[インタビュー|OFFSTAGE]チコ・ブーチキー
チコの音楽に秘められた亡き兄への想い
最愛の兄が贈ってくれたギターがチコの人生を拓いた。そして、義理の兄弟で結成したバンドで大成功を得る。その背景に隠れた秘話を明かしてくれた。
「日本人は、シャイじゃないよね(笑)。昨日もすごく盛り上がっていた。観客の興奮がいいエネルギーになって僕らを刺激する。観客と出演者、エネルギーを交換しあえる関係が素晴らしいんだ」
チコ&ザ・ジプシーズの公演は、総立ちになり、『ジョビ・ジョバ』などのヒット曲で歓声が上がり、踊り出す人もいる。その姿を見て、リーダーのチコは、「嬉しくなるし、また来日したくなる」と言う。
総勢9名のバンドは、全員が音楽を演るために生まれてきたようなテクニック、表現力、情熱を併せ持つ。たとえば、ギタリスト、ケマの超絶技巧から生み出される演奏は、心の奥深くに語りかけてくるような深き音色で、聴く者の魂を揺さぶる。チコも、「彼は天才。ギターがケマの体の一部になっている。超絶技巧だけれど、頭で考えすぎることなく、感性のままに演奏している。そのナチュラルなところが天才と思わせる」と絶賛する。
チコもギターが体の一部になっているタイプのミュージシャンだ。そのギターにまつわる大切な思い出を今回明かしてくれた。
「子供の頃からギターが大好きだったけれど、自分のギターを持てず、人のものを借りて練習していた。そんな時に兄がギターをプレゼントしてくれた。それが14歳頃のこと。その贈り物は、僕の人生を変える宝物になった。その時からギターが僕を離さなくなったんだよ(笑)。最高のパートナーさ」
その最愛のお兄さんは、チコが19歳の時に、イスラエルの諜報員に誤って殺害されてしまうのだ。
「20数年前にユネスコの依頼で、イスラエルのペレス首相とパレスチナのアラファト議長の前で演奏する機会があった。演奏後に兄が亡くなる原因を作った国の指導者と握手をした時、愛する兄がここに導いてくれた。ある意味で運命だと悟った。後に彼の事件を知ったユネスコが僕を平和大使に任命し、今も活動を続けている。2016年にはその功績が認められて、仏大統領から勲章を授与された。名誉であると同時に僕はいい前例を作ったと考えている。あるべき姿を見せられていると思う」
チコの知られざる面だ。ユネスコの活動では自身の辛い経験を踏まえて、「生きるために、希望を失ってはいけない」ということを伝えているそうだ。
さて、チコが現在のバンドを結成したのは1992年のこと。義理の兄弟と結成したジプシー・キングスを脱退したことがきっかけになった。それから約26年を経て、再びジプシー・キングスと活動することになった。すでにロンドンでジプシー・キングス&チコとしてコンサートを行っている。
「彼らからまた一緒にやらないかと打診された。そう言ってもらえたことが嬉しかったので、すぐに快諾した。関係を修復するいい機会になっていると思う。2018年にアルバムを発表する予定だ」
新作ではどんな新しい音楽を聴かせてくれるのだろうか。また、どんな再結成ライヴになっているのか。2018年もチコから目が離せない。
Photo by Takuo Sato
- CHICO & THE GYPSIES
- 2017 11.23 thu., 24 fri., 25 sat., 11.26 sun.
- CHICO BOUCHIKHI(チコ・ブーチキー)
- 1953年、フランスアルル生まれ。父親がモロッコ人、母親がアルジェリア人。ジプシー・キングスの創始者ホセ・レイエスの娘との結婚で、レイエス・ファミリーの親族でもあり、自身も'90年まで所属。1992年にチコ&ザ・ジプシーズを結成した。
photography = Hiroyuki Matsukage interview & text = Noriko Hattori interpretation = Haruhi Koike