【スペシャルインタビュー】LEO
"NEW GRID"をテーマに挑む新たな境地
箏の表現を追求し続けるLEOが見据える未来
LEOは1998年生まれながら、すでに5枚のアルバムと1枚のDVD作品を発表している箏の俊英奏者だ。米国人と日本人のミックスである彼はどのように箏と出会い、その日本の伝統楽器と接してきたのだろう。また箏を介して、彼はいかなる自分の音楽を成就させようとしているのか。ブルーノート東京初登場となる彼に、これまでの歩みや今回の公演に対する抱負を聞いた。なお、端正なLEOの受け答えはとてもまっすぐ、その静かな情熱の在りかが眩しかったことを付記しておく。
text = Eisuke Sato
----箏との出会いを教えてください。
「インターナショナル・スクールに通っていたんですが、その小学校4年生の時ですね。師匠はカーティス・パターソン先生。ピアノでアメリカの音大に行っていて、大学のワークショップで箏に出会い一目惚れして、それで日本に来てしまったようです。インターナショナル・スクールでは小学校4〜5年生の時は箏が必修だったんです。中学校になると楽器が選べるようになりましたが、自分は箏を選択し続けました」
----箏と出会った時、これは自分の楽器だと思ったのでしょうか?
「一番最初に触れた楽器が箏だったんです。両親も音楽はまったくやっていなかったし、たまたま箏に触れたという感じでしたね。中学校になると友達とバンドを組み、当時流行っていた洋楽をやるようになりました。女の子がヴォーカルでブルーノ・マーズとかをやっていたんですが、その際は鍵盤、ギター、ベース、ドラムと一通りやりました。でも、どの楽器もそんなに長続きはせず、なんか自分には箏が合っているなと感じたのが中学生の時ですね。僕が入ったのは沢井箏曲院という流派だったんですが、その沢井忠夫先生と沢井一恵先生の曲は古典の箏の音色をより進化させようと、大きな音で弾く奏法を開発したり、いろいろとある制限に対してもがいているようなところがあって、すごく共感を持つことができました」
----では、その頃には自分は箏の奏者になりたいと思ったわけですね。
「コンクールとかに出て行くうちにどんどんのめり込んでいって、プロの奏者になりたいなと思うようになったのは中学校3年生ですね」
----沢井先生たちも東京藝術大学をお出になっているんですよね。そうすると、藝大の邦楽科に進むのも自然な流れだったのでしょうか?
「というよりは、親にプロになりたいと言っても反対されるのは目に見えていたので、国立の大学だったらと、藝大を選びました。受験が近づくと、藝大に行く意味とかも改めて考えましたが」
----藝大に入る頃には、アルバム(『玲央1st』)を出していたんでしたっけ?
「そうですね。大学に入る年の3月に出したんです」
----そして、順調にキャリアを重ねているわけですが、箏は現在複数の種類を弾いていますよね。
「今回ブルーノートでは、二十五絃と十三絃の箏を弾こうと思います。あと低音用の十七絃の箏があり、僕の師匠の沢井一恵先生は十七絃のベースの箏のスペシャリストなんです。十七絃の誰にも出せない音色にアイデンティティを感じ、それに憧れた時期もありました。とはいえ、自分としては十三絃の高い音域の方が合っているかとも思います」
----十三絃の箏の場合、箏本来の音色を持つと考えていいのでしょうか。
「そうです。自分の音を探しつつ、でも自分のやりたいことをするためには十三絃では足りないと感じ、2〜3年前に二十五絃も始めました。野坂操壽先生による世に出て30年ほどの若い楽器で、まだまだ新しい可能性を秘めていると思います。僕の流派だと二十五絃を弾く人はほとんどいないんですが、ちょっとやってみようかと思いました」
----今回のブルーノート東京公演についてお聞きします。出演なさるのは、今回が初めてですよね。ジャズクラブでやるというのは意識しますか。
「クラシックのホールではできないことをしたいと思っています。それは選曲もそうですし、編成についてもそうでしょうか。ブルーノートだと、アンプリファイもできますしね。でも、ブルーノートから話をいただく前から、こういうことをしてみたいという考えは頭の中にありました。普段やっている活動の延長にはあるんですが、今回はさらに一歩二歩抜きん出たことをやってみたいです」
----では、これまでの公演では見えなかった部分も受け取れるということですね。
「そうです、そうです」
