BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 大江千里 - - report : SENRI O...

2012/10/15

大江千里 - SENRI OE
大江千里 - SENRI OE


公演初日リポート:
SENRI OE QUINTET


音楽界広しといえども、シンガー・ソングライターからピアニストへの道を歩み出したミュージシャンは数少ないと思います。‘80〜’90年代にJポップ(当時はニュー・ミュージックと呼ばれていましたが)の世界で数々の大ヒットを放ち、映画やテレビ・ドラマにも出演。多くのビッグ・スターの楽曲提供やプロデュースも手がけた大江千里がジャズ・ピアニストを目指して単身ニューヨークに渡ったのは2008年のことです。

名門校ニュー・スクールで学び、様々なセッションを経験しながら、その成果をアルバム『Boys Mature Slow』に注ぎ込みました。今回 のステージは、そのショウケース・ライヴというべき内容でした。1曲ぐらい歌ってくれるかなと思ったのですが、すべてインストゥルメンタル。今回はあくまでもピアニストとしての自分を聴いてほしい、ということなのでしょう。

プログラムは彼の自作で構成されました。とはいえ、それはポップスを歌っていた頃の楽曲とは、趣が異なります。ぼくは「PONTE VECCHIO BRIDGE MELANCHOLIA」にビリー・ストレイホーン 「チェルシー・ブリッジ」のエコーを感じ、「SAND WISH」を聴いたときにはアントニオ・カルロス・ジョビン「ビボ・ソニャンド」を思い出しました。「HIGHLINE BASH」は、ウェイン・ショーター「ブラック・ ナイル」を大江千里のセンスで再解釈したかのようです(もちろん、これらは個人的な印象でしかないことをお断りしておきます)。

アメリカに渡った彼は、相当多くのジャズ・ナンバーを聴きこみ、分析し、研究したのでしょう。ピアノのハーモニーやアタックに関しては、ホレス・シルヴァーに相当、傾倒しているように感じられました。

ソリストではトランペットのジョナサン・パウエルが光っていました。これまでJTテイラー、Qティップ、サム・リヴァース、スヌープ・ドッグらと共演、稀代のサックス奏者ジョン・イラバゴンを含む自身のグループも率いている逸材です。音の艶、張り、歌心、すべていうことなし。大江千里は、本当に素敵な仲間を得たのだと思います。
(原田 2012 10.14)


● 10.14sun.-10.15mon.
SENRI OE QUINTET



大江千里 - SENRI OE


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , JOHN SCOFIELD - - report : JOHN SC...

2012/10/11

ジョン・スコフィールド - JOHN SCOFIELD
ジョン・スコフィールド - JOHN SCOFIELD


公演初日リポート:
JOHN SCOFIELD TRIO
featuring STEVE SWALLOW & BILL STEWART


ジョン・スコフィールドといえば「ライヴの達人」。そんな印象が、個人的にあります。初期の大傑作である『ライヴ』(‘77年)に始まり、『シノーラ』、『アウト・ライク・ア・ライト』(以上‘81年)、『ピック・ヒッツ』(‘87年)、比較的最近では『アンルート』(2003年)などなど、熱心なオーディエンスを前にしたジョンのプレイは格別です。しかも今回の公演は、重鎮スティーヴ・スワロー(ベース)、今やすっかりベテランの仲間入りを果たした名手ビル・スチュアート(ドラムス)とのトリオ。つまり『アンルート』と同じメンバーによるセッションなのですから、期待は高まるばかりです。

オープニングは「HOW DEEP」。ビル・エヴァンス他も演奏したスタンダード・ナンバー「HOW DEEP IS THE OCEAN」のコード進行に沿ったナンバーです。あらゆるジャズメ ンに掘りつくされてきたといっても過言ではない素材ですが、そこに新鮮味を加えるのはジョンの得意とするところ。ちょっと濁った音、粘っこいフレーズで、彼以外の誰にも真似のできない世界をつくりあげてしまいます。愛器をピックで淡々と弾くスティーヴ、シンプルなドラム・セットから驚くほどカラフルな音を出すビル、皆がこのトリオでの演奏を心から楽しんでいることが伝わってきます。

3人はまた、チャーリー・パーカー作「CONFIRMATION」、やはりスタンダード・ナンバーである「YOU’VE CHANGED」といった古典も演奏しました。後者をとりあげたのは、「ビ リー・ホリデイの歌う同曲に感銘を受けたから」とのことですが、ジョンは決して過去のジャズ・ギタリストのようにプレイしません。ループを巧みに活用しながら、なんとも深みのある、そしてとことん新鮮なバラードを楽しませてくれました。

女流ピアニスト/作曲家のカーラ・ブレイが書いた「LAWNS」は近作『ア・モーメンツ・ピース』でも演奏されていましたが、このトリオの手にかかると、楽想がさらに拡がります。ちなみにスティーヴはカーラの伴侶でもあります。そのためかここでは彼の美しいベース・プレイが大きくフィーチャーされました。近年のスティーヴはCitron AE5という楽器を使っていますが、「エレクトリックとアコースティックの究極の融合を目指した」といわれるサウンドはジョンのギターと融合し、信じられないほど絶妙な音のブレンドを生み出していました。

公演は13日まで行なわれます。どうやらレパートリーは各セット、大いに異なるようです(初日セカンド・セットでは、あの「EIDERDOWN」も演奏されたとか)。世界トップのギター・トリオを、ぜひライヴでご堪能ください!
(原田 2012 10.10)


● 10.10wed.-10.13sat.
JOHN SCOFIELD TRIO
featuring STEVE SWALLOW & BILL STEWART
☆ 参考:セットリストはこちら


ジョン・スコフィールド - JOHN SCOFIELD


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 日野皓正 - - report : TERUMAS...

