BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 秋吉敏子 - - report : 秋吉敏...

2011/11/02

秋吉敏子 - TOSHIKO AKIYOSHI
秋吉敏子 - TOSHIKO AKIYOSHI


公演初日リポート:秋吉敏子クインテット
featuring ルー・タバキン with Monday満ちる



2003年にオーケストラの解散公演を「ブルーノート東京」で開催した秋吉敏子が、8年ぶりにクラブに戻ってきました。

今回の編成はクインテット(5人編成)。長年のパートナーであるルー・タバキン(テナー・サックス、フルート)以外は、マイク(マイケル)・ロドリゲス(トランペット)、ポール・ギル(ベース)、アーロン・キンメル(ドラムス)と、すべて注目の若手です。後半ではここに、愛娘のMonday満ちるがヴォーカルで加わりました。キンメルは、当初来日予定だったエディ・マーシャルが急逝してしまったためのエキストラ的参加ですが、ビリー・ヒギンズを思わせる軽妙なシンバル・ワークが印象に残りました。

オープニングは「LONG YELLOW ROAD」。秋吉敏子を代表する、名刺がわりといえるナンバーです(彼女はMCで、“Signature Number”と言っていました)。古くは1961年の凱旋来日時にピアノ・トリオによる吹き込みがあり、その後もオーケストラによるレコーディングを残しています。しかしクインテットでこの曲を聴くのも新鮮です。タバキンのテナー・サックスに、伸びやかな音でハーモニーをつけるロドリゲスを聴いて、「今夜のライヴは面白いものになるぞ」と、あらためて強く思いました。

オーケストラを率いるときの秋吉敏子は、実はそれほどピアノを弾いていません。むしろピアノの椅子から離れて立ち、バンド・メンバーを指揮している姿が目立ちます。しかしコンボ(小編成のバンド)では、ソロにバッキングに、ピアノをたっぷりと聴かせてくれます。ベース、ドラムスとのトリオで演奏された「I KNOW WHO LOVES YOU」では、彼女が敬愛してやまないバド・パウエル流のプレイを楽しませてくれました。今のジャズ界はピアニストが花ざかりですが、ここまでガチッとビ・バップを演奏する(演奏できる)存在は多くありません。「ああ、やっぱりビ・バップはいいなあ」と、ぼくは秋吉敏子のバップ・フレーズを聴いて溜飲を下げました。

いっぽうタバキンは、ソニー・ロリンズの愛奏曲としても知られる「AUTUMN NOCTURNE」でテナー・サックスの、ヴィクター・ヤング作「DELILAH」でフルートの妙技を満喫させてくれました。オーケストラの頃のレパートリーはほぼすべてが秋吉敏子のオリジナル曲だったので、タバキンの演奏するスタンダードを生で聴くのは新鮮です。Monday満ちるは、計4曲を披露。出産の経験を基にしたという「EARLY DOWN」は、まるで70年代のディー・ディー・ブリッジウォーターやマッコイ・タイナーを思わせるモーダルなナンバーで、演目にいっそう豊かなバラエティを加えていました。

そしてエンディングは、近年の秋吉敏子のライヴに欠かせない「HOPE」。“長く黄色い道”に始まり、“希望”で締めくくられる、まさしくオール・アバウト秋吉敏子というべきプログラムでした。
(原田 2011 11.1)



● 11.1tue.-11.4fri.
秋吉敏子クインテット
featuring ルー・タバキン with Monday満ちる

★11.3thu.(1stショウ&2ndショウ)は20歳未満の方にもご入場いただける特別公演
一般¥8,400(税込)/20歳未満¥4,200(税込)



秋吉敏子 - TOSHIKO AKIYOSHI


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , CHICO & THE GYPSIES , CHICO presents "THE GYPSY PROJECT" - - report : CHICO p...

