BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , RAPHAEL SAADIQ - - report : RAPHAEL...

2009/06/27

原田和典の公演リポート:RAPHAEL SAADIQ


ラファエル・サディーク raphael saadiq


待ちに待ったR&B界のスターが、遂にブルーノート東京初登場です。

ラファエル・サディーク。文字通りの才人です。18歳の若さでプリンスに認められ、‘88年にトニ・トニ・トニの一員としてレコード・デビュー。たちまちトップの座に登り詰めました。その後もアン・ヴォーグのドーン・ロビンソンやア・トライブ・コールド・クエストのアル・シャヒード・ムハマドとのユニット“ルーシー・パール”で話題を集めたり、ソングライターとしてもディアンジェロ、モス・デフ、メアリー・J・ブライジ、ジョン・レジェンド等に楽曲提供するなど、ラファエルのまわりには常に“刺激的な何かが起こっている”感がありますね。

ソロ活動を始めたのは2002年のことですが、昨年リリースされた最新アルバム『ザ・ウェイ・アイ・シー・イット』には、早くも“今世紀R&Bを代表する傑作”との声もあがっています。スティーヴィー・ワンダーやジョス・ストーンのゲスト参加も魅力的ですが、なによりもラファエルのR&B愛、伝統への敬意がいたるところから感じられるのがいいですね。定評あるソングライティングにはますます磨きがかかり、ソウル、ファンク、ドゥーワップ、ラテン等を巧みに盛り込んだハイブリッドな音作りで楽しませてくれます。
 
そんなラファエルの、世界的にも貴重なクラブ公演です。何から歌ってくれるのだろうと期待していたら、いきなり聴きなれたイントロが飛び出してくるではないですか。ジャクソン5の大ヒット曲「I WANT YOU BACK」です。あまりにも突然に世を去ったマイケル・ジャクソンへのトリビュートであり、この曲名は日本時間6月26日早朝からの、ぼくら音楽ファンのマイケルに対する気持ちそのものです。この1曲でラファエルとオーディエンスの心はひとつになりました。

あとはもう、ラファエルが紡ぎだすソウルフルな世界に身をまかせるだけです。「NEVER GIVE YOU UP」「LET'S TAKE A WALK」「STILL RAY」・・・・こんなに近い距離で、彼の歌、ギター、動きを感じることができるなんて、なんと贅沢なことでしょう。

ああ、いろいろネタばらしをしたい・・・・・。ですが、ここはグッとこらえましょう。とにかく見ていただかなくては、聴いていただかなくては。
7月1日まで、この“黄金の瞬間”は続きます。
(原田 2009/6/26)


● RAPHAEL SAADIQ
6/26 fri - 7/1 wed (6/29 mon day-off)

ラファエル・サディーク raphael saadiq



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , ROY HARGROVE - report : ROY HARGR...

2009/06/23

royhargrove1.jpg


原田和典の公演初日リポート:ROY HARGROVE QUINTET


‘90年代初頭のことです。“注目の天才新進トランペッター、あらわる”的な触れ込みで、ロイ・ハーグローヴが野外のジャズ・フェスティヴァル出演のために来日したとき、ぼくは全セットを聴く機会に恵まれました。そのフェスでロイは、さまざまなグループ(その中にはビッグ・バンドもありました)にゲスト参加したり、ジャム・セッションに乱入してトランペットを吹きまくったのですが、なかでも圧巻はファンク系のミュージシャンが集まったジャム・セッションにおけるプレイでした。メイシオ・パーカー、フレッド・ウェスリー、ピー・ウィー・エリスの“JBホーンズ”を軸とするスペシャル・ユニットに飛び入りした彼は、まさしく火の玉ファンキー小僧でした。ロイは20世紀の終わりにR&Bやヒップ・ホップを取り入れたプロジェクト“RHファクター”を結成してセンセーションを巻き起こします。きっと根っからのファンキー体質なのでしょうね。

