BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , KORA JAZZ TRIO - report : KORA JAZZ...

2009/08/29

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公演リポート : KORA JAZZ TRIO at motion blue yokohama



いま、コラ・ジャズ・トリオが日本にいます。
「うれしい」、これに尽きます。着飾った言葉など、まったく必要ありません。

“コラ”はセネガル、ガンビア、マリ等、西アフリカの国に伝わる弦楽器です。かつてはグリオと呼ばれる世襲制の音楽家(語り部を兼ねる)だけが演奏していました。形状は、あまりにも巨大なサトイモを半分に割り、その断面に弦を張ったような感じ、といえばいいでしょうか。胴体の丸さと、ピンと張られた弦の長さとのコントラストを見ているだけで心がなごんできます。音色はハープとギターと琴を合わせたような、可憐で美しいもの。英語では「アフリカン・ハープ」とも呼ばれているようです。

ぼくがこの楽器を初めて生で観たのは忘れもしない1984年の北海道、ハービー・ハンコック“ロック・イット・バンド”のコンサートでした。当時最新のシンセサイザーをからだにぶら下げながら場内を練り歩くハンコックや、レコード盤をこすって音を出す(四半世紀前はターンテーブルやDJという言葉すら一般的ではありませんでした)グランド・ミキサー・DSTが“近未来”をプレイするステージの片隅で民族衣装を着た大柄な若者が、ひたすらコラを奏でておりました。その胴体の丸さ、やけに暖かな音色を、ぼくは今でも覚えています。この若者(現在は大物ですが)フォデイ・ムサ・スソによって、コラというものを知ったジャズ・ファンは多いのではないでしょうか。ムサ・スソはまた、故ドン・チェリーの“マンディンゴ・グリオ・ソサエティ”や、ビル・ラズウェルの“マテリアル”、ジャック・ディジョネットのグループ等でも演奏しています。

コラ・ジャズ・トリオは明日30日から「ブルーノート東京」に出演しますが、「一刻も早く聴きたい!」と思ったぼくはひと足早く、28日に行なわれた「モーション・ブルー・ヨコハマ」公演を楽しんでまいりました。演奏が始まる前から、東京から一気に行けるアクセスのよさ、ベイエリアならではの眺め、ライトアップされた赤レンガ倉庫の勇姿、そして横浜独自のエキゾチックな雰囲気にすっかりいい気分です。しかも、ステージの横、カウンター側の窓からは海が見えます。海を見ながら聴くアフリカン・ジャズ、これはまたとない体験といえましょう。

ライヴはコラ奏者、ジェリ・ムサ・ジャワラのソロ・パフォーマンスから始まりました。コラは通常21弦なのですが、彼の楽器は32弦です。その弦がスポットライトを浴びてギラリと光ります。ジェリは両手を使って弦を奏でるだけではなく、はじき、叩き、こすり、様々なアプローチでコラの魅力を引き出します。まるでマジシャンのような手腕に、ぼくは口をあんぐりしてしまいました。

やがてピアノのアボドゥライ・ジャバテ、パーカッションのムサ・シソコが登場、音の厚みがさらに増します。アボドゥライは、かつてサリフ・ケイタのバンドで「ブルーノート東京」に出演していますが、そのときはキーボードを演奏していました。しかし今日は全曲アコースティック・ピアノによるプレイです。縦横無尽に動く左手が、人懐っこいフレーズを次々と送り出します。このバンドはベーシストがいないので、それがベース代わりなのですね。そのうえでジェリがコラを弾きまくり、コンガとボンゴを並べたムサがアクセントを付け加えます。それぞれが演奏していることがらは、シンプルといっていいでしょう。しかしそれがかみ合うと、とてつもなく奥の深いポリリズムと、誰にも真似のできないグルーヴが生まれます。セロニアス・モンクの名曲「リズマニング」のカヴァーを含む90分のセットは、文字通りアッという間に過ぎてしまいました。

マジカルです。エキサイティングです。そしてクールです。まだまだ書きたいことはありますが、この続きはぜひ皆さんの目と耳でご確認ください。コラ・ジャズ・トリオは明日&あさって、「ブルーノート東京」にアフリカを運んでくれます。
(原田 2009/8/28)



● KORA JAZZ TRIO
8/30 - 9/1 Blue Note Tokyo

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'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , RAMSEY LEWIS - - report : THE RAM...

