BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , TRAINCHA - - report : TRAINCH...

2010/06/15

TRAINCHA-トレインチャ
TRAINCHA-トレインチャ

- report : TRAINCHA @ COTTON CLUB


オランダの歌姫、トレインチャが昨日「コットンクラブ」に出演しました。そして本日から「ブルーノート東京」での公演が始まります。
アイスランドの火山噴火により延期されていた来日公演が遂に実現したわけです。プログラムは、彼女が幼い頃から憧れていた(同じステージに立った経験もあります)マイケル・ジャクソンのソングブックで埋め尽くされました。

マイケルが突如、旅立ったのは2009年6月25日のことです。結果的にこのライヴは、もうすぐ1周忌を迎える“キング・オブ・ポップ”への最上級のオマージュになりました。トレインチャの卓越した歌唱力に浸りながら、マイケルの巨大な存在感に思いを馳せ、時には手拍子をとったり、バンドと一緒にメロディを口ずさんだり。すべてのお客さんが、「マイケルが亡くなってもう1年になるのか・・・」という感慨を抱いたのではないでしょうか。当初、このライヴは4月に開催される予定でしたが、ぼくはこうも思っています。どこか遠いところからマイケルが魔術を使って、この公演を1周忌直前に行なわれるように“延期させた”のではないか、と。

マイケルに捧げたステージときくと、どうしても絢爛豪華なステージを想像してしまいます。しかし、トレインチャは驚くほどシンプルなバッキングを得て、名曲の数々を歌いあげました。楽器をプレイするのは、アコースティック・ギターのレオナルド・アムエドただひとり。ほかには3人の女性コーラスがいるだけです。トレインチャはMCでこう言っていました。「レオナルドはギター、ベース、ドラムスをすべて表現できるんです」。
ヴォーカル陣の見事なハーモニーもさることながら、レオナルドの魔術のようなプレイも、ライヴの大きな見どころといえましょう。

「で、トレインチャはどんなマイケルの曲を歌ったの?」という質問がきそうなところですが、これはあえてシークレットにしたほうが、クラブに足を運ぶ喜びも倍増するというものです。みんなが知っている曲、いつか聴いたことがある曲、白熱のダンス・ナンバーから必殺のバラードまでが次々と、トレインチャのタッチに彩られて登場します。レオナルドを含む5人全員で歌うアカペラ・ナンバーもありますよ。お楽しみに!
(原田 2010/6/14)

● BLUE NOTE TOKYO 公演
6.15tue.-6.16wed.
TRAINCHA


〜・〜プロフィール・原田和典 〜・〜
1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。
オフィシャル・ブログ :
http://haradakazunori.blog.ocn.ne.jp/



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 - - report : "To Gro...

2010/06/12

ザ・ミュージック・オブ・グローヴァー・ワシントンJr.-The Music of Grover Washington Jr.
ザ・ミュージック・オブ・グローヴァー・ワシントンJr.-The Music of Grover Washington Jr.

公演初日リポート:Celebrating The Music of Grover Washington Jr.
"To Grover with Love"



ミュージック・シーンの“裏方”として絶大な信頼を得るキーボード奏者&プロデューサーが、今から10数年前に亡くなったサックス奏者のレパートリーを演奏する。
もちろんその“裏方”がジェイソン・マイルスで、サックス奏者がグローヴァー・ワシントンJr.なのですから、充実したプログラムにならないわけがありません。しかし、この来日が発表されたとき、正直言ってぼくはこうも思いました。

「これはまた、ずいぶん渋いステージだな。ジェイソンは、日本ではまだ有名ミュージシャンになろうとしている途中だし、若いリスナーはグローヴァーの現役時代を知らないはずだ。お客さんがいっぱい来てくれるといいけれど」。
ぼくの余計な思いは、クラブに入った瞬間に杞憂となりました。超満員の大熱狂です。演奏の高まりにあわせるように、観客がグワッと盛り上がります。オーディエンスが、バンド・メンバーの一員となったかのように一体化しています。

ぼくは「ジェイソン、グローヴァー、ごめんなさい」と、ただちに考えを改めました。ジェイソンはすでにここ日本で十分な人気アーティストであり、グローヴァーの音楽はしっかり受け継がれ、聴き継がれていました。このライヴにつめかけた幅広い客層や、イントロが飛び出すだけで湧き上がる拍手と声援に接して、それをはっきり認識しました。

