BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , RON CARTER - -report : RON CART...

2009/10/05

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ロン・カーター・カルテット-RON CARTER QUARTET

公演初日リポート : RON CARTER QUARTET


礼に始まり、礼に終わる。それがロン・カーターのライヴです。

メンバー全員が正装し、ステージに立つ。そして深々とお辞儀をした後、それぞれが位置につき、実に穏やかに演奏を始めます。すべてのプレイを終えた後、もう一度深々とお辞儀をして、拍手に包まれながらステージを後にします。

ロンのバンドは、即興と同じぐらいアレンジ(編曲)を重視しています。あのカッチリしたサウンドは、固定したメンバーが数知れないリハーサルやライヴをこなしながら創りあげたものなのです。
しかし、本公演のピアニストはレギュラー・メンバーではありません。80年代後半からのメンバーであるスティーヴン・スコットのかわりに、急遽エルダーがピアノの椅子に座りました。

ロンとエルダーの共演を、ぼくは過去に一度見ています。2007年にジャカルタでおこなわれたジャワ・ジャズ・フェスティバルで、ロン、エルダー、ハーヴィー・メイソンが、1時間あまりのジャム・セッションを披露したのです。そのときはスタンダード・ナンバー中心、エルダーは超特急のプレイで客席を圧倒していましたが、今回は‘ロン・カーターの音楽’を展開するステージです。技巧の披瀝よりも、ロンのコンセプトを理解し、それに適応することが求められるのはいうまでもありません。

ぼくは初日のファースト・セットを聴いたのですが、短時間のリハーサルが行なわれただけというのが信じられないほど、エルダーはすっかり‘ロン・カーター・カルテットのピアニスト’になっていました。近年のロン・カルテットのライヴは、‘60年代後半のマイルス・デイヴィス・クインテット(ロンも在籍していました)と同じように、曲間をあけず、メドレー形式で演奏を進めます。テンポもキーも違う曲を、組曲のようにつなげていくので、1曲1曲を単独で演奏するとき以上にメンバー間の‘あうんの呼吸’が求められます。が、エルダーはそれを難なく体得して、ロン・カーター・カルテットに豊かな音の色彩を付け加えていました。

巨匠の域に達して久しいロンですが、そのプレイは今も成長を続けています。レーシック手術をしてメガネがいらなくなったせいかルックス的にも若返ったように見えますし、ベースの前にマイクを置いたことで指が弦に触れる音もリアルに伝わってきます。人差し指で1弦、小指で4弦を押さえながら、他の弦を押さえている中指と薬指を動かして内声を変化させる技や、左手で1〜3弦をはじきつつ右手親指の側面を4弦の各所に押し付けてハーモニーを出す技などは、トレーニングの鬼であるロンだからこそ思いつくことのできたアイデアなのではないでしょうか。

ベスト・ドレッサーとしても有名なロンですが、ぼくにいわせれば、彼の最大の凄さはベース・プレイにおける創意工夫にあります。ライヴを見れば、ロンが半世紀の間、なぜジャズ界のトップに君臨しづけているのかがハッキリわかるはずです。
(原田 2009/10/4)


● 2009 10/4sun.-10/9fri.
RON CARTER QUARTET



ロン・カーター・カルテット-RON CARTER QUARTET


'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , ELDAR - - report : ELDAR

2009/10/03

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公演初日リポート : ELDAR


伸び盛りのアーティストのライヴに接するのは、実に気持ちがいいものです。新鮮な音を浴びると、全身の細胞が若返っていくような気がします。

今年22歳のピアニスト、エルダーのステージが本日まで行なわれています。
ぼくが彼の生演奏を体験するのは、これで4度目です。もう3年以上前になるでしょうか、初めてライヴに接したときの印象は、率直に言って、決してはかばかしいものではありませんでした。あまりの超絶技巧にゲップが出そうになった、というのが正直なところです。また、さまざまなタイプの曲がこなせて、ジャズ・ピアノの歴史をそのままかかえこんだように多彩な奏法をみせるのはいいとしても、なんというか、技の博覧会を強引にみせつけられた、という印象も持ちました。そのときはスタンダード・ナンバーを数多く演奏していましたが、せっかくの美しいメロディやコードが、テクニックを優先するあまり、ないがしろにされているのではないか、とも思いました。

