【公演直前インタビュー】大西順子
カルテットによる新作『Grand Voyage』を語る
日本を代表するピアニスト、大西順子の新作『Grand Voyage』が12月29日にリリースされる。リリース直前の12月26日にはブルーノート東京でのライヴもあり、2022年3月8日には、すみだトリフォニーホール開館25周年特別企画「大西順子プレミアム・コンサート」も予定されている。ライヴに向けてリハーサル中の大西順子を訪ねて、新作について語ってもらった。
Interview & text=Koji Murai
Live photo=Mayumi Koshiishi
『Grand Voyage』はピアノ・トリオ(井上陽介/ベース、吉良創太/ドラムス)にパーカッションの大儀見元を加えたカルテットによる作品で、1曲に小野リサ(ヴォーカル、ギター)がゲストとして参加している。
パーカッションを入れたカルテットを結成したい、という構想はいつごろ思いついたのですか?
「そうですね、もう4年くらい前ですね。2017年に『グラマラス・ライフ』というアルバムを出したときに、次はパーカッションを入れたいな、と思いました」
パーカッション奏者はたくさんいらっしゃいますが、大儀見元さんを選んだ理由は?
「私もパーカッションの人をあまり知らないので、誰がいいかな、と周りの人に尋ねたりしていたんですけど、『グラマラス・ライフ』の前の『Tea Times』という菊地成孔さんプロデュースの作品の頃に、大儀見元さんと一度だけライヴで共演していたんですね。ドラムレスで、ミディアム・アップぐらいのテンポのスウィングの曲でした。それが今までやった日本人の誰よりもスウィングしてたと強く印象に残っていました。ラテンの方なので、私の音楽に参加してくれるかどうか躊躇していたんですけど、その頃私のトリオに入ったドラムスの吉良創太くんが大儀見さんの大ファンで、大儀見さん最高ですよって強く薦めるので、勇気を出してお誘いしてみました」
大儀見さんが加入したことで演奏は変わりましたか?
「このアルバムにはスウィングもフリーも、いろいろ入っているんですけど、どの曲もリズムの安定感が非常に増しているので、私としてはやりやすくなりました」
大儀見さんのプレイはただパターンを演奏しているだけではなく、すごく自由ですよね。
「彼の演奏は音楽ジャンルに関係なく、何をやっても映えるんですけど、すごく考えて綿密な計算のもとにやってらっしゃると思うんですよ」
今回の曲は「パーカッションが入る」ということが前提で作曲されたのですか?
「曲はパーカッションなしでもできると思うんですけど、パーカッションが入ることでより良いものになった、ということは言えます。新作は私のアルバムの中ではオルタナ寄りというか、フュージョン的なところもあると思うんですけど、ウェザー・リポートが好きなので、そういうところからヒントを得た曲もいくつかあります」
このアルバムには歌の入った曲が2曲収録されていますね。小野リサさんがポルトガル語で歌う「Flor de Organdi」と、大儀見さんがスペイン語で歌っている「Un Dia de Cielo Azul」ですが、これは中南米指向の現れなんですか?
「中南米というよりも、スペイン語の曲はどちらかというと北の方、スペインのイメージで作りました。小野リサさんは、あるイベントで一緒になって初めて共演したんですけど、声が素晴らしくて、これはギフトだなあ、と改めて思いましたね。それで、私の曲に歌詞をつけて歌ってくれないかな、と無理なお願いをしたら受けてくれて、ギターの弾き語りの音を送ってくれたんです。それがもう完成された世界になっていました」
タイトルは「オーガンジーの花」という意味ですね。
「ジャケットのイラストの、この白い花がオーガンジー。このジャケットは私のいとこが描いてくれました。画家でありレゲエ・シンガーでもあるといういとこなんです」
Grand Voyage
(SCOL-1057)
2021年12月29日発売
ジャケットがいい感じですよね。宝島の地図みたいで。
「そう、古い地図の感じですよね。曲のタイトルをつけた段階で、タイトルにちなんだ絵のモティーフを持ってきてくれましたね。もちろん、そんなにジャケットにリンク付けして聴いていただかなくてもいいんですけどね」
今回、大西さんのオリジナル曲以外の曲がいくつか収録されています。まずはジェリ・アレンの「Printmakers」。これはジェリのデビュー作のタイトル・チューンです。
「ジェリ・アレンは大尊敬しています。改めて彼女の『プリントメイカーズ』とソロ・ピアノの『ホームグロウン』を聴いてすごいなあ、と思って、バンドのみんなも気に入ってくれたので、アルバムのためというわけではなく、バンドのレパートリーにしてやっています」
