BlueNote TOKYO

'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , TERENCE BLANCHARD - - report : TERENCE...

2009/03/27

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原田和典の公演初日リポート : TERENCE BLANCHARD



映画音楽の作曲家、トランペッター、バンド・リーダー。そのすべてを見事にこなしているのがテレンス・ブランチャードです。
考えれば考えるほど、これはすごいことです。

映画音楽で成功を収めると、そちらのほうにかかりっきりになったとしても不思議ではありません。実際、「E.T.」、「ハリー・ポッター」、「インディ・ジョーンズ」などの音楽を担当したジョン・ウィリアムスは、かつてジョン・タウナー・ウィリアムスという名のジャズ・ピアニストでした。しかし映画の仕事に集中するためにでしょうか、ジャズから遠ざかっていきました。

しかしテレンスは今日もステージに立ちます。愛用のモネ製トランペットで、心から信じるジャズを吹きまくります。そこには、“映画音楽のマエストロ”と呼ぶべき姿はありません。ただただ熱血なジャズ・トランペッターの姿だけがあります。加えて、MCが絶品です。必要最小限のことしかしゃべらないのですが、その声の低く、よく通ること。軽々と高音をヒットするトランペット・プレイとは本当に好対照な“魅惑の低音”もまた、テレンスの魅力といえましょう。

新たなサックス奏者にウォルター・スミス3世を加えた“テレンス・ブランチャード・クインテット”が発足したのは今年が明けて間もなくのことです。2月にはニューヨークの名門クラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」で公演を行ない、米国最大のジャズ・ウェブサイト“オール・アバウト・ジャズ”で絶賛されました。その好調を維持したまま彼らは東京に降り立ってくれました。録音したばかりの新作からの曲を中心に構成された約90分のステージは、胸がスカッとするようなド真ん中のジャズでした。

今春のグラミー賞では「ベスト・ジャズ・インストゥルメンタル・ソロ賞」に輝いたテレンス。トランペッターとして、音楽家として、彼は今、真の旬を迎えています。絶好調のテレンス・ブランチャード・クインテットを、ぜひご堪能ください!
(原田 2009/3/26)

3/26 fri - 29 sun, TERENCE BLANCHARD
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'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , GIOVANNI MIRABASSI - - report : GIOVANN...

2009/03/24

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- report : GIOVANNI MIRABASSI, (May 2009)

フランスを拠点に活動するイタリア人ピアニスト、ジョヴァンニ・ミラバッシ。ヨーロッパ・ジャズ・ピアノ・ファンを代表する逸材のひとりですが、「ブルーノート東京」への出演は初めてです。クラブで彼の妙技が満喫できる機会がようやく来ました。

共演者は、ジャンルカ・レンジ(エレクトリック・アップライト・ベース)とレオン・パーカー(ドラムス)。つまり、“黄金のミラバッシ・トリオ”によるステージです。レンジはミラバッシより5歳若い1975年生まれ。パオリーニョ・ダ・ラ・ポルタ、マーク・ジョンソン、パレ・ダニエルソンに奏法を習ったという技巧派です。パーカーはミラバッシより5歳年上で、ジャッキー・テラソン・トリオやチャーリー・ハンターとのデュオで大活躍したり、デューイ・レッドマンの隠れ名盤『Choices』に貢献するなど、'90年代のニューヨークで最も新鮮なビートを刻んだひとりです。近年はヨーロッパを中心に演奏し、最小限のドラム・セット(セロニアス・モンクのバンドで活動したベン・ライリーから影響を受けたそうです)をフルに使ったカラフルなプレイには、いっそうの磨きがかかっています。

オープニングはミラバッシのソロ・ピアノによる「EL PUEBLO UNIDO EL JAMAS SERA VENCIDO」。ここでオーディエンスの注目をぐっと引き寄せた後、いよいよトリオ演奏の開始です。“何を聴かせてくれるのだろうか”とかたずを呑んでいたら、スタンダード・ナンバーの「イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー」が飛び出したではありませんか。テーマ・メロディを弾き終えたミラバッシは、もう待ちきれないといった感じでアドリブ・パートに突入します。そこにジャンルカ・レンジのベースが絡み、レオン・パーカーが左足を高く上げながらビートを刻みます。ここからアンコールまで、彼らは文字通りの熱演で楽しませてくれました。