が、それはもう過去の話といっていいでしょう。なにしろ伸び盛りのアーティストなのです。エルダーは短期間で、驚くほどのスケールの大きさを身につけました。持ち前の技巧をフルに生かしながらも、それを無理なく包み込む雄大な曲を書き、固定メンバーとのバンド・サウンドを確立しました。もともとテクニックにおいては抜きんでているのですから、こうなれば鬼に金棒です。

1曲目「EXPOSITION」の出だしを聴いてすぐに、ぼくは「エルダー、また一段とすごくなったな!」と叫びたくなりました。音楽に対する視野がますます広がり、プレイする楽しさがピアノ全体から飛び散ってくるかのようです。アルマンド・ゴラの地を這うエレクトリック・ベース、ルドウィッグ・アフォンソのオクトパス・ドラミングとの絡み合いは、会話であると同時に討議であり、鋭く美しいアンサンブルです。ほとんど曲間なしで続けられた「BLUE SKETCH IN CLAVE」にも参りました。それぞれが別々のリズムを生み出しながら、巨大なラグビーボールが超高速で転がっているようなウネリを生み出して演奏をクライマックスに導く。意表をつくハーモニーと、妙に叙情的なメロディ・ライン。こんなピアノ・トリオ、聴いたことがありません。

でもこの2曲は、彼らにとってはまだプレリュードに過ぎなかった、ということを、ぼくは「THE EXORCIST」で知ることになります。エルダー本人の説明によると、この曲は21拍子とのこと。もっとも聴く側にとっては、それが何拍子であろうが関係ありません。肝心なのは演奏の質なのですから。が、このグルーヴ感は、なんなのでしょう。踊れる拍子であるわけがないのに、体が自然に揺れ、足でリズムをとらずにはいられません。

それにしても、痛快なライヴでした。天才、神童といわれて久しいエルダーですが、ぼくにとって彼は、いや、アルマンドもルドウィッグも、“グルーヴ・モンスター”です。
(原田 2009/10/2)



● 2009 10/2 Fri.-10/3 Sat.
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'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , JOYCE - - report : JOYCE w...

2009/09/28

ジョイス-JOYCE
ジョイス-JOYCE


公演2日目のリポート:JOYCE with special guest JOAO DONATO



いまや年に一度の風物詩といっていいでしょう。ジョイスが今年も素敵なライヴを繰り広げています。

スペシャル・ゲストは、‘ブラジル音楽界にこの人あり’と謳われるピアニスト/作曲家のジョアン・ドナート。ジャズ・センスにあふれた繊細にして大胆なピアノには、誰にも真似のできない味わいがあります。キューバの伝説的打楽器奏者、モンゴ・サンタマリアのバンドにいたことがあるせいか、ラテン・フィーリングが豊富なのも特長です。
皆さんご存知かと思いますが、ジョイスはギターの達人でもあります。そして通常、彼女のバンドには他のコード楽器(ピアノやギターなど)が入っていません。歌いながら奏でられるギター1本で、必要な和音がまかなえるからです。そこにドナートのピアノが加わると、どうなるか。ギターが紡ぎだす豊かなハーモニーと、分厚いピアノの和音がどう絡んでいくか。会場に着いたぼくは、わくわくしながら開演時間を待ったのでした。

前半はドナートを除くジョイス・グループによる演奏です。彼女のヴォーカルとギターのコンビネーションには‘一体化’という言葉がぴったり。ストゥールにすわり、ギターを爪弾きながら歌う彼女の姿は、たとえシルエットになったところで‘あっ、ジョイスだ!’とわかることでしょう。夫君トゥチ・モレーノのドラムスは相変わらず歯切れ良く、ジェシ・サドキのトランペットは、まるで60年代のフレディ・ハバードのようなハード・ブロウで迫ります。

ドナートはステージの中盤から登場しました。ぼくは以前、コンサート・ホールで演奏する彼を2階席から見たことがありますが、まさかクラブで、こんなに近くで巨匠のタッチを味わえるとは、感激というしかありません。ピンと立ったピアノの音が、ジョイスたちのサウンドに溶け込んで、バンド全体の響きがさらに豊かになります。

ドナート畢生の名曲といえる「AMAZONAS」、メンバーのユーモラスなコーラスをフィーチャーした「GUARULHOS CHACHACHA」、ジョイスとドナートの歌声が重なり合う「NO FUNDO DO MAR」など、彼らの楽しく、優雅な音世界は尽きることがありません。ラストでは、お待ちかねの「FEMININA」がしっとり披露されました。いわずとしれたジョイスの定番ですが、この曲をプレイするドナートを見る機会は、はっきりいってレアだと思います。どうか皆様、この光景を目と耳に焼き付けてください。

秋の夜長、極上のブラジル音楽に身を任せる。これって、すごく粋なことではないでしょうか。
(原田 2009/9/28)


● 2009 9/27sun.-10/1thu.
JOYCE with special guest JOAO DONATO

ジョイス-JOYCE



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , EDDIE PALMIERI - - report : EDDIE P...

