【スペシャルインタビュー】中林薫平
最新作『Circles』で作曲の才能を発揮したベーシスト
10人編成のオーケストラ作品と自身の音楽ルーツ
日野皓正や吉田次郎、佐山雅弘、鈴木勲など、日本のジャズ界を代表する個性的なプレイヤーと共演を重ねた経験を持つベーシスト中林薫平がリーダーとしては3作目となる新作『Circles』をビッグバンドという大編成のアンサンブル(名義としては「中林薫平オーケストラ」)で発表した。ここでは、5月16日のコットンクラブで公演を控えた彼に、音楽を始めたきっかけからオーケストラ作品を手がけるまでの経緯について話を聞いた。
interview & text = Akira Sakamoto
※ブルーノート東京公演を記念して、コットンクラブ公演に向けて行われたインタビューを再掲載
----3枚目のリーダー作でオーケストラというのは、ずいぶん思い切ったプロジェクトですね。
「前々からやりたいとは思っていたんですよ。で、ちょうどコロナ禍で時間ができたので、譜面でも書いてみようかなあと」
----しかも、収録された8曲のうち、クルト・ヴァイルの「My Ship」を除く7曲がオリジナルです。2作目の『The Times』も全曲オリジナルでしたよね。愚問を承知であえてうかがいますが、中林さんがここまでオリジナルにこだわるのはなぜですか。
「いや、とくには(笑)・・・オリジナルはもともと、小編成でも演奏できるように作った曲をアレンジしたものなんです。〈My Ship〉を取り上げたのも、自分がアレンジしたらこうなるっていうくらいの感じでした」
----もともとベースを弾くだけでなく、作曲も手がけていきたいという気持ちはあったんですか。
「そうすね、音楽を創っていきたいなあとは思っていました」
----ベースを始めたのは高校生の時だそうですが、それ以前にも何か楽器はやっていましたか。
「いきなりベースから始めました。僕が通っていた甲南学園は中高一貫校で、中学では3年間野球をやっていましたが、自分には運動の才能がないからやめようと(笑)。で、部活のビッグバンドの顧問をしていた音楽の先生から、授業中に《君は野球部を辞めたそうだが、ベースをやったらいいんじゃないか》と言われたんです(笑)。僕らの代にちょうどベースがいなくて、僕が授業でメジャーとかマイナーとかコードの種類を聴き分けるテストでたまたま良い点を取ったから、そう思ったんでしょうね。だから、最初はベースって何なのかも知りませんでした」
----実際にベースを始めてから、いろいろなベーシストを研究した・・・・・・
「いや、それが、全然そんなことはなくて・・・・・・新作にも参加してくれているトランペットの黒田卓也さんとか、あとはサックスの吉本章紘さんが部活の一個上の先輩だったんです。高校の部活で一個上というのは絶対的な存在で(笑)、先輩方がクリフォード・ブラウンやアート・ブレイキーなんかのCDを持ってきて《これを聴け!》とか《カッコ良いやろ!》とか言う。こっちは全然わかんないんだけれど、《あ、ハイ、カッコ良いです!》なんて言っていましたが、そうやってどんどん貸してくれるCDを聴いているうちに、もしかしてこれ、カッコ良いかも?と思い始めて(笑)、ポール・チェンバースとかサム・ジョーンズとかロン・カーターとか、往年の名手の演奏に惹かれ始めました。最初に手にしたのはエレキ・ベースでしたが、高校のビッグバンドではカウント・ベイシーとか、トラディショナルなものをやっていたので、黒田さんからアップライトを弾くように言われて、音楽室に転がっていたボロボロのアップライト・ベースを弾くようになったんです」
----その後、よく研究したり影響を受けたりしたベーシストはいましたか。
「最初にすごいなと思って研究したのはポール・チェンバースです。あとは高一か高二の頃、クリスチャン・マクブライドがデビュー作の『gettin' to it』を出して、黒田さんが《おい、薫平、すごいのがおる。聴いてみろ》と。それまでの人とは音色も全然違うしプレイもすごいし、現代にもこんな人がいるんだなと思いました」
----ハーモニーなどの音楽知識は、高校のビッグバンドでの活動などを通じて、独学で身に付けたんでしょうか。
「そうですね。とくに師事した人もいないし、専門の学校で勉強したわけでもないです」
----アルバムに話を戻して、作曲する時には何か決まった方法があるんでしょうか。
