BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , PETE ESCOVEDO - - report : PETE ES...

2011/01/19

ピート・エスコヴェード - PETE ESCOVEDO
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公演初日リポート:PETE ESCOVEDO ORCHESTRA
featuring SHEILA E. & JUAN ESCOVEDO


公演の開催が告知されてからというもの、指折り数えていたステージのひとつがこのエスコヴェード・ファミリーによるライヴです。なにしろピート・エスコヴェードは20数年前にサンタナのレコードを聴いてからずっとぼくのフェイヴァリット・ミュージシャンであり(故コーク・エスコヴェードと共に)、その動く姿を見ることは個人的には悲願だったのです。しかも今回の公演は、彼の自慢の娘であろうシーラ・E、自慢の息子であろうホアン・エスコヴェードとの共演なのですから、興奮せずにはいられません。このラテン界最強のファミリーは、ラテンの聖地のひとつであるサンフランシスコ・ベイエリアから飛び切りのサウンドを、ここブルーノート東京に直送してくれました。

ステージには左からホアン、ピート、シーラが並びます。ホアンはボンゴとコンガを叩き、ピートはティンバレスの妙技を披露。シーラはドラムスを中心に演奏します。オープニングは、その名も「E. MEDLEY」。ホーン・セクションの分厚いハーモニーに絡みつくように、3人のパーカッションが見事なアンサンブルを奏でます。「うわー、さすがだなあ」と、ため息が出てしまうほど絶妙なタイミングで、ソリストたちのプレイをガンガン煽ります。お互いの音を聴きながら、ごく自然にフレーズを合わせていく3人の呼吸が爽快です。「親子なんだから息が合うのは当然なのではないか」という声が出てくるかもしれませんが、ここまでハイレベルなパフォーマンスのできる一家は世界を探しても、そうはいないでしょう。

中盤ではリリースされたばかりの新作(クロークの物販コーナーで購入できます)からのナンバーもたっぷり披露。「NOTHING WITHOUT YOU」ではシーラがティンバレスを叩きながらリード・ヴォーカルをとり、ピートとホアンがコーラスをつけます。また「ALMA DE CARNIVAL」ではホアンのロング・ソロを聴くことができました。実にメロディアスで美しい打楽器プレイでした。偉大な父親とあえて同じ道を選ぶ、その決意が伝わってくるような気合の入ったプレイを接して、ぼくは以前よりさらにホアンが好きになりました。アンコールではピートが“聴かせるナンバーか、踊らせるナンバーか、どっちがいい?”と尋ね、オーディエンスが“ダンス!”と答えるやいなや、極めつけの「SONERITO」が始まります。歌い終わったピートは客席におり、女性ファンとダンスします。その一挙一動に、ファンの視線は釘づけです。

卓越したテクニックを持つホアン、相変わらず華やかなシーラも、いうまでもなく見事でしたが、個人的にはピートの貫禄とショウマンシップにすっかり圧倒されました。エスコヴァード・ファミリーはもちろんのこと、ラテン界全体の父親的存在としても、ピートは欠かすことのできない存在だと改めて思いました。

これだけの豪華プログラムを見逃すのは本当にもったいない!
黄金のリズムを、ぜひ生でお楽しみください。
(原田 2011/1/18)



● 1.18tue. - 1.20thu.
PETE ESCOVEDO ORCHESTRA
featuring SHEILA E. & JUAN ESCOVEDO

●1.22sat. はコットンクラブにて公演

PETE ESCOVEDO - ピート・エスコヴェード


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , McCOY TYNER - - report : McCOY T...

2011/01/11

マッコイ・タイナー - McCOY TYNER
マッコイ・タイナー - McCOY TYNER


公演リポート:McCOY TYNER TRIO
with special guest ERIC ALEXANDER & JOSE JAMES
"Music of John Coltrane and Johnny Hartman"
@COTTON CLUB




不滅のロング・セラーを続ける永遠の名盤、『ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン』。その参加メンバーであるマッコイ・タイナーが今、約半世紀ぶりに同アルバムの曲をプレイする画期的なライヴを行なっています。

