公演初日リポート:OMAR SOSA AFRO-ELECTRIC QUINTET
変貌しつづける男、オマール・ソーサ。毎年のように日本にやってくる人気者の彼ですが、一度たりとも前回と同じステージを行なったことはありません。各年のライヴに共通していることはただひとつ、“どんな予想をも裏切る、スリリングな音を提供してくれる”ことだけです。
今年の公演は、オマール・ソーサ・アフロ・エレクトリック・クインテットの日本デビュー・ステージとなりました。「マイルス・デイヴィスの名盤『カインド・オブ・ブルー』にインスパイアされた音楽をやるようだ」、「これまで以上にアコースティックとエレクトリックの要素をブレンドしたものとなるらしい」、「トランペットとサックスをフィーチャーして、よりオーソドックスなジャズ・サウンドを表現するのではないか」・・・・メンバーの登場を待ちながら、ぼくは前評判をあれこれ頭の中で整理していました。
が、ステージにあらわれた彼らは、どんな予想も裏切ってくれました。エフェクターを通した楽器群、サンプリングを多用したサウンドに引きずり込まれていたら、あっという間に時間が経過していました。ドイツ出身のジョー・クラウス、モザンビーク出身のチルド・トーマス、アメリカ出身のピーター・アプフェルバウムとマーク・ギルモア、そしてキューバが世界に誇るオマール・ソーサ。この強力な連合軍は、文字通りオマールのいうところの「異なる音楽文化との出会いへの探求」へと聴くものを連れて行ってくれるのです。
アコースティック・ピアノとキーボードを自在にあやつるオマールのプレイが充実していたことはいうまでもありませんが、個人的にはアプフェルバウムの貫禄にも圧倒されました。ぼくが初めて彼をライヴで見たのはもう20年近く前、移転前の旧「ブルーノート東京」に、彼が故ドン・チェリーのバンドの一員として出演したときでした。そのときは“勢いあふれる気鋭の若者”という感じでしたが、いまや誰の追随も許さない雄弁なマルチ・インストゥルメンタリストといった趣です。さすがチェリーの目に狂いはなかったと思うと同時に、この逸材を見事に使いこなすオマールの器の大きさも改めて感じました。
いまやオマール・ミュージックに欠かせない存在といえるマーク・ギルモアも相変わらずヘヴィー級のドラミングでソリストを煽りたてておりました。彼によく似た名前のドラマーにマーカス・ギルモアがいますが(7月下旬、ニコラス・ペイトンのバンドで「コットンクラブ」に出演していました)、別人です。マークのほうがふた世代ほど上で、いわゆるブラック・ロック・コーリション(リヴィング・カラーを生んだ団体です)に所属して頭角を現しました。’90年代後半に英国に移りドラムンベースなどのクラブシーンの中心で活躍、現在はストックホルム在住とのことです。あくまでもジャズが根底にあるマーカスに対して、マッチド・グリップ(スティックを上から握るように持つ)で叩きまくるマークのスタイルにはよりロックの影響も感じられますが、どちらにせよ21世紀のリズムを牽引しているドラマーの中にふたりのギルモアがいることは間違いありません。
(原田 2010/3)
● 8.2mon.-8.4wed.
OMAR SOSA AFRO-ELECTRIC QUINTET
☆ OMAR SOSA In-Store Live @ HMVルミネ池袋
↓↓ 映像を表示するまでに少し時間がかかります。↓↓
本日7.30fri.、キューバが世界に誇る “鍵盤の魔術師”
オマール・ソーサのソロ・ピアノ・ インストア・ライヴ
(@HMVルミネ池袋)をUSTREAMで放映しました。
19:00からの生中継に参加していただいた皆様、ありがとうございました。
そしてUSTREAMを見逃した方に朗報!
本日の模様はこちらからご覧いただけます。
ソロ・ピアノですばらしい演奏を披露してくれたオマール・ソーサは
8.2mon. から3日間、 “アフロ-エレクトリック・クインテット” として
ブルーノート東京に登場します。
次はバンド編成でのライヴを、南青山で体感してください!
OMAR SOSA AFRO-ELECTRIC QUINTET
・8.1sun. MOTION BLUE YOKOHAMA
・8.2mon.-8.4wed. BLUE NOTE TOKYO
原田和典の公演初日レポート:OMAR SOSA
いったい、ここはどこなんだ?
確かに「ブルーノート東京」です。南青山にあるクラブです。確かにそうです。
なのですが、目を閉じると、そこは違う世界。オマール・ソーサ・アフリカーノス・カルテットの紡ぎだす音は、ぼくをアフリカやキューバへいざなってくれました。一度も行ったことがないにもかかわらず、いろんなテレビ番組で見た光景や、書物で接した風景が脳内でミックスされて、目に浮かんできます。灼熱の太陽、ジャングル、砂ぼこり、シマウマ、ライオン、そしてなぜかアルパカ(チリの動物ですが)。こうしたサウンドが、東京にいながらにして味わえるなんて、なんだかとてもぜいたくです。
真っ赤な衣装で現れたオマールの中では、ステージに向かう時点でもう音楽が始まっていたのでしょう。待ちきれないといわんばかりに鍵盤に覆いかぶさり、自由自在に楽想を広げていきます。ピアノに加えMIDI音源、サンプラー音源、さらにはピアノにエフェクトペダルをもつないで創造される独特の音色は、ピアノの叙情とパーカッションの野性味を兼ね備えたものでした。やがて他のメンバーが登場し、演奏は更に激しく高まります。いまやオマールの右腕というべきチルド・トーマスがダブルネックのエレクトリック・ベースで重低音を響かせ(胴体はモロッコの弦楽器“ゲンブリ”なのだとか)、セネガル出身のモラ・シラが張りのある声でコブシをコロコロまわします。何を歌っているのかはわかりません。何語であるかすら、ぼくには定かではないのですが、歌声が、抑揚が、スッと心の中に入ってきます。
ドラマーは、名匠フリオ・バレットです。彼目当てのオーディエンスも多かったのではないでしょうか。‘90年代には何度かゴンサロ・ルバルカバと来日したことがありますが、その“マシンガン・ドラミング”は、ますます冴えています。バスドラの怒涛のキックは彼の得意技ですが、そうだとわかっていても、いざ目の前で繰り広げられると、やっぱり興奮せずにはいられません。フリオと盛んにアイ・コンタクトを交わしながら鍵盤に指を走らせるオマールは本当に嬉しそうでした。
この日、最も時間をかけて演奏されたであろう「METISSE」は、混血・雑種という意味を持つ曲。ああ、このバンドらしいな、と思いました。これからもオマールは音楽を通じてファンにいろんな風景を見せてくれることでしょう。
本日、最終日です。音楽の旅を、皆様もぜひ!
5/12 tue - 5/13 wed
OMAR SOSA AFREECANOS QUARTET featuring JULIO BARRETO