【公演直前インタビュー】ヤン富田 | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

News & Features

【公演直前インタビュー】ヤン富田

【公演直前インタビュー】ヤン富田

新システムはアーケード・ゲーム!?
ラボでの貴重な撮影が実現

 屈指のスティールパン奏者であり、最先端の前衛音楽からポップ・ミュージックまで独自の世界を拡張し続ける稀代の音楽家・ヤン富田。2年ぶりの公演では、主宰する音楽研究機関A.S.L.(オーディオ・サイエンス・ラボラトリー)の最新レポートとして、ゲームを用いた新たなサウンド「SPACEWAR!」を披露するという。ゲームって、あのゲームですか!? 波と虫の音を聴きながら鎌倉を歩き、ヤン富田の音楽室を訪ねたーー。

interview & text = Mai Nakata
photography = Great The Kabukicho

READ MORE

- コロナ禍のこの2年、密かに研究を続けていた最新システムがついに完成したと伺いました。まさか、これが......!!

2021yanntomita_image01.jpg

「左は、皆さんご存知のシューティング・ゲーム『SPACE INVADERS』です。ARCADE1UP という3/4スケールの家庭用で、40周年を記念して販売されました。隣も同じ規格ですが、固体のデザインをATMのような形にしたくて、木工DIYで3週間くらいかけて作りました。まだ発展段階で現状ではこんな感じですが、すごく気にいってます。これには、ATARIの『12 in 1 Deluxe Edition Centipade Asteroids』という名作が12種収録されていて、米国ではコレクターズアイテムになりつつあるエディションです。あちらでは、パーツや、アクセサリー類も豊富で、ハマると危険な世界です(笑)。右のアタッシュケース型のものは、某国から取り寄せたものですがジョイスティックを取り外して裏面に格納できるというね。これらは一部ですが、今回のセットに組み込むために電気関係含め改良を施しました。アハハ」

2021yanntomita_image02.jpg

- これまでにもガイガーカウンターを元にした『意識ほぐし機』など、電子機器を改良したオリジナルの楽器をよく演奏されていますが、今回は本物のゲーム機だったのですね。一体どんなきっかけで?

「まだ世の中が新型コロナウイルスに襲われる前、2018年のことです。妻のお供でコストコに出かけた際、売り場に組み立てられた状態で『PAC-MAN』と『SPACE INVADERS』が並べてあったんです。瞬間的にビビっと来たけど、さすがにこれを買うって言ったら妻はどう思うだろう......とか考えながら一度は通り過ぎて。お肉だ、なんだって(笑)。でもそうしながらもどんどん演奏しているイメージが広がって、ドキドキが止まらなかったんです。踵を返し店員さんに『SPACE INVADERS』が欲しい旨をお伝えしたら、最後の1台でした。後で調べたら、すごくお安くなってたみたいなんだけど。でも、なんでも大切なものに出会う時って、そういうものだと思います。そこから次はこっちのATARIを取り寄せたり、どんどん掘って、気がついたら何万タイトルも収集していました」

2021yanntomita_image03.jpg

- 奥様は、さぞ驚かれたのでは......。

「驚いてはいましたけどね。『これを演奏するの? 馬鹿じゃないの』って。むしろ『SPACE INVADERS』に関しては、ステイホーム中に妻の方が数段上手くなりました」

2021yanntomita_image04.jpg

- コストコでのインベーダーゲームとの出会いが、公演のレジュメ( http://asl-report.blogspot.com/ )で紹介されている「SPACEWAR!」から始まるA.S.L.の膨大な電子音楽のデータベースと見事に合致したのですね。

「1961年に世界初のデジタル・ビデオ・ゲームとして誕生した『SPACEWAR!』は、DEC PDP-1という世界初の商用インタラクティブ・コンピュータをハードウェアとしてプレイするゲームで、当時MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生だったスティーブ・ラッセルらが考案しました。ちなみに、彼らはハッカー文化の起源とも言える集団でした。初期のそうしたコンピューターゲーム、ビデオゲームは音がとにかく良いんですよ。とても野蛮で」

2021yanntomita_image05.jpg

- 野蛮な電子音!?ですか。

「いわゆるビープ音です。8bitの音源チップ以前の本当に初期のデジタルサウンドとなると、驚くほどプリミティブでとても素敵なのです。そもそも機械のノイズ音だとか、そうした音は今やどこでも、なんでも綺麗になってしまっているから日常で聴ける機会はほとんど残っていません。それが、今もプレイすることができるこうした古いゲームの中でちゃんと生き残っている。それは例えば、初期のアナログシンセだったり、TB-303だったりと結構同じ感じで。野蛮な音っていうのは、そういうことです」

2021yanntomita_image06.jpg

- 世界的な音楽大学で専攻が設けられているなど、今やゲーム音楽は世界的にもメジャーな現代音楽です。「ゲームばかりして!」と怒られていた子供時代を思うと、文化としての躍進に驚きます。

「もちろん『SPACEWAR!』から現在のゲームまでを俯瞰したサウンドを演奏するつもりですが、僕は学校よりもゲームセンターをイメージしています。いわゆるゲーセンがどんどん無くなってしまって、寂しいです。だって、もともと遊ぶためのものですから。ジャズもロックもヒップホップも、なんでもそうでしょう。本当の初期は、調整された音楽ではなく、少ないメモリーの中なんとか工夫して『音が出た!』という喜びから、いかに広く豊かに表現できるか? プログラマたちが切磋琢磨していた......。ソフィスケートする余裕もなく、ぶっきらぼうなところがとても魅力的なのです。デジタルの宿命は、次々と進化するからいつまでも完成形がないということ。だからこそ、今でも『この音はこの楽器、この機械からしか出せない』というアナログなもの、アナログな手法には、不変の価値があるのだと思います。そうしたことを体感して頂けることも、"音楽による意識の拡大"なのではないでしょうか。
 ただ、音楽は何よりも楽しいことが一番ですから。ステージでは僕はもちろん、出演者の方々にも目一杯選りすぐりのゲームで遊んで頂きます」

2021yanntomita_image07.jpg

 音楽室からの帰途。カーオーディオに入れた『MUSIC FOR LIVING SOUND』(1998年にリリースされたCD×3、CD-ROM×1のBOXSET)から、電子音とともにまたも心地よい風と虫の音が聴こえてきた。思わずブックレットを開くと「MAGIC MUSIC OF THE SPHERES」にはこうクレジットされていたーー。

Recorded at THE WILDS,Cumberland,Ohio,July 22-24.1996
Aeolian Harp - Made by Bill & Mary Buchen for Sonic Architecture
Performed By Wind
Yann Tomita -Classical Tape Music Technique

 粗野な自然を操るテクニックに唸り、期待が高まる。いつだって魔法のような音楽を奏でる、ヤン富田の新境地。美しく野蛮な音が、秋の始まりを告げる特別な1日になりそうだ。

2021yanntomita_image08.jpg

LIVE INFORMATION

2021yanntomita_image09.jpg

☆ヤン富田:A.S.L.リポート
AT BLUE NOTE TOKYO

2021 9.24 fri.
[1st]Open4:00pm Start5:00pm [2nd]Open6:45pm Start7:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/yann-tomita/

<MEMBER>
ヤン富田(マインド・エキスパンダー・システム:ブックラ、サージ・モジュラー、アーケード・マシーン他 各種ゲーム機器)
M.C.BOO
金尾修治
パルオ
DUB MASTER X
HIPHOP最高会議ー千葉隆史
ロボ宙
永井秀二(機長)

RECOMMENDATION