BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , BRANFORD MARSALIS - - report : BRANFOR...

2010/03/06

ブランフォード・マルサリス-BRANFORD MARSALIS
ブランフォード・マルサリス-BRANFORD MARSALIS


公演初日リポート:BRANFORD MARSALIS


一部の隙もない、緻密に構築されたオリジナル曲を演奏する。メンバーを長期間一定し、徹底的にトレーニングを繰り返しながら、バンド固有の世界をストイックにまとめあげていく。

ぼくはブランフォード・マルサリスに対して、そんなイメージを持っています。しかし初日は、レギュラー・ピアニストであるジョーイ・カルデラッツォの来日が遅れ、急遽、片倉真由子が代役を務めることになりました。彼女はバークリー音大とジュリアード音楽院に学び、ケニー・バロンに師事したこともあるそうですが、猛烈な技巧と集中力を必要とするブランフォード・バンドのオリジナル曲を一朝一夕にこなすことは、どんな優秀な奏者でも難しいと思います。したがってぼくの見たファースト・セットは、スタンダード曲を中心にした、いささかジャム・セッションな内容でした。

でも、これがいいのです。'80年代にデビューした頃は、アルバムにけっこうスタンダード曲を入れていたブランフォードですが、ここ十数年のCDはほとんどオリジナル曲ばかりでした。だからこの日、ぼくは思わぬ贈り物をいただいたような気持ちで、「STARDUST」、「OUR LOVE IS HERE TO STAY」などを味わいました。

それにしてもブランフォードの音色は本当に豊かです。彼がサックスを生音で吹くと、クラブ全体を包むような鳴りが生まれます。ぼくは何度か彼のライヴを聴いていますが、そのときの印象は逆でした。ものすごく音量を絞った、線の細い演奏をするなあと思ったものです。しかしこの日のブランフォードは豪放磊落、太く豊かな音色で歌心に富んだフレーズをガンガン出してくれます。「TEO」、「52ND STREET THEME」、「EVIDENCE」、「STRAIGHT NO CHASER」とセロニアス・モンクの楽曲が目立ったのも印象的でした。

エリック・リーヴスは‘これぞジャズ・ベース!’と呼ばずにはいられなくなる重厚な音を出し続け、新進ジャスティン・フォークナーのドラムスは驚嘆のひとことに尽きるものでした。今回の公演をごらんになる方は皆、‘誰だ、あのすごいドラマーは?’と目を丸くするに違いありません。フィラデルフィア出身のジャスティンは、地元の重鎮であるオディーン・ポープ(テナー・サックス)、ジャマラディーン・タクーマ(ベース)等と共演後、2009年春ブランフォード・バンドに参加しました(同年6月にはモスクワ公演をおこなっています)。そのとき18歳でしたから、今は19歳でしょうか。といっても年齢の若さは実のところ大した問題ではありません。というのは、世界一流のジャズマンのほとんどは、おそくて8〜9歳、早くて2〜3歳から楽器になじみ、ひとまえで演奏しているからです(オリンピックのゴールド・メダリストが、幼児の頃からトレーニングしているのと同じです)。

それにしても90年代生まれの生きのいいジャズマンが出てきたのは本当にうれしいことです。かつてアート・ブレイキーやハービー・ハンコックに育てられたブランフォードが今、ジャスティンを育てている。ジャズの歴史はこうやって発展していくのです。
(原田 2010 3/6)



● 3.5fri.-3.9tue.
BRANFORD MARSALIS

ブランフォード・マルサリス-BRANFORD MARSALIS


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , JANE MONHEIT - - report : JANE MO...

2010/03/02

JANE MONHEIT-ジェーン・モンハイト
JANE MONHEIT-ジェーン・モンハイト



公演リポート : JANE MONHEIT @ COTTON CLUB


「ブルーノート東京」には本日までロバータ・ガンバリーニが出演していますが、明日からはジェーン・モンハイトがステージに立ちます。現代ジャズ界を代表する2大実力派若手女性シンガーを立て続けに見聴きできるとは、本当に嬉しいものです。

さて、そのジェーンが、ブルーノート出演に先駆けて、3月1日に「コットンクラブ」でライヴを行ないました。3月3日の訪れが待ちきれないぼくは、先回りして彼女のライヴを聴いてきました。

毎年のように来日している人気者のジェーンですが、「コットンクラブ」に立つのは今回が初めて。“まるで宝石箱の中にいるみたいね”といいながら、見事なヴォイス・コントロールでため息もののパフォーマンスを繰り広げてくれました。

