'11 Bloggin' BNT by 原田和典 , ROBERTA GAMBARINI - - report : ROBERTA...
2010/02/27
公演初日リポート:ROBERTA GAMBARINI
ぼくがロバータ・ガンバリーニのライヴに接するのは、これで3回目です。
最初に見たときはスライド・ハンプトンが指揮するディジー・ガレスピー卒業生ビッグ・バンドに、次に見たときはロイ・ハーグローヴ・ビッグ・バンドにゲスト・シンガーとして参加していました。そのとき受けた印象は、“とにかくパワフルな歌い手である”、ということ。ビッグ・バンドに勝るとも劣らない迫力で、からだ全体をフルに使って歌っていました。スキャットに圧倒されたことを鮮やかに思い出します。
しかし、リーダーとしては初めての「ブルーノート東京」出演となる昨日のステージを聴いて、ぼくは“自分はロバータの魅力の、ほんの一部しか知らなかったんだなあ”と反省、改めてその実力に驚嘆いたしました。以下、ぼくが感じたところを記させていただきます。
1) リズム感が抜群
アカペラでワン・コーラスを歌いきった「SO IN LOVE」に、まず引きずり込まれました。この曲は構造が凝っているし、長い音符が多いので、その音符の取り方が不十分だとすぐにテンポが“走って”しまいます。しかしロバータはスロー・テンポを保ちながら、フェイクを控えて、一語一語を語りかけるように聴かせてくれました。「OUR LOVE IS HERE TO STAY」はミディアム・テンポとスロー・テンポの間をとったような、ものすごく微妙なテンポで歌われましたが、この速度で、しかも抜群のスイング感をかもし出せる現役シンガーをぼくはロバータ以外に知りません。
2) ヴァースを重視
ヴァース(Verse)とは、スタンダード・ナンバーにおける“前置き”というべきパート。省略される場合も多いのですが、ぼくは“ヴァースを粗末にする歌手は歌への愛に欠けている”と思います。その点、ロバータは“ヴァースも含めてひとつの曲”と考えているようで、美しいヴァースをたっぷり聴かせてくれました。「DEEP PURPLE」のヴァースは、ことに絶品でした。
3) マイクの使い方が巧み
ロバータは大変声量があり、音域の広いシンガーです。しかし楽曲はせいぜい1オクターヴ超、広くても2オクターヴの間で作られています。自分の声のいちばん響くところを熟知したうえで、それをどうオーディエンスに届けるか。それを彼女は留意しているのでしょう、非常に細やかにマイクと口の距離を調整しておりました。マイク込みで自分の声なのだと、考えているのだと思います。
4) ディクション
歌詞は韻を踏んで作られています。フレーズの語尾をどれだけしっかり発音するかで曲中のリズム感に強弱がつきます。ロバータは母音と子音のコントラストを強めにして、躍動感を際立たせます。フランク・シナトラやビリー・ホリデイがそうであったように、どんな小さな子音もおろそかにはしません。イタリア出身である(米語を母国語としない)彼女が、これほどアメリカン・スタンダード・ソングスを自分のものとするまでには、血のにじむような努力があったことでしょう。
5) 先達への敬意
MCでは先ごろ亡くなったドラマー、ジェイク・ハナについて触れておりました。また、サックス奏者ジョニー・グリフィンの書いた「THE JAMFS ARE COMING」に詞をつけて歌っておりました。この曲はもともとインストゥルメンタル・ナンバーで、知っているひとは相当マニアックな部類に入ります。こうしたレパートリーひとつとっても、ロバータがヴォーカルという分野にとどまらず、広くジャズ全体に視野を広げていることを示しています。
とにかくロバータは、とかくなおざりにされがちな、こうした基礎をパーフェクトにこなしています。ゆるぎない土台があるからこそのスキャットであり、フェイクなのです。失恋の歌(トーチ・ソング)では全身に悲しみをにじませ、恋の喜びを歌うときは表情が少女のようにときめきます。
サポート・メンバーには“歌伴の権威”が集まっておりました。エリック・ガニソンは、長く故カーメン・マクレエの伴奏を担当していたピアニスト。ソロ・パートでは玉を転がすような単音を鳴らし、歌のバックではリッチな和音を絶妙なタイミングで放ちます。現在最高峰のヴォーカル・サポーターといっても過言ではないでしょう。ベースのニール・スウェインソンは、ジョージ・シアリング、ジーン・ディノヴィといった“歌を知る”大ベテラン・ピアニストから絶大な信頼を受けている名手。故メル・トーメ、故ジョー・ウィリアムスといった伝説的シンガーのサポートも経験しています。ドラムスのアルヴィン・アトキンソンの名前は不勉強にして初めて知りましたが、歌に寄り添うようなプレイは見事というしかありません。バス・ドラム(足で踏む大太鼓)のチューニングも、非常に美しいものでした。
とにかくぼくはロバータの底力にノックアウトさせられました。そしてサポート陣の演奏に聴きほれました。公演は3月2日まで続きます。ヴォーカル・ファンはもちろん、ジャズ・ヴォーカリストを志望される方にも見ていただければ、と思います。
(原田 2010/2/27)
● 2.27sat.-3.2tue.
ROBERTA GAMBARINI