サックスは、エリック・ダリウス(グローヴァーの死と入れ替わるようにシーンに登場しました)と、アンディ・スニッツァーが担当しました。ふたりとも決してグローヴァーのコピーをせず、自分のスタイルを貫いていたのも好感が持てました。メタル・マウスピースを使って鋭い音でブロウするエリックのアルト・サックス、細かいフレーズを使いながら次第に“アウト”していくアンディのテナー・サックス、どちらも「すがすがしい」という言葉がピッタリのパフォーマンスでした。スペシャル・ゲストのラルフ・マクドナルドは決して派手なプレイをしませんでしたが、ステージの後方に彼の姿があるだけでバンド全体の重心が下がるような気がします。ラルフとバディ・ウィリアムスがリズムを引き締めてくれるから、サックス奏者もジェイソンもギター奏者のニック・モロックも、奔放に演奏できるのでしょう。

これまでジェイソンは『グローヴァー・ワシントンJr.・トリビュート』、『イヴァン・リンス・トリビュート』、『ウェザー・リポート・トリビュート』等のアルバムを発表しています。しかしこれはみんな邦題、英文タイトルにはトリビュートのトの字もありません。かわりに記載されているのはLoveやCelebratingといった単語。この日のジェイソンたちはたしかに、偉大なるグローヴァーの音楽をいっぱいの愛と共にセレブレイトしていました。
(原田 2010/06/11)




● 6.11fri.-6.14mon.
Celebrating The Music of Grover Washington Jr.
"To Grover with Love"
starring Jason Miles, Andy Snitzer, Eric Darius, Nick Moroch, Gerald Veasley & Buddy Williams with special guest Ralph MacDonald

ザ・ミュージック・オブ・グローヴァー・ワシントンJr.-The Music of Grover Washington Jr.


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , RICHARD GALLIANO - - report : RICHARD...

2010/06/07

リシャール・ガリアーノ-RICHARD GALLIANO
リシャール・ガリアーノ-RICHARD GALLIANO


公演初日リポート:RICHARD GALLIANO FRENCH TOUCH TRIO



“1秒たりとも聴き逃せない”とは、こういうステージに対して使う表現なのだと思います。
溢れんばかりの美しすぎるメロディ、メロディ、メロディ。そして奥行きのあるハーモニーとリズム。そこにユーモアと洒落た風格(これが本物のエスプリというものなのでしょう)が加わった世界は、まさしくワン&オンリー。万雷の拍手に包まれながら高揚した面持ちでステージを降りるリシャール・ガリアーノに、ぼくは“ブラボー、マエストロ!”と声をかけたくなりました。

ガリアーノが演奏するのはボタン式アコーディオンです。大抵のアコーディオン奏者は椅子に座ってプレイします。しかしガリアーノは、楽器をより心臓(ハート)に近づけるかのように、楽器を抱えながら立って演奏します。アコーディオンはもともと大変に形状の美しい楽器です。それがガリアーノの手にかかると、魔法の道具にも変化します。すべての指が自由自在に楽器の上を動き、すべての音が彼の“声”となって客席に伝わります。ボタン式鍵盤は遠目から見ると真珠のようにキラキラと光っています。

もちろん“フレンチ・タッチ・トリオ”の構成員であるギターのジャン・マリー・エカイ、ベースのジャン・フィリップ・ヴィレも密度の濃いプレイを聴かせてくれました。ヴィレはコントラバス・アンサンブル“オルケストラ・ド・コントラバス”での超絶的なアルコ(弓弾き)でも知られていますが、この日はピチカート(指弾き)を中心に痛快にスイングしていました。エカイはフュージョンもロックも何でもこなす奏者ですが、この日はアコースティック・ギターに専念し、ロマンティックなプレイでガリアーノのアコーディオンを引き立てておりました。

ステージはトリオ演奏のほか、ギターやベースとのデュオ、無伴奏アコーディオン・ソロ、口笛とのユニゾン、そして“歌口のついたそろばん”と形容したくなる珍しい楽器=アコーディーナによるパフォーマンスなど、多彩な内容で構成されていました。ガリアーノは、あのアストル・ピアソラにも賞賛された巨匠です。もっと偉そうに振舞っても、誰も文句のいえないレベルに達した存在です。しかし彼は本当に謙虚そのもの、オーディエンスひとりひとりの心に届くように誠心誠意、演奏します。

実をいうとぼくがガリアーノのライヴに接したのはこれが初めてです。何度か来日している人気アーティストなのに、なぜか生を見る縁がなかったのです。だけど今回、ステージを体感できて本当によかった。ますますガリアーノの音楽が好きになりました。こういうことがあるから、ライヴ・ウォッチングは本当にやめられません。公演は10日まで続きます。皆さんもぜひ、ガリアーノの魔術に酔いしれてください!
(原田 2010/6/7)

 
● 6.7mon.-6.10thu.
RICHARD GALLIANO FRENCH TOUCH TRIO


リシャール・ガリアーノ-RICHARD GALLIANO


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , MIKE STERN , RICHARD BONA - - report : MIKE ST...

