【スペシャル・インタビュー】ANTONIO SANCHEZ | News & Features | BLUE NOTE TOKYO

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【スペシャル・インタビュー】ANTONIO SANCHEZ

【スペシャル・インタビュー】ANTONIO SANCHEZ

現代最高峰ジャズ・ドラマー、アントニオ・サンチェス
先鋭プロジェクトに込められた希望と新たな挑戦

 4度のグラミー賞に輝き、現代最高峰のジャズ・ドラマーと称えられるアントニオ・サンチェスが、タナ・アレクサ(vo)、BIGYUKI(key)、レックス・サドラー(b)を擁する話題のプロジェクト"Bad Hombre"を率いて、まもなく来日。ブルーノート東京とコットンクラブで行われる日本公演へ向け、来日直前のアントニオ・サンチェスへ話を聞いた。再構築をテーマとしたこの実験的なプロジェクト、そして、ともにサウンドを創り上げるメンバーへの想いが詰まった最新インタビューをお届けする。

interview & text = Mitsutaka Nagira
interpretation = Keiko Yuyama

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 -- まずは『Shift: Bad Hombre, Vol. 2』のコンセプトを聞かせてください。

お気に入りのシンガーソングライターたちに物語を語って貰うことがコンセプトだった。というのも、僕自身がそういった様々なストーリーテリングを扱った作品が大好きだから。提供をお願いした素材に関しては、新旧問わず、書き留めていたスケッチ段階のものでも構わないと彼らに伝えた。楽曲には彼らの歌声と、拍子がわかるようにメトロノーム音、つまりクリック・トラックが含まれているものを提供して貰ったんだ。参加アーティストには提供音源を僕の方で再構築することや、ヴォーカルとドラム音を主に際立たせたサウンドに仕上げることを事前に伝えたね。原曲のソングライターやシンガー達による素晴らしい素材を自由に使って作品制作に取り組むことができたから、夢のような作業だったよ。

 -- "Shift"と名付けた理由は?

 参加アーティストから受け取った楽曲素材を僕が変化させたから、「Shift」という単語(ワード)を入れたんだ。歌詞の順番を入れ替えたり、ヴォーカル素材も沢山編集したからね。

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 -- 前作『Bad Hombre(Vol. 1)』はドナルド・トランプの発言がきっかけになった作品でもありました。だからこそダークなサウンドやアグレッシヴでパワフルな演奏が含まれていました。そこには怒りやフラストレーションが表出していました。『Shift: Bad Hombre, Vol. 2』を作る際にも自分の中に何かに対する怒りやフラストレーションはあったと思いますか?

政治、経済、文化など、現在の状況には常にフラストレーションがあるけど、新作にはより「希望的」な意味が込められているんだ。『Shift: Bad Hombre, Vol. 2』と名付けたのは、(前作に続き)楽器もプロデュースもすべて僕が担当したから。「Bad Hombre」は僕のオルター・エゴ。つまり、僕の別人格。ピアノで作曲したりバンドとリハーサルをしたりする通常の手法とは異なるんだ。この作品はニューヨークの自分のスタジオですべてを行ったからね。

 -- そもそも自分のスタジオで ポスト・プロダクションを駆使して作品を作るきっかけは何だったんでしょうか?

そもそも僕は子供時代にピーター・ガブリエルの『So』やティアーズ・フォー・フィアーズ、レッド・ツェッペリン等の壮大なサウンドを奏でるアーティストものを聴いてきたことも理由のひとつ。その壮大なサウンドに関して僕が気づいたことは、ヴォーカル、キーボード、ギターと音が何層も重なっているにも関わらず、ドラムセットはたいてい1つしかない点。何百ものトラックを重ねていても、ドラムスは1つだから、彼らがやっているようなシンセで音を何層も重ねるような手法を敢えてドラムで試してみたかった。だから、この作品は、80年代から90年代に僕に影響を与えた音楽へのトリビュートのようなものなんだ。

それから、自分に何ができるかを常に研究することは、アーティストの義務だと感じている。これまでとは違う人達と、異なる素材で、これまでとは違うことに挑戦したかった。これまで長いこと僕はジャズの輪の中で活動してきたけど、新しい挑戦から何かを得られるとしたら、それは実に面白いことだと思うよ。

 -- さっき「壮大なサウンド」と言ってましたけど、「ラウド」もしくは「アグレッシヴ」な音もあったと思います。普段あなたが叩いているサウンドとはかなり違うと思うんです。ここではどういう演奏をしたんでしょうか?