2009/08/25

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ラムゼイ・ルイス・トリオ-THE RAMSEY LEWIS TRIO 


公演初日リポート:THE RAMSEY LEWIS TRIO


アコースティック・ピアノのマエストロ、ラムゼイ・ルイスが今年も溜息もののプレイを聴かせてくれました。

オープニングは、軽妙なR&Bナンバー「OOH CHILD」。ラムゼイと同郷(シカゴ)のコーラス・グループ、ファイヴ・ステアステップスの代表曲ですね。ラリー・グレイのベースとリオン・ジョイスのドラムスがつくりあげる極上のクッションに乗ったラムゼイは、まさしく絶好調。ほほえみをうかべながら、シングル・トーン(単音)と分厚いコード(和音)を織り交ぜ、有名曲のメロディをいくつも引用しながら客席を盛り上げます。メリハリに富んだ編曲も‘50〜’60年代の、いわゆるオリジナル・トリオの頃と少しも変わっていません。

なのですが、演奏後にラムゼイがMCで語ったところによると、この曲はベースのラリー・グレイがアレンジしたとのこと。なんとラムゼイ好みの編曲なのか、とぼくは思いました。ラリーがどれほどマエストロのことを尊敬し、テイストを把握し、共演を楽しんでいるかが、このアレンジひとつでわかろうというものです。

ラムゼイがジャズ・ファンクの代表人物であるのはもちろんですが、もうひとつ、忘れてはならないのがクラシカルな側面です。実際、クラシック界に入ることを熱心に志していた時期もあるようです。あの明晰なタッチ、美しいハーモニーの何割かは確実にクラシック・ピアノで培われたものでしょう。新曲の「LOVE」、演奏が進むにつれてデューク・エリントンの「COME SUNDAY」などいくつものメロディが飛び出した「CONVERSATION」は、彼のリリカルな一面を前面に押し出したナンバー。ラリーは弓を用いてベースを弾き(彼はシカゴ交響楽団出身です)、リオンはブラッシュやマレットで演奏に彩りを加えます。ぼくは、まるでピアノ・リサイタルにいるような雰囲気を味わいました。ラムゼイに影響を受けたピアニストはジャズ・ファンク界に数多くいますが、こうした二面性を持っている存在は他にいません。それがラムゼイと、あまたあるファンク系ピアニストとの最大の違いといえましょう。

もちろんファンキー・ナンバーも存分に聴くことができました。’60年代からのオハコである「WADE IN THE WATER」、「THE "IN" CROWD」は、イントロが飛び出すと同時に、「待ってました!」とばかりに客席から手拍子が起こります。おそらくラムゼイは世界各地でステージに立つたびにこの2曲を演奏してきたことでしょう。しかし今のラムゼイ・ルイス・トリオが演奏する定番の数々は、決して往年の再現ではありません。楽想はさらに広がり、もはや“変奏曲”といっていいほど。「THE "IN" CROWD」ではラムゼイがラテン風のフレーズを弾くやいなや、すかさずリオンがホイッスルを吹いて盛りあげる、というシーンもありました。

ジャズ界、いやピアノ界を代表する紳士であるラムゼイ・ルイス。ラリーやリオンとのトリオが、伝説のオリジナル・トリオ(エルディ・ヤング、レッド・ホルト)や第2期トリオ(クリーヴランド・イートン、モーリス・ホワイト)と同じように素晴らしい活動を続けてくれることを願ってやみません。
(原田 2009/8/24)


● THE RAMSEY LEWIS TRIO
8/24 mon. - 8/29 sat.

ラムゼイ・ルイス・トリオ-THE RAMSEY LEWIS TRIO 



<< プロフィール・原田和典 >>
1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。
ブログ:http://haradakazunori.blog.ocn.ne.jp/blog/



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , 矢野顕子 - - report : AKIKO Y...

