異才のギタリスト、アート・リンゼイが小山田圭吾をゲストに、衝撃の初登場。
空間に共鳴した"真実の音"
異才のギタリスト、アート・リンゼイが小山田圭吾をゲストに、衝撃の初登場。
この日、ステージから放たれた音は居合わせたもののみが体感し得る
唯一無二の"音塊"となり空間に鳴り響いた。
パンク/ニューウェーブを通過したリスナーにとって、最高のギターヒーローとは?などと、バカなことを訊かれたとしたら、真っ先に僕の頭にはアート・リンゼイが思い浮かぶし、きっと同じように考える人は多いだろう。
勿論、ギターヒーローなんていう呼び方自体、彼には不似合いだ。とはいえ、やはり僕の耳には、彼のギターから放たれる音が、あらゆる類いの音楽の中に於いても、一瞬でも聴こえるべき真実の音だ。誰の意思からも逃れて、不意に発せられた音...例えば演奏者の手から解放された楽器が、地面に落ちた瞬間に起こる打撃音...単なるノセる気満々なリズムギターからも逸脱した、彼の意思の痕跡を常に掻き消すような、ギター自身の悲鳴としか形容できない音塊が、今回のブルーノート東京での公演でも一曲目から炸裂して、嬉しくなった。
with special guest KEIGO OYAMADA
アート・リンゼイ with special guest 小山田圭吾
2014.10.25 sat. - 10.26 sun.
Arto Lindsay (vo, g), Keigo Oyamada (g),
Melvin Gibbs (b), Paul Wilson (key), Marivaldo Paim (per),
Muneomi Senju (ds) ※10.25 sat. Hideo Yamaki (ds) ※10.26 sun.
SET LIST
1st
1.PERSONAGEM/2.YOU DECIDE/3.SIMPLY ARE/4.INVOKE/5.PRE FEELINGS/6.MODOS/7.MANEIRAS/8.PRIZE/9.ILLUMINATED/10.EROTIC CITY/11.PRIVACY/12.COMBUSTIVEL/EC.JARDIM DA ALMA
2nd
1.PERSONAGEM/2.YOU DECIDE/3.SIMPLY ARE/4.INVOKE/5.PRE FEELINGS/6.MODOS/7.A VIZINHA/8.PRIZE/9.ILLUMINATED/10.EROTIC CITY/11.PRIVACY/12.COMBUSTIVEL/EC1.BEIJA ME/EC2.JARDIM DA ALMA
photography = Yuka Yamaji
ノイジーだけど攻撃的なだけじゃない...難解でもなく、酔っ払いが初期衝動に駆られて、カッコつけずにギターをブッ叩くボー・ディドリーのようなプリミティブさが、聴衆のエモーションを煽動し、それに反しての楽曲の持つ知的なポップさも、ブラジル音楽からの影響だけに留まらずに、トロピカリズモの自由な精神が、ちゃんと反映されてアップデートされたものに、今回さらに昇華されていたように思う。
ノイズギターだけが彼の魅力ではない。透き通って、どこかユーモラスで、気取ってないのに何故かアーバンな風情さえ感じさせる不思議な歌声が、もう一人の僕らのギターヒーロー(笑)小山田圭吾のギタープレイと溶け合って、ブルーノート東京の空間に響いた瞬間の絶妙なマッチ感は、いままでの彼のどの公演にない新鮮な幸福さで、涙さえ出た。
- 中原昌也(なかはら・まさや)
- ミュージシャン・映画評論家・作家 新刊に『知的生き方教室』(文藝春秋刊)がある。