【公演直前インタビュー】UA × 菊地成孔
伝説のユニットcure jazz
奇跡のリユニオンがふたたび
2014年のリユニオンから7年、UAと菊地成孔による伝説のユニットcure jazzが3度の結成を遂げた。再々結成に至ったいきさつ、公演に向けたモチベーション、2006年の立ち上げから15年を経た現在のコンディション......。率直な思いをふたりに訊いた。
interview & text = Tomonari Cotani
チケットは、瞬く間に完売した。9月12日(日)・14日(火)に行われる「UA x 菊地成孔 Cure jazz in Blue Note Tokyo 2021」の話だ。ライヴへの渇望感がこの上なく高まる一方、プロトコルなきイベントへの参加が(さまざまな観点から)リスクになりかねない昨今、粛々と公演を執り行い続けるヴェニューで開催される「幻の公演」がプレミアムチケット化するのは、至極当然のことかもしれない(......と、チケットをお持ちでないみなさま、ご安心を。本公演には配信があり、そのチケットはまだ入手可能なのだから!)。
渇きを潤すかのように、空腹感を満たすかのように、音楽好きを癒してくれるであろう本公演の主役たちの話を訊く前に、改めてcure jazz年表を記しておきたい。cure jazzの始まりは2006年、このときUAは34歳、菊地成孔は43歳であった。リユニオンは8年後の2014年で、当時UAは42歳、菊地は51歳。そして3度目の結成となる2021年現在、UAはアラフィフ(49歳)で菊地は還暦目前(58歳)だ。
なぜ、わざわざ年齢を記す非礼(とりわけUAさん、すみません......)を働いたかというと、これから語られる話には、「歳を重ねたからこその視点」と「歳など関係ない視点」が織り交ぜられているからだ。それはとりもなおさず、ジャズというジャンルが持つフォーム(形式)についての話、そして何より、UAという稀代のヴォーカリストの魅力についての話につながっている。
というわけで、前口上はここまで。本公演を間近に控えたふたりの思いをご覧あれ。
cure jazz 2006
腰からの啓示がノドを整えた!?
- まずは、今回の再々結成がどのようないきさつで実現したのか教えていただけますか?
UA:私がデビュー25周年を迎えたのが、一番の理由です。
菊地:コロナ期に入る直前に、UAさんから「25周年を迎えるにあたって、AJICOもやるしソロもやるので、cure jazzもやりたい」とお誘いをいただいたんです。cure jazzをやるのはいつだって楽しいので、とてもありがたいお話でした。それがコロナの関係で2度延期になり、今回のタイミングになったわけです。
普通ミュージシャンって、2回も延期になると腐るものですが、正直、最初のタイミングだと「ちょっと早くないか?」っていう直感もありました。だから延期されるたびにワクワクしてきて(笑)、結局、今回のタイミングが一番よかったと思っています。単なる楽観主義かもしれませんが。
- UAさんは、cure jazzに先行してAJICOのライヴを演られましたが(FUJI ROCK FESTIVAL '21にも出演)、コンディションはいかがですか?
UA:普段はカナダで主婦をしているので、ときどき気が狂いそうになったりもしますけど(笑)、いまはとってもコンディションがいいですね。
菊地:「AJICOのUAがヤバかった」という話はめちゃくちゃ聞こえてきたし、UAさんご自身からも「ライヴが終わったらもう足腰が立たなくなって、車イスで搬送された」ってメールが来て、そんなに暴れたのかと(笑)。すげぇなと思って、「あれ、UAさんいくつだっけ。そろそろ50だった気がするけど」って感動したんです。前回のリユニオンから7年経って、こちらは50代も終わりに近づき体力的な衰えを感じているのですが、「オレも車椅子で運ばれるくらい暴れる力が残っていればな」と思いましたね。
UA:あはははは。私だって、無理できていたところができなくなりましたよ。でも、腰からのメッセージ(?)がハンパなかったおかげで、カラダがいい意味で研ぎ澄まされちゃって、最近、声はすっごく調子いいんです。cure jazzは2回延期しましたが、ナルさんと一緒で、私も「ちょうどいいなぁ、うまくいってるな」っていうのが個人的な印象ですね。
- 7年ぶりのcure jazzですが、今回、意識的に挑戦してみたいことはあるのでしょうか?