2009/08/20

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矢野顕子トリオ-AKIKO YANO TRIO


● 公演初日リポート:矢野顕子トリオ



矢野顕子、ウィル・リー、クリス・パーカー。

名前を書き連ねるだけで、カラフルな音の応酬が聴こえてきそうです。と同時に、ぼくにとってこのメンバーは、“猫に縁のある方々”でもあります。

矢野顕子のアルバム『Oui Oui』のパッケージには、かごに入った2匹の猫が登場しています。クリス・パーカー率いる“Toph-E & The Pussycats”のファースト・アルバム『Live In Detroit』のジャケットにも猫があしらわれていました。ウィル・リーは、この“子猫バンド”にも参加しています。
3人とも相当の猫好きに違いない。ぼくはそう確信しながら、凄腕たちが紡ぐ技のじゃれあい、なつきあいに聴き入ったのでした。

矢野顕子がトリオ編成で「ブルーノート東京」に登場するのは2年ぶりです。そのときはアンソニー・ジャクソン、クリフ・アーモンドとの共演でした。どこへ連れて行かれるかわからないような、とてもスリリングなひとときだったのを覚えています。が、今回はなんというのでしょう、ライヴならではのスリルはそのままながら、よりファンキーな、弾力性を増したサウンドを楽しむことができました。
シンガーとしても著名なウィルが参加したことで、ハモリをフィーチャーした曲が増えたことも今年度の特徴です。「NEVER MY LOVE」(アソシエイションのカヴァー)、ニューオリンズ・ファンク風に料理された「THE LETTER」(ボックス・トップスのカヴァー。邦題「あの娘のレター」)等、’60年代のアメリカン・ヒッツが、“いまの表現”として蘇ってゆきます。ウィルのベース・プレイは、至芸のかたまりというべきもの。16分音符を駆使したバッキングも最高ですが、スロー・ナンバーにおけるロング・トーンの美しさにも心底しびれました。チェロの合奏団を、まるでエレクトリック・ベース1本で表現しているかのようです。

もちろんクリス・パーカーのドラムスも絶品でした。「ごはんができたよ」では前半をタムの連打で(ハイハットでリズムをキープしながら)、後半をシンバル中心で盛り上げていきます。5枚のシンバル、2個のスネアを駆使した彼のドラミングは、とにかくよく歌います。クリスは’70年代、伝説のグループ“スタッフ”に在籍して、スティーヴ・ガッドとツイン・ドラム編成で演奏していました。ガッドの持ち味を引き立て、同時に自分の魅力も存分にアピールするクリスは本当に見事でした。その懐の深さは、今なお光り輝いています。クリスほどチーム・プレイの見事なドラマーを、ぼくはほかに思いつきません。

曲目は本番直前に決まったとのことですが、「BAKABON」、「ROSE GARDEN」、先に触れた「ごはんができたよ」など、おなじみの曲もたっぷり聴くことができました(セカンド・セットでは、忌野清志郎に捧げた「きよしちゃん」も披露されました)。なにしろ矢野顕子、ウィル・リー、クリス・パーカーです。この3人がライヴで顔を合わせるのは本公演が初めてです。一体なにが飛び出すか、どんな曲がどんな装いで現れるか。最終日のラスト・セットまで、一瞬も気の抜けない世界が繰り広げられることでしょう。
(原田 2009/8/19)


● AKIKO YANO TRIO featuring WILL LEE & CHRIS PARKER


矢野顕子トリオ-AKIKO YANO TRIO



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , TANIA MARIA - - report : TANIA M...

2009/08/17

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TANIA MARIA-タニア・マリア



公演初日リポート:TANIA MARIA



*** タニア・マリア公演初日のパフォーマンス & メッセージ 映像はこちら


ブラジルが生んだスーパー・ヴォーカリスト/ピアニスト、タニア・マリアが13年ぶりに「ブルーノート東京」へ帰ってきました。

お盆だというのに、会場は超満員。タニアが姿を現しただけで、盛大な歓声と拍手が巻き起こります。
昔からのファンも最近タニアを知ったばかりのファンもみんな、ここでタニアが聴けることを待ち望んでいたのでしょう。
「大好きなブルーノート東京に戻ってこれて嬉しい」と語った後、タニアは猛烈な勢いでピアノを弾き始めます。

オープニングは「ESSENTIAL」。基本的にはインストゥルメンタル・ナンバーなのですが、彼女はフレーズとフレーズの合間に掛け声を入れたり、ピアノのフレーズにスキャットをダブらせたりして、自由自在です。‘70年代に吹き込まれたレコードから変わることのない“タニア節”、だけどそれはいつも新鮮でかっこよく響きます。

