現代アメリカーナ/ブルーグラスのスーパー・グループ、パンチ・ブラザーズ
PUNCH BROTHERS2016 8.3wed.-8.5fri.
アメリカ音楽を変える!
スーパーバンドがいよいよ来日
アメリカン・ルーツ・ミュージックの影響を受けて生まれた"アメリカーナ"。
今では次世代を担うアーティストによる現代的なアレンジも加わり"ニュー・アメリカーナ"という言い方までされるほど、細かくその動向に注目が集まっている。今回はその中でも"史上最高"と称されるバンド〈パンチ・ブラザーズ〉の中心人物、クリス・シーリーにインタビューを敢行した。
バンジョーやフィドルを擁し、見た目はブルーグラス・バンドだが、その多様な音楽性ゆえ、風変わりでプログレッシヴなストリング・クインテットとでも呼ぶべきだろう。当のパンチ・ブラザーズのリーダー、クリス・シーリーも同意する。
「まさにその通りさ。確かに僕らはブルーグラス・バンドみたいに見える。でも、そのサウンドは説明するのがすごくむずかしいものなんだよ(笑)」
- クリス・シーリー
- 新世代ブルーグラス・バンド<ニッケル・クリーク>に15年以上在籍、メジャー・デビュー後にリリースした3作品の売り上げが200万枚を超え、ソリストとしての活躍も含めその天才ぶりが注目を浴びる。
クリスは5歳でマンドリンを弾き始め、8歳でニッケル・クリークを結成し、12歳でソロ・アルバムを録音した早熟の天才だ。00年のニッケル・クリークのアルバムがアコースティック・ミュージックで異例の百万枚を売り上げた成功は、アメリカーナの盛り上がりのきっかけともなった。ジャンルをまたぐ活動はヨーヨー・マとのコラボやバッハ作品集の制作など、クラシックの分野にも及び、12年にはマッカーサー財団からマッカーサー・フェロー(通称「天才賞」)と副賞50万ドルを授与された。
そんな大忙しのクリスだが、もちろん彼の活動の主体は、06年に結成したパンチ・ブラザーズだ。
「まだニッケル・クリークをやっていた頃だったけど、ブルーグラスのアンサンブルにそれまで聞いたこともないような演奏をさせる作品を構想し、ブルーグラス・バンド編成の弦楽5重奏の40分の作品を書いた。ベラ・フレックやエドガー・マイヤーとやろうかとも考えたんだけど、作曲と指揮をする男が一番年下だと、バンド内の力関係が妙な感じになって、やりにくいかもと思った。そこで同年代の仲間を探したんだ」
集まったメンバーは、ノーム・ピクルニー(バンジョー)、ゲイブ・ウィッチャー(フィドル)、クリス・エルドリッジ(ギター)、08年参加のポール・ コート(ベース)という凄腕揃いだ。バンジョー不在のニッケル・クリークと異なり、編成自体は標準的ブルーグラス・バンドと同じ。
「伝統的なブルーグラス・バンドのテクスチャーと色彩を求めた。そして、そこからバンジョー入りのブルーグラス・バンドがそれまで行ったことのないところを目指し、何をできるかを見てみたかった。パンチ・ブラザーズは音楽の可能性を探究し、実験するために結成されたんだよ」
そのバンド名はマーク・トウェインの短編小説の題名に由来するが、彼らの音楽はジャンルを隔てる壁を壊す強烈なパンチでもある。
「ジャンルという考えを取り去りたいね。それは役に立つものでないと思う。僕が興味のあるミュージシャンは、自分の育ったジャンルを超越して、まったく新しいものを作り出す。僕はブルーグラス育ちだけど、他の音楽を聴き始めて、ひとつのジャンルに縛られる必要はないと理解した。素晴らしい音楽があらゆるところにあるんだから」
そんな言葉通り、彼らの音楽はブルーグラスを出発点に、フォーク、カントリー、ジャズ、ロック(レディオヘッドのカヴァーは十八番だ)、そしてクラシックまでを消化したもの。最新作『燐光ブルーズ』でも、途中の展開でビーチ・ボーイズ風コーラスまで出てくる10分超えの曲で始まり、アコースティックながらロックする曲もあれば、伝統歌もあるし、ドビュッシーやスクリャービンまで取り上げ、それらが違和感なく並んでいる。そして、歌われる主題はとても現代的なものだ。
