BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 矢野顕子 - - report : 矢野顕...

2011/08/17

矢野顕子 - AKIKO YANO
矢野顕子 - AKIKO YANO


公演初日リポート:矢野顕子トリオ・フィーチャリング・ウィル・リー&クリス・パーカー



矢野顕子、ウィル・リー、クリス・パーカーの“最強トリオ”が、今年も戻ってきてくれました。

ウィルとクリスといえば、常に数多くの才人から共演を望まれている最高峰のセッション・ミュージシャン。彼らを引き連れてツアーする(アメリカ国外に連れ出す)というだけでもすごいのに、それを何年も継続している矢野顕子には本当に恐れ入ります。そしてウィルとクリスも、彼女との演奏を存分に楽しみ、まるで鼎談するように音を出していることが、ステージを見ていると強く伝わってきます。

「いったいどう展開するんだろう」というスリル、「ああなるほど、こうくるのか」という納得が、トリオがプレイするどの曲にも感じられます。「いいこ いいこ」は7拍子となり、「変わるし」にはどこのジャズ・ナンバーなのだろうと思えるほどアドリブが満載されていました。皆、とにかく臨機応変です。とんでもなく高度なことを、サラッと、笑顔でやる。そこがなんとも、かっこいいではありませんか。

カヴァー曲がまた、面白いのです。どちらかというとオルタナティヴ・カントリー畑のシンガーとして知られるルシンダ・ウィリアムス(エルヴィス・コステロが「彼女は5本の指に入るシンガー・ソングライターだ」と賞賛しました)の「JOY」は、アヴァンギャルドすれすれです。ライヴの本編ラストでは、ギター・リフが命であるはずの、キンクス「YOU REALLY GOT ME」を取りあげ、完全な矢野トリオ・サウンドに衣替えしていたのにも驚かされました。

クリスはスティックのほか、ブラッシュも使って妙技を披露。ウィルはバック・コーラスはもちろん、ハーモニカも吹き、「Happiness」ではベースについているピックアップ・フェンス(金属製のカバー)を叩いてパーカッションのような音も出していました。おそらくこのトリオには、「いいサウンドにつながるのであれば、なにをやってもいい」というルールがあるのでしょう。
公演は20日まで続きます(18日はオフ)。
(原田 2011 8.16)


● 8.16tue.-8.20sat. (8.18thu. OFF)
矢野顕子トリオ・フィーチャリング・ウィル・リー&クリス・パーカー


AKIKO YANO - 矢野顕子


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , TIM ROBBINS - - report : TIM ROB...

2011/08/09

ティム・ロビンス - TIM ROBBINS
ティム・ロビンス - TIM ROBBINS


公演初日リポート:TIM ROBBINS & THE ROGUES GALLERY BAND



音楽ファン、映画ファン、いや、エンタテインメント全般のファンにとって必見、必聴のプログラムが始まっています。『ミスティック・リバー』でアカデミー助演男優賞とスクリーン・アクターズ・ギルド(SAG)賞に輝き、主演作品『ショーシャンクの空に』も大評判を呼んだ名優、ティム・ロビンス率いる「ティム・ロビンス・アンド・ザ・ロウグス・ギャラリー・バンド」のライヴが8月14日まで行なわれているのです(11日はオフ)。

みずから監督した映画『ボブ★ロバーツ』や『デッドマン・ウォーキング』ではサウンドトラックに携わっていたティムですが、意外なことにバンドを率いてツアーに出るのは今回が初めてなのだそうです。しかし、歌や演奏は実に手馴れたもの。少年時代から音楽を愛し、ギターを弾くことや歌うことに情熱を注いできたティムならではの、熟達したサウンドを楽しむことができました。どこかの国によくある「人気映画スターが、ちょっと音楽に手を出してみました」という次元とは違います。

ステージの両脇には、ティムの両親の写真がそれぞれ飾られています。左側に位置するのは、母親のメアリー・ロビンス。音楽家、女優として活動しました。そして右側には、ハイウェイメンというフォーク・グループで活躍した父親のギル・ロビンスの肖像が飾られました。ギタローンという大型のギターを抱えた姿は、現在のティムにそっくりです(1963年、アメリカの国民的テレビ番組「エド・サリヴァン・ショウ」に出演したときの写真だそうです)。「この両親がいたからこそ、今の自分があるのだ」ということなのでしょう。

