANDOLPH AND THE FAMILY BAND
☆ 参考:セットリストはこちら


ロバート・ランドルフ - ROBERT RANDOLPH


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , FIVE CORNERS QUINTET - - report : THE FIV...

2012/02/24

ファイヴ・コーナーズ・クインテット - THE FIVE CORNERS QUINTET
ファイヴ・コーナーズ・クインテット - THE FIVE CORNERS QUINTET


公演初日リポート:
THE FIVE CORNERS QUINTET
DJ : TATSUO SUNAGA



まるでファッション雑誌から抜け出てきたようなルックス、50〜60年代のモダン・ジャズへの敬愛を感じさせるサウンド。人気ユニット、ファイヴ・コーナーズ・クインテットが2年ぶりに再結成され、ブルーノート東京に登場しています。

ライヴ盤『ジャズヒート ボンゴビート!』のリスナーならばおわかりかと思いますが、彼らのステージは、とにかく熱狂的です。1曲あたりの演奏時間は軽く10〜15分に及び、各人が完全燃焼するまでアドリブを続けます。整然としたスタジオ録音とは一味違う、ワイルドでパワフルな一面がライヴでは味わえるのです。全員が大変なテクニシャンであるということもあるのでしょう、即興パートは一瞬も飽きさせず、アドリブの途中でテンポを替えたり、手のあいている奏者がリフ(短いフレーズ)を入れたり、パーカッションを手に彩りを添えたりして、常にサウンドに変化を付け加えているのです。確かに長時間のプレイなのに、それが一瞬に感じられます。

MCはドラマーのテッポ・マキネンが担当しました。特にリーダーをおかないファイヴ・コーナーズ・クインテットですが、バンドの機動力となっているのは間違いなく彼でしょう。今回も得意のリム・ショット(ドラムスの縁を叩くこと)をたっぷり聴かせてくれました。テッポのドラムスは、とにかくダイナミクス(音の強弱)に富んでいます。「本当に叩いているのだろうか?」と思えるほど静かな音から、なだれのようなビッグ・サウンドまで。いかに彼が多くの先輩ドラマーを研究し、トレーニングを積み重ねてきたかが、よくわかります。

そしてこのバンドの管楽器奏者は、ふたりともマルチフォニックス(重音奏法)の達人です。管楽器は基本的に単音楽器なので1つの音しか出ないのが当たり前なのですが、そのときに同時に出る倍音を唇や息遣いでコントロールすることによって、同時にいくつもの音が鳴っているような効果を出すことができます。テナー・サックスのティモ・ラッシーも、トランペットのユッカ・エスコラも、この技法が抜群なのです。とくにエスコラのマルチフォニックス奏法には心底驚かされました(ここまでこれを駆使できるトランペット奏者は、ほかにウィントン・マルサリスぐらいでしょう)。華奢で細身のエスコラですが、唇のまわりはすごい筋肉です。

ゆったりした3拍子で演奏される「THREE CORNERS」がやがてフリー・ジャズ的な展開になり、ティモが無伴奏で吹きまくっていると思ったら、そこにタンバリンのリズムが入ってきて、だんだんとニューオリンズ・ファンク風の「SKINNY DIPPING」へ移り変わってゆく・・・。このあたりの構成のうまさにも感銘を受けました。演奏がかっこよく、曲がキャッチーで、ルックスがいい。ファイヴ・コーナーズ・クインテットはやはり、大変なバンドです。そして、ライヴ前の須永辰緒氏の1枚5万円とか10万円とか、あるいはもっとするような滅多に聞けないプレミア・レコードの数々による究極の選曲が、このライヴ空間を格別なものとしてくれてます。是非、早めに来店して身を委ねてみてください!
(原田 2012 2.23)


● 2.23thu.-2.25sat.
THE FIVE CORNERS QUINTET
DJ : TATSUO SUNAGA
☆ 参考:セットリストはこちら


ファイヴ・コーナーズ・クインテット - THE FIVE CORNERS QUINTET


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , THOMAS DOLBY - - report : THOMAS ...

2012/02/18

トーマス・ドルビー - THOMAS DOLBY
トーマス・ドルビー - THOMAS DOLBY


公演初日リポート:THOMAS DOLBY



「彼女はサイエンス(SHE BLINDED WITH ME SCIENCE)」、「HYPERACTIVE!」、坂本龍一と組んだ「FIELD WORK」等、数々の金字塔を残すトーマス・ドルビーが本日まで「ブルーノート東京」に出演しています。鬼才のライヴ・パフォーマンスに接する、本当に貴重なチャンスです。 

長い間ぼくは、トーマスのことを「スタジオ・ワークに徹底的にこだわる、厳格で孤高のミュージシャン」だと思っていました。スタジオにこもり、にこりともせず、膨大な時間をかけて、自分が納得いくまで音を練り上げ、その間、誰もまわりにひとを寄せ付けないというイメージを勝手に持っていました。