「作曲はギターを使ってやっています。それでまずリード・シート(註:メロディとコードだけが書かれたシンプルな譜面)を作ります。やっぱり基本になる曲が良くないと、後から何をやっても良い作品にはならないと思うんですよね。で、そこから曲の構成を考えて、コンピュータでアレンジします。ただ、作曲していると自分の中で、ああまた同じことをやってるなあと感じることがあって、それを打破するには何かテーマを決めたほうが作りやすいと思うようになりました。たとえば〈Circulo〉はアルゼンチンのチャカレーラというリズムを基にしています」
----曲の構成や展開も凝っている印象ですね。
「1曲の中でなるべく同じものが二度出てこないように気をつけて、同じ部分が出てくる時でも二度目は全く違うアレンジにするようにしています。あと、1曲があまり長くならないようにしています。カウント・ベイシーやベイシーのアレンジャーのインタビューを読むと、とにかく無駄を無くすことに気を遣っているんですね。すごく長いスコアを書いていくと、ベイシーからここはカットしろとか、テンポを変えろとか指示が出て、最終的には内容がギュっと詰まったカッコ良い曲が出来上がるんですよ」
----テーマを決めるという点では、他にもブラジル音楽のショーロや、サルサっぽいリズムを取り入れた曲もありますが、アルバム全体としては比較的トラディショナルなサウンドで統一されている印象ですね。
「それはけっこう重視しています。チャカレーラやサルサといったリズムは、踊れてなんぼだと思っているので、リズムの音型なんかは取り入れていますが、昔やっていたベイシーとかのエッセンスがかなり入っていると思います。いろんなバンドで演奏していると、みんな同じ方向を向いているというか、その時々の流行を追っている感じがして、あれ、こっちのバンドでもなんか似たようなことをしていたぞ、みたいに感じた経験がいっぱいあるので、自分の音楽では自分のものを出していこうと思っています」
----ちなみに、「R.B.」という曲がありますが、レイ・ブラウンのことですか。
「そうです。レイ・ブラウンのトリオがハッピーな感じですごい好きなんです」
----では、「Choro for Charlie」のチャーリーはパーカー・・・
「それは、チャーリー浜に似ている高校時代の顧問の先生のあだ名です(笑)」
----(笑)そうでしたか。5月16日にはレコーディング・メンバーでコットンクラブへの出演が決まっていますが、やはり皆さん、気心の知れた仲なのでしょうか。
「だいぶ知った仲です。甲南高校のビッグバンドで一緒だったメンバーもけっこう入っているので(笑)。オーケストラでは大阪で一度ライヴをやりましたが、アルバムと同じメンバーというのはコットンクラブが初めてです。レコーディングした後で新たにアイディアが浮かんで、アレンジを変えた部分もあるんですよ。今はこのオーケストラがリーダーとしては唯一の活動になりますから、楽しみにしています!」
坂本 信(さかもと・あきら)- 札幌市出身。レコード会社や音楽出版社、楽器メーカーのための翻訳、数百人のアーティストのインタヴュー、通訳を務める。ベーシストとしても活動し、高崎晃や伊東たけし、マイク・オーランドなどと共演。
『Circles』
(KP-LAB)
LIVE INFORMATION
中林薫平オーケストラ
LIVE at BLUE NOTE TOKYO
2023 1.10 tue.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm
[2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/kunpei-nakabayashi/
<MEMBER>
中林薫平(ベース)
土井徳浩(アルトサックス、フルート、クラリネット)
西口明宏(テナーサックス、フルート)
陸悠(バリトンサックス)
広瀬未来(トランペット)
黒田卓也(トランペット)
池本茂貴(トロンボーン)
駒野逸美(トロンボーン)
宮川純(ピアノ)
菅野知明(ドラムス)
【コットンクラブ】
☆中林薫平オーケストラ
2022 5.16 mon.
[1st.show] open 5:00pm / start 6:00pm
[2nd.show] open 7:45pm / start 8:30pm
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/kunpei-nakabayashi/
<MEMBER>
中林薫平 (b)
土井徳浩 (as,fl,cl)
西口明宏 (ts,fl)
陸悠 (bs)
広瀬未来 (tp)
黒田卓也 (tp)
酒本廣継 (tb)
池本茂貴 (tb)
宮川純 (p)
菅野知明 (ds)