'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , MICHEL LEGRAND - - report : MICHEL ...
2011/09/05
公演初日リポート:MICHEL LEGRAND TRIO
「シェルブールの雨傘」、「ロシュフォールの恋人たち」、「華麗なる賭け」、「おもいでの夏」等、数え切れないほどの名作映画の音楽を担当してきたミシェル・ルグラン。彼はまた、熱狂的なジャズ好きとしても知られています。1950年代初頭にはディジー・ガレスピーに編曲を提供、その後マイルス・デイヴィスやビル・エヴァンス(ピアニスト)と親交を結び、『ルグラン・ジャズ』、『アット・シェリーズ・マン・ホール』を始めとする、いくつものジャズ・アルバムも発表しています。
今回の「ブルーノート東京」はいうなれば、ルグランの書き下ろした名曲がジャズ・フォーマットで披露されるというもの。“ルグラン・プレイズ・ルグラン”と呼ぶにふさわしい珠玉のプログラムが、クラブならではの親密な雰囲気の中、思いっきり楽しめるのです。世界中で愛されている定番を作者本人の演奏で聴くという、こんなに贅沢な機会が今後、いつ訪れるかは誰にも予想できません。会場はもちろん超満員、カップルでお越しの方もかなりいらっしゃいました。
オープニングは映画「シェルブールの雨傘」でおなじみの「ウォッチ・ホワット・ハプンズ」。ルグランはこの有名なメロディに次々とヴァリエーションを加えてゆきます。「インプロヴィゼーションは本当に楽しいね。一晩中でも続けたいぐらいだよ」とMCで語っていましたが、彼の即興はジャズのアドリブというよりもクラシックでいうところの変奏に近いもので、キーやテンポを変えながら、1コーラスごとに違った「ウォッチ・ホワット・ハプンズ」を聴かせてくれました。
ギル・エヴァンスやカーラ・ブレイ等を例に出すまでもなく、作編曲家のピアノ・スタイルは、どちらかというと淡々としている場合が多いように感じられます。しかしルグランは違います。次から次へとフレーズが溢れ出しては止まらない、という感じで、とにかくピアノを弾きまくるのです。大ベテラン、大巨匠の位置に君臨して久しいはずなのに、指は往時と変わらずスピーディに動き、速いパッセージにも乱れはありません。70年代のインタビューでルグランは、最も尊敬するピアニストのひとりにオスカー・ピーターソンをあげ、「彼の腕を移植してほしいぐらいだよ」と言っていますが、ルグランのピアノの芸風は確かにピーターソン流のヴァーチュオーソ・スタイルといえましょう。
また「これからの人生」では英語、「風のささやき」と「シェルブールの雨傘」ではフランス語によるヴォーカルを聴かせてくれました。マエストロの弾き語りを至近距離で聴ける・・・こんな貴重なチャンスは、なかなか体験できるものではありません。まさしく、感動のステージ。行って本当によかった、と誰もが思うはずです。
(原田 2011 9.4)
● 9.4sun.-9.5mon.
MICHEL LEGRAND TRIO