2011/10/26

チコ - CHICO
チコ - CHICO


公演初日リポート:CHICO presents "THE GYPSY PROJECT"
featuring MARIO REYES & GYPSIES



かつてジプシー・キングスの黄金時代を築き、現在はチコ&ザ・ジプシーズを率いるワールド・ミュージックの重鎮、チコ・ブースキー。彼が新ユニット“チコ&ザ・ジプシー・プロジェクト”を率いて来日、大盛り上がりのステージを繰り広げています。

チコ&ザ・ジプシーズでは、ベーシストがひとりいる以外、全員がギターを弾いていました。しかしチコ&ザ・ジプシー・プロジェクトはパーカッション、キーボード、アコーディオン、ヴァイオリン等もフィーチャーした多彩な楽器構成です。インストゥルメンタル・ナンバーの割合も増え、即興を重視したパートも数多くありました。チコを中心にミュージシャンが一丸となり、鉄壁のまとまりで魅了するのがチコ&ザ・ジプシーズだとすれば、今回のザ・ジプシー・プロジェクトは各演奏家の個人技が堪能できるオールスター・チームといっていいでしょう。

メンバーが黒のコスチュームで統一するなか、チコは白いシャツを着て登場します。決して派手なプレイをすることはありませんが、常にステージ全体に気を配り、視線を注ぎます。今回、特にスポットライトが当てられたのはパッチャイ、マリオ・レイエス、ジョセフ・ゴーティエの3人。いずれもこの世界のビッグ・ネームといっていいでしょう。

パッチャイはチコの横で渾身のギターとヴォーカルを披露しました。細身で小柄な彼ですが、その歌声は野太くワイルドです。いっぽう、ギターが小さく見えるほどの巨体を誇るマリオ・レイエスは繊細な歌声の持ち主で、とくにスロー・ナンバーに魅力を発揮していました。ギター・プレイは超絶技巧そのもの。右利き用の楽器を180度反対に持って(弦は逆に張り替えて)、すさまじい指弾きソロを聴かせてくれました。ジョセフもマリオ同様、左利きですが、彼は左利き用のギターを使用。ステージ中央に大柄なレフティがふたりいるユニットは、チコ&ザ・ジプシー・プロジェクト以外に存在しないのではないでしょうか。

「悲しき天使」、「THOSE WERE THE DAYS」等の別名でも知られる「LE TEMPS DES FLEURS」ではピー・ウィーのヴァイオリンがむせび泣き、チック・コリア作「SPAIN」ではキーボード奏者ホアンのアドリブが会場を沸かせました。ステージ後半ではもちろん「BAMBOLEO」、「DJOBI DJOBA」、「VOLARE」といった定番を披露。前回のジプシーズ公演では、これらの曲はメドレーで演奏されましたが、今回はすべてフル・コーラスです。

パッチャイ、マリオ、ジョセフのリード・ヴォーカルで、黄金のヒット曲を聴く快感。ジプシーズのファンはもちろん、まだチコを生で見たことがないという方も、大喜びすること間違いなしのライヴです。
(原田 2011 10.25)



●10.25tue.-10.26wed.,10.29sat.-10.30sun.
CHICO presents "THE GYPSY PROJECT"
featuring MARIO REYES & GYPSIES


●10.27thu. は恵比寿act squareにて公演


チコ - CHICO


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , JOHNNY A. - - report : JOHNNY ...

2011/10/21

ジョニー・A. - JOHNNY A.
ジョニー・A. - JOHNNY A.


公演初日リポート:JOHNNY A.



骨太のブルース・ロックが、昨日からブルーノート東京の店内に鳴り響いています。ピーター・ウルフ(元J.ガイルズ・バンド)のグループを経て独立、いまやソロ・アーティストとして目覚しい躍進を続けるジョニー・Aが出演しているのです。

ジョニーは「まるでギターを弾くために生まれてきた男」と形容されるほどの凄腕です。しかしそのテクニックは殆ど独学によって培われたものだとか。影響を受けたアーティストにはジミ・ヘンドリックス、ビートルズ、チェット・アトキンス、ジェフ・ベック、B.B.キング、J.J.ケイル等の名が並びます。MCで「ロックもブルースもジャズもカントリーも皆、大好きだよ」と語っていたジョニーですが、ブルースに寄せる思い入れは特に強いようです。