亡きコルトレーンとハートマンに替わってテナー・サックスにエリック・アレキサンダー、ヴォーカルにホセ・ジェイムズを迎えた特別編成によるパフォーマンスです。1月9日、10日の「コットンクラブ」公演を大好評のうちに終えた彼らは、12日から16日まで「ブルーノート東京」に出演。最終日の18日は「モーションブルー・ヨコハマ」に登場します。ぼくは10日のセカンド・セットを堪能してきましたので、その模様をレポートさせていただきましょう。

ステージはまず、マッコイ・タイナー・トリオにエリック・アレキサンダーが加わった4人編成で始まりました。選曲は「FLY WITH THE WIND」、「BLUES ON THE CORNER」等、マッコイ・ファンにはすっかりおなじみのものですが、エリックが参加することによって、これまでのマッコイ・バンドにはない新鮮味が生まれているのが聴きどころです。ベースのジェラルド・キャノン、ドラムスのフランシスコ・メラにもたっぷりソロ・スペースが与えられ、いかにマッコイが彼らを高く評価しているかが強く伝わってきました。

そして後半ではホセ・ジェイムズが登場。お待ちかね、『ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン』の楽曲が次々と登場します。とはいえ、コルトレーンとエリックを、ハートマンとホセを比較しても意味のないことでしょう。ホセもエリックも、あくまで自身のスタイルを貫きながら「THEY SAY IT'S WONDERFUL」、「DEDICATED TO YOU」、「AUTUMN SERENADE」、「YOU ARE TOO BEAUTIFUL」を聴かせてくれました。アレンジも『コルトレーン&ハートマン』とは大きく異なり、当然ながらマッコイのピアノが前面に打ち出されたものとなっていました。百戦錬磨のベテランであるマッコイの胸を借りて、歴史的な名曲に新たな息吹を注ぎ込むエリックとホセに、すがすがしさを感じたのはぼくだけではないでしょう。

この記念すべき公演を、ぜひ皆様にも味わっていただけたらと思います。



● 1.12 wed. - 1.16 sun. BLUE NOTE TOKYO

McCOY TYNER TRIO
with special guest ERIC ALEXANDER & JOSE JAMES
"Music of John Coltrane and Johnny Hartman"




'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , CHRISTOPHER CROSS - - report : CHRISTO...

2011/01/08

クリストファー・クロス - CHRISTOPHER CROSS
クリストファー・クロス - CHRISTOPHER CROSS



公演初日リポート:CHRISTOPHER CROSS



場内が沸きに沸いたカウント・ベイシー楽団+レディシのカウントダウン、そして1月2日に行なわれたベイシー楽団の単独公演に続き、昨日からはクリストファー・クロスが選りすぐりのメンバーを集めたバンド(サックス奏者はデヴィッド・マン)と共に心暖まるライヴを繰り広げています。

30年以上のキャリアを持っているにもかかわらず、オリジナル・アルバムは(クリスマス・アルバムを含めても)わずか9枚という、大の寡作家として知られるクリストファーですが、彼にとってはライヴ・ステージで、ファンの反応をじかに感じながら歌うことこそ最大の喜びなのでしょう。大ヒット・チューンを中心に、アルバムからのやや渋めの楽曲も織り交ぜたパフォーマンスは、数え切れないほどの舞台に立ち、観客の心を知り尽くした者だけが表現できる深み、楽しさ、優しさに溢れていました。

他のメンバーに少し遅れて、黒いジャケットを着たクリストファーが登場します。帽子をよく見ると、鳥の羽根が刺さっています(フラミンゴの羽根ではなかったようですが)。かつて「歌とルックスのギャップが激しい」といわれたこともありますが、今の彼を見ると誰もが前言撤回したくなることでしょう。とにかく立ち居振る舞いが粋なのです。そして一度聴いたら忘れることのできない、あの美声。殆どの曲でリード・ギターをこなしながら、伸びやかな高音ヴォーカルを響かせるクリストファーは、文句なしのかっこよさです。「OPEN UP MY WINDOW」や「I KNOW YOU WELL」ではキーボード奏者のキキ・エブセンとヴォーカル・デュオを聴かせてくれましたが、こちらもうっとりしてしまうほど素敵なハーモニーでした。