2009/09/23

エディ・パルミエリ・イ・ラ・ペルフェクタ?-EDDIE PALMIERI Y LA PERFECTA ?
エディ・パルミエリ・イ・ラ・ペルフェクタ?-EDDIE PALMIERI Y LA PERFECTA ?


公演初日リポート : EDDIE PALMIERI


エディ・パルミエリが1961年に結成した“ラ・ペルフェクタ”は、トロンボーンをフィーチャーしたバンドです。

それまでのラテン・ユニットはトランペットが主で、どちらかというとトロンボーンは“従”でした。エディはその“従”をメインにした新たなサウンドを創造します。結果、音の重心がグッと下がり、響きにまろやかさが増しました。「ラテンとトロンボーンって、どうしてこんなにピッタリ来るんだろう」と、ぼくはエディやモン・リベーラの作品を聴くごとに思います。そういえばジャズ・フルート奏者のハービー・マンもラテンに凝っていた時代、複数のトロンボーンをフィーチャーしていましたね(アルバム『スタンディング・オヴェイション・アット・ニューポート』など)。

その“ラ・ペルフェクタ”が約40年の歳月を経て復活アルバム『LA PERFECTA II』を出したのは2002年のこと。もちろんぼくはすぐに購入し、当時働いていた雑誌に文章を書いた記憶があります。来日公演があればすぐに駆けつけるぞ、と決意しましたものの、2002年11月のブルーノート東京公演は見に行く事ができませんでした。

しかしその後、待てど暮らせど彼らは日本に来てくれません。その間、エディはさまざまなバンドで我が国を訪れ、さすがのパフォーマンスを聴かせてくれましたが、それはトロンバンガとは別種のものでした。
が、ついにこの9月、“切り札”が飛び出しました。ラ・ペルフェクタIIが今まさに、「ブルーノート東京」で、白熱の宴を繰り広げているのです!!

しかもメンバーが最高です。ここだけの話ですが2002年のアルバムより粒が揃っています。フルートを吹いている女性はなんと、カレン・ジョセフではないですか! 個人的には実に嬉しい名前です。グラント・グリーンの『イージー』、リチャード・グルーヴ・ホームズの『ダンシング・イン・ザ・サン』、コーネル・デュプリーの『シャドウ・ダンシング』など、70年代後半のジャズ・ファンク作品によくクレジットされていました。ジャズとラテンを行き来するフルート奏者は、前述のハービー・マン、デイヴ・ヴァレンティン、ヒューバート・ロウズなど数多いですが、カレンの豊かな音色、起伏に富んだフレージングも、実に聴きごたえのあるものでした。どうしてフルートはこんなにラテンと相性がいいのでしょう。

肝心のトロンボーン・パートはジミー・ボッシュとクリス・ウォッシュバーンが担当しました。ボッシュは“現代ニューヨーク・サルサにこの人あり”といわれるベテラン。ルベーン・ブラデス、マーク・アンソニー、セリア・クルース、アルトゥーロ・オファリール等、数多くのミュージシャンと共演してまいりました。この日のステージは彼がリードをとり、クリスがハーモニーをつけることが多かったように感じました。クリスは数年前からハーレムに程近い「スモーク」というクラブで週1回、ラテン・ジャズのライヴを開催して評判を呼んでいる若手奏者です。そのスケジュールを中断してまで日本に来てくれたのか、と、ぼくは彼の気合の入った吹きっぷりに酔いしれました。

御大エディも、活火山ぶりを大いに発揮してくれました。登場するなり「今夜はサルサだー」とシャウトし、鍵盤に分厚い手のひらを降ろします。声を発しながら自由奔放なアドリブをとり、リズミカルなコード(和音)で他のソリストをサポートし、バック・コーラスをつけ、ピアノを引く手を休めたと思ったらクラーベの手拍子を始めるエディは、ほんとうに精力的です。「休む間もなく音楽する」というのは、こうした状態をいうのでしょう。