オープニングはジミ・ヘンドリックスの名演で有名なブルース「RED HOUSE」。スライド・バーを用いたイントロが飛び出すだけで、どこかアメリカ南部のジューク・ジョイント(安酒場)でライヴを聴いているような気持ちになってきます。こういう音を聴きながら呑むウィスキーは、いつもよりさらに旨いことでしょう。ジョニーは1968年にジミのコンサートに接して、大きなショックを受けたそうです。しかし彼のプレイは決してジミのコピーではありません。そこにぼくは、ジョニーの音楽家としての良心を感じます。

セカンド・アルバムのタイトル曲「GET INSIDE」、近作『ONE NOVEMBER NIGHT』からの「THE NIGHT BEFORE」(ビートルズのカヴァー)等、十八番が次々とプレイされていきます。B.B.キングの「ROCK ME BABY」も取り上げられましたが、前置きで「B.B.は大好きだけど、彼とは違う、俺自身のスタイルでやるよ」と言ったとおり、ジョニーの個性に彩られたヴァージョンになっていました。それにしても彼のギターはニュアンスに富んでいます。これまで4度来日し、フジ・ロック・フェスティバルに出演したこともあるジョニーですが、指使いがたっぷり拝めるのはクラブ公演ならではの嬉しさです。

ジョニーは椅子に座って黙々とギターを弾きます。派手なアクションは一切ありません。しかし指先は常に動き回り、目をつぶっていると何人ものギタリストが同時に弾いているかのようです。オーディエンスの反応もツボを得たもので、当日のブルーノート東京にはギターを心から愛するファンだけが集まっていたような気がします。彼のプレイは、ロック・バンドでギターを弾いているアマチュアの方にはヨダレの出そうなフレーズの宝庫でしょうし、ジョニー・ウィンターやスティーヴィー・レイ・ヴォーンのファンにも強く響くことでしょう。

ジョニー・A、要注目です。まだ彼の音を聴いたことのないひとも、名前を知ったばかりのひとも、ぜひこのライヴを!
(原田 2011 10.20)


●10.20thu.-10.22sat.
JOHNNY A.


ジョニー・A. - JOHNNY A.


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , MARCOS VALLE - - report : MARCS V...

2011/10/15

マルコス・ヴァーリ - MARCOS VALLE<br />
マルコス・ヴァーリ - MARCOS VALLE<br />


公演初日リポート:MARCOS VALLE @ COTTON CLUB



天性のメロディ・メイカーにして、ブラジルを代表するグルーヴ・マスター。マルコス・ヴァーリが、今年もパワフルなステージを繰り広げています。

この来日が決定したのは、実は9月に入ってからのことです。告知期間は決して十分ではなかったと思われますが、「コットンクラブ」は超満員。客層は幅広く、男女比はほぼ半々でしょうか。マルコスの音楽がいかに多くの人に支持されているか、改めてよくわかります。昨年は約6年ぶりのニュー・アルバム『Esphera』をリリースし(追って、少し内容の違う『Estatica』も発売されました)、夏には往年の名盤+未発表曲で構成された11枚組CD『Tudo - Discografia De 1963 A 1974』も日本に入荷しました。そんなところに来日公演が決定したのですから、マルコス・ファンにとって今年下半期は最高に嬉しいシーズンとして記憶されることでしょう。

ステージに登場するや否や、「日本のオーディエンスはいつもファンタスティックだ。日本での演奏は、私に大きな喜びを与えてくれる」と客席に語りかけたマルコス。前半は「VAMOS SAMBAR」、「ARRANCA TÔCO」等、主に新作からのナンバーが演奏されました。いつも思うのですが、よくもまあ、こんなみずみずしいメロディと躍動的なリズムを持った曲を半世紀近くも書き続けることができるものです。マルコスの場合、音楽だけではなくMCも、曲に入るときのカウント(ポルトガル語で行なわれます)もリズミカルなのです。御存知の方も多いと思いますが、彼は大のサッカー・ファンです。ゲームに興じたり観戦していたりするときに、ふと曲のモチーフが浮かんでくることもあるのでしょうね。

