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[イベントレポート]ビル・フリゼール・スペシャル・ギター・クリニック

[イベントレポート]ビル・フリゼール・スペシャル・ギター・クリニック

ビル・フリゼールと山内総一郎(フジファブリック)
2人が語り合ったギターへの熱き想い

 6月8日~10日にかけて、息の合ったトリオを率いて観客の感性を刺激するステージを展開した、USギター界の重鎮、ビル・フリゼール。今回の公演に際しては、9日にギター・クリニック・イベントが企画され、早期予約特典として抽選で選ばれた40名が参加。さらに、ビル・フリゼールの大ファンを公言するフジファブリックの山内総一郎も登場してのトーク・セッション、参加者とのQ&Aコーナーなどが行われ、熱心なギター・ファンとの交流を大いに深めた。

text = Akira Sakamoto
photography = Yuka Yamaji

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 クリニックは、ビルが最近取り組んでいる曲のひとつである、セロニアス・モンクの「Crepuscule With Nellie」のギター・ソロで幕を開けた。それに続いて、高校生でギターを始めた時に『ゴースト・タウン』のCDを"ジャケ買い"してビルの大ファンになったという、フジファブリックの山内総一郎がゲストで登場。ビルとのデュオでビートルズの「Nowhere Man」を披露した。サウンド・チェックの時に軽く音合わせをしただけだったが、ビルのスタイルを良く知る山内だけに、親密な"会話"を楽しんでいる様子だった。「会ったばかりでも、一緒にギターを弾くと予想もつかないことが起こるのが素晴らしい」とはビルの弁。本番前の控室で自分のギターをビルに弾いてもらった山内は、「アンプで鳴らさなくても、ビルが弾けばちゃんと彼のサウンドが出る」と、感動を新たにしていた。

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 デモ演奏が終わって山内との対談に移り、ユニークなサウンドを持つビルの普段の練習法についての質問には、「特に秘密のようなものはなく、常に自分の出したい音を追求している。その気持ちは10歳の頃と変わっていない。追求する音は、あと少しで出せると思った瞬間に逃げてしまう。僕が出す音は、理想に近づくためにもがいている音なんだ」という回答で、彼のギターに対する純粋な気持ちがにじみ出ていたのが印象的だった。

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 クリニックではもちろん、ビルの使用ギターについても話題になった。彼はテレキャスター・スタイルのギターを愛用しており、今回の公演でも、フェンダー・カスタムショップのマスター・ビルダーだったJ.W.ブラックによる、テレキャスターをベースにしたカスタム・モデルを使用していた。部分的に穴を開けて軽量化したボディには、ビグスビー製のトレモロ・アームとマスタリー・ブリッジを搭載。アーム自体はあまり多用しないが、テンション感が通常のテレキャスターとは違って、弦をベンドした時の反応の具合が好みだという。弦は2年ほど前から011~052のフラットワウンドを使用。ドラムに負けない低音弦の力強いアタックが気に入っているが、表面が滑らかなので、スクラッチの音を使いたい時にうまく出ないのが難点だとのこと。デ・アーモンドのゴールド・フォイルに似たピックアップはジェフ・キャラハン(Jeff Callahan)のカスタム品で、ビルが好きなフェンダー・ジャズマスターのピックアップのサウンドを再現しながらも、ハンバッキング構造になっている。

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 参加者とビル・フリゼールとのQ&Aコーナーでは、音楽面はもちろん、精神面についての質問も多かった。

以下、箇条書きにまとめてご紹介しよう:

Q1:デュオで演奏する場合、相手がギタリストかベーシストかでアプローチは変わるのでしょうか?
A1:デュオに限らずどんな編成でも、聴いた音に反応していくという姿勢は変わらないです。

Q2:最近いちばん影響を受けているアーティストは誰ですか?
A2:ビリー・ストレイホーンの伝記を読んだのがきっかけで、彼の名曲「Lush Life」にハマっているんです。他にも、ボブ・ディランの「Positively 4th Street」なども聴いていますよ。

Q3:ビル・フリゼールさんの音楽は嫌なことを忘れさせてくれると感じますが、あなた自身はどのような気持ちで演奏しているのでしょうか?
A3:自分としては演奏している時がいちばん幸せで、自分のほんとうの気持ちが表現できていると思います。オーディエンスの皆さんにもそれが伝わるのかもしれないし、伝わっているとしたらとても嬉しいですね。

Q4:ビル・フリゼールさんの音楽からはアメリカの原風景を感じますが、生まれた環境や国の歴史を意識していますか?そうだとすれば、それがどういう意味を持っていると思いますか?
A4:とくに意識してはいないですが、自分がアメリカに生まれ育ったことが影響しているとは思います。

Q5:来日も回を重ねていますが、日本の文化や音楽についてはどのような感想を持っていますか?
A5:残念ながら、日本の文化に触れる時間はあまり持てていないのですが、30年以上前にポール・モチアンの紹介で菊地雅章さんの演奏を聴いた時、ほんとうに音を出すべき時までひたすら待ち続ける様子に感動し、そこに日本の伝統文化に関わる何かがあるのかもしれないと思いました。

Q6:アンプの前にムース(ヘラジカ)のぬいぐるみを置いていますが、何か秘密があるのですか?
A6:ジョーイ・バロンから"ムース"というニックネームで呼ばれていて、それを知ったマネージャー兼サウンド・エンジニアが、アラスカの空港でヘラジカのぬいぐるみを見つけて、買ってきてくれたんです。ギター・アンプの前に置いて以来、ぬいぐるみを置かないと何か落ち着かなくなってしまいました(笑)

 参加者もビルの人柄に感化されたかのように、クリニックは終始穏やかで和やかな雰囲気に包まれていた。本人と直に接することで、彼の音楽がいかにその人柄を反映したものであるかが再認識できたと思う。

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坂本信(さかもと・あきら)
札幌市出身。レコード会社や音楽出版社、楽器メーカーのための翻訳、数百人のアーティストのインタヴュー、通訳を務める。ベーシストとしても活動し、高崎晃や伊東たけし、マイク・オーランドなどと共演。

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