キューバ発、高パッションに満ちあふれたピアニスト
ピアノの持つ可能性をどこまでも追い求める
キューバから来たピアニスト、ロベルト・フォンセカの演奏は高体温で高パッション。
2人の打楽器奏者に加え、ピアノもパーカッシヴで、バンド全体が強烈なリズムを生む。
弦楽器であり打楽器でもあるピアノのポテンシャルを最大限に表現した音楽だ。
「ビービサー! ビービサ!」─。3月18、19日、2日間4公演行われたキューバ人ピアニスト、ロベルト・フォンセカのショーはステージも客席も大合唱になった。「ビビサ」とはキューバで「強く生きろ!」「激しく生きろ!」という意味を持つ。この高体温を感じる曲「ビビサ」は、グラミー賞にノミネートされたロベルトの最新作『ジョ』に収録されている。
「日本のオーディエンスは教養が高くて上品。しかも、ブルーノート東京に集まる人は特に知性が高いと感じています。そんな知的な人たちばかりの客席があんなに熱狂的になってくれるなんて! ステージにいる僕もすごく興奮しました」
バンドは5人編成。ドラムス。パーカッション。ベース。曲によって、コラという21本の弦をもつ西アフリカの民族楽器の演奏家が加わる。そしてピアノとキーボードとヴォーカルはロベルトだ。打楽器奏者が2人いて、ロベルトがパーカッシヴな演奏をするため、バンド全体が強いリズムを生み続ける。
「ピアノは弦楽器であり、打楽器でもあります。メロディを歌い、リズムも刻みます。そして僕は、特に打楽器としてのピアノを強く意識しています。子どもの頃には管楽器も演奏しましたが、僕にはピアノが一番魅力的でした。1台でオーケストラのようにバリエーション豊かで厚みのある音を生み出す、コンプリートな楽器だからです。僕はピアノをさらに未知のレベルへ到達させたい。僕のバンドのメンバーも皆同じ意識です。自分が演奏する楽器をより高いレベルまで引き上げようとしています。プレイヤーでありクリエイターです」
ロベルト・フォンセカ
2014 3.18 tue. - 3.19 wed.
photography = Tsuneo Koga
ライヴでは、やはり『ジョ』に収録されている「アシ・エ・ラ・ビータ」というジャズバラードも演奏した。そのスロウでロマンティックな曲ですら、ロベルトは強いタッチで鍵盤を叩く。しかし、1音1音への思いが強いせいだろうか、とてつもなく優しく情緒的に響く。客席は皆、瞳を閉じて聴き入った。
「僕は幼少時から音楽学校で勉強してきました。学校ではラフマニノフやチャイコフスキーやモーツァルトの作品を弾き、その一方でチューチョ・バルデスをリスペクトし、ジャズ、ソウル、ファンク、パンク......を聴いて育ちました。リズムを刻むジャズやロックも、リズムを刻まないクラシックも、あらゆる音楽の影響を受けて今の音になっています」
南米、北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジア......ロベルトは年間200公演近く演奏をしている。2度目になる日本での滞在も楽しんでいる様子だ。
「東京には秩序があります。ホテルもシステマティックで快適。ただし......、トイレのあの水を噴射して尻を洗う機能だけは試す勇気がもてませんけれどね(笑)。キューバでは考えられない文化の産物です」
食事では揚げ物が大好物らしい。ロベルトの音楽はエネルギー消費量が多いからだろうか。
「カツ丼とライスクラッカーは抜群!」
ライスクラッカー? 聞き返すと、「コレだよ!」と天乃屋の歌舞伎揚げを見せてくれた。
「日本滞在中は楽屋で毎日食べます。演奏前も演奏後もね。僕の日本公演のエネルギー源です」
photography = Hiroyuki Matsukage
interview & text = Kazunori Kodate
- ROBERTO FONSECA(ロベルト・フォンセカ)
- ハバナ生まれ。8歳でピアノを始め、15歳で地元のフェスティヴァルのステージに立つ。初リーダー作は『ティエネ・ケ・ベール』(1999)、その後ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのツアーにも参加する。最新アルバム『ジョ』は2014年グラミー賞にノミネート。