‘60年代に、当時の夫人アナ・マリアと組んでいた頃から、マルコスのサウンドには女性シンガーの彩りが不可欠でした。ここしばらくは現在の夫人、パトリシアがこのパートを担当しています。彼女の歌い方は非常に淡々としたものですが、マルコスの声と合わさると魅力が一気に増し、豊穣なアンサンブルが生まれます。2009年の公演以来の参加となるトランペット奏者、ジェシ・サドキも得意のハイノート(超高音)を使ったプレイで大活躍、新ドラマーのアダル・フォンセカも、まるでカーニバルの打楽器チームをひとりで表現するかのような超絶テクニックで客席を沸かせました。

「コットンクラブ」公演は16日(日曜)まで。18日と19日は「ブルーノート東京」に場所を移して日本のシンガー・ソングライター、birdとの共演が行なわれます。さらに充実したマルコスの世界を、ぜひみなさんの目と耳でお確かめください!
(原田 2011 10.15)




● MARCOS VALLE
10.15sat.-10.16sun. @ COTTON CLUB


● 10.18tue.-10.19wed. with special guest bird @ BLUE NOTE TOKYO



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , SOPHIE MILMAN - - report : SOPHIE ...

2011/10/14

ソフィー・ミルマン - SOPHIE MILMAN
ソフィー・ミルマン - SOPHIE MILMAN


公演初日リポート:SOPHIE MILMAN



今、ソフィー・ミルマンの初日公演のファースト・セットを見て、家に戻ってきたところです。オーディエンスの熱狂的な歓声と拍手、スタンディング・オベイションの光景がずっと目と耳にこびりついています。

常に活況を呈しているといっても過言ではない女性ジャズ・ヴォーカル・シーンですが、今世紀に入ってからの新人登場のペースには驚くばかりです。ソフィーは2004年に国内盤デビューを果たし、いきなりiTunesジャズ・アルバム・ダウンロード・チャートで首位を獲得しました。ブロンドの髪の毛、青にも灰色にも見える神秘的な瞳、恵まれた容姿も高く支持される要因となっているのは間違いのないところでしょう。しかしルックスだけで人気を維持してゆくことは、少なくともジャズの世界では不可能です。彼女は今回が通算9度目の来日になりますが、ライヴを行なうごとに客席の“満員率”は高まっています。ソフィーの歌を生で味わいたい、というファンが雪だるま式に増えているのです。

ひとつのプログラムの中で、いろんなタイプの曲を楽しませてくれるのが彼女のライヴの特徴ですが、この日もラテン・リズムを用いた「SPEAK LOW」から始まり、日本のシンガーは殆ど取りあげることのないジョー・ブシュキン作「OH,LOOK AT ME NOW」、いかにもコール・ポーター作曲らしい洒脱なメロディを持ちながら、いざ歌うとなると半音が連続して相当難しいはずの「I CONCENTRATE ON YOU」等をサラリと聴かせてくれました。

シャンソン・ナンバー「CES PETITS RIENS」はフランス語で歌い、「NO MORE BLUES」、「AGUA DE BEBER」とアントニオ・カルロス・ジョビンのナンバーも端麗にこなします。子供の頃から大好きでよく口ずさんでいたという「TILL THERE WAS YOU」(もともとは「ザ・ミュージック・マン」というミュージカルのために書かれたもの。ビートルズやソニー・ロリンズのカヴァーも有名)は、ドラムス抜きでしっとりと堪能させてくれました。

ピアノのポール・シュローフェル、ギターのペリー・スミスは「SO LONG YOU FOOL」で鮮やかなロング・ソロを披露。こうした凄腕ミュージシャンを伴奏者に迎えるのは、歌手冥利に尽きるのではないでしょうか。

「音楽の力でオーディエンスの皆さんがハッピーになって、すてきなひと時を過ごしてもらえたら」と語るソフィー。クラブじゅうにハッピーな空気が充満した、すてきなライヴでした。
(原田 2011 10.14)


● 10.14fri.-10.16sun.
SOPHIE MILMAN


● 10.18tue. はコットンクラブにて公演


ソフィー・ミルマン - SOPHIE MILMAN


<<前のページへ 1718192021222324252627