2023年に「ブルーノート東京」の35周年イヤー関連企画としてTOKYO DOME CITY HALLで開催された一大ジャズ/フュージョン・フェスティバルが、今年も華やかに行われました。題して「JAZZ-FUSION SUMMIT 2024」。要注目の気鋭グループから輝かしい足跡を誇るプロジェクトまで、定評ある名手たちが意気込みも新たに組んだユニットからアコースティック・サウンドの醍醐味を伝えてくれるデュオまで、日本のジャズ/フュージョンの豊かな歴史を目の前に差し出すかのように多彩なセットリストが並び、驚きのメンバーによるスペシャル・セッションや、各ユニットとオーケストラの共演など、この日・この時限りに違いない趣向もたっぷり楽しむことができました。
オープニングを飾ったのはTHE JAZZ AVENGERS。ドラマーの川口千里の呼びかけで2021年に結成された8人組です。セットリストは「Exploration」、「8 STEPS」、「As You Like」など、この5月にリリースされたばかりの最新アルバム『8 STEPS』からのものが中心。広いステージをフルに使ったパフォーマンスと親しみやすい曲調の相乗効果で、出だしの一音から会場を大いに沸かせてくれます。川口、キーボードの竹田麻里絵、ギターの瀬川千鶴、芹田珠奈のベースからなるコンビネーションは抜群の安定感を持ちつつも華やか、ソプラノ・サックス(中園亜美)、アルト・サックス(寺地美穂、WaKaNa)、テナー・サックス(米澤美玖)によるフロント陣もアンサンブルとソロの双方で輝きを放ち、「As You Like」における観客とのコール&レスポンスも強く印象に残りました。
ステージには川口が一人残り、そこに神保彰、坂東慧、仙波清彦が加わって、実に豪華な、ドラム&パーカッションのアンサンブルが始まります。“手数王”こと故・菅沼孝三の薫陶を受けた坂東と川口が競演する華やかさ、3人のドラマーのドラム・セットや持ち味の違い、多種多彩なパーカッションをユーモアたっぷりに操る仙波のプレイなど見どころ・聴きどころに満ちた場面が連続します。各人がタイトなソロ・プレイを響かせた後、神保のドラム・トリガー・システムが奏で始めたのは、チック・コリアの名曲「スペイン」。打楽器の持つ華やかさを、これでもかと伝えるパフォーマンスでした。
神保のソロ・コーナーのあと、向谷実(key)と櫻井哲夫(b)が加わり、かつしかトリオによるパフォーマンスが始まります。1980年から89年にかけてカシオペアで演奏していた3人が再び顔を合わせた形になりますが、かつしかトリオとしてのスタートは2021年、つまりTHE JAZZ AVENGERSと同い年です。ソロ・アーティストとして押しも押されもせぬ存在となって久しい凄腕たちが、改めて集結し、一丸となって新たな楽曲に挑むところに、このユニットの美しさがあります。ただ音楽に身を任せているだけで保証付きの気持ちよさが味わえるのですが、MCパート(もちろん向谷実が担当)で笑いをとることも忘れません。磨きあげられた演奏と、おもしろい司会のコントラストに引き込まれているうちに、あっという間に時間が過ぎてしまいます。「Bright Life」、「M.R.I_ミライ」、向谷のボコーダーが効果的な「柴又トワイライト」(観客とのコール&レスポンスあり)など、オリジナル・フルアルバム『M.R.I_ミライ』からの楽曲をじっくり届けた40分間。白でまとめたコスチュームも鮮やかでした。
やがて、向谷の抒情的なキーボード・プレイが始まると、そこに合流したのは、T-SQUAREの伊東たけし(sax)。曲目は、T-SQUAREがザ・スクエア時代に発表した「Forgotten Saga」です。‘70年代後半から日本のフュージョン~インストゥルメンタル・ポップ・シーンを牽引してきた向谷と伊東がデュオで奏でるバラードが、「一音も聞き逃したくない」とばかりに静まった場内に響き渡ります。演奏が終わった後に巻き起こった拍手は、まるで大きな波のようでした。