それにしてもレオンのプレイには目と耳を奪われました。先述したようにドラム・セット自体はシンプルそのものなのですが、そのぶん、叩き方へのこだわりが尋常ではありません。マレット(先っぽに丸い玉がついた棒)、スティック、ワイアー・ブラッシュ(ハケのような棒)をこまめに持ち換えるだけではなく、スティックを立ててシンバルをひっかいたり、手のひらや指で鼓面を叩いたり、ドラムの縁を叩いてカラカラした音を出したり、響線(スネア・ドラムの下についている帯)をつけたり外したりしながら、ニュアンス豊かなサウンドでリーダーのピアノを盛り立てていくのです。

メンバー紹介のとき、ミラバッシは彼のことを“ザ・グレイト・レオン・パーカー”と呼んでいました。たしかにグレイトです。これからレオンの演奏を目の当たりにする皆様も必ずぼくと同じように目が点になり、“すごいなあ・・・”とつぶやくことでしょう。

3/29 sun は、ミラバッシのソロ・ピアノ・コンサートもすみだトリフォニーホールにて行われる予定です。こちらも見逃せませんね。
(原田 2009/3/23)

GIOVANNI MIRABASSI ジョヴァンニ/ミラバッシ width=

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'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , IVAN LINS - - report : IVAN LI...

2009/03/17

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- 原田和典の公演初日レポート : IVAN LINS


ぼくはブログ・ページ「WHAT’S HAPPENIN’」を読むのが楽しみです。自分のような音楽狂でも知らない超マニアックな情報や、内容の濃いエピソードがさりげなく紹介されているところがまた、食指をそそります。

先日は、「スティングが、かつてマイルスも」とタイトルされた記事に驚かせていただきました。
“ジャズの帝王”と呼ばれたトランペット奏者、マイルス・デイヴィス(1991年死去)がイヴァンの才能をとても高く評価したこと。そして、イヴァン作品集を演奏するプランを持っていたことを、不勉強にして「WHAT’S HAPPENIN’」で初めて知りました。

マイルスは常に美しいメロディを探し求めていたアーティストです。クラシック・ギター用に作曲された「アランフエス協奏曲」をジャズ・ミュージシャンとして(おそらく)最初に取り上げ、アントニオ・カルロス・ジョビン、ミシェル・ルグラン、“クロスビー、スティルス&ナッシュ”などの曲も見事“マイルス流”に生まれ変わらせました。80年代にはマイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」やシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」を繰り返し演奏していました。そんなマイルスにとって、イヴァンの曲は旋律の宝庫に思えたことでしょう。

マイルス・プレイズ・イヴァンは残念ながら幻に終わりましたが、’96年、興味深いプロジェクトが完成します。人気ジャズ・トランペッター、テレンス・ブランチャードとイヴァンの共演です。アルバム『ハート・スピークス』(グラミー賞にノミネートされました)は、イヴァンとテレンス双方が、お互いに出会えた喜びをかみしめながらプレイしているような、なんとも実に心暖まる1枚でした。今回のイヴァンの公演にいらっしゃる方は、今月26日から行なわれるテレンスのステージもチェックされてはいかがでしょうか。

イヴァンは、なにしろ40年の活動歴を誇るシンガー・ソングライターです。レパートリーも何百曲とあることでしょう。僕はいつも、彼のライヴに接するたびに、いったいどんな曲が登場するかのと、わくわくすることをやめられません。初日のファースト・セットから、イヴァンは酔わせてくれました。2008年発表のアルバム『Saudades de Casa』からの曲を核に、「Daquilo Que Eu Sei」、「ジ・アイランド」(「Começar de Novo」)などの定番を交えたステージは実にハートウォーミング。客席からハミングや手拍子が広がっていきます。

バック・バンドでは名手テオ・リマが今回もドラムスの椅子に座り、小気味良いプレイを聴かせてくれました。ぼくは彼がアントニオ・アドルフォのバンドで吹き込んだ70年代の演奏も好きなのですが、一打一打の気持ちよさ、音色の粒立ちは生で体験するとさらに「すごさ」が実感として伝わります。このドラムスに乗って演奏したり歌ったりするミュージシャンは、至福の快感を味わっているのではないでしょうか。

美しく雄大なメロディ、見事にまとまったバンド・サウンド、オーディエンスを愛するステージ・マナー。イヴァン・リンスの音楽は、心に春を運んでくれます。
(原田 2009/3/16)

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'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , TOM SCOTT & PAULETTE McWILLIAMS - - report : TOM SCO...