“ジェフ・ベックで有名な「CAUSE WE'VE ENDED AS LOVERS」(哀しみの恋人達)みたいな曲だよ”とクリストファー自ら紹介した「RAINY DAY IN VANCOUVER」は、彼にしては珍しいインストゥルメンタル・ナンバー。伸びやかなギターの音色が、切なげなメロディをシットリと奏でていきます。歌手としての評価の影に隠れがちですが、クリストファーは本当にギターの達人です。この日はストラトキャスター、レス・ポール(トレモロ・アームつき)、アコースティック・ギターを使いわけて演奏しましたが、それぞれの特性を知り尽くしたかのようなソロ、コード(和音)を聴くと、「もし美声に恵まれていなかったとしても彼はギタリストとして音楽界で成功したに違いない」と思えてきます。

いうまでもなくライヴではお待ちかね、「ARTHUR'S THEME」(ニューヨーク・シティ・セレナーデ)、「RIDE LIKE THE WIND」(風立ちぬ)といった不朽の定番も披露されました。もちろんイントロが流れただけで、ファンの間ではため息と拍手が巻き起こります。それにしても映画会社の方かレコード会社の方かわかりませんが、「アーサーのテーマ」に「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」という邦題をつけたスタッフは本当に冴えていると思います。この曲を頭に描いてニューヨークに出かけたことのあるファンも、多数いらっしゃるのではないでしょうか。
(原田 2011 1.7)

● 2011 1.7fri.-1.10mon.
CHRISTOPHER CROSS


クリストファー・クロス - CHRISTOPHER CROSS


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , COUNT BASIE ORCHESTRA - - report : THE LEG...

2010/12/27

カウント・ベイシー・オーケストラ - COUNT BASIE ORCHESTRA
カウント・ベイシー・オーケストラ - COUNT BASIE ORCHESTRA


公演初日リポート:THE LEGENDARY COUNT BASIE ORCHESTRA directed by DENNIS MACKREL special guest LEDISI


ブルーノート東京、本年度のカウントダウン&ニュー・イヤーはビッグ・バンド・ジャズの王道を行く“ザ・レジェンダリー”カウント・ベイシー・オーケストラがお供します。スイング感、楽しさ、華やかさ、輝き、どれをとってもこれ以上年末年始にふさわしい存在はないといっていいでしょう。

ぼくはさっそく昨日おこなわれた初日のファースト・セットに行ってまいりましたが、とにかく気合の入ったステージです。新コンダクターに就任したデニス・マクレルの意気込みが全メンバーに伝わっているのでしょう、「APRIL IN PARIS」のような大オハコ・ナンバーも格別、新鮮に響きます。デニスの物腰柔らかなMC、ハリのある指揮ぶりもすっかり板についていて、「名門オーケストラの歴史は、こうして受け継がれていくのだなあ」と、なんともいえない感銘を受けました。

デニスは創設者カウント・ベイシー存命時代のベイシー楽団で、最後のドラマーを務めていまました。その後、サド・ジョーンズやフランク・フォスターがコンダクターの座を受け継いだときも、彼は心地よいリズムを送り出しておりました。しかし今回はドラムスを叩かず、指揮に専念しています。彼はいま、ベイシー楽団を率いることに全力を注いでいるのでしょう。

前半はインストゥルメンタル・ナンバーが続きます。フォスターの編曲した「IN A MELLOW TONE」では、サックス・セクションが見事なソリ(ソロの複数形)を披露。この響きこそアール・ウォーレンやマーシャル・ロイアルがいた頃から脈々と受け継がれてきたベイシー・サウンドのひとつです。

続いて、先日亡くなったサックス奏者、ジェームズ・ムーディに捧げて「HEY JIM」が演奏されました。ぼくの知る限りムーディとベイシーの直接的なつながりはありませんが、’50年代初頭のムーディ・バンドに編曲を提供していたのがクインシー・ジョーンズでした。そこでの業績が認められて後年、クインシーはベイシー楽団のメイン・アレンジャーのひとりに抜擢されるのです。ここでもデニスいわく“世界一のサックス・セクション”が圧巻でした。セロニアス・モンクの「WELL,YOU NEEDN’T」を意識したに違いない「WAY OUT BASIE」、デニスの代表的な作編曲として知られる「AND THAT'S THAT」は2代目リーダー、サド・ジョーンズ時代のレパートリーですね。このあたりの選曲は、ベイシー存命中と没後、オーケストラの両方の時代を知っているデニスならではのチョイスといったところでしょうか。