2012/10/09

日野皓正 - TERUMASA HINO
日野皓正 - TERUMASA HINO


公演初日リポート:
TERUMASA HINO h FACTOR


ただ前だけを向き続ける男、それが日野皓正です。半世紀に及ぶキャリアの中でその都度、時代のトレンドを吸収して、彼ならではの音楽を創りつづけてきました。約1年ぶりの「ブルーノート東京」公演となる今回は、DJ HONDAらと組ん だ“h FACTOR”での登場。目下の最新作『アフターショック』からさらに発展・前進した、アフター『アフターショック』というべき世界を楽しませてくれました。

ステージには左からピアノ、ギター、コントラバス、DJ、エレクトリック・ベース、ギターの各奏者が並びます。こういう編成のバンドは、ほかにないでしょう。そのサウンドはときには大都会のビル群を思わせ、かと思えば果てしない密林を想像させます。「うわ、ファンキーだな」と思った次の瞬間に、とんでもなく抽象的で尖った音が飛び出してくることもあります。
彼らを背にして日野皓正は奔放にトランペットを吹き、パーカッションを叩き、ときにホラ貝をブロウします。そのフレーズ、タイミングはまったく予想がつきません。

説明するでもないですが日野皓正といえば世界的なトランペッターで、ファッション面も含めて日本にジャズのかっこよさを広めた第一人者でもあります。しかしその演奏に、「セレブ感」はありません。まるで新進ミュージシャンのように懸命にプレイし、バンドを煽ります。

この日は新曲に交えて2008年のアルバム『寂光』に入っていた「FUNAKURA」も取りあげられましたが、よほど熱心なファンでも、それに気づいたひとは少ないのではないでしょうか。曲の切れ目(拍手するところ)はいくつかありましたが、ぼくにはすべてのレパートリーが、“この日、はじめて作られた壮大な組曲”に聴こえました。

日野皓正はMCで、このようなことをいいました。「古典的なジャズを楽しみにしてきたひとは、“なんだこれ”というかもしれない。でも自分も70歳。古典をコテンコテンにして、残りの人生は新しく生まれるものを追求したい」。

ニュー・アルバムは目下レコーディング中、来年の春に日野皓正自身のレーベルからリリースされるとのことです。本日は昨日のメンバーに、フライド・プライドの横田明紀男が加わります。トリプル・ギターによる、“h FACTOR”の世 界。さらにエキサイティングな一夜になることでしょう。
(原田 2012 10.8)


● 10.8mon.-10.9tue.
TERUMASA HINO h FACTOR
☆ 参考:セットリストはこちら


TERUMASA HINO - 日野皓正


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , MICHEL LEGRAND - - report : MICHEL ...

2012/10/03

ミシェル・ルグラン - MICHEL LEGRAND
ミシェル・ルグラン - MICHEL LEGRAND


公演初日リポート:
MICHEL LEGRAND Symphonic Special Night
@すみだトリフォニーホール



「シェルブールの雨傘」、「おもいでの夏」など数々の名曲を送り出し、ピアニストとしても第一級の腕前を持つマエストロ、ミシェル・ルグランがこの6日と7日、「ブルーノート東京」に登場します。今年は生誕80年、初来日から40年というアニバーサリー・イヤーにあたります。前回以上に感動的なステージが繰り広げられることでしょう。

これに先立ち、ぼくは昨日、すみだトリフォニーホールで行なわれた「ミシェル・ルグラン シンフォニック・スペシャル・ナイト」に行ってきました。第1部は彼のレギュラー・ピアノ・トリオ、そして第2部はそこに竹本泰蔵指揮の新日本フィルハーモニーとハープ奏者のキャサリン・ミシェルが加わります。

第1部は、ルグランの“ジャズ愛”が溢れ出る内容でした。映画音楽家、指揮者として他の追随を許さない位置にあるルグランですが、そのいっぽうで、彼は『ルグラン・ピアノ』、『ライヴ・アット・シェリーズ・マン・ホール』等、ベースとドラムスだけをバックにした作品もいくつか残しています。ピエール・バウサエ(ベース)、フランソワ・レゾー(ドラムス)とのコンビネーションは、まるでひとりの人間がピアノ、ベース、ドラムスを同時に演奏しているかのように絶妙でした。マイルス・デイヴィスが出演した映画のために書いた「ディンゴ・ラメント」、ビル・エヴァンスなど数多くのミュージシャンにカヴァーされている「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」等、次々と名曲が登場します。ラストはオスカー・ピーターソン、アート・テイタム、ジョージ・シアリング等の物まねを含む「ウォッチ・ホワット・ハプンズ」。ルグランがどれだけジャズを愛し、多くのピアニストに影響を受けて現在に至っているかが、とてもよくわかるパフォーマンスでした。