僕が影響を受けてきたロック要素を取り入れたんだ。例えば、(レッド・ツェッペリンの)ジョン・ボーナムや(ポリスの)スチュワート・コープランド。ミシェル・ンデゲオチェロの曲では、彼女のベースラインがレゲエの雰囲気を醸し出していたけど、僕はスチュワート・コープランドがポリスの「Regatta de Blanc」でスネアドラムにディレイをかけていたようなプロダクション的なことを足していった。他にも自分が大好きなドラマー達からインスピレーションを得ている。もちろん、(ラッシュの)ニール・パートからもね。ニール・パートは演奏楽曲の具体的なある部分で叩く自分のドラムのフィーリングを緻密に考えながら作曲し、毎回全く同じように叩いていたドラマーなんだ。僕の場合は、曲を盛り上げるためにいつも同じように叩くこともあるし、ジャズ・ミュージシャンなので即興を入れることもある。つまり、自分が大好きなドラマーたちからの影響を受けつつ、非常に自由に取り組んだと言えるね。他にはドラム音を何層にも重ねたりもした。同じドラム・ビートを5回録音して、まるで1つの巨大なドラムセットのようなサウンドに仕上げた曲もあるよ。

そもそもここでやっていることはロックを聴いて育った僕にとって、懐かしい感じがするんだ。子供の頃に母が愛聴していたビートルズ、ローリング・ストーンズ、ジミ・ヘンドリックス、クリーム、ザ・フー等のブリティッシュ・ロックが僕は大好きだったからね。例えば、ロドリーゴ・イ・ガブリエーラの曲では、自分の音楽のルーツであるヘビーなロックやフュージョンのルーツを持ち込む絶好の機会だと思ったんだ。

 -- ここでは多くのシンガーやラッパーが参加しています。本作のようなコンセプチュアルかつ社会的なメッセージも含まれるようなディープな作品でシンガーを起用するに際して、選ぶ基準のようなものはありましたか?

このアルバムに参加しているシンガーやアーティスト達は全員が素晴らしいストーリーテラーで、僕が重要だと感じていることにきっと影響を与えてくれるだろうと確信していた。例えば、シルヴァーナ・エストラーダはメキシコで問題になっている女性達の失踪事件について扱っている。また、アナ・ティジューは、女性たちの「言葉」を歌に託した作品を提供してくれた。そして、ベッカ・スティーヴンスはその最たる例。ベッカからアルバムについて聞かれた際、僕はこのアルバムで重視しているのは「社会的公正」と彼女に説明した。ベッカはオレゴン州立刑務所にいたスターリング・クーニョという囚人が書いたポエトリーを見つけ、それに曲をつけた。その後、僕が編曲とプロデュースを手掛けたんだ。9年間も独房に閉じ込められていた男が刑務所の中で書いた歌詞は、強烈に心を打つような内容だったよ。

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 -- この『Shift』のサウンドをライブで表現するためにLex SadlerとBIGYUKIを起用しています。彼らを起用した理由を聞かせてください。

