【スペシャル対談】中林薫平 x 黒田卓也
気心知れた仲間たちの、一歩も引かない音楽
ーー中林薫平オーケストラの魅力に迫る
ベーシストの中林薫平が発表した『Circles』は、2枚目のソロ・アルバムにしてオーケストラ作品という意欲的なプロジェクトで、2022年5月にはコットンクラブでオーケストラを率いての公演も行った。それが好評を博し、来る1月10日にはブルーノート東京初出演となるオーケストラでの公演が決定した。
interview & text = Akira Sakamoto
Live Photo @COTTON CLUB = Tsuneo Koga
コットンクラブ公演に先立って行われた前回のインタビューにもあったように、オーケストラのメンバーの多くは、中林がベースを始めた頃に通っていた甲南学園の同窓生という、気心の知れた仲間たちである。今回はそのメンバーでもある同窓生の中から、ニューヨーク・ブルックリンに拠点を置いて活躍し、コットンクラブやブルーノート東京でも公演を行っているトランペッターの黒田卓也もまじえて、オーケストラでのアルバム作りやライヴについて語ってもらった。
--5月16日に中林薫平オーケストラでコットンクラブに出演した時の感想はいかがでしたか。
中林薫平(以下、中林): コットンクラブの前に神戸でもいちど演奏しましたが、オーケストラではそれまで録音しかしていなかったので、ライヴでも演奏できて感慨深かったですね。普通なら、ライヴを何度かやって録音するじゃないですか。でも、今回は録音の時に初めて集まったので、新鮮な気分がありました。ライヴの演奏を改めて聴いてみると、ちょっと粗いところはあるけれど、勢いはすごいあるなと思いました。
--中林さんの1年先輩でもある黒田さんはいかがですか。
黒田卓也(以下、黒田): いやもう、最高だったんじゃないでしょうか。彼とはメガプテラスとかaTakとか、いろんなプロジェクトを一緒にやっていて、メガプテラスでは彼の曲に接することが多いんですが、自分の持ってない音が聞こえてるなと思っていました。それで、中林薫平は天才なんだと思わざるを得なくなったというか......。
中林: (爆笑)
黒田: で、それがビッグバンドになった時には、指揮官とか作曲、アレンジといった能力の部分が出るわけですが、それが人前でちゃんと形になったというのは、僕としてはようやくそうなったかという感じでした。20年前にそうなっていてもおかしくなかったと思います。
--高校の部活では、カウント・ベイシーのようにトラディショナルなビッグバンドの音楽をやっていたそうですが、黒田さんは当時の中林さんの吸収力についてどう思っていましたか。
黒田: 彼は野球部だったので、遅れてきたんですよね。身体も小さくて、大きなベースを弾けるのかと思ってましたが、1〜2年でメッチャ練習してたんでしょうね。すぐに本番で演奏できるようになったというイメージがありました。
中林: 野球部辞めてから、メッチャ背が伸びたんですよ。でも、ベースを教えてくれる人がいなくて。
黒田: 僕の代のベースの先輩は不良やったもんな(笑)。
中林: (笑)ベースはメチャクチャ上手かったけれど、部活に来なかったんですよ。それで、誰もベースを教えてくれなくて。でも、部室の隣に音楽研究室というのがあって、いろんな人のライヴ・ビデオやレーザーディスクがあったので、それを観て勉強しました。
--オーケストラで実際にライヴをやってみて、アレンジに変更を加えたいと思ったようなことはありましたか。
中林: ありましたが、録音した曲はライヴの前にもけっこう変えていたんで、それはそのままにしておいて、今は2、3曲新しいのを作っています。1月のライヴまでに完成させられればと思っています。
--黒田さんのほうから、何か意見やアドバイスのようなものはありましたか。
黒田: いや、僕はそんな先輩風を吹かしているわけじゃなくて(笑)。もともと音楽のことについてもあまり言いませんが、2021年の2月にアルバムを録音した時、せっかくカッコ良い音楽を作ってるんだから、世の中に出したほうが良いよ、みたいなことは言いました。
中林: 音楽については特に何か言われたわけじゃないですけど、黒田さんや西口(明宏/ts)とか広瀬(未来/tp)とかがすごく良い曲をいっぱい書くんですよ。だから、そういったものが僕にとっては教科書みたいになりました。
黒田: コロナ禍で誰とでも会えるような状況じゃなくても、中高からの友達なら、何の気兼ねも説明もなしに会えるじゃないですか。広瀬や西口もそうだけれど、コロナ禍になってからも、けっこう会ってたよね。
中林: そう。そういう時でも会えていた人たちが、そのままオーケストラのメンバーになっているんです。