後半はレディシのヴォーカルが大きくフィーチャーされます。ゲストで2、3曲出てくるというのではない、十二分に満喫させてくれる時間と内容でした。R&Bの大御所として知られる彼女ですが、今回は身も心もジャズ・シンガーになりきっているようです。火を噴くようなスキャットは、熱心な彼女のファンをも驚かせ、興奮させることでしょう。

ベイシー楽団とレディシは今年の秋、「ブルーノート・ニューヨーク」でも共演し、大好評だったとききます。今、ニューヨークと同じセッションが日本で開催されることは殆どありません。ぜひ皆様、名門ビッグ・バンドとホットなヴォーカルの組み合わせで年末年始をお過ごしくださいませ。

(原田 2010 12.26)

● 12.26sun.-12.31fri.
THE LEGENDARY COUNT BASIE ORCHESTRA
directed by DENNIS MACKREL
special guest LEDISI



COUNT BASIE ORCHESTRA - カウント・ベイシー・オーケストラ


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , PATTI AUSTIN - - report : PATTI A...

2010/12/22

PATTI AUSTIN - パティ・オースティン
PATTI AUSTIN - パティ・オースティン



公演初日リポート:PATTI AUSTIN


1年で最もロマンティックな時期を、最高峰の実力派シンガーのライヴで過ごす。そんな贅沢を、クリスマス・シーズンのブルーノート東京では楽しむことができます。

パティ・オースティンは3歳の頃から舞台に立っているそうです。生まれながらのエンターテイナーという表現がぴったりですね。ジョークを交えたMC、当意即妙のステージングも含めて、ファンを楽しませ、自分も楽しむことに全身全霊を注いでいるように感じられます。ジャズ系のスタンダード・ナンバーにもいい味を出す彼女ですが、今回はブラック・コンテンポラリー〜AOR系のサウンドを中心としたステージ。キャッチーなメロディ(「SAY YOU LOVE ME」を例に出すまでもなく、彼女は作曲家としても超一流なのです)、スケールの大きな歌いっぷり、声量の見事なコントロールにすっかり引き込まれてしまいました。

まるで1980年代にタイムスリップしたような「GIMME THE NIGHT」、「RAZZAMATTAZ」(どちらもクインシー・ジョーンズ関連曲ですね)、イントロが聴こえてきただけで猛烈な歓声と拍手が巻き起こった「SAY YOU LOVE ME」「BABY COME TO ME」等、極め付きのナンバーをパティは次々と歌いこなします。ツイン・キーボードを中心とするリズム・セクションも決して出しゃばることなく、しかし的確なプレイで彼女の歌声を盛りたてます。クリスマス・シーズンということで「WINTER WONDERLAND」、「HAVE YOURSELF A MERRY LITTLE CHRISTMAS」等のクリスマス・ソングも洒落たアレンジで披露。いまさらながら、クリスマス・ソングって本当に心あたたまるメロディだなあ、と思います。

しかしぼくが最も心を打たれたナンバーは大ヒット曲でもクリスマス・ソングでもありません。パティとジェームズ・イングラムが世に紹介し、トニー・ベネットもカヴァーした難曲「HOW DO YOU KEEP THE MUSIC PLAYING」と、パティ自身が“私にとって21世紀のアンセム(anthem)”と前置きして紹介した「LEAN ON ME」です。いずれも壮大な展開を持つバラードです。しかしパティは少しも大げさに表現することなく、ありあまる実力を巧みにセーブしながら、歌詞をじっくりと伝えてゆきます。ここまで深みのあるパティは、決して往年のアルバムでは聴けなかったといっていいでしょう。つねに第一線を歩みながら、円熟を重ねてきた現在のパティだからこそ表現できるのであろう“境地”に触れて、ぼくは改めて「いま、パティ・オースティンを生で聴ける幸せ」に浸りました。
(原田 2010 12.21)


● 12.21tue.-12.25sat.
PATTI AUSTIN


パティ・オースティン - PATTI AUSTIN


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