実をいうとこの公演は、多少のハプニングに彩られておりました。ジェーンの夫でドラマーのリック・モンタルバーノが高熱で倒れ、演奏不能になってしまったのです。したがってステージはジェーンと、マイケル・ケイナン(ピアノ&フェンダー・ローズ)、ニール・マイナー(ベース)の3人で進みました。

しかし、これがまた良かった。ジェーンの見事な歌唱が、“ドラムレス”という、非常に歌い手にとっては難しい編成によって、さらに際立ったといえばいいのでしょうか。昨年ライヴを聴いたときにも、「ああ、うまい歌手だなあ!」と思ったのですが、彼女は来るごとにスケールを増しているような気がします。いったいどこまで成長するのか、ジェーンの未来は限りなく明るいといえましょう。

レパートリーはアメリカン・スタンダード・ナンバー(コール・ポーター、ジョージ・ガーシュイン他)、ブラジリアン・ナンバー(アントニオ・カルロス・ジョビン、イヴァン・リンス)、ジャズメン・オリジナル(サー・チャールズ・トンプソンの「ロビンズ・ネスト」。ワーデル・グレイのアドリブに、アニー・ロスが詞をつけた「トゥイステッド」)、ヨーロッパ曲(シャンソンの「残されし恋には」)で構成されておりました。ポーターやジョビンの楽曲はロバータも歌っていましたね。こうした選曲が、ニューヨークを拠点とする若手ジャズ・シンガーの典型なのでしょう。ブラジル曲もシャンソンもすべて英語詞で歌っていましたが、これは「自分にとって最も親しみのある(意味のわかっている)言語で歌詞を伝えたい」というジェーンの高いミュージシャンシップのあらわれだとぼくは解釈しています。

「リックは演奏できないことを本当に申し訳なく思っていますが、ブルーノート公演までには全快していると思います。ぜひまた私たちの音楽を楽しみに来てくださいね」とMCで語っていたジェーン。明日から、4人揃ってのステージが繰り広げられるはずです。
(原田 2010/3/1)




● JANE MONHEIT
3.3 wed. - 3.4 thu. Blue Note Tokyo



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , ROBERTA GAMBARINI - - report : ROBERTA...

2010/02/27

ロバータ・ガンバリーニ-ROBERTA GAMBARINI
ロバータ・ガンバリーニ-ROBERTA GAMBARINI


公演初日リポート:ROBERTA GAMBARINI


ぼくがロバータ・ガンバリーニのライヴに接するのは、これで3回目です。
最初に見たときはスライド・ハンプトンが指揮するディジー・ガレスピー卒業生ビッグ・バンドに、次に見たときはロイ・ハーグローヴ・ビッグ・バンドにゲスト・シンガーとして参加していました。そのとき受けた印象は、“とにかくパワフルな歌い手である”、ということ。ビッグ・バンドに勝るとも劣らない迫力で、からだ全体をフルに使って歌っていました。スキャットに圧倒されたことを鮮やかに思い出します。

しかし、リーダーとしては初めての「ブルーノート東京」出演となる昨日のステージを聴いて、ぼくは“自分はロバータの魅力の、ほんの一部しか知らなかったんだなあ”と反省、改めてその実力に驚嘆いたしました。以下、ぼくが感じたところを記させていただきます。


1) リズム感が抜群
アカペラでワン・コーラスを歌いきった「SO IN LOVE」に、まず引きずり込まれました。この曲は構造が凝っているし、長い音符が多いので、その音符の取り方が不十分だとすぐにテンポが“走って”しまいます。しかしロバータはスロー・テンポを保ちながら、フェイクを控えて、一語一語を語りかけるように聴かせてくれました。「OUR LOVE IS HERE TO STAY」はミディアム・テンポとスロー・テンポの間をとったような、ものすごく微妙なテンポで歌われましたが、この速度で、しかも抜群のスイング感をかもし出せる現役シンガーをぼくはロバータ以外に知りません。

2) ヴァースを重視
ヴァース(Verse)とは、スタンダード・ナンバーにおける“前置き”というべきパート。省略される場合も多いのですが、ぼくは“ヴァースを粗末にする歌手は歌への愛に欠けている”と思います。その点、ロバータは“ヴァースも含めてひとつの曲”と考えているようで、美しいヴァースをたっぷり聴かせてくれました。「DEEP PURPLE」のヴァースは、ことに絶品でした。