UA:ジャズを演っていること自体、私にとっては挑戦です。何が正解なのかもわからずやっている状態なので。25周年に絡めると、自分が歌い続けられていることに対する感謝があります。でも、最初に感謝するべき朝本(浩文)さんは、現実問題としていらっしゃらなかったりする......。そんなこともあって、元気でいるうちは、みんなが喜んでくれていたことをやりたいなと思っているんです。だから、「自分のために、自分のゴール設定があって、そこに向かっている」という感じは全然なくて、「またステージに立てている」という一期一会を毎回大切にしていくために、今回も全力を出していくという気持ちです。
菊地:挑戦というか変化という意味でいうと、今回は、オリジナル(2006年)とリユニオンのとき(2014年)とバンドメンバーが違うんです。一般的には「ジャズってそんなにフォームも変わらないし、人脈も変わらないでしょ」って思われるかもしれませんが、実はものすごく新陳代謝があって、新世代のプレイヤーがいるわけです。
オリジナルのときのバンドメンバーは、坪口昌恭(p)、鈴木正人くん(b)、藤井信雄さん(ds)で、まあ、当時から藤井さんはレジェンダリーでしたが、坪口と鈴木くんはまだフレッシュで、ポップスやジャズに限らずいろいろやっていくぞという感じでした。それから幾星霜、彼らは自分の地位を築き上げ、いい意味でエッジ感がなくなってふんわかしてきたんです。
その点、今回の林正樹(p)や鳥越啓介(b)は、年齢はそこそこ行っているし、ペペ・トルメント・アスカラールで一緒にやっているメンツですが、ジャズプレイヤーとしてはエッジ感がある。ドラマーの山田玲くんはまだ20代で、石若駿とか秋元修とか、あそこらへんとライバル関係にある感じで、ものすごく意欲的な、ジャズとして先鋭的なドラミングをする。そうしたメンバーと一緒にUAさんを迎えてもう一度cure jazzをやるというのは、ジャズミュージシャンとしてものすごく興奮しますね。
それぞれにとっての原点回帰
- 前回のリユニオン時は、UAさんが沖縄在住だったからか、「Amaiyu」という沖縄民謡チックな曲からライヴがスタートしました。今回は、新曲というかサプライズはあるのでしょうか?
UA:私の母が奄美の出身ということもあって、沖縄に住んでいた当時、奄美の加計呂麻島(かけろまじま)という島限定の神言葉を朝崎郁恵さんという方から習っていたんです。そこから生まれたのが「Amaiyu」という曲、というか祝詞です。実はあれ、ライヴ本番の冒頭でいきなり歌い出して、そこにナルさんたちが反応してくださったインプロだったんです。
今回も、新曲を絶賛仕込み中です。UAの曲やカヴァーや流行の曲を選んでみる、という案もあったけれど、「それだったら新曲どうですか?」ってナルさんおっしゃってくださって。もちろん光栄ですということで、なんとなく言葉を埋めているところです。ナルさんとは日本語の曲を一曲もやっていなかったので。間に合えばいいんですけど(笑)。
菊地:まさにその「amaiyu」が象徴的ですが、あれは、ステージに上がったら言霊のようにぶわっと出てきたもので、それがそのときのUAさんのコンディションじゃないですか。今回の新曲はもっとアーバンというか。ノラ・ジョーンズやグレッチェン・パーラトが出てきたり、あとは(ロバート・グラスパーの)『ブラック・レディオ』のリリースによって、ジャズ界の村の言葉ですが「ニューチャプターが開かれた」と認識されて以降、ジャズヴォーカルもだいぶ変わってきたわけです。そういう状況のなかで、普通に音楽好き同士の新曲の打ち合わせになったんです。「日本語の曲もいいです」とか「ソウル系のものがジャズに入ってきてもおかしくないです」みたいな。演奏はピアノトリオだけれど、それでもソウル風の演奏ができる世代が出てきていることを受けて、ジャンルミュージックとしてのジャズの、ここ10年ほどの成熟というか変節も反映できるということも、UAさんのコンディションによるわけなので。それも含めて楽しみです、本当に。
- 改めて、UAさんにとって「ジャズを歌う」ということはどういう意味を持つのでしょうか。先程、「挑戦」という言葉はありましたが。
UA:元々スカウトされた大阪のお店が、スタンダードなジャズを演奏する場でした。私自身はジャズはまったく歌わず、アレサ・フランクリンのカヴァーとかを歌っていたのですが、「初めての場」がそういうジャズジャズした場所だったりすることもあって、ちょっと大袈裟にいうと原点回帰というか。あと、自分が持つ声の感じや倍音とかがジャズには合っているとは思っているんです。ナルさんとのセッションでいろいろな曲をカヴァーしていますけど、「自分でも知らない自分」が出てくるといいますか......。cure jazzはほぼ7年周期でやっていますが、毎回発見があって、その歳なりの声量とか声の場所というのがあっておもしろいです。ただ、私はジャズを学んだ人間ではないので、いわゆるジャズヴォーカリストがいろいろおもしろく考えていくようにはできないので、私なりのポップなジャズというか、そういうものになればいいなと思っています。
- 菊地さんからみて、ジャズヴォーカリストとしてのUAさんの魅力は?