プログラムは、オルゴールが奏でる「AMAZING GRACE」で幕を開けました。つづいて、まったく独自にアレンジされたビートルズ(ジョージ・ハリスン)の「HERE COMES THE SUN」をカヴァー。ディレイを思いっきりかけた歌声に、マンドリンやヴァイオリンの土臭い響きが絡みます。もちろん、アルバム『ティム・ロビンス・アンド・ザ・ロウグス・ギャラリー・バンド』からの曲も「YOU’RE MY DARE」、「TIME TO KILL」、「BOOK OF JOSIE」、「TOLEDO GIRL」などを立て続けに披露。ブライアン・イーノの弟であるロジャー・イーノもキーボード、アコーディオン、フリューゲルホーンなどで大活躍し、トム・ウェイツのカヴァー曲「ALL THE WORLD IS GREEN」では、デヴィッド・コールターのソウ(のこぎり)が効果をあげていました。日本では都家歌六、アメリカのジャズでは故ロイ・ブルックスがよくソウをプレイしていましたが、コールターは前半をマレット(バチの一種)で、後半を弓で演奏し、バンドの音作りに神秘性を付け加えていました。

後半に飛び出した「LIGHTNING CALLS」もアルバムに入っていた曲で、“稲妻が夜明けを呼んでいる”というリフレインがやけに印象に残ります。そして、その曲が終わるや否や、ふたたび「HERE COMES THE SUN」が登場します。稲妻のあとに、太陽がやってくる。曲順までもが映画のストーリーのようだなあ、とぼくは思いました。
(原田 2011 8.9)


● 8.9tue.-8.14sun.(8.11thu.OFF)
TIM ROBBINS & THE ROGUES GALLERY BAND


ティム・ロビンス - TIM ROBBINS


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , ABDULLAH IBRAHIM - - report : ABDULLA...

2011/08/07

アブドゥーラ・イブラヒム - ABDULLAH IBRAHIM
アブドゥーラ・イブラヒム - ABDULLAH IBRAHIM


公演初日リポート:ABDULLAH IBRAHIM TRIO


近年、急速に再評価が高まっているミュージシャンのひとりがアブドゥーラ・イブラヒム(旧名ダラー・ブランド)です。2010年6月にはNHKのBS2で彼のドキュメンタリー番組が放映され(カラハリ砂漠での演奏シーンは圧巻!)、久々の来日公演も大盛況。多くのファンが、ソロ・ピアノで綴られるワン&オンリーの世界に酔いしれました。そして今回は、ピアノ・トリオによる待望の「ブルーノート東京」公演です。

場内が暗くなると共に、イブラヒムがゆっくりとした足取りで登場します。「大きな人だな」と、誰もが思ったのではないでしょうか。長年にわたって古武道や八神流躰術を学んでいることも、彼の風格、威容に貢献しているのでしょう。ステージはまず、ソロ・ピアノから始まりました。「どの曲を演奏するかは、ピアノに指をおろすその時までわからない」というイブラヒム。音楽の精が彼に憑依したかのように、美しいメロディが次から次へと登場します。始まって間もないというのに、彼はすっかり演奏に没頭しています。

その後、ベルデン・ブロック(ベース)、ジョージ・グレイ(ドラムス)が加わり、トリオの演奏が始まります。もう5年近く前、ぼくがニューヨークで見たイブラヒムの6人組バンド“エカヤ”のリズム隊も、このメンバーでした。近年のイブラヒムが最も信用を寄せているベーシストとドラマーが彼らなのでしょう。ここでも、曲目はその場で決められたようです。イブラヒムが曲のきっかけとなるフレーズを出すと、すぐさま他のふたりがついていき、イブラヒムが違うモチーフを出すと、またふたりがついていくといった展開でした。曲によってはベースやドラムスのソロも聴くことができましたが、どこで彼らがソロをとるかもイブラヒムのその場の指示で決まっていたようです。

ほとんどメドレーで演奏された(曲間はなかった)ので、実際のところ何曲プレイされたのか、ぼくにはわかりません。しかし「BANYANA」、「THE WEDDING」、「ISHMAEL」等は確認できました。

日本で最も人気のあるイブラヒムのアルバムといえば、いまなお『アフリカン・ピアノ』なのでしょう。しかし、ぼくにいわせれば、あの盤におけるピアノの音は硬く、鋭く、レコード化の際にかなり加工されているように思います。本物のイブラヒムのピアノ・サウンドは、もっと優しくて暖かいのです。この音色を聴くだけでも、ライヴに駆けつける価値は100%以上あるといえましょう。
(原田 2011 8.6)



● 8.6sat.-8.8mon.
ABDULLAH IBRAHIM TRIO


●8.9tue. はコットンクラブにて公演


アブドゥーラ・イブラヒム - ABDULLAH IBRAHIM


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , JOYCE - - report : JOYCE w...