3) マイクの使い方が巧み
ロバータは大変声量があり、音域の広いシンガーです。しかし楽曲はせいぜい1オクターヴ超、広くても2オクターヴの間で作られています。自分の声のいちばん響くところを熟知したうえで、それをどうオーディエンスに届けるか。それを彼女は留意しているのでしょう、非常に細やかにマイクと口の距離を調整しておりました。マイク込みで自分の声なのだと、考えているのだと思います。

4) ディクション
歌詞は韻を踏んで作られています。フレーズの語尾をどれだけしっかり発音するかで曲中のリズム感に強弱がつきます。ロバータは母音と子音のコントラストを強めにして、躍動感を際立たせます。フランク・シナトラやビリー・ホリデイがそうであったように、どんな小さな子音もおろそかにはしません。イタリア出身である(米語を母国語としない)彼女が、これほどアメリカン・スタンダード・ソングスを自分のものとするまでには、血のにじむような努力があったことでしょう。

5) 先達への敬意
MCでは先ごろ亡くなったドラマー、ジェイク・ハナについて触れておりました。また、サックス奏者ジョニー・グリフィンの書いた「THE JAMFS ARE COMING」に詞をつけて歌っておりました。この曲はもともとインストゥルメンタル・ナンバーで、知っているひとは相当マニアックな部類に入ります。こうしたレパートリーひとつとっても、ロバータがヴォーカルという分野にとどまらず、広くジャズ全体に視野を広げていることを示しています。


とにかくロバータは、とかくなおざりにされがちな、こうした基礎をパーフェクトにこなしています。ゆるぎない土台があるからこそのスキャットであり、フェイクなのです。失恋の歌(トーチ・ソング)では全身に悲しみをにじませ、恋の喜びを歌うときは表情が少女のようにときめきます。

サポート・メンバーには“歌伴の権威”が集まっておりました。エリック・ガニソンは、長く故カーメン・マクレエの伴奏を担当していたピアニスト。ソロ・パートでは玉を転がすような単音を鳴らし、歌のバックではリッチな和音を絶妙なタイミングで放ちます。現在最高峰のヴォーカル・サポーターといっても過言ではないでしょう。ベースのニール・スウェインソンは、ジョージ・シアリング、ジーン・ディノヴィといった“歌を知る”大ベテラン・ピアニストから絶大な信頼を受けている名手。故メル・トーメ、故ジョー・ウィリアムスといった伝説的シンガーのサポートも経験しています。ドラムスのアルヴィン・アトキンソンの名前は不勉強にして初めて知りましたが、歌に寄り添うようなプレイは見事というしかありません。バス・ドラム(足で踏む大太鼓)のチューニングも、非常に美しいものでした。

とにかくぼくはロバータの底力にノックアウトさせられました。そしてサポート陣の演奏に聴きほれました。公演は3月2日まで続きます。ヴォーカル・ファンはもちろん、ジャズ・ヴォーカリストを志望される方にも見ていただければ、と思います。
(原田 2010/2/27)



● 2.27sat.-3.2tue.
ROBERTA GAMBARINI


ロバータ・ガンバリーニ-ROBERTA GAMBARINI


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , ROY HARGROVE - - report : ROY HAR...

2010/02/24

ロイ・ハーグローヴ-ROY HARGROVE
ロイ・ハーグローヴ-ROY HARGROVE


公演初日リポート:ROY HARGROVE QUINTET


人気トランペッター、ロイ・ハーグローヴの公演が昨日から始まっています。2009年6月以来、約8ヶ月ぶりの再登場です。やや短めのスパンですが、つまりそれはいかに彼のステージが待ち望まれていたか、ということでしょう。

オリジナル曲からスタンダード・ナンバーまで、バラードから4ビート・ジャズ、ファンク的なものまで多種多彩なプログラムで楽しませてくれるのがロイのライヴです。何が飛び出すかわからない、そこも大きな魅力なのですが、ぼくが見た初日のファースト・セットでも、彼は大きな驚きをもたらしてくれました。
1950〜60年代のブルーノート・レーベルで大活躍したミュージシャンたちの、古典的なナンバーに新たな光を与えたのです。

デューク・ピアソンの「THE FAKIR」のような渋い曲を、ロイはどこで見つけてきたのでしょう。ピアソンといえばブルーノートを代表するピアニスト、アレンジャーであり、プロデューサーとしても活躍したことがあります(ハービー・ハンコックの『SPEAK LIKE A CHILD』は、彼のプロデュースです)。しかし「THE FAKIR」は、ピアソンがブルーノートを離れ、一時的にアトランティックに吹き込んでいた頃のアルバム『PRAIRIE DOG』に収められていた曲です。エキゾチックといいましょうか、ファンキーといいましょうか、ちょっとたそがれた雰囲気の曲調に、ロイのトランペットが見事に調和します。