2009/03/13

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- report : TOM SCOTT & PAULETTE McWILLIAMS
〜 ホワイト・デー・ウィーク・スペシャルだ、これは!〜


トム・スコットとポーレット・マクウィリアムスの共演。しかもピアノがナット・アダレイ・ジュニア。考えれば考えるほど嬉しくなる組み合わせです。

まず、トム・スコットについて、ぼくの思うところを以下に箇条書きします。

●もともとはゴリゴリのジャズ志向であった。サックスを始めた頃、ジョン・コルトレーンとキャノンボール・アダレイを敬愛していた(今も敬愛している)。

●ジャズ界に燦然と光り輝くポリリズム集団“ドン・エリス・オーケストラ”のメイン・ソリストだった。3本のベース、3台のドラムスにパーカッションという異様な編成の中で、19拍子の曲や、16分の27拍子の曲などをガンガン吹きまくるトムのかっこよさときたら。

●まだフュージョンという音楽が影も形もなかった頃に、ロックやソウル・ミュージックにもアクセスしたバンド“L.A.エキスプレス”を立ち上げ、結果的に時代を大きく先取りしたサウンドを生み出した。

●しかもそのバンドでジョニ・ミッチェルやジョージ・ハリスンのサポートもこなした。

●EWI(簡単にいえば管楽器型シンセサイザー)の原型といえるアナログ・シンセ“リリコン”の開祖である。この楽器をフュージョン・シーンに広めた功績は大。

●それでいて初心忘れるべからずとばかりに、定期的にアコースティック・ジャズ・アルバムをリリース。その意欲はますます盛ん。

●映画やテレビの音楽担当も多数。メロディ・メイカーとしても不滅の評価を得る。
などでしょうか。

いっぽう、ポーレット・マクウィリアムスの経歴で最も知られるのはルーサー・ヴァンドロスのバック・コーラスを20年近くにわたって務めていたということでしょう。彼女はまた、マーヴィン・ゲイのラスト・ツアーにも参加しています。が、生のステージに接して、ぼくは改めて強く思いました。「ポーレットは、もっとリード・シンガーとしてフロントに立つべき人だ。実力と華を兼ね備えた存在なのだ」と。

1960年代後半、“アメリカン・ブリード”というグループがありました。彼らはやがて“スモーク”と改名し、女性ヴォーカルを前面に出した路線へと変更します。そこでリード・シンガーを務めたのがポーレットでした。しかし彼女は70年代初頭に退団、その座を友人のチャカ・カーンに譲ります。“ルーファス&チャカ・カーン”と名乗って以降のサクセス・ストーリーについては説明不要でしょうが、だからといってポーレットが過小評価されるいわれはありません。

この日、クラブに響いたポーレットとトムのコンビネーションは、トムの尊敬するキャノンボール・アダレイがナンシー・ウィルソンと吹き込んだアルバム『Nancy Wilson/Cannonball Adderley』を思い出させてくれました。


ナット・アダレイ・ジュニアについても、ちょっと触れさせてください。

ぼくが彼のパフォーマンスを初めて聴いたのは、キャノンボールの『The Price You Got To Pay To Be Free』という2枚組LPで、でした。その中で“自由になるために、いったいどれだけの代償を払わなければならないのだろう”と、初期のスティーヴィー・ワンダーばりの声でシャウトしていたのが少年時代のナット・アダレイ・ジュニアで、しかもこの曲は彼のオリジナルでした。父ナット・アダレイと、叔父キャノンボールの愛情を受けて音楽的な成長を続けたナット・ジュニアは、いまや第一級のジャズ・ピアニストです。70年代にはジャズ・ファンク・グループ“ナチュラル・エッセンス”の一員としてもいい仕事をしていますし、ルーサー・ヴァンドロス・バンドの音楽監督を長く務めていたことも大いなる勲章でしょう。ですが、ぼくは彼のアコースティック・ジャズを、今後もっともっと聴いてみたいと、この夜のプレイを聴いて強く思いました。