しかしどうでしょう、ステージ上のトーマスは終始笑顔でノリノリです。何度か来日していますが、ライヴをするのは初めてとのこと。ファンの前でセッションできて幸せだ、という気持ちが全身から溢れているように感じられます。MCはユーモアとウィットに富み、マイクから離れているときでも「サンキュー」というフレーズを何度も言っていました。トーマスの音楽が魅力的であることは十分に承知していたつもりでしたが、こんなにハッピーで人なつっこい人柄だったとは。ますます彼の存在が身近に思えてきました。デヴィッド・ボウイ、モリッシー、プリファブ・スプラウトらとの絡みでも知られるギターのケヴィン・アームストロング(「彼女はサイエンス」のオリジナル・ヴァージョンにも参加)も、ヴァン・モリソン・バンドにいたドラムスのマット・ヘクターも、トーマスと一緒にプレイするのが心底、楽しそうです。

プログラムはニュー・アルバム『A MAP OF THE FLOATING CITY』からの曲と、往年のビッグ・ヒットをミックスしたものでした。エレクトリック・ドラムスとシンセサイザーが’80年代の空気を運ぶ後者が新鮮に響いたのも嬉しかったですが、個人的には新作の曲がタップリ聴けたことこそ収穫でした。カントリー・ロック風の「ROAD TO RENO」、伝説のジャズ・シンガーであるビリー・ホリデイが夢に出てきたときのことを歌った「LOVE IS A LOADED PISTOL」における暖かなサウンド作りに、ぼくはすっかり魅了されてしまいました。 
トーマスは決して「’80年代のスター」の域にとどまってはいません。今なお第一線で、クリエイティヴな活動を続けているアーティストなのです。彼のパフォーマンスはきっと、爽快な気分を皆さんに与えてくれるはずです。

「この前に出したアルバムは20年ぶりの新作だった。だけど次は、そんなに待たせないからね」とMCで語っていたトーマス。この様子ですと、さらなるニュー・アルバムの発表や、次の来日公演も意外と近いのでは、と思います。
(原田 2012 2.17)


● 2.17fri.-2.18sat.
THOMAS DOLBY


トーマス・ドルビー - THOMAS DOLBY


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , TAKE6 - - report : "TAKE 6...

2012/02/16

TAKE 6
TAKE 6

photo:K. Miura


公演初日リポート:"TAKE 6 St. Valentine's day Special"
ジャズ&クラシック・ナイト with 新日本フィル
@すみだトリフォニーホール



去る2月14日、「TAKE 6 ジャパン・ツアー2012 "TAKE 6 St. Valentine's day Special" ジャズ&クラシック・ナイト with 新日本フィル」が「すみだトリフォニーホール」で行なわれました。

この公演は当初、昨年5月に開催される予定でしたが、震災の影響で延期されていました。MCの中でメンバーが「2年越しの、待ちに待ったショウだよ」といっていたのは、そのためです。しかし延期されたことにより、ぼくたちファンはバレンタイン・デーというロマンティックな日の夜に、テイク6とオーケストラが織り成す甘美な世界を味わえることになったのです。

第1部はテイク6のア・カペラ・ステージです。彼らが日本のホールに登場するのは約15年ぶりのことだといいます。先日の当ブログでも書かせていただきましたが、現在の6人は誰もがシンガー、パフォーマー、エンターテイナーとして、最高に脂が乗っています。満員のホールに響き渡る歌声の力強さは文字通り、鳥肌ものです。レパートリーは先日の「ブルーノート東京」公演でとりあげたナンバーが中心でしたが、クラブ出演時よりも、よりアクションを大きめにしていたのが印象的でした。

第二部はまさしく“バレンタイン・スペシャル”。新日本フィルハーモニー交響楽団(小松長生・指揮)との共演ステージです。曲によってはキーボード、ベース、ドラムス等も加わりました。ヴォーカル・オーケストラというべきテイク6と、実際のストリング・オーケストラとの共演を体験できる機会は、世界中でも希少です。演目にもアレンジにも趣向がこらされ、「HE NEVER SLEEPS」といった初期の曲から、バス担当のアルヴィン・チーアが書いたという「LULLABY」(途中、「ブラームスの子守唄」が引用されました)、急逝したホイットニー・ヒューストンに捧げた「OVER THE HILL IS HOME」などをしっとりと聴かせてくれました。ホールを埋め尽くしたファンは、“よい音楽にはジャンルの壁などない”ことを、改めて痛感したのではないでしょうか。

3月には新作『ONE』が発売されるというテイク6。「またすぐ日本に戻ってくるよ!」という彼らの言葉を胸に、再会の日を楽しみにしたいものです。

すみだトリフォニーホールでは、フラメンコ界のスーパースター・ギタリスト、ヴィセンテ・アミーゴの公演も予定あり。クラブとホールという2つの異なる環境でライヴの醍醐味を味わえる喜びが、またやってきます!
(原田 2012 2.14)


● 2.14tue.
"TAKE 6 St. Valentine's day Special"
ジャズ&クラシック・ナイト with 新日本フィル
@すみだトリフォニーホール


● 3.16fri. Vicente Amigo @すみだトリフォニーホール


TAKE 6


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