昨年はビッグ・バンドを率いて「ブルーノート東京」に登場、貫禄たっぷりのステージで楽しませてくれたロイですが、ことしは少数精鋭というべきメンバーでの登場です。思えばメジャー・デビュー後からロイは一貫してクインテット(5人編成)を率いています。メンバーの入れ替わりもそれなりにあるとはいえ、ハード・バップに基づく4ビート・ジャズを、ここまでカッチリと聴かせるユニットは、そうそうあるものではありません。アルト・サックスのジャスティン・ロビンソンはロイとほぼ同年代ですが(ジミー・スコットのバンドや、ハーパー・ブラザーズの一員として来日したことがあります)。ピアノのサリヴァン・フォートナー、ベースのアミーン・サリーム、ドラムスのモンテス・コールマンは、ロイやジャスティンよりもさらに下の世代です。いつまでも元気いっぱいの若手という印象が強いロイも、この秋で40歳。歳の離れた弟のような年齢のミュージシャンとアイ・コンタクトをとりながら、演奏のテンションをこれでもか、と高めていく姿は、彼がトランペッターとしてだけではなく、音楽監督、指導者としても注目すべき存在であることを改めて伝えてくれました。

メンバー全員が燃え上がる長尺ナンバー「CAMARADERIE」、ラテン・リズムに乗せてロイが踊りながら吹いた「LA PUERTA」、古くからのファンには実になつかしい(ロイのセカンド・アルバムのタイトル曲です)「PUBLIC EYE」などなど、バラエティに富んだ曲目が次々と威勢よく演奏されていきます。近年のロイはトランペットより、いっそう柔らかい音の出るフリューゲルホーンを愛用しているイメージが、ぼくにはあったのですが、このステージでは「SAY IT (OVER AND OVER AGAIN)」(ジョン・コルトレーンの演奏で有名なバラードです)以外、すべてトランペットを吹いてくれました。元気炸裂のアドリブ、パワー全開の音色。やっぱりロイはこうじゃなくっちゃ。

心の底からスカッとさせられたライヴでした。
(原田 2009/6/22)


● ROY HARGROVE QIUNTET
6/22 mon - 25 thu


royhquintet.jpg



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , MIKE STERN - - report : MIKE ST...

2009/06/18

MIKESTERNBAND1.jpg


マイク・スターンとブルーノート東京の相性は最高です。

ぼくはマイクのプレイをいろんな会場で見ていますが(この3月にはインドネシア・ジャカルタのJAVA JAZZ FESTIVALで鑑賞いたしました)、ブルーノート東京で演奏する彼はいつも、とりわけ楽しそうで、心の底からリラックスしきっているように感じられます。

オープニングは近年のライヴの定番である「TUMBLE HOME」。いわゆるマイナー・ブルース形式で書かれた曲なのですが、これがまた、山あり谷ありの展開で、その凝り具合が、いかにもマイク・スターンなんだよなあ、とぼくは目を細めてしまいます。テーマ・メロディ(半音階を執拗に使った、相当な技巧を要するもの)をランディ・ブレッカーのトランペットとユニゾンでこなし、続くアドリブ・パートでは、前半をリヴァーブの利いたクリアな音色で、後半をディストーション気味のトーンで弾きまくります。そしてその締めくくりとして、パワフルな和音(パワー・コードといいます)を一発。ファンならば誰もがたまらない“黄金のパターン”です。

これに限らず、マイク・スターンのライヴは1曲あたりの時間がとても長いです。CDでは数分間でカッチリまとめられていたナンバーが、ステージで演奏されることによって拡大され、よりスケールの大きなものへと変化をとげていく、といえばいいでしょうか。とにかく弾いて弾いて弾き倒す、ギターの鬼と化しているのがライヴでのマイク・スターンです。ベースのクリス・ミン・ドーキー、ドラムスのデイヴ・ウェックルも白熱のサポートでマイクに絡みます。

