新作はジャジーなカヴァー集! キャンディス ・スプリングスにインタビュー
※キャンディス・スプリングス公演は、新型コロナウイルス感染拡大の状況を踏まえて、アーティスト側と協議のうえ、公演を延期することとなりました。本公演を楽しみにされていました皆さまには、深くお詫び申し上げます。
ブルーノートの未来を担う才媛
話題の最新作を携え来日!
プリンスが「雪さえも溶かすほど」と喩えたあたたかな歌声を持つキャンディス・スプリングスの初のカヴァー集『私をつくる歌 ~ザ・ウィメン・フー・レイズド・ミー』が完成。
日本公演を5月に控える彼女に話を聞いた。
photography = Michika Mochizuki
interview & text = Junichi Uchimoto
interpretation = Hitomi Watase
2017 3.13 - 3.15 @BLUE NOTE TOKYO Photo by Yuka Yamaji
テネシー州ナッシュヴィル出身の天真爛漫なシンガー・ソングライター/ピアニスト、キャンディス・スプリングスが、3作目となるアルバムを完成させた。原題は『The Woman Who Raised Me』。即ち"私を育てた女性たち"の歌であり、『私をつくる歌』という邦題の通り、いまのキャンディスを"つくる歌" でまとめられた初のカヴァー集だ。
「前作『インディゴ』をリリースした直後に、次はコンセプト・アルバムを作るのがいいんじゃないかという話になったの。私は昔から父にもらったアルバムをよく聴いていたんだけど、女性歌手の作品が特に多かったのね。ノラ・ジョーンズの1stアルバムを父からプレゼントされて、最後に入っている「ニアネス・オヴ・ユー」を聴いたときには、"私もこんなふうに歌えるひとになりたい" と思って。父は"きっとなれるよ"って言ってくれた。初めて人前で歌ってピアノを弾いたのもその曲だったの。そうして私の歌手人生が始まった。音楽を学んでいくなかで、ほかにもいろんな女性歌手の影響を受けたわ。だから今回はそうやって私という人間を"つくった"ひとが取り上げた楽曲を歌って1枚のアルバムにしようと思ったのよ」
ダイアナ・クラール、エラ・フィッツジェラルド、ニーナ・シモン、シャーデー・アデュ、ローリン・ヒル、ボニー・レイット、アストラッド・ジルベルト、カーメン・マクレエ、ノラ・ジョーンズ、ダスティ・スプリングフィールド、ロバータ・フラック、ビリー・ホリデイ、サラ・ヴォーン。こうした歌手たちが取り上げた曲、または作った曲をカヴァーした。
「歌唱法の面で影響を受けたり、学ばせてもらった女性も多いけど、このなかの何人かからは生きる姿勢の面でも影響を受けている。ニーナ・シモンはジャズもソウルもブルースも混ぜて歌っていたハイブリッドなシンガーで、そういうところに感化されたし、ビリー・ホリデイがあの時代に"奇妙な果実" のような強烈なメッセージを持つ曲を歌って、美しさと醜さを同じ土俵に乗せつつ表現したのもすごいことだと思うの」
プロデュースは1 stアルバム『ソウル・アイズ』を手掛けたラリー・クライン(ジョニ・ミッチェル、マデリン・ペルー、メロディ・ガルドーほか)が再び担当。
「1stアルバムでもナマ録りでオーケストレーションを入れながらオーガニックに作ってくれたし、ナマ録りでやるならやっぱりラリーが一番だなって思って。彼はアーティストのやりたいようにやらせてくれるひとで、"こうしなさい"などと押し付ける言い方は絶対にしない。でもいつも的確なアドバイスとアイデアをくれるの。「エックス-ファクター」(ローリン・ヒル)はプランを立てずに取り組んだのだけど、ラリーのアドバイスでいろいろ試しながら自由にやったらうまくいったのよ」
経験豊かなジャズ・ミュージシャンの貢献も大きい。ギタリストのスティーヴ・カーディナス(ノラ・ジョーンズ、マリア・マルダーほか)、ベーシストのスコット・コリー(ハービー・ハンコック、パット・メセニーほか)、ドラマーのクラレンス・ペン(ダイアナ・クラール、ジミー・スミスほか)。この3人だ。
「クールだったわ。それぞれがサポートしてきた女性たちの話もしてくれたし、いろんな面で私を支えてくれた。あれぐらいのベテランたちと一緒に演奏すれば、そりゃあ私の歌もそれなりのものが引き出されるというもので。ベストを尽くすことができたと思う」
そうして完成したアルバムは、これまでのキャンディス作品のなかで最もジャズの色を纏っている。前作『インディゴ』ではソングライターとしてのポテンシャルの高さを印象付けたものだったが、今作ではジャズを歌えるシンガーとしての成長を見せているのだ。
「私はジャンルに捉われることなくいろんな音楽をやっているけど、そもそもの始まりはジャズで、そこから派生していったという感じなの。それで今回は自分のルーツ的なものを見せたいという気持ちが強くあった。いまやるべき正しいことをやれたという実感を持てているわ」
ゲストも多彩。「エンジェル・アイズ」(キャンディスはエラ・フィッツジェラルドが歌ったものに影響を受けたそうだ)にピアノとヴォーカルで参加しているのは、キャンディスの敬愛するノラ・ジョーンズだ。
「ノラの家で"一緒にやるなら何がいいかしら"って考えて、ふたりとも好きだったこの曲に決めたの。その場で"ここはあなたが歌ったほうがいいわ"なんて言い合いながら担当パートを決めて。ピアノはノラのほうが上手いからスタインウェイを弾いてもらって、私はウーリッツァーを弾いた。最後のほうのハモり部分もノラが考えてくれたのよ。歌手になろうと決意するきっかけをくれたノラとこんなふうにやりとりして録音したりしているのだから、人生って不思議よね」
ほかにもデヴィッド・サンボーン、クリスチャン・マクブライド、アヴィシャイ・コーエン、エレーナ・ピンダーヒューズ、クリス・ポッターらが参加。全ての面で格段の進化を示しているこのアルバムを携え、 5月には名古屋と東京のブルーノートで公演する。
「私を含めフィメール・バンドでやる予定。ドラムもベースも腕があって美人だから、楽しみにしてて!」
『私をつくる歌
~ザ・ウィメン・フー・レイズド・ミー』
ユニバーサル ミュージック
※2020 3.27 発売予定
内本順一(うちもと・じゅんいち)- 東京生まれの音楽ライター。一般誌や音楽ウェブサイトで洋邦アーティストのインタビュー記事やレビュ ーを担当し、ノラ・ジョーンズ、ホセ・ジェイムズ、プリンス始めライナーノーツも多数執筆。年間平均140本のライブを観に行っている。
KANDACE SPRINGS
キャンディス・スプリングス
2020 5.18 mon., 5.19 tue., 5.20 wed.
[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:15pm Start9:00pm
公演詳細はこちら → https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/kandace-springs/