公演初日リポート:INCOGNITO -Transatlantic Tour-
リズム・セクション、ホーン・セクション、ヴォーカル陣が総勢10名。彼らがステージに所狭しと並ぶだけで、なんともいえない賑やかな雰囲気が生まれます。
人気ジャズ・ファンク・グループ、インコグニートが今年もエネルギー全開のショウを繰り広げています。
30年間、このバンドを率いているリーダーのブルーイは、MCでこう言いました。「ぼくたちのライヴはコンサートではなく、ショウなんだ。生命をセレブレイトする場なんだ」。「のってるかい!」というブルーイの日本語シャウトに導かれるように観客が沸き、バンドが爆裂しはじめます。「1曲目から、まるでアンコールのような盛り上がり」というフレーズは、こういうときに使うものなのでしょう。
続いては最新作『トランスアトランティック・RPM』からのナンバー、「1975」。1975年は音楽家ブルーイの運命を決定付けました。“アース、ウィンド&ファイアー”やスティーヴィー・ワンダーを知り、ラジオで聴いたロバータ・フラックとダニー・ハサウェイのデュオに魅了された記念すべき年なのです。そして「スティーヴィー・ワンダーは自分にとって、単なるミュージシャンにとどまらない特別な存在なんだ」というMCの後に、「AS」のインコグニート流カヴァーがプレイされます。インコグニートの取りあげたスティーヴィー・ナンバーとしては既に「DON'T YOU WORRY 'BOUT A THING」の大ヒットがありますが、この「AS」も実に美味。こうした選曲、先輩ミュージシャンへの愛に溢れたMCを聴いていると、ブルーイは本当に音楽少年のまま、大好きな音楽をプレイする喜びに包まれたまま年齢を重ねてきたんだな、と思わずにはいられません。
常に優れたヴォーカリストを擁しているインコグニートですが、今回の公演に参加したヴァネッサ・ヘインズとロレイン・ケイト・プライス、そしてトニー・モムレルは皆がリード・ヴォーカルをとれるのも強みですが、3人の声が重なったときのハーモニーがまた、美しいのです。ブルーイのヴォーカルはうまさというよりもユーモアで聴かせているところもありますが、ギター・プレイは細やかで的確です。ラテン調の人気曲「COLIBRI」におけるリズム感は、ちょっとやそっとじゃ真似のできないものでしょう。とれたての野菜をその場で切り刻んでいるかのような、シャキシャキしたギター・カッティングの気持ちよさ。これを目の前で味わえるのは、文字通りライヴの醍醐味です。
「多くのミュージシャンが日本に来ることを夢見ている。夢の叶わないひともいるなかで、私は何度も日本で公演できている。本当に光栄だ」とブルーイ。『トランスアトランティック・RPM』の楽曲と、これまでの定番を程よくブレンドしたステージは、インコグニートの新たな魅力をすべてのオーディエンスに届けてくれるはずです。
(原田 2010 11.16 )
●11.16tue.-11.21sun.
INCOGNITO -Transatlantic Tour-
公演初日リポート:PHILIP BAILEY of EARTH, WIND & FIRE
“アース、ウィンド&ファイアー”のフロントマン、フィリップ・ベイリーが目の前で聴ける!
これは大ニュースです。ぼくも彼の音楽は好きで何度かライヴに行ったことがありますが、いずれもアリーナやスタジアム・クラスの巨大会場でした。もちろんそれでも楽しくなりましたし、お祭り気分は味わえましたが、あの歌声が持つ微妙なニュアンスまで聴きとるのは難しかったことを思い出します。
その点、この公演はもう、ヴォーカル好きにはたまらないものです。フィリップの呼吸、息遣いまでがリアルに伝わるのです。いわゆるファルセットの名手として知られるフィリップですが、力強い地声もまた、絶品です。大抵のシンガーは地声とファルセットの間に、どこか“断層”が感じられるものですが、フィリップの場合、地声からファルセットへの移行があまりにも滑らかなことに、改めて驚かされます。“天与の歌声”というフレーズは、まさしくこういうひとにこそ与えられるべきでしょう。
今回のステージにはアクロバティックなダンスも、目を奪うようなきらびやかな衣装も、ホーン・セクションもありません。1曲1曲をじっくりと歌いこむフィリップと、それを堅実にサポートする凄腕ミュージシャンがいるだけです。「FANTASY(宇宙のファンタジー)」、「LET'S GROOVE」などアースが残した定番も、原曲の熱狂を損なわない程度に新しくアレンジされ、より味わいを増したヴァージョンとして披露されました。もちろん「CHINESE WALL」、「EASY LOVER」など、ソロで放ったヒット・ナンバーもたっぷり聴かせてくれました。いうまでもなくクラブはダンスフロア状態です。
また、プログラム前半では、ナット・キング・コールやジョージ・ベンソンが歌った「NATURE BOY」、ハービー・ハンコックが作曲した「TELL ME A BEDTIME STORY」などジャズ系のナンバーを堪能させてくれました。パーカッションを叩きながら歌う姿は、以前よりさらに貫禄と風格に溢れています。さらにコクを増した現在のフィリップ・ベイリーの世界を、ぜひ至近距離でどうぞ!