2年連続の登場となったT-SQUAREは、伊東、坂東慧(ds)、松本圭司(key)、田中晋吾(b)、杉村謙心(g)というラインナップでの登場。1988年のアルバム『YES,NO.』からの「DANS SA CHAMBRE」に始まり、ザ・スクエアの頃から数えて50枚目のオリジナルアルバム『VENTO DE FELICIDADE 〜しあわせの風〜』収録曲の「Maverick Moon」からは、この曲の作者でもある元メンバーの本田雅人(sax)も参加。伊東と本田という、歴代フロントマンどうしの熱いプレイの応酬も実にスリリングでした。後半ではさらに、初期ザ・スクエアの一員であったパーカッション奏者の仙波清彦も加わって、1978年リリースのファースト・アルバム『Lucky Summer Lady』の冒頭を飾った「A FEEL DEEP INSIDE」と79年リリースの『Make Me A Star』を締めくくっていた「TEXAS KID」を演奏。ラテン調ともアフリカ調とも一線を画す、まさに仙波調というしかない打楽器の小気味よい音色は快感のひとことに尽きました。なお、T-SQUAREは8月1日と2日に丸の内・コットンクラブで「新メンバーオーディション ファイナルライブ」を開催予定。20代の新メンバーが加入するとのことで、その輝かしい歴史にさらなるバリエーションが加わることは間違いのないところでしょう。
インターミッションを経て始まったのは、cobaのアコーディオン・ソロによる「Campana」。イタリアの名器“ヴィクトリア”から醸し出される香り高い音色が圧巻です。続いてはフラメンコ・ギター奏者、沖仁のソロによる「フエゴ~炎~」。楽器の前に1本のマイクを立てただけの、ピックアップもアンプも用いない、粒立ちのよいアコースティック・ギターの音色が場内を満たします。ふたりは2022年からcokibaというユニットを組んでいますが、cobaのアルバム『サムライ アコーディオン』では渡辺香津美とのコラボレーションで演奏されていた「Crimson Strings」が、この日、cobaと沖仁の超絶的なパフォーマンスで味わえたのも大きな収穫でした。さらに「時間のプロフィール」では仙波清彦がドラマーとして参加、そこに櫻井哲夫が加わった4人編成ではアストル・ピアソラの「リベルタンゴ」、cokibaの代表的ナンバー「悲しみの神-proserpina-」の2曲が取り上げられました。
この「JAZZ-FUSION SUMMIT 2024」のトリをとったのは、トランペット奏者のエリック・ミヤシロが音楽監督を務めるブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ。川口千里、本田雅人、米澤美玖など当フェスですでに快演を聴かせた面々に加え、小池修(sax)、中川英二郎(tb)、川村竜(b)等のソロにも大きなスポットが当たりました。スナーキー・パピー、コーリー・ウォンなど最前線の気鋭たちの楽曲のオーケストラ化も嬉しいものでしたし、宮本貴奈のヴォイス(ワードレス・ヴォーカル)をフィーチャーしたパット・メセニーの楽曲「ファースト・サークル」、本田雅人が喝采をさらったデイヴィッド・サンボーンの代表的バラード「ドリーム」(作曲はマイケル・センベロ)双方における解釈も輝きを放ちました。先ごろ亡くなったサンボーンが「音楽のことに関しては、メールでの打ち合わせより会話(電話)で相手の声を聞くことを何よりも大切にしていた」等、エリックがMCパートで披露した共演ミュージシャンとのエピソードの数々も実に興味深いものでした。
ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラによる単独演奏の次は、「当フェスに登場した各ユニットを迎え、彼らの人気曲を共演する」約25分ものスペシャル・セッションに突入します。THE JAZZ AVENGERSとの共演では「Unite」、かつしかトリオとの共演では「Red Express」、T-SQUAREとの共演では「Omens of Love」(伊東たけしと本田雅人のEWI共演も)、coba × JIN OKIとの共演では「Sara」がプレイされました。キャッチーなメロディの数々が、すこぶる新鮮にオーケストラ化された後、ウェザー・リポート(ジョー・ザヴィヌル)の名曲「バードランド」が高らかに奏でられて、約4時間半にわたるJAZZ-FUSION SUMMIT 2024はエンディングを迎えました。
エリックは確かに「See you next year!」と言ってくれました。第3回目はどうなるのか、もうワクワクし始めているファンは私だけではないと思います。「JAZZ-FUSION SUMMIT」が夏の風物詩となることを願ってやみません。
Text:Kazunori Harada
Photo:Tsuneo Koga