----箏の奏法をきっちり知っている人は多くないと思うんです。それを目の前でちゃんと見ることができるのは、貴重な場になると思います。
「箏の手の動きって面白いなと皆さんおっしゃいますね。(右手で)爪弾くだけではなく、左手は弦を抑えたりヴィブラートをかけたりとか、こちらでも弾いてみたりとか。パーカッシヴな演奏もできますし、そういう奏法ができるんだというのは意外にCDを聴いただけでは分かりにくく、間近で見られるのも面白い点でしょうね」
----では、いろんな奏法を見せちゃいますか。
「そうですね。普通の箏とは一線を越えた感じの演奏になると思います」
----ブルーノート東京では、4人でライヴをなさいますよね。これは、ブルーノート・スペシャルですか。
「はい、カルテットでやる曲がメインとなります。カルテットによる編成は今回が初めてとなりますね。今までピアノとはやっていて、そこにヴァイオリンやチェロを加えたトリオでもやっているんですが、今回はそこから一つレベルアップさせて、カルテットで新しい世界を作っていけたらと思っています」
----今回の3人の奏者は、普段一緒にやっている方々でしょうか。
「ピアノのロー磨秀さんとチェロの伊藤ハルトシさんは何度か共演していて、ヴァイオリンのビルマン聡平さんは今回が初めてです。でも、活動を見聞きしまして、シンパシーを持っていますね。それは他の人もそうなんですが、今回すごく素晴らしいメンバーにお力添えいただけるなと思っています」
----ビルマンさんはブルーノート東京の顧客には知られる人かもしれないです。上原ひろみさんのザ・ピアノ・クインテットの一員として、ブルーノートにはたくさん出ていますから。この3人に共通する項目は何かあったりしますか。
「皆、名前がカタカナですね(笑)。皆さん、クラシックにルーツを置きながらも違うジャンルに入っていく視野の広さをお持ちです。また、やはりクラシックの奏者にはないリズム感も持っていますし、そういうところも共感しますね」
----リズム楽器が入らない編成だけに、よりリズム感は重要になりますよね。<>/span
「そう、それぞれの楽器がパーカッシヴな要素を担っていくようになりますから」
----演目なんですが、オリジナルの「Deep Blue、空へ」、4作目『In A Landscape』で取り上げていた坂本龍一さんの「1919」、そしてディグラン・ハマシアンの「Nairian Odyssey」などが披露されるようですが。それらの曲って共通性があると思いました。
「そう取ってもらえるとありがたいです。僕は中学3年生ぐらいから、坂本龍一さんの大ファンなんです。音楽もそうですが、音楽家としての生き様に惹かれます。YMO、映画音楽、アンビエントといろんなことをやっていますが、そこには坂本龍一節というような彼一流の特徴があって、そうした音楽家としての姿が好きなんです。ティグラン・ハマシアンも同様の理由で好きですね。僕自身もああいうことをやりたい、作曲家として目指したいという憧れを持っています。今回は憧れる人の曲をお借りしつつ、<箏という日本の伝統音楽の要素>と<西洋クラシックの要素>、さらには<リズミカルなジャズであったり、コンテンポラリーな要素>をうまくミクスチャーして新しいジャンルを作りたいと思っています。その意図は、今回の"NEW GRID"というタイトルにも表れていますね。そこには、これまでの項目になかった新しいものを作るという意味を込めています」
----こういう話を聞くと、LEOさんの今後の活動のヒントが受け止めらるような気がします。
「今回のブルーノート公演は将来的に自分がやりたい活動の一つのスタート地点であると思っています。ここでうまく行ったものを今後、どんどん膨らませて、自分の一つの軸にしていきたいという野望を持っていますね」
LIVE INFORMATION
☆LEO -NEW GRID-
2022 3.18 fri.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/leo/
<MEMBER>
LEO(箏)
ビルマン聡平(ヴァイオリン)
伊藤ハルトシ(チェロ)
ロー磨秀(ピアノ)
佐藤英輔(さとう・えいすけ)- 音楽評論家。来日ミュージシャンのライヴがほぼほぼ途絶えていることもあってか、ここのところは映画を見ることが多くなっている。長年書いてきたブログの提供元が3月で終わるというので、おおあわて......。