このプロジェクトで楽しくて難しいことのひとつは、このアルバムをライヴで再現する方法を考えることだった。一体誰がこれを上手くライヴでできるかを考えなければならなかった。しばらく前にベースのレックス・サドラーと会い、彼からBIGYUKIのことを聞いてYUKIが自身のアルバムでやっていることを聴き始めた。「凄い奴がいるな!」と思ったね。 BIGYUKIはサウンド作りが得意で、キーボードやピアノへのアプローチ方法もユニーク。和声やコンセプトが非常に面白いんだよね。それから、僕は彼のステージ上でのエネルギーが大好き。っていうか、他の皆も彼のエネルギーが大好きなんだよね。彼はいつもいろいろなことに挑戦している。たとえ毎日違うものを演奏していたとしても、毎回ステージで違うことをやってのけるから、皆ずっと興味深々。素晴らしい才能の持ち主だし、日本の人達はBIGYUKIのことをとても誇りに思っているだろうね。

 -- アルバム聴いているだけだとライヴがどういうものか全く想像できないです。Tiny Desk Concertも見ましたけど、あれはかなりアコースティックよりな名演奏だったので、日本でのライブはあれとも違う演奏になると思います。コットンクラブとブルーノートでの来日公演はどんなものになりそうですか?

今回のライブは、2トラックで演奏するので、今までで最も複雑なライブになると思う。アルバムに収録したようなサウンドの一部を再現したいんだけど、一方でBIGYUKIには細かい全てのパートを演奏する(楽曲の)奴隷のようにはなって欲しくなかった。彼には、毎晩違うことを自由に演奏して欲しいから、そういった細かい箇所は、トラックに担わせたほうがいいと思ったんだ。ステージ上でアルバムを再現するような演奏をしていることよりも、サウンドの全体的な雰囲気が大事だからね。それに関してはベースとキーボードベースを担当するレックス・サドラーがコンピューターとコントローラーも使って、そこで多くのトラックを出すことになっている。そのうえで、レックスはバンドと生でやりとりする部分も担当するんだ。毎晩違うフィルターに切り替えるから、事前に準備してトラックを使用していても、日によって違う演奏になると思うよ。ジャズのライヴはその日の演奏によって変わるものだからね。

 -- なるほど。

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このアルバムでは、僕は歌ものを多く手がけたから、タナ・アレクサには、ステージ上で男性、女性による両楽曲、そして英語とスペイン語曲と全ヴォーカルを一人で担当することを話したところ、彼女はその挑戦をとても気に入っていた。彼女は、私がアルバムで使用したエフェクトやプロダクションの要素の多くを彼女がエフェクトで再現する方法を考案し始めていてね。タナはいくつかペダル等の機材を使って、リアルタイムで自分のためにバックグラウンド・ヴォーカルをループさせることができる。それがステージ上で壮大な音を生むんだ。もちろん、僕のための素晴らしいサウンドのドラムセットもある。アルバムでは歌に重点を置いているけど、ライブでは歌の他に生演奏ならではの即興が沢山入るから、かっこいいステージになると思う。一緒に演奏するミュージシャンたちはみんな優秀だから、ステージ上で実験するために完全にオープンなセクションを設けてあるんだ。

 -- BIGYUKIがあなたのバンドに入ったばかりのころ、「アントニオ・サンチェスのバンドはすごい!!」とよく言っていたので、すごく楽しみにしてます。

ありがとう。BIGYUKIはミュージシャンとしてだけでなく、人間としてもクレイジー...いい意味でのクレイジーね(笑)。彼がバンドに参加はしていると、演奏するのがとても楽しいんだ。僕らはBIGYUKIが大好きだから、彼と日本で演奏できるのが本当に楽しみ。日本ではきっと素晴らしい体験になると思うね。

LIVE INFORMATION

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ANTONIO SANCHEZ
"BAD HOMBRE"


2023 6.6 tue., 6.7 wed.  ブルーノート東京
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/antonio-sanchez/
2023 6.8 thu. コットンクラブ
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/antonio-sanchez/

<MEMBER>
アントニオ・サンチェス(ドラムス)
タナ・アレクサ(ヴォーカル)
ビッグユキ(キーボード)
レックス・サドラー(ベース)




柳樂光隆
79年、島根県出雲市生まれ。音楽評論家。 21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に鼎談集『100年のジャズを聴く』など。鎌倉FM「世界はジャズを求めてる」でラジオ・パーソナリティも務める。

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