トレードマークのサングラスをかけ、背筋を伸ばしてエレクトリック・ギターを弾きながら歌うジョルジ・ベンジョール。その姿は69歳とは信じられないほど若々しく、全身から凛としたオーラを発散していた。レパートリーは63年のデビュー曲「マシュ・ケ・ナーダ」から最近の曲まで各時代の代表曲を網羅し、その多くがメドレー仕立て。曲と曲の間にほとんど空白を置かず、MCも入れず、たたみかけるようにグイグイ進行する。"音楽は感じるものだ。俺の音楽を全身で体感しろ！" というメッセージが伝わってきた。

　実際、サンバをはじめファンク、ヒップホップ、スカなどブラック・ミュージックの多彩なエッセンスを盛りこんだリズムとサウンドに身を委ねていると、理屈抜きで心も体も踊りだす。しかも彼が作る曲はシンプルな歌ごころにあふれて、いつの間にかメロディーが体の中に染みついて離れず脳内でリピートする、ある種の魔力も備えている。だから昔の曲も全く古臭くなく、今の時代の気分にフィットするのだろう。

　70年代から共演してきたベテラン・ベーシストのダヂ、全身でリズムを表現する若いドラマーのルーカスをはじめ、バンドもひとつの巨大な生命体。演奏の途中、ジョルジの指示一発で曲の展開が変わるスリリングなシーンに接したとき、ふと70年代のマイルス・デイヴィスがオーヴァーラップしてきた。

　3日間ともセカンド・セットの最後で女性客を次々にステージに上げ、客にもマイクを回して「タジ・マハール」を歌わせ、まさにストリート・カーニヴァル。ワールドカップでのブラジル惨敗の悪夢を吹き飛ばす悦楽の祝祭で、2014年の東京の夏が開幕した。

中原 仁（なかはら・じん）

J-WAVEの人気長寿番組「SAUDE! SAUDADE...」の選曲／制作、ブラジル音楽を中心にCDやライヴ／イヴェントのプロデュース、コンピレーションCDの選曲を行なう他、ライター、DJ、MCとしても活動。

FESTIVAL DA MÚSICA BRASILEIRA

ジョルジ・ベンジョールの来日を記念し、ブラジル音楽に精通するDJ陣が一堂に集結。ショウ前のクラブとBar BACKYARD（B1ロビーフロア）もブラジリアングルーヴ一色となった。