[インタビュー|OFFSTAGE]巨匠 ルー・ドナルドソン、インタビュー
僕のサックスは僕の声だ。
僕の演奏は僕の歌だ。
5月に圧倒的演奏で客席を仰天させた巨匠、ルー・ドナルドソン。
ステージに上がり、最初のたった1音で会場の空気を一変させた。
御年87歳。エネルギーの源泉を話してもらった。
開演のアナウンスで、ルー・ドナルドソンが客席後方から姿を現した。黄金色のセルマー マークⅥを手に、ゆっくり、ゆっくり、歩を進める。メンバーがスタンバイしているステージのセンターに立ち、眠そうな表情で客席を見回す。マウスピースをそっと口に近づけた。御年87歳。大丈夫だろうか―。しかし、次の瞬間、凄まじい音が会場を切り裂いた。ウォ―! 歓声とともに会場の空気が一変する。
「ステージに上がったら、まず客席にいる1人1人の顔を眺めるんだ。Good!だった。みんなが僕の演奏を期待してくれているのがよくわかった。今晩もOK。確信できた。あとは何の心配もいらない。僕が自分のやるべき演奏をしっかりとやれば、間違いなくご機嫌な夜になる」
焼け焦げたような味わいあるダミ声でふり返る。動きと同様、しゃべりもゆっくりだ。
インタビューのために楽屋を訪ねた時、彼は食事中だった。テーブルナプキンを肩からかけ、ガッツリとステーキを頬張っていた。
「やあ、今、次のショーのためのエネルギーを注入しているところだよ。ふだんはフィッシュやチキンだけど、今日はビーフだよ。いい味だ」
ご満悦だった。ショーの最初の1音で客席の心をわしづかみにした曲は「ブルース・ウォーク」だ。
「僕の代表曲の1つだよ。アルバム『ブルース・ウォーク』と『アリゲーター・ブーガルー』は僕のキャリアではベストの2枚だ。どちらもよく売れた。ジャズチャートの上位に入ったはずだ。えっ、ランクかい? そんなのは忘れたさ。もう何十年も前のことだからね。とにかく、この2枚のタイトル曲は今も演奏する。ときどき忘れると、前の席にいるお客が、なんでやらないんだ? と言ってくるから、ほとんどは大丈夫だ。それでも、うっかりしないように、できるだけ最初に演奏するように心がけてはいる」
ルー・ドナルドソン・カルテット
2014 5.23 fri. - 5.25 sun.
photography = Tsuneo Koga
今の編成は、ドラムス、オルガン、ギターとのカルテット。ベーシストはいない。
「僕のショーはブルースとジャズのスタンダードを演奏する。できるだけみんなが知っている曲をやる。口ずさめる曲がいい。そして、郷愁を誘うような演奏を心がける。それを思うと、今の編成が一番気持ちよくサックスを吹けるんだ。気持ちが落ち着く。ベースはいなくても問題ない。低い音域はオルガンがやってくれる。郷愁を感じたいリスナーは、若い演奏家ではなく、僕のショーを選んで聴きに来るべきだと思うね」
88歳を迎えようとしてもバイタリティ溢れる演奏ができる秘訣はなんなのだろう―。
「さあ。特に気をつけていることはない。ただ、規則正しい生活はしているよ。1週間に3回はゴルフをラウンドする。週末の2日か3日はショーをやる。ニューヨークが多いね。ブルーノート、ヴィレッジ・ヴァンガード、バードランド、イリディウム......。どれもご機嫌なクラブだ。ゴルフの後、そのままクラブで演奏することもある。いい感じになるよ。気分がいいからかもしれない。僕のサックスは僕の声だ。僕の演奏は僕の歌だ。だから、その時の僕の気持ちがありのまま音楽になるんだよ」
photography = Hiroyuki Matsukage
text = Kazunori Kodate