「SENTADA A BEINA DA CALCADA」ではピアノと口笛のユニゾンも披露。アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲「AGUA DE BEBER」も、ファンキーなイントロがつけられて、すっかりタニアの持ち歌として消化されていました。

つづく「SOUHOS LIUDOS」は、“美しい夢”という意味だとか。スキャットではなく、歌詞をしっとりと歌うタニアの魅力が最大限に発揮されたバラードです。先ほどまで全身全霊で炸裂していた彼女が一転、優しく静かに語りかけるようにメロディを綴ります。この二面性に魅了されてしまったら、誰もタニアの世界から離れることができません(ぼくもそうです)。

ボサ・ノヴァ・ナンバー「TA TUDO CERTO」は、後半、ごく自然に「MAS QUE NADA」へ移り変わります。客席からは手拍子や合唱が巻き起こり、タニアのプレイにも更に熱が入ります。そのテンションを保ったまま、アリ・バホーゾの古典「AQUARELA DO BRASIL」(ブラジルの水彩画)へ。アドリブをたっぷりフィーチャーしながら、タニア以外の誰にも作り出せない“ジャズ+ファンク+サンバ”の世界をたっぷり味わわせてくれました。

ここで本編は終了したのですが、もちろんこれでライヴが終わるわけはありません。アンコールでは、タニア最大の人気曲に数えられる「COME WITH ME」を披露。イントロが飛び出すや否や、それがかき消されてしまうほどの巨大な歓声が巻き起こりました。タニアだけではなく、ベースのマーク・ベルトーも、ドラムスのジャン・フィリッペ・ファンファンも本当にうれしそうです。

パフォーマンスも熱ければ、オーディエンスも実に熱い。本サイト中の「SPECIAL TOPICS」でタニアが予告していた通り、エキサイティングそのものの90分間でした。
(原田 2009/8/16)


● TANIA MARIA
8/16 sun. - 8/18 tue. BLUE NOTE TOKYO
8/19 wed.- 8/20 thu. COTTON CLUB

TANIA MARIA-タニア・マリア



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , TANIA MARIA - - 情熱の大姉御

2009/08/13

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● 公演レビュー:TANIA MARIA



全身が情熱。

タニア・マリアの音楽に接すると、からだじゅうの血が騒ぎ出すような気持ちになるのは、ぼくだけではないはずです。強力このうえないピアノ・タッチ、どこまでも果てしなく続きそうなスキャット。かと思えば、まるで赤ちゃんをそっとあやすように綴られるバラード。ファンキーでもありポップでもあり、ときにクラシカルでもあるタニアの世界。ブラジリアンであると同時にコスモポリタン。いつも快いサウンドを届けてくれるアーティストです。

ぼくが初めてタニアのライヴを見たのは忘れもしない1993年、「ブルーノート東京」の旧店舗で、でした。もう16年前のことですので記憶は断片的ですが、1曲目からマシンガンのような高速スキャットを放ち、ピアノを弾きまくっていたのを思い出します。スキャットの中に、エドゥ・ロボの名曲「ウッパ・ネギーニョ」のメロディを取り入れて、客席を大きく沸かせていたことも忘れられません。

【参考:♪ Upa Neguinho by Elis Regina 】


もちろん、それまでにぼくはタニアのアルバムをいくつか聴いていました。『ピカンテ』、『トーラス』、『カム・ウィズ・ミー』、『ラヴ・エクスプロージョン』などなど、出る新作すべてが楽しみでした。が、ライヴは、それとは別種のものでした。CDではどうしても控えめになってしまう自由奔放さ、熱狂が全開し、おなじみの曲も即興的にどんどん変わっていきます。タニアの根っこにある“ジャズ”が、より拡大されて目前に迫ってくる感じです。優しさにあふれたバラードも絶品でした。
ぼくはそのとき痛感しました。タニアの良さは、CDとライヴの両方に接したときに、さらに深く濃く心に入ってくるのだ、と。

そのタニアが、久しぶりに「ブルーノート東京」へ戻ってきます。彼女はオーディエンスとのコミュニケーションを本当に大切にするアーティストです。さあ皆さん、タニアと一緒になって、最高に盛り上がるステージをつくりましょう!!
(原田 2009/8/13)


● 8/16 - 18
TANIA MARIA
*** 8/19 & 20 は COTTON CLUB にて公演



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