黒田: ミュージシャンが同業者に対してカッコ良いというのは、この世界ではいちばんの誉め言葉で、携わったメンバーが全員そう思っているというのは現場でも感じていたし、「この音楽をブルーノートで演奏するところまで持って行こう!」みたいなことは言ったと思います。
中林: 僕自身は録音できて良かったなあと思っただけで、その後のことは何も決めずにウダウダしていたんですよ。で、半年以上経ってから、黒田さんに「お前、あれどうすんの? 早う何とかせなあかんのちゃう?」って言われて......。
黒田: (笑)そういうところは僕、メッチャ言うんですよ。薫平に対してだけじゃなく、今までにも周りのミュージシャンたち全員に言ってきましたから。
--ビッグバンドに限らず、中林さんのベース・プレイやサウンド創りについては、黒田さんから意見やアドバイスはありましたか。
中林: 僕は10年ぐらい前まで、エレクトリック・ベースの音色についてはあまり考えていなかったんです。でも、黒田さんのバンドに参加するようになってから、音色について根本から考え直すきっかけになるようなアドバイスをもらって、それまで使ったことのなかったタイプのベースも弾いてみようかと思うようになりました。
黒田: 僕はベースの専門家じゃないけれど、自分のやっているバンドに関しては、「この曲はピノ・パラディーノみたいに」とか「フェラ・クティみたいに」、「ジェームス・ブラウンみたいに」といったことは伝えていました。
2022.9.1 BLUE NOTE TOKYO aTak (Photo by Makoto Ebi)
--録音の時、中林さんのほうからは譜面を渡す以外に、それぞれの曲についてメンバーにどんな説明をしましたか。
中林: 最低限の情報は伝えますが、とくにホーン・セクションの人たちには何も言いませんでした。セクションの人同士で「ここはこうしよう」みたいにどんどん決めてくれる場面がたくさんあったので。おかげで僕が思っていた以上のものができたと思います。
黒田: 出身校の校風として、自分たちで自発的に考えてベストを出すというのがあったんです。だから、ビジネスとして言われたことしかやらない、みたいな考え方はまったくなくて、カッコ良いことしかやりたくないと思っているんです。それが仲間の音楽ということになればなおさらです。まあ、それでリーダーが甘やかされがちになる、ということはあるかもしれませんが。
中林: (笑)そうですね。
黒田: 僕らだからこそ、リーダーもいろいろ言わなくて済む現場なのかもしれないけれど、それが成立する仲間がいるっていうのが、僕らにとっての財産だと思っています。
--素晴らしいですね。では最後に、1月10日の公演に向けて一言ずつお願いします。
中林: 新しい曲もお披露目できると思うので、楽しみにしていただければと思います。
黒田: 伝説の始まりを見逃すなというか(笑)、いろんなことが重なった結果として1月10日の公演があるわけで、こういうことは何度もあるわけじゃないと思うんです。仲間同士の気さくな感じは存分に発揮しますけれども、薫平のでっかい門出ということで、メンバーの僕らも気合が入ってますし、その先にもつながるような公演にしたいという気持ちがものすごくあります。今日の話では、"仲間で"とか"和気あいあいと"みたいな雰囲気があったと思うんですけど、音を出している時には、そういうフワッとした雰囲気は全然ないんです。真面目な話、誰ひとりヘラヘラしていなくて、薫平のベースなんかもゴリゴリに攻めてくるし、失敗を恐れずに突っ込むのが良さなんです。絶対に中途半端なことはできないと思って突っ込む。音楽に対して一歩も引いたことはないので、お客さんにはそこを観てほしいと思います。
坂本 信(さかもと・あきら)- 札幌市出身。レコード会社や音楽出版社、楽器メーカーのための翻訳、数百人のアーティストのインタヴュー、通訳を務める。ベーシストとしても活動し、高崎晃や伊東たけし、マイク・オーランドなどと共演。
LIVE INFORMATION
中林薫平オーケストラ
LIVE at BLUE NOTE TOKYO
2023 1.10 tue.
[1st]Open5:00pm Start6:00pm [2nd]Open7:45pm Start8:30pm
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/kunpei-nakabayashi/
<MEMBER>
中林薫平(ベース)
土井徳浩(アルトサックス、フルート、クラリネット)
西口明宏(テナーサックス、フルート)
陸悠(バリトンサックス)
広瀬未来(トランペット)
黒田卓也(トランペット)
池本茂貴(トロンボーン)
駒野逸美(トロンボーン)
宮川純(ピアノ)
菅野知明(ドラムス)