トム、ポーレット、そしてナット・ジュニア。ベテランの域に達して久しい彼らですが、その音楽はまだまだ発展し続けることでしょう。彼らの現在を、ぜひ生でご体験ください。
(原田 2009/3/12)


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◆ ホワイト・デー・スペシャル!◆
3/11 wed - 3/15 sun
TOM SCOTT & PAULETTE McWILLIAMS

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<< プロフィール・原田和典 >>
1970年生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年ソロ活動を開始。
著書に『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)
『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)、
『世界最高のジャズ』(光文社新書)、
『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)等。
共著に『猫ジャケ』(ミュージックマガジン)、
監修に『ジャズ・サックス・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンターテイメント)。好物は温泉、散歩、猫。



'12 Bloggin' BNT by 原田和典 , CLAUDIA ACUNA - - report : CLAUDIA...

2009/03/10

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- report : CLAUDIA ACUNA


チリ出身の歌姫、クラウディア・アクーニャがブルーノート東京で公演中です。

スタンダード・ナンバーもポップ・チューンもオリジナル曲も自由自在、歌詞のある曲(英語、スペイン語)もそうでない曲も見事に歌いこなす彼女はジャズ界になくてはならない存在です。ルシアーナ・ソウザ、グレッチェン・パーラト、レベッカ・マーティン、シンシア・スコットなど、近年のニューヨーク・ジャズ・ヴォーカル・シーンは百花繚乱ですが、それでもクラウディアの地位は揺るぎません。

サックス奏者で評論家のドン・ヘックマンは「20代で初めてアメリカに来たというのに、どうして彼女はこんなにジャズを知り尽くしているのだろう」と驚き、伝説的ジャズ・シンガーであるアビー・リンカーンも「クラウディアは過去の偉大なシンガーたちに連なる存在である。なぜなら、彼女には他の誰にも真似できない独特のヴォイスがあるからだ」と絶賛しています。

2002年には小曽根真トリオのライヴにゲスト出演したクラウディアですが、今回は自己のバンドでの登場です。ぼくはクラウディア聴きたさに、海外出張の日程を繰り上げて帰国いたしました。

この日のステージは、4月に発売されるアルバム『En Este Momento』からのレパートリーが中心。つまりぼくたちは、CD発売よりもひと足早く新作からのナンバーを満喫できたわけです。スペイン語と英語を使い分けながら、クラウディアは力強く、伸びのあるアルト・ヴォイスを響かせます。彼女が取り上げる曲は自作もスタンダード・ナンバーも本当にメロディアスです。メキシコ生まれのボレロ「Cuando Vuelva A Tu Lado」を歌ってくれたのも嬉しかったですね。この歌、アメリカに渡って「What A Difference A Day Makes(Made)」と改題され、ダイナ・ワシントンが英語で歌って世界的に流行するのですが、クラウディアはスペイン語と英語の両方を用いて、まるでメロディをいつくしむようなアプローチでシットリと聴かせました。もとから持っていたスケールの大きさが、さらに深まり、広がったという印象を抱かせてくれました。

しかもこのステージ、バック・メンバーも充実しています。カホン(主にフラメンコで使われる箱状の打楽器)をドラム・セットに仕込んで、スティックと手の両方で巧みにヴォーカルを盛り立てるヤヨ・セルカのプレイにも目と耳を奪われましたし、才人ピアニスト、ジェイソン・リンドナーの参加も適材適所というしかないものでした。ぼくがジェイソンに初めて魅了されたのは、チック・コリアのレーベル‘ストレッチ’から発表されたアルバム『Premonition』を聴いたときでした。なんとスケールが大きくて風通しのいい音楽を作るピアノ奏者であり作曲家なのだろうと思ったものです。それ以降も彼は『Live UK』、『Live At The Jazz Gallery』と、驚くような力作を発表しづけています。

これからライヴにいらっしゃる方は、クラウディアの歌声はもちろんのこと、バンドのアンサンブルもぜひしっかり楽しんでいただければ幸いです。クラウディア・アクーニャ・バンドの魅力を、どうか味わい尽くしてください!
(原田 2009/3/9)





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