後半ではホレス・シルヴァーの「KISS ME RIGHT」を聴かせてくれました。作者本人の演奏はブルーノート盤『DOIN’ THE THING』に収められています。シルヴァーの代表作といえば「SONG FOR MY FATHER」、「NICA’S DREAM」等がよく知られていますが、あえてこの曲に目をつけるロイはさすがです。

エンディング・テーマ前に演奏された「LOW LIFE」は、伝説のトランペット奏者ドナルド・バードの曲。バードの代表作『FUEGO』に入っていたナンバーですね。往年のジャズの熱気を象徴するようなファンキー・チューンですが、ロイは颯爽と、現代によみがえらせてくれました。さらに嬉しかったのは、ベース・ソロが終わり、エンディング・テーマに戻る前に、ロイが、やはり伝説のミュージシャンであるソニー・クラークの隠れ名曲「VOODOO」のメロディを引用していたことです。彼がいかに先輩ミュージシャンの音楽を研究しているか、こんなところからもわかります。伝統への敬意なしに真の前進はありえない、ということなのでしょう。

なんだか長々とウンチクを傾けてしまいましたが、とにかくロイは今も成長を続けています。彼の最新クインテットによるパフォーマンスを、存分にお楽しみください。
(原田 2010/2/23)


●2.23tue.-2.26fri.
ROY HARGROVE QUINTET

ロイ・ハーグローヴ-ROY HARGROVE


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , HANK JONES - - report : HANK JO...

2010/02/18

ハンク・ジョーンズ-HANK JONES
ハンク・ジョーンズ-HANK JONES


公演初日リポート:HANK JONES "THE GREAT JAZZ TRIO"



こんなにうれしそうにピアノを弾くひとを、ぼくは他に知りません。

現役ミュージシャン生活が70年を超えている大ベテランなのに、飽きるほどピアノという楽器を弾き続けているはずなのに、それでも彼は、本当に幸せそうに、誤解を恐れずに言えばお気に入りのおもちゃで遊ぶように、楽器と戯れているのです。

巨匠、ハンク・ジョーンズが今年も日本のファンに元気な姿を見せてくれています。1曲ごとにMCをはさみ、観客の声援に笑顔でこたえながら、色とりどりのレパートリーを楽しませてくれます。
“さまざまなタイプのジャズに適応できる、類稀な柔軟性の持ち主”といわれて久しいハンクですが、ぼくは彼をあくまでもスイング系のピアニストだと認識しています。もっとマニアックな言い方を許していただけるなら、ジミー・ジョーンズやエリス・ラーキンスと同じラインに位置するスタイリストだと思っています。ぼくにとってハンクのライヴの楽しみは、どんな歌もの(もともとミュージカルや映画で、ヴォーカル・ナンバーとして発表された曲。もしくはポピュラー・シンガーが創唱した曲)を取り上げてくれるのか、という点につきます。初日のファースト・セットでは「MY FOOLISH HEART」、「DARN THAT DREAM」などを演奏してくれましたが、とにかく絶品という言葉しか浮かびません。その曲と共に歴史を歩んできたアーティストならではのコク、深みが一音一音に反映されているのです。

コールマン・ホーキンス、チャーリー・クリスチャン等、数多くのミュージシャンが名演を残した「STOMPIN’ AT THE SAVOY」が聴けたのも嬉しかったですね。40年代や50年代にはよく演奏されたのに、最近では殆ど省みられることがない曲を、ハンクは見事、こんにちに蘇らせてくれました。スロー・テンポとミディアム・テンポの中間というのか、非常に微妙なテンポで、ゆったりとスイングするピアノ・タッチが実に素敵でした。

残念ながら、ハンクがこよなく敬愛するデューク・エリントンのナンバーは聴けませんでしたが(ハンクが弾く「PRELUDE TO A KISS」など、工芸品の趣です)、それは別の日に堪能できることでしょう。
なにしろ何千曲ものレパートリーを持つハンクです。全ステージが“名曲の宝庫”になることは間違いありません。
(原田 2010/2/20)


● 2.17wed.-2.22mon.(2.21sun.OFF)
HANK JONES "THE GREAT JAZZ TRIO"

ハンク・ジョーンズ-HANK JONES


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