ヘイル・スミスの「I Love Music」もうれしい選曲でした。ヘイル・スミスはジャズとクラシック両方で活躍した作曲家で、教育者としても高く評価された人ですが、日本ではあまり知られていませんね。
「私はこの曲をベティ・カーターのバンドでやっていたときに初めて知りました。ベティは原曲の形を留めないようなアレンジで歌っていましたね。この曲はアーマッド・ジャマルの名演が有名で、私も長い間ずっと聴いていました。それがその曲のイメージそのものになっちゃって、アーマッド・ジャマルの演奏からなかなか抜け出せない、ということはありますね」
そしてダラー・ブランドの名盤『アフリカン・ピアノ』からの「Kippy」です。
「『アフリカン・ピアノ』は奇跡的な、至高の名盤というべきアルバムで、このアルバムの曲をカヴァーすることはなかなかないですよね。でもこの曲について言えば、モンクのビバップ的な和声もあるし、デューク(・エリントン)の「カム・サンデイ」っぽい感じもするしで、これからスタンダードとして、みんなが採り上げていいんじゃないかな、と思って、勇気を出してやってみました。一人じゃ何なんで、大儀見さんにも参加してもらいました(笑)」
大儀見さんの曲とクレジットされている「Tridacna Talk」は大儀見さんと吉良さんのデュオです。お二人の相性はどうですか?
「もともと吉良くんが大儀見さんを慕っているので、今や大儀見さんは吉良くんを甥っ子のようにかわいがってます(笑)」
村上春樹さんがライナーを書いておられる、ということも話題です。村上さんとのお付き合いはいつごろからですか?
「デビューのころから気にいってくださっていて、私が気が付かないときからライヴに来てくださっていたらしいんですが、やりとりをするようになったのは10年ちょっとですね。いつもいろいろと応援していただいています」
ジャケットのイラストもそうですが、この『Grand Voyage』には、なにかストーリーというか、あるコンセプトが隠れているように思えますね。
「そうなんです。自分の中ではストーリーを作って曲を書いたので、できればアルバムを通して聴いていただきたいですね。メンバーとエンジニア、みんなが同じ方向を見て丁寧に作ったつもりです」
さて、2022年3月には、すみだトリフォニーホールで「大西順子プレミアム・コンサート」が開催されるそうですね。
「これは1部がカルテット、2部が"大西順子 presents THE ORCHESTRA"の二部構成です」
オーケストラでは大西さんは演奏せず、プロデューサー的役割なんですね。オーケストラを立ち上げたきっかけは何でしたか?
「(井上)陽介と、吉本(章紘)くんと、広瀬(未来)くんが、思いっきり曲が書ける場があるといいな、と思って始めました。セクステットの拡大版で、もっと作曲スキルを磨け!という感じです(笑)。私はあまり口を出していませんが、全曲がオリジナルで、ジャズの美味しいところを失わずに、多少荒削りでもいいから、ということは伝えましたね」
そして12月26日には、ブルーノート東京でリリース直前のライヴです。ブルーノートにたくさん出演されている大西さんにとって、ブルーノート東京はどんな場所ですか?
「オープン当時から何十年とお世話になっていますよね。ブルーノートでの演奏はプレッシャーを感じますし、でも自分のホーム的な場所でもあります。それはみんなが感じていることだと思いますね」
村井康司(むらい・こうじ)- 音楽評論家。1958年生まれ。著書『あなたの聴き方を変えるジャズ史』『JAZZ 100の扉』『現代ジャズのレッスン』『ページをめくるとジャズが聞こえる』他。尚美学園大学講師『ジャズ史』。
LIVE INFORMATION
☆ 2ndショウは配信実施。配信チケット絶賛発売中!☆JUNKO ONISHI QUARTET
"GRAND VOYAGE"
2021 12.26 sun.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/junko-onishi/
※2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:12.29 wed. 11:59pmまで
※アーカイブ配信の内容はライヴ配信と異なる場合がございます。予めご了承ください。
<MEMBER>
大西順子(ピアノ)
井上陽介(ベース)
大儀見元(パーカッション)
吉良創太(ドラムス)
2022 3.8 tue.すみだトリフォニーホール- 開館25周年特別企画 大西順子プレミアムコンサート
https://www.triphony.com/concert/detail/2021-10-005300.html