2011/08/03

ジョイス - JOYCE
ジョイス - JOYCE


公演初日リポート:JOYCE with special guest SÉRGIO SANTOS


1991年に初登場以来、「ブルーノート東京の夏の顔」として人気を集め続けているジョイス。20年間にわたって、常にたくさんのオーディエンスを集め、数え切れないほどたくさんの素敵なブラジルの歌、そして多くの逸材を紹介しています。今回はミナス派のシンガー・ソングライター、セルジオ・サントスをゲストに迎えたステージです。

前半は夫君のドラマーであるトゥチ・モレーノ、ピアニストのエリオ・アルヴェス等を含む、レギュラー・グループによるジョイスのパフォーマンスが続きます。ジョイスの歌の伸びやかさ、包容力については今さらいうまでもないでしょう。そのヴォーカルにあいづちを打つように、自らつまびくギターの音が挿入されます。「歌もいいけど、ギターも本当にうまいなあ」と、あらためてぼくはその妙技に聴きほれました。

エリオは前回もただならぬ存在感を示していましたが、今年はさらにフィーチャーされる割合が増したように思います。ハービー・ハンコックを相当研究したのではないかと思われるリズミカルなピアノ・プレイで、いくつものクライマックスを作っていました。なかでも、10分に及ぶ「DESAFINADO」はジョイスやエリオの“アドリブ心”が満載のスリリングなパフォーマンスでした。続くジョイスのソロ・コーナーでは、発売されたばかりの弾き語りアルバム『リオ』からの曲を、さっそく聴かせてくれました。

続いてお待ちかね、セルジオ・サントスの登場です。ジョイスとのデュエットをしっとりと聴かせた後、彼単独で4曲を披露。驚くことにジョイスのギターを使ってのパフォーマンスです。今回が初来日とのことですが、ミナス派の重鎮、ミルトン・ナシメントにどこか通じる歌声は、日本でも多数の音楽ファンに受け入れられることでしょう。長身にアコースティック・ギターを抱えた姿が、またよく似合います。

その後、再びジョイスが登場し、セルジオとのデュエットを展開。熱狂的な拍手に包まれて、ライヴは終了しました。ジョイスのブルーノート東京出演記録は、今後も25年、30年と更新されていくことでしょう。
(原田 2011 8.2)



● 8.2tue.-8.5fri.
JOYCE with special guest SÉRGIO SANTOS


ジョイス - JOYCE


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , DIANE SCHUUR - - report : DIANE S...

2011/07/28

DIANE SCHUUR - ダイアン・シューア



公演初日リポート:DIANE SCHUUR @COTTON CLUB


日本で最も親しまれている現役ジャズ系シンガーのひとりがダイアン・シューアでしょう。彼女は1985年の斑尾ジャズ・フェスティバルで初来日しています。その前年の秋にデビュー作『ディードルズ』が国内発売され、“驚異の新人”としてクローズアップされた矢先のことでした。以来、彼女は日本公演を欠かしたことがありません。「日本で歌うことが、毎回とても楽しみだ」とMCで語っていましたが、ファンの皆さんの中には、「毎回、ダイアンの来日公演をチェックしている」という人もかなりいらっしゃるのではないかと思います。

31日に「ブルーノート東京」に出演するダイアンですが、30日までは「コットンクラブ」に出演しています。意外なことに、彼女がここに出演するのは今回が初めてとのこと。MCでしきりに「いいクラブね」と言っていましたので、ダイアンにとってまたひとつ、日本でのお気に入りのライヴ・スペースが増えたということになりますね。

とにかくレパートリーの多いシンガーなので、何が聴けるかわからないのもダイアンのステージの面白いところです。今回は最新作『THE GATHERING』からの曲がプログラムの半分ぐらいを占めておりました。この作品はダイアンのルーツのひとつであるカントリー・ミュージックにアプローチしたもので、彼女にとっては、まさしく念願の1枚といったところでしょう。バンドは彼女の歌とヴォーカルを最大限に引き立てながら、控えめにサポートします。

いっぽう、ジャズ〜フュージョン系のナンバーではバンド・メンバーのソロも大きくフィーチャーされ、ダイアンと丁々発止を繰り広げます。フュージョン系のフリューゲルホーン奏者、チャック・マンジョーネの書いた「LAND OF MAKE BELIEVE」を、オリジナル・ヴァージョンの組曲的展開をそのままに、ヴォーカル・ナンバーとして鮮やかにリメイク。ダイアンの得意技である、ピアノとスキャットのユニゾンも炸裂しました。そしてラストでは、「DEEDLE’S BLUES」を、先日亡くなったフランク・フォスターに捧げて歌いました。ダイアンがカウント・ベイシー・オーケストラと共演アルバム(グラミー賞獲得)をレコーディングしたとき、そこでアレンジや指揮を担当したのがフォスターだったのです。
(原田 2011.7.28)




● 7.31sun. @BLUE NOTE TOKYO
DIANE SCHUUR



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