菊地:大抵の歌のうまい人は、ある程度の年齢になると「ちょっとジャズのアルバムを出そうかな」ってことになるんです(笑)。日本人で成功している人はほとんどいないけど、ロックだった人でもソウルだった人でも、とうが立つとジャズのアルバムを出そうかなっていうのが、エイジングに対するひとつの適応みたいなパターンであるわけです。でもそれっていうのは、だいたい取れ高が決まっているんです。「大人になったらジャズだ」みたいなフォームでやっているから。
cure jazzは、そういうものではまったくありません。UAさんは、社会的なこととか地球のこととか、ぼくなんかより遙かにものごとを考えています。さらには多産でいらっしゃったりもする。加えて、歌を歌うときはすごくトランシーで、京都の神社で歌ったりすると雷雲を呼んじゃったりする人なわけです(笑)。cure jazzというのは、UAさんの持っているそういった荒れ狂うようなアンビバレンスを、地鎮というか納めたいというバイブスをぼくが勝手に感じたことで生まれた音楽です。
いまよりずっとパワフル--いまのがパワフルかもしれないけど(笑)--で、肉体的にも若かったUAさんと一緒に、ジャズの力で納めていくというのがcure jazzの一番の基本テーマ。それは、エコロジーとかフェミニズムともつながっています。というのも、ジャズというのはマチズモの音楽で、女性用ではなかったわけですから。実際cure jazzは、ぼくがつくったもののなかでは最も女性用に作られた音楽だといえます。
あと、先程UAさんが原点回帰とおっしゃいましたが、それは、ぼくにしてもそうなんです。ぼくがUAさんと初めてお会いしたのは、とある雑誌が企画した「UAがビッグバンドをバックにBlue Note Tokyoで歌う」というライヴの現場でした。
UA:覚えています。めちゃくちゃ衝撃的でしたから。
菊地:よく、プロデューサーとかミュージシャンが気軽に「惚れ込む」って言うじゃないですか。ぼくは人に惚れ込んだことがないんだけれど、「惚れ込むというのはこういうことか」と思うくらいガツンとなったのが、そのときのライヴだったんです。これまでcure jazzは、UAさんのポテンシャルもあってホール展開が多かったのですが、またBlue Note Tokyoに戻ってきて演るんだということに静かに興奮しているんです。
- 最後にUAさんから、公演に向けての意気込みを聞かせてください。
UA:いまって、どこからキュアしていけばいいのかわからないぐらいみんな病んでいるというか、状況に病んでいる感じですよね。cureっていう言葉の意味が、とってもセンシティヴになっていると思います。「音楽で世界を変えられる」なんてちっとも思っていませんが、いまは「100%楽しい」って思うことがなかなか難しい気がするので、少しでも純粋な楽しみを持って帰っていただけたら、それでいいかなって思います。私は、出せるものを出して歌うだけです。腰からの啓示をいただいたばかりなので(笑)。
菊地:あははは。新曲もあるしね。
UA:いいものになるはずです! もし間に合わなかったら、最悪、最後はナルさんに穴埋めしてもらおうかなって(笑)。すごくいい曲になって、仮に録音するってことになったとしても、現場でやるライヴとは違ったものになるはずですから、ぜひ、配信も含めて多くの人に観ていただきたいと思います。
小谷知也(こたに・ともなり)- 1972年生まれ。フリー編集者/ライター。主婦と生活社、『エスクァイア日本版』シニアエディターを経て、2009年に独立。『BRUTUS』『GQ JAPAN』『T JAPAN』『HILLS LIFE DAILY』等のライフスタイル・メディアで編集・執筆に携わる一方、『WIRED』日本版に2011年の立ち上げから参画。さまざまな領域の記事を企画・編集・執筆し、2018年7月より『WIRED』日本版副編集長に就任。
LIVE INFORMATION
☆ ※9.14 tue. 2ndショウは配信実施。配信チケット絶賛発売中!
☆UA x 菊地成孔
Cure jazz in Blue Note Tokyo 2021
2021 9.12 sun., 9.14 tue.
9.12 sun.
[1st]Open4:00pm Start4:45pm [2nd]Open6:30pm Start7:30pm
9.14 tue.
[1st]Open4:00pm Start5:00pm [2nd]Open6:45pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/cure-jazz/
※9.14 tue. 2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:9.15 wed. 11:59pmまで
※アーカイブ配信の内容はライヴ配信と異なる場合がございます。予めご了承ください。
<MEMBER>
UA(ヴォーカル)
菊地成孔(サックス、ヴォーカル)
林正樹(ピアノ)
鳥越啓介(ベース)
山田玲(ドラムス)