2010/06/02

マイク・スターン-MIKE STERN
マイク・スターン-MIKE STERN


公演初日リポート:MIKE STERN BAND
featuring RANDY BRECKER,RICHARD BONA & DAVE WECKL


マイク・スターン、ランディ・ブレッカー、リチャード・ボナ、デイヴ・ウェックル。
コンテンポラリー・ジャズ・シーンを代表するスター4人が一同に会し、ブルーノート東京のステージに立っています。昨日から始まった公演は6月6日(日)まで、オフ日なしで全12セット行なわれます。「全部、見に行くぞ!」と気合満々のギター・フリークもいらっしゃるとのこと。どれだけ多くのファンが彼らのライヴを待ち望んでいたかがわかろうというものです。

特に今回、ボナとマイクの再会がここ東京で実現したことは大きな話題になることでしょう。いまやバンド・リーダー、シンガー・ソングライターとしても絶大な人気を誇るボナですが、最近の活動に対して“もっとベースを弾きまくってくれたらいいのに”という気分になっていたのは、多分ぼくだけではないと思います。その点、今回の公演は思いっきり溜飲を下げてくれます。いちベーシストに徹したリチャード・ボナの底力を、強力に思い知らせてくれるのです。ぼくが拝見した初日のファースト・セットは、「TUMBLE HOME」、「KT」など近年のマイクのライヴでは定番のレパートリーが中心でしたが、ボナがベースを担当すると、サウンドがより躍動的になると共に、なんともいえないポップな感触も出てきます。マイクが弾いたフレーズをすぐさまボナがベース・ラインに取り入れ、それをまたマイクがアドリブに応用するというシーンもあって、「ふたりは本当に息が合っているんだなあ」、「すごく幸せそうにプレイするなあ」と思いながら、彼らの再会セッションに立ち会う喜びを味わいました。

それに加えて、“天使の歌声”と評されるボナのファルセット・ヴォイスにスポットを当てたナンバーも、しっかり登場します。ループ・サンプラー等のエフェクターを活用した“ひとり合唱団パフォーマンス”は、いつ見ても本当に手品のようです。
もちろんランディ・ブレッカー、デイヴ・ウェックルも百戦錬磨の腕達者ぶりを披露。4人全員を目当てに聴きに行っても、誰か一人のミュージシャンに的を絞って出かけても、期待以上の興奮があなたを迎えてくれることでしょう。
(原田 2010/6/1)


●6.1tue.-6.6sun.
MIKE STERN BAND
featuring RANDY BRECKER, RICHARD BONA & DAVE WECKL

マイク・スターン-MIKE STERN


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , FIVE CORNERS QUINTET - - report : FIVE CO...

2010/05/30

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report : FIVE CORNERS QUINTET


この5月に最新ライヴ・アルバム『Jazz Heat, Bongo Beat! -The Helsinki Sessions-』が発売されたばかり。文字通り“今が旬”のバンド、ファイヴ・コーナーズ・クインテットがブルーノート東京に帰ってきました。

スタジオ録音ではスタイリッシュかつファッショナブルなサウンドで魅了する彼らですが、ステージに立つと牙を剥きだしにした狼へと変貌します。アドリブは渦を巻き、グルーヴ感も急上昇。1曲あたりの演奏時間も長くなり、ときには組曲的といえるほどドラマティックな展開をみせます。次々と飛び出す火を噴くようなソロに接すると、「これこそライヴの醍醐味!」と興奮せずにはいられません。

特定のリーダーはいないようですが、まとめ役はMCも兼ねたテッポ・マキネンでしょうか。彼のドラム・セットは、いまどきありえないほどシンプルです。シンバルは鋲のついたもの(シズル・シンバルといいます)1枚しかありません。しかしそのサウンドは多彩です。スティック、マレットを自在に使い、ハイハットの上に小型のタンバリンをおき、タムの縁を叩き、シェイカーを振り、全身でリズムを打ち出します。「‘50〜'60年代のモダン・ジャズに思いを馳せながらも、決してその焼き直しではない」グループの音作りに、彼のドラムスが大きく貢献していることはいうまでもありません。

マイケル・ブレッカー的なベンド・フレーズ(音程を段階的に変化させる)を効果的に用いたティモ・ラッシーのテクニシャンぶりは、ライヴで見るとインパクト倍増。ユッカ・エスコラのトランペットとの音色のブレンドも絶妙です。トリビュート・アルバムを出すほど故フレディ・ハバードを敬愛しているユッカですが、この夜の彼はまるで往年のフレディが乗り移ったかのように情熱的でした。ユッカは1978年生まれですから今年で32歳。最も“ラッパが良く鳴る”時期に突入しているようです。

大入袋が出そうなほど満員だった場内には、1曲終わるごとに巨大な喝采が轟きました。ワールド・デビューから5年、ファイヴ・コーナーズ・クインテットの成長と躍進は留まるところを知りません。
(原田 2010/5/30)


●5.29sat.-5.31mon.
FIVE CORNERS QUINTET


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