第2部は映画「シェルブールの雨傘」の挿入曲メドレーで幕を開けました。ぼくはこの映画を、かなり昔、蒲田の名画座で見ました。目をつぶって音楽に耳を傾けていると、映画の印象的なシーンが次々と浮かびます。「あの名作に音楽を提供したルグラン本人が、今、ここに来て指揮している」・・・なんとぜいたくで、ありがたいことでしょう。「愛のイエントル」と「おもいでの夏」では、公私共にルグランのパートナーであるキャサリン・ミシェルのハープが大きくフィーチャーされました。「彼女ほどハープを美しくプレイできるひとは、この世の中にいない」というルグランのMCが、決して「のろけ」ではなかったことを、この日のオーディエンスは、みんな知っているはずです。

新日本フィルハーモニーの演奏もまた、素晴らしいものでした。リハーサルの時点からルグランは彼らに絶賛を惜しまなかったとのことですが、なるほど、ここまで息がぴったりなら、何もいうことはないでしょう。マエストロとの共演は、フィルハーモニーにとっても忘れられない出来事になったのではないかと思います。
とにかくルグランは今、乗りに乗っています。10月6日と7日の公演、ぜひお楽しみに。
(原田 2012 10.2)


● 10.6sat.-10.7sun. はブルーノート東京公演
MICHEL LEGRAND
"80th Birthday Celebration Japan Tour 2012"



ミシェル・ルグラン - MICHEL LEGRAND


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , CHICO & THE GYPSIES - - report : CHICO &...

2012/09/30

CHICO - チコ
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公演初日リポート:CHICO & THE GYPSIES



すっかり「ブルーノート東京の顔」というべきミュージシャンになったチコ・ブーチキー。元ジプシー・キングスの重要人物にして、ワールド・ミュージックの超大物です。
昨年は“ザ・ジプシー・プロジェクト”という特別ユニットで喜ばせてくれましたが、今回は彼のマザーシップである“チコ&ザ・ジプシーズ”によるステージを2年ぶりに楽しませてくれました。しかし楽器編成は以前とは違います。複数のギタリスト+ひとりのベーシストで構成されていた往年のジプシーズに、ヴァイオリン、ピアノ、ドラムスが加えられた豪華版です。

当然、バンド・アンサンブルはさらに広がりをみせ、即興の割合も増しました。ジプシーズの伝統的なサウンドに、“ザ・ジプシー・プロジェクト”でフィーチャーされていたジャズ〜フュージョン的側面が、ほどよくプラスされた・・・といえばいいでしょうか。これまでのジプシーズのファン、“ザ・ジプシー・プロジェクト”で新たにチコの魅力を知った方、その両者が満足できるステージだったと思います。

チコは相変らず、決して前面に出てプレイすることはありません。しかしその存在感は抜群です。他のメンバーは黒を基調としたコスチュームで登場しますが、チコは白いシャツを着ています。そして黒いギターを、やや高めに持って演奏します。そのコントラストがまた、実に粋なのです。そしてソリストやシンガーに暖かな視線を送り、オーディエンスに「We Love You」を繰り返します。 このひとことに接するだけで、「今度来たときも、絶対また行かなくちゃ」と思うファンは数知れないことでしょう。

場内は「補助椅子が間に合わないのでは?」と思ってしまうほどの超満員。3曲目が始まるころにはオーディエンスは総立ち、秋だというのに場内はカルナヴァル状態です。プログラムはとにかく、名曲、絶対どこかで聴いたことのある曲のオンパレードといっていいでしょう。チック・コリア作「SPAIN」も、あの“ジャカジャカ、ジャカジャカ”という複数のギター・カッティングでアレンジされると、100%チコ・サウンドに生まれ変わってしまいます。「MADRE MIA」の後半、だんだんテンポが速くなっていくところも、も うわかっているんだけど、いざナマで演奏されると「きたきたきたーっ!」と興奮せずにはいられません。時代劇ドラマ「鬼平犯科帳」でおなじみの「INSPIRATION」も、沁みました(ぼくは、そこに出演している女優の梶芽衣子さんを思い出しながら聴きました)。

そして改めて感心したのが、チコのレパートリーの国際性です。フランス発の「MY WAY」あり、アルゼンチン発の「LIBERTANGO」あり、イタリア発の「VOLARE」あり。かつて日本の曲を演奏したCDもありましたが、どの国の曲もジプシーズは彼ら独自の世界に染め上げてしまいます。

公演はまだまだ続きます。今日も“チコと愉快な仲間たち”は、聴き手を徹底的に楽しませてくれることでしょう。
(原田 2012 9.29)


● 9.29sat.-10.2tue.
CHICO & THE GYPSIES
☆ 参考:セットリストはこちら


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