「アルバムの主題はスマートフォンやソーシャルメディアがどのように僕らの生活に影響を与えているかの考察で、こういった驚くべきテクノロジーに囲まれながら、どうやったら活気に溢れたリアリティのある人生を過ごせるだろうかという重要な問いかけをしている。この状況が僕らをどこに連れていくのか、といつも考えているんだ。テクノロジーを利用していたはずなのに、どこかで立場が入れ変わって、テクノロジーにどこかへ連れて行かれるんじゃないかとね」
最後に、現在のアメリカーナ~アコースティック・ルーツ・ミュージックを「すごく良い状況だと思う。興味深い音楽がすごくたくさんあるよ」というクリスに、何故人びとはアコースティック・ミュージックに惹かれるのでしょう?と問うと、答えは意外に簡単なものだった。「いつだってみんなは電気がなくても演奏できる音楽が好きなんじゃない?(笑)。狭い部屋で電気がなくっても、人さえ集まれば、音楽を楽しめる。そこが僕も大好きだよ」
about "Americana"
フォーク、ブルーズ、オールドタイム、ブルーグラス、リズム&ブルース、カントリーといったアメリカン・ルーツ・ミュージックに影響を受けた音楽の総称。当店ではリアノン・ギデンズやアイム・ウィズ・ハーが出演している。アメリカーナのミュージシャンが招聘されるピーター・バラカン氏主催の〈Peter Barakan's LIVE MAGIC!(今年は10/22~23)〉も毎年開催され賑わいをみせている。映画『オー・ブラザー!』で使用された楽曲でもその存在が話題となった。
『オー・ブラザー!』(2000年製作)
サウンドトラックは2002年のグラミー賞最優秀アルバム賞に選ばれた。
- PUNCH BROTHERS(パンチ・ブラザーズ)
2016 8.3 wed., 8.4 thu., 8.5 fri.
[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:20pm Start9:00pm
- ※詳しくは公演詳細ページまで
- 『The Phosphorescent Blues / 燐光ブルース』
(ワーナーミュージック・ジャパン/Nonesuch) - ※国内盤 2016 7.20発売
- 『ハウ・トゥ・グロウ・ア・バンド
~パンチ・ブラザーズの作り方~』
(ジェットリンク/ポニーキャニオン) - ※Blue-ray2枚組、DVD2枚組
※2016 7.20発売
Recommendation
萩原健太
音楽評論家
ブルーグラス、ジャズ、オルタナ・ロック、交響曲、室内楽...。多彩な伝統を貪欲に受け継ぎつつ、しかしこれまで誰も作り得なかった音世界を紡ぎ上げるパンチ・ブラザーズ。ともすれば"ルーツ・ミュージック"と同義に語られがちな"アメリカーナ"が、実は過去ではなく未来を志向するものだと教えてくれた頼もしい連中だ。その凄みをぜひ生で!
蓮沼執太
ミュージシャン
歴史を感じる懐かしい音色が聴こえてきた矢先、技巧的なアンサンブルが耳に飛び込んでくる。その挑戦的で繊細な音の動きは生のライヴではどう演奏されるのだろうか。彼らは、音楽的伝統にしばられることなく自由であり続け、ありとあらゆる同時代的な音楽の要素を「PUNCH BROTHERS」という器に放り込んでいく。最高峰のアンサンブルを楽しみたい!
矢野顕子
ミュージシャン
初めて彼らの演奏に接したのが、Tボーン・バーネット率いる〈THE SPEAKING CLOCK REVUE〉でした。自身の演奏だけでも驚愕でしたが、ハウスバンド的に他のミュージシャンの伴奏もとても上手くて、いっぺんでファンになり、それからはニューヨークで演奏する時には、ほぼ必ず行っています。メンバー全員の技量の高さが、それを披露する為のものではなく、音楽のすばらしさを表現するために使われているところが、好きです。みんな、絶対聴きに来てね!!
interview & text = Tadd Igarashi
PR coordinator / Artist = Kei Kato
- 五十嵐 正(いがらし・ただし)
- 音楽評論家。社会状況や歴史背景をふまえたロック評論からフォークやワールド・ミュージックまでを執筆。著書『ジャクソン・ブラウンとカリフォルニアのシンガー・ソングライターたち』『スプリングスティーンの歌うアメリカ』他。