公演初日リポート:PATTI AUSTIN
1年で最もロマンティックな時期を、最高峰の実力派シンガーのライヴで過ごす。そんな贅沢を、クリスマス・シーズンのブルーノート東京では楽しむことができます。
パティ・オースティンは3歳の頃から舞台に立っているそうです。生まれながらのエンターテイナーという表現がぴったりですね。ジョークを交えたMC、当意即妙のステージングも含めて、ファンを楽しませ、自分も楽しむことに全身全霊を注いでいるように感じられます。ジャズ系のスタンダード・ナンバーにもいい味を出す彼女ですが、今回はブラック・コンテンポラリー〜AOR系のサウンドを中心としたステージ。キャッチーなメロディ(「SAY YOU LOVE ME」を例に出すまでもなく、彼女は作曲家としても超一流なのです)、スケールの大きな歌いっぷり、声量の見事なコントロールにすっかり引き込まれてしまいました。
まるで1980年代にタイムスリップしたような「GIMME THE NIGHT」、「RAZZAMATTAZ」(どちらもクインシー・ジョーンズ関連曲ですね)、イントロが聴こえてきただけで猛烈な歓声と拍手が巻き起こった「SAY YOU LOVE ME」「BABY COME TO ME」等、極め付きのナンバーをパティは次々と歌いこなします。ツイン・キーボードを中心とするリズム・セクションも決して出しゃばることなく、しかし的確なプレイで彼女の歌声を盛りたてます。クリスマス・シーズンということで「WINTER WONDERLAND」、「HAVE YOURSELF A MERRY LITTLE CHRISTMAS」等のクリスマス・ソングも洒落たアレンジで披露。いまさらながら、クリスマス・ソングって本当に心あたたまるメロディだなあ、と思います。
しかしぼくが最も心を打たれたナンバーは大ヒット曲でもクリスマス・ソングでもありません。パティとジェームズ・イングラムが世に紹介し、トニー・ベネットもカヴァーした難曲「HOW DO YOU KEEP THE MUSIC PLAYING」と、パティ自身が“私にとって21世紀のアンセム(anthem)”と前置きして紹介した「LEAN ON ME」です。いずれも壮大な展開を持つバラードです。しかしパティは少しも大げさに表現することなく、ありあまる実力を巧みにセーブしながら、歌詞をじっくりと伝えてゆきます。ここまで深みのあるパティは、決して往年のアルバムでは聴けなかったといっていいでしょう。つねに第一線を歩みながら、円熟を重ねてきた現在のパティだからこそ表現できるのであろう“境地”に触れて、ぼくは改めて「いま、パティ・オースティンを生で聴ける幸せ」に浸りました。
(原田 2010 12.21)
● 12.21tue.-12.25sat.
PATTI AUSTIN