ラ・ペルフェクタというグループ名は、“完璧”という意味です。が、この“完璧”はまだまだ発展し、進化し続けるに違いありません。

本当にものすごいライヴです。見逃すと後悔します。彼らの登場は土曜日まで続きます。興奮と熱気に、体当たりしてきてください!
(原田 2009/9/22)

● 2009 9/22tue.-9/26sat.
EDDIE PALMIERI Y LA PERFECTA II

エディ・パルミエリ・イ・ラ・ペルフェクタ?-EDDIE PALMIERI Y LA PERFECTA ?



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , C.O.E.D. - - report : C.O.E.D...

2009/09/19

C.O.E.D(クロニクルズ・オブ・エヴリ・ディーヴァ)-C.O.E.D(CHRONICLES OF EVERY DIVA)
C.O.E.D(クロニクルズ・オブ・エヴリ・ディーヴァ)-C.O.E.D(CHRONICLES OF EVERY DIVA)公演初日リポート : C.O.E.D.



超豪華オール女性ユニット、C.O.E.D.が遂に「ブルーノート東京」上陸です。

C.O.E.D.とは、“Chronicles Of Every Diva”の略。なかなかカッチリした日本語訳が見当たらないところですが、とにかく、ようするに、みんなディーヴァなのです。それぞれがリード・ヴォーカルもコーラスもできて、しかも楽器のフレーズがものすごく歌っているという、大変な歌姫集団であるのです。

説明不要のドラムス&パーカッション奏者、シーラ・E。サポートもソロもスラッピングも思いのままのベース奏者、ロンダ・スミス。ソウルフルなヴォーカルとワイルドなギターで華をまきちらすキャット・ダイソン。この3人はプリンスとゆかりの深いミュージシャンですね。少しもゆるまないテンション、ステージの最初から最後まで疾走し続けるスタミナの何割かは、プリンスとの日々によって培われたものでしょう。キーボードのカサンドラ・オニールはメイシー・グレイ、チャカ・カーン、ベイビーフェイスなどのサポートを務めてきました。以上4人が、C.O.E.D.のオリジナル・メンバーです。

しかもこの東京公演には、スペシャル・ゲストとしてサックス奏者でシンガーのミンディ・エイベアも参加しました。フュージョン〜スムース・ジャズの名門であるGRPレーベルからデビューして以来、華やかな活動を続けている注目のミュージシャンです。彼女のブロウが加わることによって、C.O.E.D.のサウンドは一層華やかになりました。

キャリア的にもネーム・バリュー的にもシーラが突出しているのは事実でしょうが、演奏はメンバー全員が対等といっていいものでした。マイケル・ジャクソンの「BLACK OR WHITE」の痛快なカヴァーで幕を開けたステージは、ミンディをフィーチャーした「SLINKY」へと受け継がれ、「REAL MAN」ではキャットが“100万ドルなんていらない、キャデラックもいらない、あたしはリアル・マンが欲しい”と、ブルージーに歌いあげます。カサンドラはTOTOのカヴァー「AFRICA」をしっとりと演じ、ロンダは「LOVE BAZAR」の中に、敬愛するジャコ・パストリアスの名曲「TEEN TOWN」のフレーズを挿入します。そして本編ラストは“待ってました!”の「THE GLAMOROUS LIFE」。まさしくシーラの独壇場です。ステージにティンバレスがセットされただけで、オーディエンスは沸きに沸き、総立ちになりました。

アンコールでは全員椅子に座り、打ち込みのバック・トラックに合わせてコーラスを披露。この「MY HEART SONG」、まだアメリカ公演では一度も取りあげたことがないそうです。こんなに素敵なバラードを、世界でいちはやく味わうことができるとは、実に実に幸せじゃないですか。
(原田 2009/9/18)


● 2009 9/18fri.-9/21mon.
C.O.E.D(CHRONICLES OF EVERY DIVA)
featuring SHEILA E., RHONDA SMITH, KAT DYSON, CASSANDRA O' NEAL&MINDI ABAIR

C.O.E.D(クロニクルズ・オブ・エヴリ・ディーヴァ)-C.O.E.D(CHRONICLES OF EVERY DIVA)



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