オーラスは、あの「SOME SKUNK FUNK」。いわずとしれた、ブレッカー・ブラザーズ・バンドの代表曲ですね。70年代に絶大な人気を放ったブレッカー・ブラザーズ・バンドが、しばらくの休息を経て復活したのは1992年のこと。そのときにギタリストとして抜擢されたのがマイクでした。あれからもう15年以上が経つのですが、ステージ上のマイクとランディは、さらに若々しくエネルギッシュに、この名曲を蘇らせてくれたのでした。
(原田 2009/6/17)


6/17 wed - 21 sun
MIKE STERN BAND featuring RANDY BRECKER, DAVE WECKLE & CHRIS MINH DOKY


MIKESTERNBAND2.jpg



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , TERRI LYNE CARRINGTON - - report : TERRI L...

2009/06/14

tlcgroup.jpg


<<< 原田です。
今回は、TOWER OF POWER のファンクラブ・会長としても有名な、
今回は、櫻井隆章先生へ、ご執筆をお願いしました。
西海岸系スムース・ジャズも非常に詳しい方です。


櫻井隆章の公演初日リポート:TERRI LYNE CARRINGTON GROUP



 まぁ、見事なショウだった。そして、色々なことを考えさせてくれるライヴでもあった。まず、当り前のことなのだが、アメリカの音楽界の奥深さと多様さ、そして圧倒的な実力の高さ。そもそも、ステージの上の光景自体が多様さを表している。人種も年代も性別さえもバラバラなミュージシャンが並んでいるのだ。そして誰もがジャンルを越えた音楽を軽々とプレイする。そのどれもが見事な水準のプレイなのだから、ライヴ通いは止められない!

 場内暗転と共に、静かに沸き起こる期待の拍手。そこにアーティスト達が登場し、曲が始まる……と思ったら、まずはテリ・リンがメンバーを丁寧に紹介。サックスのエヴァレット・ハープやキーボードのグレッグ・フィリンゲインズなどは、彼等だけで充分にお客さんを集められる人達だ。目の前の光景の贅沢さを痛感する。そして始まった1曲目、何とビートルズ・ナンバーの「ミッシェル」。如何にもアグレッシヴで前衛的ですらあるアレンジが興味深い。
しっかりと「ジャズ」しているのである。続く2曲目は、ジョニ・ミッチェルの「エチオピア」だ。ここではテリ・リンがドラムを叩きながらヴォーカルも。彼女の歌、実に良い味である。また、こうした選曲も面白い。それが終ったところでヴォーカリストのロリ・ペリーがステージへ。強烈なパーソナリティの持ち主で、彼女が登場するとメンバーの誰もが笑顔になり、白い歯を見せる。雰囲気を一人で変えられる個性は、それだけで強い武器だ。圧倒的な声量とお客さんを一瞬にして酔わせる実力。そして曲調もソウル〜R&Bとなり、プレイヤー達の表情も緩む。ニュー・アルバム『モア・トゥ・セイ』からのナンバーを中心に、でもアルバムで聴けるそれとは大きく印象も変っている。これもライヴの醍醐味の一つだろう。ジャズをベースに、ソウル・タッチと飛び入り参戦の DJ KOU によるヒップ・ホップのフレイヴァーまで含み、さながら「オール・アメリカン・ミュージック・バンド」の様相すら見せつつ、あっと言う間に大団円だ。時計を見ると充分な時間が過ぎているのだが、それを感じさせないスキの無さ。この辺りが、ステージ運びの上手さなのだ。そして、ほぼ一曲毎に曲紹介のMCを挟むテリ・リンの丁寧さにも頭が下がる。

 そして、何よりも印象的だったのが、終演後のお客さん達の笑顔だった。聴く者、見る人に大きな刺激を与え、そして笑顔を与えてくれる、アーティスト達。こんな見事なショウを見せてくれるのだから、「生の音楽って、本当に良いな」とつくづく思うのだった。
(櫻井隆章)

tlcgr.jpg



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , KYLE EASTWOOD - - report : KYLE EA...