(原田 2010 11.10)
● 11.10wed.-11.14sun.
PHILIP BAILEY of EARTH, WIND & FIRE
公演初日リポート:DAVE KOZ with special guest SPENCER DAY
アメリカを代表する大エンターテイナー(といっていいでしょう)、デイヴ・コーズが最新作『ハロー・トゥモロウ』を引っさげてブルーノート東京に帰ってきてくれました。
アルト、テナー、ソプラノの各サックスを持ち換え、日本語のMC(紙にローマ字で書いたものを読んでいたようです)、ギタリストやベーシストとの振り付け、ファンとの合唱パートを交えた渾身のステージは、初めて彼のライヴを見るひとも何度もライヴを見ている熱狂的なファンも、ひとしく笑顔にさせてくれるものです。まさに、もてなしの達人。
そして今回のライヴでは2つの「新機軸」がありました。まずひとつは、デイヴ自身がリード・ヴォーカルをとる曲があったこと。『ハロー・トゥモロウ』のレコーディング中、プロデューサーのマーカス・ミラーから歌うように勧められたとのことです。「皆がガックリしなければいいけれど」といって歌いだしたのは、『ハロー〜』に入っている「THIS GUY'S IN LOVE WITH YOU」。サックス・プレイがそのまま歌声になったようなヴォーカルは、「どうして今まで歌わなかったのだろう」と不思議になるほど、こなれていました。ヴォーカル・アルバムの登場も遠い将来ではないように思います。
そしてもうひとつは、新進気鋭のシンガー・ソングライターであるスペンサー・デイを日本のファンに紹介してくれたことです。「彼の歌声は我々を特別な場所に連れて行ってくれる。本当にグレイトな才能の持ち主なんだ」とデイヴみずからがMCで語ると、背の高いスペンサーがなんだか照れくさそうにステージ下手(客席から向かって左側)に登場します。「TILL YOU COME」ではファンキーに、ピアノの弾き語り「SOMEDAY」ではしっとりと。彼の登場パートが終わる頃には、多くのファンの心の中に“スペンサー・デイ”という名前が刻まれたことでしょう。
デイヴの新作『ハロー・トゥモロウ』のタイトルには、「こんな世の中だからこそ、前向きに行こう」という意味が込められているとのことです。すっきりしたい方、パワー不足の方はぜひ彼のライヴに足を運んで、音のシャワーを存分に浴びてください!
(原田 2010 11.4)
●11.4thu.-11.8mon.
DAVE KOZ with special guest SPENCER DAY
公演初日リポート:CHICO & THE GYPSIES
カーニバル、フェスティバル、フィエスタ、宴、祭り・・・・・呼び方はなんでもいいですが、チコ&ジプシーズの音楽にはそれらを一緒にして、さらに灼熱の太陽で乾かしたようなカラッとしたエキサイトメント(興奮)があります。
開演前から、客席内は大騒ぎで賑やか。このあたり、いわゆるジャズ系のライヴではあまりみられない現象です。「今日は祭りだ!」というオーディエンスの声が聞こえてくるようです。そしてメンバーが楽器を大切そうに抱えながら登場すると、クラブはまさに“蜂の巣をつついたような”騒ぎになります。
リーダーのチコは白いシャツに黒いギター。他のメンバーは黒い衣装でステージに立ちます。リード・ギターを担当するケマは薄型の白いギターを、相変わらずの超絶技巧で弾きまくります。間奏パートになると、ぼくの目は自然に彼の指先に向かいましたが、どう弾いているのか本当にわかりません。彼が人差し指や中指を一度軽く動かすだけで、5つも6つもの音が立て続けに出てくるのです。
もちろん他のメンバーも、存分に見せ場を発揮しておりました。ごきげんな喉を聴かせたマノロやムニン、ティンバレスを中心に叩きながら軽やかなリズムを送り出すアンディ。一歩退いたところで、ニッコリとギターをつまびく重鎮チコ。各曲の出だしの数音が流れるやいなや、クラブを埋め尽くしたファンから「待ってました!」といわんばかりの拍手、指笛が飛びます。
メンバー全員が心から音楽を楽しみ、それをオーディエンスとわかちあおうとしているのが伝わってきます。この“気のおけなさ”に、フランスのサルコジ大統領もノックアウトされたのでしょう。
もちろん「BAMBOLEO」、「DJOBI DJOBA」、「VOLARE」はプレイされますが、そうした大定番はむしろアッサリと奏でられ、新たなレパートリーが増えているのも今回の公演の特徴です。皆さんきっと御存知の、あのイーグルスの大ヒット「HOTEL CALIFORNIA」も見事、チコ&ザ・ジプシーズ風にリメイクされていますのでお楽しみに。結成から約20年、彼らの前進はまだまだ続きます。
(原田 2010 10.31)
● 10.31sun.-11.3wed.
CHICO & THE GYPSIES