2009/06/09

kyleeastwood1.jpg


原田和典の公演初日レポート : KYLE EASTWOOD


4月下旬、カイル・イーストウッドはニュー・アルバム『メトロポリタン』と、みずから音楽を手がけた映画『グラン・トリノ』のプロモーションのために来日しました。ぼくはそこで、ブルーノート東京・フリーペパー「Jam」のための取材をさせていただきました。

なにしろ、あの俳優・映画監督、熱烈なジャズ・ファンとしても有名なクリント・イーストウッドのご子息です。僕もいち映画好きとして、クリント氏がダンディに大活躍する「ダーティ・ハリー」や「夕陽のガンマン」や「ミリオンダラー・ベイビー」や「恐怖のメロディ」(なんと、クリントがモンタレー・ジャズ祭に出かけ、ジョー・ザヴィヌル入りのキャノンボール・アダレイ・バンドや、ジョニー・オーティスのブルース・セッションを聴くというシーンもあります)などは見ています。その大スターの血を引くカイルに会うのは、やはり、相当な緊張が伴いました。

が、それは最初の数十秒だけ。少しもサラブレッドぶらない人柄、話の面白さ、豊かな表情、物腰の柔らかさが、場をなごませ、空気をリラックスさせてくれます。ぼくはすっかりカイルの気さくさに魅了されてしまいました。とくに自分の音楽について語るときの嬉しそうなことといったら、本当に彼は今、音楽の女神に魅入られているんだなあと思わずにはいられないものでした。

そのカイルが今、こよなく信頼する仲間たちと共に、心から愛する音楽を自信たっぷりに、ここ「ブルーノート東京」で展開しています。

2本のエレクトリック・ベース、1本のウッド・ベース(胴体の下4分の1がない、新種のモデルです)による、スラッピング、ハーモニクス奏法、弓弾きなどを織りまぜたプレイは、熱がこもりまくっています。5人編成での来日ですが、曲によっては管楽器の入らないキーボード・トリオになったり、ウッド・ベースとピアノのデュオを展開したり、鍵盤奏者抜きの4人でプレイしたり、組み合わせも多彩でした。ラスト近くでは、1930年代に作曲されたジャズの古典「Big Noise From Winnetka」をファンク・アレンジで聴かせてくれました。そう、ボブ・クロスビー(20世紀最大のポピュラー・シンガー、ビング・クロスビーの弟)のオーケストラが全米に流行らせ、ジーン・クルーパも取り上げ、ベンチャーズも「キャラバン」の中で引用し、映画「レイジング・ブル」にも使われたあの曲です。カイルは、この歴史あるナンバーを、まずはウッド・ベースで弾き、後半はエレクトリック・ベースに持ち替えて、しかもボブ・クロスビー・ヴァージョンと同じように口笛も交えながら楽しませてくれました。

ぼくはファースト・アルバムの頃からカイルのプレイを聴いていますが、接するごとにどんどんスケールが大きくなっています。ベース・プレイヤーとして、バンド・リーダーとして、エンターテイナーとして、カイル・イーストウッドはまだまだ新しい扉を開け続けてくれることでしょう。
(原田 2009/6/8)


(追記)
『メトロポリタン』のプロデューサーのひとりであるエリン・デイヴィスは、“ジャズの帝王”こと故マイルス・デイヴィスのご子息。カイルいわく“エリンとはジャズ・フェスティバルで出会ったんだ。彼は本当にいろんな音楽を知っていて、的確なアドバイスをしてくれる。真のミュージコロジスト(musicologist、音楽学者といえばいいでしょうか)だね”とのことでした。


6/8 mon - 12 fri
KYLE EASTWOOD





kyle%82%C6%82%DD%82%F1%82%C8.jpg

〜・〜プロフィール・原田和典 〜・〜
1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。



<<前のページへ 5556575859606162636465